デパート新聞 第2724号 – 令和6年1月1日

デパートは、経営二刀流の時代 ~大谷選手を見習おう~

デパート新聞社 社主 田中 潤

【経営二刀流の始まり】デパート新聞読者の皆様

 明けましておめでとうございます。

 これからのデパートは売上至上主義を脱却し、地域のため不特定多数のステークホルダーのために公益活動に本気で取り組んでいく責務があります。私は、デパートが収益事業と公益事業を併せ持つという意味で経営二刀流と呼んでいます。経営二刀流を掲げることで、デパートはすべての人々と信頼関係を持つことになるのです。

【大谷選手のドジャース移籍の考察】

 さて、昨年日本中を熱狂させたのは、言うまでもなく大谷選手でした。投手としても打者としても、超一流の選手として大リーグの頂点に立ちました。単なる二刀流ではなく、スーパー二刀流です。そして、大リーグ史上最高額の契約金でドジャースに移籍するにあたり、「ドジャースのためではなく、野球界全体のためにこれからも頑張っていきたい」という趣旨のコメントを出しました。

 大谷選手が示したこの理念は、ドジャースにとっても、単なる戦力補強ではなく野球界の発展のための選手を仲間に加えることができたということを内外に示すことになりました。社会的責任を果たすという、企業としての理念をアピールすることに成功したのです。

 結果的に、大谷選手の存在はドジャースにとって、測り知れないメリットを示すものとなっていくでしょう。そんな大谷選手の思考の基本は高校生の時に既に出来上がっていたようです。当時の最大の目標であった「多くの球団からドラフト一位に指名される」ための、最も大切な要素の一つとして「人間性」を挙げています。目標は変っても、そのために今も変らず日々切磋琢磨していることは疑いようがありません。

【大谷選手も経営二刀流】

 そもそも、大谷選手はお金を稼ぐだけのプロの野球選手になることを飛び越えて、社会に貢献するという役割を目指していたのではないでしょうか。プロ野球選手として最高のエンターテナーになることで、自らの生計を守る収益事業の形は盤石となります。そこを起点に、その姿を社会のため、人々の幸せのために最高の形で示すことで、本来の最大目標である公益事業を展開していくわけです。大谷選手は、公益を担うために収益を併せ持った公益事業者であると確信します。ここにも経営の二刀流は輝いているのです。

年頭所感

デパート新聞編集長

 2023年12月19日、東京地検特捜部は、かねてからニュースとなっていた自民党の清和政策研究会(安倍派)による、政治資金パーティー収入の裏金化疑惑を巡り、安倍派(と二階派)事務所への強制捜査に踏み切った。

 さて、デパート新聞はその名の通り「百貨店専門新聞」であり、小売りや流通を含めた業界のニュースに特化してきた。ではあるが、コロナや戦争がそうである様に、わが国の政治(のあり方)は、我々の生活と決して無縁ではない。

 ジャニーズや宝塚歌劇団の性加害やハラスメント問題しかり、日本大学アメフト部や、ビッグモーター、ENEOS、ダイハツといった大手企業の不祥事しかり、である。

 先ずは、2023年の総括を、と考えていたが、歳も押し詰まってから、冒頭に述べた様な政界を揺るがすニュースが飛び込んで来たのだ。

内閣支持率

 自民党安倍派が5年間で5億円以上の裏金を、所属議員にキックバックしていた、というニュースは、岸田首相を直撃した。

 共同通信社が16、17日に実施した全国電話世論調査では内閣支持率は22・3%まで下がり、2009年9月の自民党下野直前の麻生内閣の水準(14%)に近づきつつある。

 自民党の政党支持率26%と合わせた数値は48%で、政権運営が厳しくなる水準とされる50%を下回った。

 首相は14日に松野官房長官ら安倍派の4閣僚を交代させたが、支持率の反転につなげることはできなかった。※支持率調査の「不思議」については、購読者諸氏も常々感じておられると思うが、メディアの保守~リベラル度によって、かなり「ばらつき」が大きい。以下、各社の岸田内閣の支持率である。

日経 26%
読売 25%
朝日 23%
毎日 16%

 誰を対象に、どんな質問の仕方をしたかにもよるのだろうが、10ポイントの差がつくというのは、中々問題は根深い。

増税とザル法

 岸田首相は、その政権運営が「もはや危険水域」とささやかれ、総理大臣の後継者探しまで始まっている状況に、国民は閉塞感を感じている。

 円安を背景にした物価上昇により、只でさえ少ない可処分所得が、益々目減りしているところに、電子帳簿法やインボイス導入含め、ほんの少しでも、税金を搾り取ろうという魂胆が見え見えの政策のオンパレード。

 そんな中で、自民党の政治家だけは、パーティー券のキックバックや中抜きにより、政治資金規正法が「ザル法」であることを証明してしまった。

 それに加えて、経団連の会長は、自民党への政治献金について「企業がそれを負担するのは社会貢献だ。何が問題なのか」と語ったというから、驚きを通り越して呆れてしまう。

 社会貢献の意味さえ理解できない上、そもそも企業や団体による献金を禁止する代わりに、毎年300億円以上の政党交付金が配られているはずなのにだ。

 政治家や財界のトップの「見識」というのは、この程度の事なのだろう、という諦観が日本を覆っている。今に始まった事ではないが・・・

コロナの次は政変

 令和のリクルート事件とも佐川急便事件とも言われ「政治とカネ」の問題がクローズアップされた2023年の歳の瀬。こんな総括で締めくくるのは大変残念だが、我々はこうした問題を「デパートには関係ない」ではなく、商売の大前提としての「公益」の概念で、見ていきたい。

 世界情勢や、政治、経済全体を「公益に叶う方法なのか」という「物差し」で俯瞰していくべきなのだ。2024年はこれがテーマなのかもしれない。

 最後に、2023年の本紙独自の活動を振り返っておこう。

デパートは公益事業 「CAプロジェクト」

 デパート新聞は2023年の1月15日号から、田中社主の主導で「地方デパート逆襲(カウンターアタック)プロジェクト」をスタートした。
・8月16日の号外

 株式会社津松菱(松菱百貨店)との包括的協力体制をとることに合意。
・10月15日号

 松菱百貨店でCAプロジェクトの具体的事業として「つながるデパートカーニバル」がスタート。既に銚子電鉄、蔦金商店、横濱ありあけハーバー、赤い靴記念文化事業団が参加している。
・12月15日号

 三重大学イノベーション学科研究会にて、田中社主が講演し「デパートは収益事業と公益事業の二刀流の経営を目指せ」として、デパートと大学の連携の必然性について語った。

 デパート新聞は、報道の枠を超え、デパートの「公益性」を見直すことが、地方百貨店の危機を回避する道だと考える。

 そして、真の「デパートのルネッサンス」を目指し「伝えるだけでなく参加・協力し、実践する」こととした。

 その具体例が、松菱百貨店や三重大学との、産学協働コラボレーションである。

 末筆となったが、政情がどうあれ、本誌は引き続き、百貨店関係者や顧客と目線を合わせ、時にはその代弁者となり、デパートのルネッサンスを追い求めて行く。

 この場を借りて、購読者の皆様に改めて御礼申し上げる。そしてアフターコロナの時代に生き残るために奮闘するすべてのデパートが前年よりも少しでも希望を持って臨む新年を寿ぎ、ご挨拶に替えさせていただきたい。

11月東京は9.7%増

 日本百貨店協会は、令和5年11月東京地区百貨店(調査対象12社、22店)の売上高概況を発表した。売上高総額は1519億円余で、前年同月比9・7%増(店舗数調整後/ 27 か月連続プラス)だった。店頭・非店頭の増減は、店頭9・2%増(90・2%)、非店頭14・6%増(9・8%)となった。

百貨店データ

  • 3社商況11月
  • 11月店別売上前年比(%)
  • 都内各店令和5年11月商品別売上高
  • 関東各店令和5年11月商品別売上高
画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: oboro-300x292.png

 デパート新聞社では、企業が公益事業を行うことが今の社会において最も有益なことであると考えている。そして、デパートはその象徴的な存在であると主張している。
 企業が、公益を行うということは、単に恵まれない人に寄付をするとか、社会活動に参加するといった、いわゆるCSR活動のレベルではない。自分たちが主体となって創造的公益事業を起こし、それを成立させていくという次元の覚悟が必要である。つまり、公益の具体的価値を実現していかなければならないということである。
 この活動は価値(バリュー)を生むということで、CSVとも呼ばれる。公益を行うことこそ、本来の企業の使命であり、株主資本主義という狭い理論の呪縛から脱却すべき時を迎えているのでる。
 是非、今年は地方デパートからその狼煙を上げてもらいたいと願っている。

デパート新聞 紙面のロゴ
昭和24年10月創刊
百貨店に特化した業界紙
デパート新聞 購読申し込み