デパート破産 第16回 ~山形県からとうとうデパートの灯が消えた~

̶軒下貸します。

 突然の破綻から間もなく2年になる2022年1月の初旬、旧大沼デパートの土地建物を所有する「一般財団法人山形市都市振興公社」がそう発表した。

 朝日新聞の記事(1月15日)によると、中心街の大通りに面したセットバック部分、約80平方メートル(長さ約20メートル、奥行き最大約5メートル)を、一般向けに貸し出すという。料金は1日5000円。物販を伴うイベントも開催可能で、半年後の予約まで受け付けるそうだ。

 振興公社は山形市の外郭団体だ。県内各地の特産品を販売したり、地元のハンドメイド作家や作品を集めてマルシェを開いたりという需要が狙いだろうか。目に入る告知文には、役所仕事の決まり文句「にぎわい創出」が添えられていた。

 こういった報道にもはや目新しさはない。人間の根源的な欲求を刺激する力も欠けている。私にとっては、デパートをなくした中心街が華やぐのでは、という期待を抱かせるような動きではなかった。

 むしろ気になったのは「半年後の予約まで受け付ける」という点だ。裏を返せば「少なくとも半年先まで跡地利用の予定がない」という意味になる。

 旧大沼が市の外郭団体の手に渡った時点で、斬新な転換はないと踏んでいたが、破綻からおよそ2年が経過した上でなお半年先までスケジュールが白紙同然とは気が滅入った。

 この件に限らず、破綻後の大沼に関するニュースをインターネットで眺めていると、コメント欄に跡地利用のアイデアを書き込む人が少なからず居る。荒唐無稽なものや「どうやっても山形は終わり」という極端な悲観論もあるのだが、1つ、なるほどと思う意見があった。

̶「ラーメン博物館」みたいにすればいい。

 ラーメン博物館は神奈川県横浜市にある施設で、正式名称を「新横浜ラーメン博物館」という。建物の中に全国各地の有名ラーメン店が出店し、お客は中を歩きながらさまざまなラーメンを食べ回れるという仕組みだ。それを促すために、各店が「ミニラーメン」を用意しているのも気が利いている。15年以上前だが、私も横浜に住む友人の結婚式にかこつけて足を運んだ。こういった施設の性質上仕方ないが、やや割高な印象があり、混雑と店員の未熟さからかぬるいラーメンを提供してきた店もあった。ただしそれは当時のことだ。今は改善されているだろう。

 ただし、そういった不満を補って余りある楽しさもあった。昭和レトロをテーマにした内装は、待ち時間の思い出話を助けてくれたし、食べ比べの後に、ああだこうだと素人批評家になり切るのも愉快だ。今でも、一緒に行った友人たちと酒を交わすとラーメン博物館の話題が持ち上がる。

 さて、山形の人間はとにかくラーメンを食べる。総務省による2022年の家計調査によると、1世帯当たりのラーメン消費量(外食)は山形市が全国1位だという。市はその勢いを景気回復につなげようと「ラーメンの聖地」のキャッチフレーズを掲げ(それを言うなら中国だと思うが)、市内各店に「山ラー」と大きく記されたのぼりを配った。現在、山形市内を車で走ると、10分もすれば1つや2つはその文字が目に入る。それだけ、ラーメン店も食べに行く人も多いのだ。

 「冷やしラーメン」や「辛味噌ラーメン」など、全国的に有名なラーメンもあるので、それを目的とした観光客も多い。内も外も需要がそろっているのだから、県内各地の人気店を集めて山形版「ラーメン博物館」を作ったら確かに面白いのではないか。「食欲」という根源的な欲求を刺激するし、食べ比べの写真はSNSで共有しやすい。

 楽しい想像が膨らんだが、先に触れた通り持ち主は市の外郭団体だ。さらに、この内容を著書に関する取材で来た記者に話すと、どうも反応がいまいちだ。

 具体的なビジネスについてではなく、もっと抽象的な「街の未来」について話をしたいのかもしれない。