渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第9回 岐阜その3)
静かな商店街の散策をさらに続けると、やはり間口の小さい食料品店が目に留まった。入口のガラス戸にはポスターを剥がした跡が点々とある。中に人の姿はないが、明かりはついているので営業しているのだろう。ただし棚にはほとんど商品 […]
渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第8回 岐阜その2)
軒先で寝そべるワラビに、つい足を止めてしまった。 タカシマヤの巡回が終わった後、近くをぶらついていた時のことだ。とある食料品店に注意を引かれた。売り場は数人も入れば窮屈になりそうなこぢんまりとしたもので、棚の商品も決 […]
渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第7回 岐阜その1)
来る日を間違えてしまったか。 火曜昼の商店街は、私の足音がアーケードに反響するのではないかと思うほど静まり返っていた。多くの店がシャッターを下ろし、そうでない店はガラス扉の奥を暗がりにしている。 私の住む山形市でも […]
渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第6回 郡山その4)
郡山の空を薄く覆う雲は、わずかな裂け目から日差しをこぼした。その光を受け、うすい百貨店の外壁が輝く。正面玄関前には3台のタクシーが並んでいて、一番後ろの車はドアの外にやや腰の曲がった運転手をもたれさせていた。「まあ、デ […]
渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第5回 郡山その3)
あと1週間早く訪ねていればと悔やんだ。見上げた木はもはや色彩を失い、薄曇りの空を透かす。反対に、その足元に花びらの点描を広げていた。 駅から西に3㎞ほど離れた開成山公園は「観光地もない」と自嘲の聞かれる郡山でも「桜の […]
渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第4回 郡山その2)
「今はさすがにないけどね。昔は卒業式の日になると、高校の前に迎えの車が並ぶのよ。そういう人たちの、ほら、いかついのが。乗ってく子だって、親がそうってわけでもない。先生の息子だったりね」 (ある商店にて) 作家の大江健 […]
渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第3回 郡山その1)
「じゃあ、泥棒でもして税金払えってか?」 憎々しげに吐き捨てた男は、50代半ばといったところだろうか。ねずみ色の作業服を着て、向かい合わせに座った同じ格好の若者に延々と愚痴を聞かせている。 私は、郡山駅前を30分ばか […]
渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第2回 山形)
父の放つ駄じゃれを鼻息だけであしらっていた。そうなったのは中学に入学した辺りからか。夕食時に母が「ソース出すから」と言うと、父は「ソーッスか」などと反応する。居間はたちまち静寂に包まれ、家族の鼻息とため息だけがかすかに […]
<新連載> 渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第1回)
また1つデパートが消える。 かつて憧れとして街に君臨した存在は、今や病人のように心配のまなざしを向けられている。 デパートと街との関係は、なぜ、どのように変わってきたのだろうか。当連載ではさまざまな地域を放浪しなが […]
デパート破産 第25回 (最終回)~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
「大沼デパートは、果たして本当に愛されていたのだろうか」 この連載の初回で、私はこの問いを原稿に置いた。2020年1月の破綻後、山形を包んだノスタルジーに偽りのにおいを感じたからだ。もちろんそれは、大沼の歴史をたどる本 […]
デパート破産 第24回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
デパートが苦境に立つ理由を語る時、まず挙げられるのが郊外の巨大ショッピングモールの存在だろうか。 山形においては、1997年に「ジャスコ山形北ショッピングセンター」が、2000年には「イオン山形南ショッピングセンター […]
デパート破産 第23回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
「大沼が長くないというのは、この辺で商売をやっている人間ならみんな分かってましたよ」 中心街の事情に通じたある人が、そう話してくれた。2021年秋、大沼デパートの破綻から2年が過ぎようとしていたころだ。 「ただし、 […]
デパート破産 第22回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
「大沼の包み紙だと機嫌がいいからね」 母の言葉を、なぜかずっと覚えている。祖父のことだ。 盆や年始になると、母の用意した手土産を持参して祖父の家を訪ねた。当時の山形市には大沼のほかにもデパート、及び似た機能を、持つ店 […]
デパート破産 第21回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
職業柄というよりも私の性格のせいなのだろう。同業である飲食店の廃業に敏感だ。 インターネットを使い、特に山形市内の閉店情報を見つけては、自分がまだそうならずに済んでいることに安堵する。悪趣味だが、開業からおよそ13年 […]
デパート破産 第20回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
「大沼の存続を心から願っていたのは誰なのでしょう」 先日、山形市内で拙著『さよならデパート』にまつわる講演の機会を頂戴した。大沼デパートについて書くことになったきっかけや、取材の方法、執筆前から発売後にかけての心境の変 […]
デパート破産 第19回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
山形市の中心街にマンションが増えている。 皮切りは旧「セブンプラザ」だろうか。元々は若者向けのブランドを集めたファッションビルで、1974年に開店した。大沼デパートとは交差点を挟み斜めに向かい合っており、互いにお客を […]
デパート破産 第18回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
山形市・大沼の創業から破綻までを追った自著『さよならデパート』のあとがきに、このような一文を書いた。 —もしかしたら私たちは、デパート以上の何かをなくしたのかもしれない。 この真意について何度か尋ねられたが、実は口 […]
デパート破産 第17回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
大沼デパートについてのノンフィクションを書くに当たって、エレベーターガールの証言は欠かせないと思った。とはいえ、確たる狙いがあってではない。単純な連想ゲームのようなもので、私の中では「デパート」と「エレベーターガール」 […]
デパート破産 第16回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
̶軒下貸します。 突然の破綻から間もなく2年になる2022年1月の初旬、旧大沼デパートの土地建物を所有する「一般財団法人山形市都市振興公社」がそう発表した。 朝日新聞の記事(1月15日)によると、中心街の大通りに面し […]
デパート破産 第15回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~
デパートのなくなる街が増えている。人口が減り、景気には長らく暗雲が垂れ込めて、さらに人々の趣味や嗜好が細分化されてゆくとなれば、大きな建物を構えてたくさんのお客を呼び込もうという業態は厳しいのだろう。 どこかでデパー […]