デパートのルネッサンスはどこにある? 2024年01月15日号-84

西武池袋本店の元日営業で思う事

 このたびの石川県能登地方を震源とする令和6年能登半島地震により亡くなられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災された方、そのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

2024年元旦 

 西武百貨店池袋本店が、2024年の元日、初売りをスタートした。

 開店前から各出入口に行列ができ、通常の営業開始10時を待たずに30分前倒しの9時30分にオープンした。

 スピリチュアルな事、というか「開運や吉凶」にこだわる方はご存じだろうが、2024年の元日は「一粒万倍日」「天 赦日」「天恩日」が重なる「最強開運日」であるらしい。

 それにしては、冒頭に述べた能登半島地震(それに伴う津波や火災)や北九州市小倉の火災、羽田空港での航空機事故と、元旦から胸が塞がれる様な事故や災害の連続である。

 例え「お正月気分」の様なモノに浸っていたとしても、一気に(過酷な)現実に引き戻されてしまった。

 それでも、そごう・西武に止まらず、都心のデパート各店が、去年に増して元気を取り戻したのは間違いない様だ。

 首都圏の百貨店で元日営業するのはそごう・西武のみ、ということもあり、池袋西武はデパ地下だけでなく、財布やバッグを始めとした身の回り品売場も大変な賑わいを見せている。

 前述した「最強開運日」に合わせて品揃えを1・5倍に増やした財布売場は、ラッキーアイテムとして高稼働し、売上が前年の3倍に達した、という。

 結果として、悲喜こもごものちょっと「居心地の悪い」正月となってしまった。

「オカイモノ♪」 

 西武池袋本店を含むそごう・西武各店は今年の「初売り」として、昨年同様、福袋販売やクリアランスセールを実施した。

 西武冬市のマスコットキャラクターである「おかいものクマ」の愛らしい姿に、来年の元旦もお目にかかれるのかどうか・・・暗いニュースの連続で、気が弱くなっているのか、正月早々柄にもなく寂しい気持ちになってしまった。

 福袋は食品が中心で、西武池袋本店は16000個を用意した、という。    

 正月の食品は「縁起物」として人気が高く、今年は別会場ではなくデパ地下内での販売を復活させた。

 開店前には「ガトーフェスタハラダ」などの人気スイーツに、お年賀などの進物需要もあり長蛇の列ができた。

 1Fから上のアパレルの福袋は、ほとんどのブランドが昨年に引き続きネット販売に移行したことにより、店頭のセールでは「ジェラート ピケ」や「アナイ」といった、アフォータブル(気軽に買える)中堅ブランドの売場が賑わいをみせていた。

 また、文頭で言及した「開運日」に合わせ、吉日に使い始めると運気が上がるとされる財布やバッグの訴求を強化し、2階の革小物の売場面積を拡大、更に3階のバッグ売場でも品揃えを充実させ、「自分へのご褒美」ギフトの打ち出しを強化していた。

恒例イベント

 元日のイベントは、毎年吉例の七福神(スタッフによるコスプレ)と前述の「冬市」のセールキャラクター「おかいものクマ」による新年の挨拶のほか、鎌倉銭洗弁財天の銭洗水で清めた5円玉が入った「開運招福銭」を振る舞った。

 コロナ前までは元日に売上が集中していたが、コロナ以降は店頭販売分をネットに分散するなどの施策をとっているため「売上は前年並み」と控えめな予測をしている。

 1月の月間売上高はコロナ前の2019年度の水準を上回る想定だ。

 理由の一つとしては、インバウンド需要の復活による、売上プラスを勘案しているからだ。

 インバウンド対応として、免税カウンターで手続きを行った来店客にも先着で開運招福銭を配付しており、元日の免税客数と売上の総額ともに、前年比2・5倍と強気の予想も頷(うなず)ける。

セブンからヨドバシへ

 そごう・西武は、2度の延期を経て昨年9月に米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに買収された。正式に買収が完了する前には、そごう・西武労働組合が国内百貨店としては約61年ぶりとなるストライキを敢行するなど、買収劇が波紋を呼び、衆目を集めた。※これについて本コラムは都度特集を組み、詳細にお伝えしてきた。

 昨年末には、西武池袋本店にヨドバシカメラが出店し、そごう・西武を「テナント化」して、従来のアパレルや服飾雑貨の売場を大幅に縮小する改装案が報じられた。

 これについては後述するが、そごう・西武は2024年8月末までに一旦ヨドバシHDに西武池袋店の「建物」を引き渡した後、改装をスタートさせ、2025年にリニューアルオープンすることが含まれている。

 メディアの取材に対し池袋西武は「昨年は各方面にご心配をおかけした。そういう状態であっても励ましのお言葉や、応援のお言葉をいただいた。先ずは御礼を申し上げたい」と感謝の気持ちを述べ「我々もこれからお店の改装を控えているが、新たな時代にあった姿に変わり続けることでニーズと期待に応えていきたい」と続けた。

 現場担当者としては「そう言うしかない」であろうし、発言内容自体は決して間違ってはいない。只、前述した様に、筆者は百貨店としての「池袋西武」の正月、元旦の「初売り」はこれが見納めということなのだろう、と思っている。

正月の定番コース

 東京近郊に限らないが、庶民(この表現も古いのかもしれないが)は神社仏閣の初詣と、デパートの初売りセールをセットにして楽しんで来た。ファミリーやカップル(これも古いか?)で寺社に参拝をして、その後に買い物をするというのは、今も「日本人の正月の過ごし方」の定番である。

 大げさに言うと、渋谷、新宿に続き、池袋でも、百貨店が減り、この日本の「冬の風物詩」の選択肢が少なくなりつつある、という事なのだ。

《館内で手土産を購入しようと来店した50代と20代の母娘のインタビュー》

 ヨドバシの出店について母親は「単純になぜ電気屋ばかりが増えるんだろう、と思う。洋服とかだってしょっちゅう買うわけではないけれど、いつも見ているお店がなくなるとすると、もう来なくなるかもしれない」と率直な思いを述べた。

 娘はもっとドライで「たまにアパレルの売場に行くが、なくなったとしても新宿に行くから大丈夫」と話した。

 20代はやはり、親世代より百貨店に対するロイヤリティ(忠誠心・支持)が明らかに低い。ここでは「世代により意見は様々」ということにしておこう。

復活しないデパート

 本コラムで2023年の最終号となる12月15日号で、渋谷と新宿の(電鉄系)百貨店の閉店(その後の別業態への変換)についてお伝えした。

 結局、新宿も、渋谷も、そして池袋も、である。本コラムの掲載写真を参照願いたい、渋谷東急や新宿小田急は本店であった百貨店の建物自体を取り壊し、建て直してもデパートを復活はさせない、としている。

 すでに更地となっているマルイも、取り壊し前から既に「テナントビル」であった。
※渋谷マルイは2022年8 月28日に閉店し、2026年に(木造の)商業施設とし再開予定、としている。尚、姉妹店舗のモディははす向かいで営業を継続している。

 そして我らが池袋西武は、建物はそのままだが、中身の半分(の中でも好立地)を家電量販店とし、百貨店業態は上層階や別館に「押しやられる」のだ。

 いずれも、都心のど真ん中であるにも関わらず、空の青さや星空の大きさが感じられる写真となっている。
※失礼した。新聞はモノクロなのでグレーにしか見えないか・・・

ブランド維持も

 フォートレスによる西武池袋本店の改装プランについて、もう少し詳しく見ていこう。 
 繰り返しになるが、改装後、フォートレスのビジネスパートナーであるヨドバシホールディングスが家電量販店「ヨドバシカメラ」を出店させ、現状の西武百貨店の売場は半減する。

 この改装案では、そごう・西武をテナント化して従来のアパレル(婦人服などの衣料品)や服飾雑貨の自社編成売場(平場)を大幅に縮小し、ラグジュアリー(高級ブランド)や化粧品、食品に特化した店舗に改装する、としているのだ。

 フォートレス、そしてヨドバシは、そごう・西武に限らないが、百貨店衰退の理由を単純な「低効率運営」にあるという判断なのであろうか。詳しく見て行こう。

効率化の果て

 「家電のヨドバシ」の出店により、現状の百貨店の売場面積が半減することは、2023年12月1日号に掲載した、そごう・西武労組の寺岡泰博委員長のインタビューでもお伝えした通りだ。

 その一方でフォートレスは、西武池袋本店は全社売上高の3割以上を稼ぐ旗艦店であり、利益貢献の高いテナントに絞り込んで集客力を維持する、としている。

 只、この方針に関して、百貨店に詳しい専門家からは、効率や貢献利益だけでテナントの取捨選択をすることは、改装直後の坪効率や収益率を一旦はアップさせるものの、その効果は長続きせず、半年もしないうちに、「売場」は新たな取捨選択を迫られるだろう、と見ている。

 ファッションに限らず、百貨店のMDは常に新しい「流行」が求められ、今日「最新」であったものが、翌日からは「陳腐化」が始まるモノだからだ。

 最新で高効率なMDの「賞味期限」は極めて短い。新しい流行は翌月、翌週、翌日には既に「古く」なっているのだ。

 それが「流行」の宿命であり、ファッションやお笑い芸人の様に、流行(はや)ったら、必ず廃(すた)れるのが「世の習い」なのだ。

 そんなことは日本全国のデパートマンであれば、だれにとっても「常識」だと言って良い。例えコンビニ店や電気屋には判らないとしてもだ。
※失礼!つい興奮してしまった。コンビニエンスストア業界や家電量販店のスタッフの方を揶揄するのは本意ではない。謹んでお詫び申し上げる。以後気を付けます。

 尚、そごう・西武は取材に対し、報道内容の詳細について「当社としての公式見解ではない」としながらも、改装案の概要に関しては「概ね事実」であり、「その方向で調整中」である、と認めた。

駅直結にこだわり

 改装案では、ヨドバシカメラがJR池袋駅直上の本館北側や中央に売場を構える方向だ。

 そりゃそうだろう、本コラムで何度も言及している様に、そうでなければヨドバシが池袋に出店する意味がない。少なくとも、ビックカメラやヤマダデンキより「駅近」でなければ、何のために外野からの「非難の声に耐えて来た」のか判らないだろう。

 そごう・西武はヨドバシに「家賃を支払う」テナントとして、上層階や南側、別館、書籍館に「出店」するのだ。

 池袋西武の1階は現状、北側にある高級ブランドの「ルイ・ヴィトン」を南側に移転させ「エルメス」や「ディオール」などが並ぶ高級ブランドのゾーンとする方向だ。

共存するも共栄は?

 高級ブランドの中には、家電と同じ階に併存することに難色を示すテナントもあり、ヨドバシと百貨店の間に「壁」を設けるほか、ブランド側に配慮しヨドバシで並行輸入品を扱わないようにするといった案が浮上している、という。

 定価商売が基本のデパートと、同じブランド品を並行輸入して扱う家電量販店の「同居」が、取沙汰されるのも、こういった事態を誰もが認識し、心配していたからだ。但し、大事なポイントなのでもう一度申し上げるが、後から入居する「ヨドバシ」が実質的な大家(家主)であり、今まで出店していた「西武百貨店」は、今度はテナント(店子)の立場となることだ。文字通り主客転倒するのだ。※本末店頭ではない、あくまでも。

縮小か撤退

 1階の化粧品売場は3階に、地下1階の総菜は地下2階に移転する案が有力だという。
 上層階の催事場も残す一方、アパレル大手の衣料品テナントや家具は撤退もしくは縮小する見通しだ。ハンカチや靴といった自前で手掛ける自主編成売場(いわゆる平場)も小さくなる。

 リニューアルに向けて、そごう・西武は2024年8月末までにヨドバシHDに西武池袋店の建物を引き渡して改装をスタートし、2025年にリニューアルオープンを予定している。

 既に化粧品や服飾雑貨などを扱う一部のテナントが順次撤退を始めており、本館2階の婦人靴「トッズ」などが11月30日をもって同店での取り扱いを終了した。

 フォートレスはヨドバシへの土地建物の売却で得た資金を活用し、西武池袋の改装やテナントの移転費用に数百億円を投じ、池袋以外の9店舗に対しても改装して集客力を高める方針だ、という。現時点で店舗閉鎖は予定していない、としている。但し、渋谷西武や千葉そごう(の一部)には、既にヨドバシの出店が決定している、という事で、関係者の見解は一致している。

 現時点では昨年8月31日に閉店したそごう千葉店の別館「ジュンヌ」跡地に、ヨドバシカメラの出店を予定している、という。

30年の歴史

 その他のゾーンも、着々と準備が進んでおり、計画では総菜売場の移転先となる地下2階の南側一体にあるセブン&アイ子会社の高級スーパー「ザ・ガーデン自由が丘池袋店」は24年1月末で撤退する。

 効率化という名の「玉突き」により、はじき出された格好だ。

 ザ・ガーデンは1995年に西武池袋に開店してから約30年の歴史に幕を下ろすのだ。

 ザ・ガーデン自由が丘は、そもそもシェルガーデンと言う名前で、紀ノ国屋とともに「高級食品スーパー」の代名詞であった。ご存じの様に紀
ノ国屋も、今はJR東日本の完全子会社となり、駅前の狭い区画に小さな店舗を出店(させられたり)しており、往時の面影は、有名なロゴマークのショッパー(エコバック)だけになってしまった。

 いやいや筆者の感傷はどうでも良いのだが、高級スーパーは(関西圏のいかりスーパーは別として)明治屋も三浦屋も店舗数が減り「成城石井」の一強となってしまった感がある。

 食品以外でも、化粧品やバッグなど約20のテナントが2023年10月以降に売場を順次クローズしている。

新たな主

 さて、昨年8月31日にはそごう・西武労働組合による61年ぶりのストライキを決行した。メディア的には話題となったものの、翌日には最終的にディール(株式譲渡)が成立した。

 これによりセブン&アイは「重荷」から解放され、そごう・西武はフォートレス傘下となり、実質的にそのパートナーであるヨドバシカメラが池袋西武の「新たな主(あるじ)」となる事が決まった。渋谷西武や千葉そごうも順次同様の「あるじ」を迎える予定だ。

年間ワード

 あるファッション、小売り業界紙が読者に行った「2023年の印象に残ったワード」ランキングである。

1位:物価高、値上げ
2位:生成AI、チャットGPT
3位:コロナ5類移行
4位:そごう・西武スト
5位:インボイス制度
4位に「池袋西武のストライキ」が選出された。

 言うまでもなく業界紙の読者は、世間一般に比べて、ファッションや、百貨店業界の関心事に精通している結果であろう。

 但し、読者の感想も「セブン&アイの対応が酷かったから」とか「大企業の経営陣と従業員とのコミュニケーションの無さを実感した」といった好意的なものもある中「新宿伊勢丹の隆盛との対極で、路線の違いが際立つ」とか「労使共に生活者無視。見方によっては百貨店廃業すべし」そして「前代未聞の割に結果としてはあまり意味がなかったから」といった辛辣なコメントも散見された。

 記事は「百貨店ビジネスの終わり」「時代の転換を感じさせる」というコメントで結んでいる。デパートのルネッサンスを探す本紙としても「負の転換点」として再認識せざるを得ないのかもしれない。物事には、様々な側面があり、ある方向からのみ光を当てても、その本質は理解できない。

 そして、我々は百貨店業界メディアの端くれとして、デパートに寄り添う視点とともに、一市民としての定見を持ち続けなければならない。そう、改めて強く思った次第だ。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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