デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年02月01日号-62

シリーズ「そごう・西武」売却 第6弾 – ヨドバシが作る「池袋西武」とは 前編

 セブン&アイ・ホールディングスは24日、百貨店子会社そごう・西武の売却を、これまで予定していた2月1日から3月中に延期すると発表した。売却先である投資ファンドと連携するヨドバシカメラによる出店計画が難航しているからだ。

 そんな、きな臭い話を横目に、ヨドバシによる西武池袋本店の新たな店づくりを検証したい。

 セブン&アイ・ホールディングスが子会社のそごう・西武を米投資ファンドに売却し、経営権はヨドバシに移ることとなった。家電量販店であるヨドバシは、百貨店「そごう・西武」をいかに変えて行くのか。小売、流通業界だけでなく、様々な方面から意見が出ている。

池袋西武はデパートではなくなるのか?

 シリーズ「そごう・西武」売却は第5弾の「新たな登場人物」を2023年1月15日号でお伝えした。西武池袋本店の「百貨店」としての存続を求める豊島区の高野区長の「嘆願」会見を追った内容だ。この様にヨドバシの池袋進出自体を問題視する関係者(当事者)がいる一方、小売業界の専門家からは、早くもヨドバシによる池袋西武の改装プランや「手法」に関する考察が散見される。本紙も外野から眺めている場合ではないだろう。

 既報の様に、豊島区の高野区長と同席した池袋東口美観商店会の服部会長は「ヨドバシの進出にショックを受けている。家電競争の激化に見舞われ、地域社会が埋没する」更に「ビックカメラとヤマダ電機があって、もう家電は要らない。」と不快感むきだしで語った。服部会長だけでなく、ビックとヤマダも、池袋西武に家電量販店のライバル企業であるヨドバシカメラが入るとは、予想もしなかったのではないだろうか。

経緯のおさらい

 去年11月11日、セブン&アイ・ホールディングス傘下にあった百貨店、そごう・西武の売却先が、アメリカ投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに決定。 セブン&アイは、そごう・西武の企業価値を2500億円と算定し、負債額などを調整してフォートレスへの最終的な売却額を決めるとし、フォートレスはヨドバシと連携し、そごう・西武の運営にあたる、とされた。

 そごう・西武の業績は、2022年2月期の最終損益は88億円の赤字。3期連続での最終赤字となっており、関係者の間でも「売却の判断もやむなし」と伝えられた。

 前号の「新たな登場人物」で記した様に、この売却については、豊島区の高野区長が西武池袋本店へのヨドバシの出店に反対し、緊急会見を開いた。それに先んじて、1990年代に旧・西武百貨店時代に社長を務めた水野誠一氏も、セブン&アイが進めるそごう・西武の売却について「やっていることがちぐはぐだ」と( 東洋経済のインタビューに答え) 疑問を呈している。
※水野元社長のインタビューは9月だったので、ヨドバシの池袋西武進出を知っていたかは定かではない。

 いずれにしても、ヨドバシの池袋進出は、マスコミや業界人に止まらず、世間一般の耳目を集めることとなった。特に豊島区長の会見はテレビのニュース番組で報道されたので、同区長の思惑通り、少なくともヨドバシへの「牽制」には成功したと思われる。

本紙のスタンス

 ここで、あらかじめお断りしておくが、筆者は高野豊島区長や東口商店会長の様に「池袋には家電量販店が多過ぎる」とか「ターミナル駅には百貨店の顔が必要だ」などと一方的なヨドバシ排斥論に与(くみ)するつもりは毛頭ない。

 只、ターミナル駅を含む一等地への出店であるからには、前提として地域住民や、駅利用者など、市民、消費者の意見を聞き、幅広い議論は不可欠であろう。ヨドバシは営利企業であるが、日本有数の巨大ターミナル駅である池袋の地で「商売」をするからには、社会の公器として、公益面への配慮が望まれる、という話だ。
繰り返しになり恐縮だが「公益性」こそが、本紙の遵守するキーワードだ。

 もう一つエクスキューズさせて貰うと、本紙が「デパート新聞」であるからと言って、デパートは良いけど、電気屋はお断り、といった単純な二元論や「子供の喧嘩」の様な論争には賛成しない。

 あらゆるマスコミは、いや、我がデパート新聞社は、単なる百貨店至上主義では決してない。公益性という鏡に照らし合わせて「街のため人のため」になる施設として、本来の「デパートのあるべき姿」を追い求めているからだ。今後も引き続き、デパート新聞はこのスタンスを貫いていく。 本紙の決意表明で余計な紙面を使ってしまった。
申し訳ない、本題に戻る。ヨドバシによる池袋西武の新たな店づくりを具体的に予想してみたい。

池袋西武の外壁

 先ず、大きな変化としては「建物の外観」が変わるだろう。ヨドバシの旗艦店である新宿西口本店やマルチメディアAkiba、梅田タワーなどでも見られるが、建物の側面にメーカーのロゴやマークが入るのが通例だ。

 これは新宿髙島屋タイムズスクエアなど、百貨店を擁する複合SCでも良く使われている手法であり、見慣れている客にはさほど違和感はないと思われる。

 ただでさえ、日本一のウナギの寝床である池袋西武は、池袋駅東口に向けて、日本一長い(そして広い) 壁面を向けている。そして現状は旧態依然とした「懸垂幕」のみである。正直もったいない。

 右隣の池袋パルコの大型ビジョンとは比較すべきもない。シロウトでも、池袋西武の壁面の「広告価値はいかばかりか」と想像してしまう。はしたない話だが・・・

MD(品揃え)

 そごう・西武が連続赤字とは言っても、全国の百貨店売上ランキングでは、髙島屋に続いて第2位の4400億円の売上を誇っているのは事実である。例えヨドバシが、既存の百貨店作りとは全く異なる考えであったとしても、池袋西武の今ある百貨店としての機能を全くなくしてしまうことはしないのではないか、と筆者は考える。

 そごう・西武の関係者が危惧する様な、現行のラグジュアリーブランドを店頭から排除する様な「乱暴狼藉」を考えているとは思えないのだ。

 周りの反対を押し切れば、それはヨドバシ自体の「ブランド」を棄損する恐れがあるからだ。

 但し少なくとも、現行売場(百貨店の平場)の集約を図り、家電を含めたヨドバシカメラを導入、更に外部から「専門店」を誘致するのは避けられないだろう。

 後編では、百貨店のテナント化や家電量販店の出店手法について記していく。
 また、現池袋西武のロフト、無印良品、三省堂書店といった大型店舗の去就も含めて考えていきたい。
次号・第6弾、後編に続く。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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