デパートのルネッサンスはどこにある? 2024年05 月15日号-92

セブンイ&アイがトーヨーカドーを上場 – セブン&アイから遂に『アイ』が消えるのか?

 イトーヨーカドーが、数年以内に上場を目指す見込みであることが判った。
 本コラムが、4月1日号、15日号と続けて、「ヨーカドーの大量閉店」を特集した矢先だ。
 そごう・西武の売却に続き、凋落著しいGMS事業の立て直しに向け、舵を切ったセブン&アイの思惑を検証したい。 

上場

 4月9日、セブン&アイ・ホールディングスが、イトーヨーカドーを運営する株式会社イトーヨーカ堂を中核とする、総合スーパー事業の上場を検討していると報道され、翌10日の会見で詳細が明かされた。 

 4年連続の最終赤字を受け、イトーヨーカドーが北海道や東北など複数の地域から撤退するという報道を受け、本紙は前述の様に2度に亘り特集を組んだ。

 この上場により、GMSの苦境は好転するのであろうか? 業界では「また、セブン&アイの井阪隆一社長のパフォーマンスでは?」という冷たい反応も散見される。

 不振の総合スーパー事業を、百貨店事業の様に「投げ出した」と言われない様に「上場」というオブラートを用意したのでは、と勘ぐってしまう。そごう・西武売却にまつわるゴタゴタや、アクティビスト(モノ言う株主)に翻弄される井阪社長の対応を見て来た筆者からすれば、どうしても冷めた目線になってしまう。

 もちろん、天下のセブン&アイも「遂に祖業からの撤退に追い込まれた」というのは「小売り=流通業」にとっても、一般消費者(世間?)にとっても大事件であることに変わりない。トップが誰であろうとだ。

連載23回

 本コラム「デパートのルネッサンスはどこにある?」では前号、前々号で特集した「イトーヨーカドーの大量閉店から考える」を除いても、2年前の2022年2月15日号から「そごう・西武」売却のシリーズ連載は何と23回に及ぶ。

 その間、そごう・西武労働組合の寺岡泰博委員長のインタビューも交え、2年間の連載の半分をセブン&アイに捧げた、と言うか井阪社長に費(つい)やした、といっても過言ではないだろう。もちろん井阪さんからすれば「そんなことを頼んだ覚えはない」ということになるが・・・

 井阪氏に対しては、業界紙の端くれとして単純に「よくもこんなに『突っ込みどころ満載な対応』ばかり続けるな」というのが正直な感想だ。

 裏を返せば「連載コラム」のネタに困らなかったのは井阪氏のおかげ、とも言える。もちろん感謝している訳ではない。

セブンからヨドバシへ

 4月18日の日経にヨドバシホールディングスの藤沢社長が西武百貨店池袋本店について始めて言及し「ヨドバシ、百貨店と共存へ」と報じられている。

 これをもって池袋西武の命運は「正式」にヨドバシに移ったという宣言なのだろう。

 顧客や、業界、マスコミ、行政含め、様々な批判をかわして来たセブン&アイが、名実ともにそごう・西武問題から「逃げ切った」ということになるのだろう。

 祖業であるイトーヨーカドーでさえ切り離すのであれば、長年のお荷物である「そごう・西武」を売り飛ばすのは、仕方がないことだった、という免罪符にもなる訳だ。

 尚、ヨドバシによる池袋西武のリニューアルについては、別途追い続けたいと思う。

上場は自立?

 以下、ポイントを整理する。

 まず、業績不振が続くイトーヨーカドーのスーパー(GMS)事業について、2027年以降の株式上場を目指す方向で検討が進められているという。これによりセブンは、ヨーカ堂に「自律的な財務体制」に向け立て直しを促す、という。

 一方、セブン&アイ本体は、経営資源を好調なコンビニ事業に集中させることができる、という訳だ。

 ヨーカ堂の最終決算が4年連続赤字という状況を踏まえれば、セブン&アイの危機感は相当だ。井阪氏はこの件で株主代表訴訟まで起こされている訳だから当然だが。

 セブン&アイとしては、コンビニ事業を中心とした経営資源の選択と集中を進め、上場によって、イトーヨーカ堂には「独り立ち」をして貰い、グループ全体の最適化を図る。それが狙いであるのは明解だ。

アパレルからの撤退

 セブン&アイ・ホールディングスのIR資料にも「イトーヨーカ堂のブランドポジショニングの再設計を含む、包括的な成長戦略が不十分である」との文言が確認できるが、今後の改革案については見えていないところが多々ある。

 ヨーカ堂の改革については、大量閉店以外には、かつての主力であった「アパレル」事業からの完全撤退が発表されている。

 アパレル大手の「アダストリア」と提携し、店舗のアパレル売場を同社に委託する動きも出ている、という。

 ファーストリテイリング(ユニクロ、GU)、しまむらに次ぐアパレル売上ランキング第3位に「のし上がった」アダストリアとの提携であり、セブンの本気度が窺(うかが)える。

 但し、アダストリアの既存ブランドである、グローバルワークやニコアンドなどとの「差別化」は容易ではないだろう。揶揄する訳ではないが、現状の自主編集売場をテナント化することとどこが違うのか、とも思う。前述したユニクロ等のカテゴリーキラー乱立の中で、新参のマイナーブランドの存在感がどこまで発揮できるかは、当然未知数なのだ。

食への注力

 ファッションに代わり、イトーヨーカドーが注力するのは「食」の分野だ。

 今回の発表でも触れられていたように、セブン&アイとヨーカドーは、今後も食品分野での積極的な連携を続けていく方針だという。

 さらに、地方店舗の積極的な閉鎖や、都心部での営業強化など、いくつかの具体的な改革も実行に移される、という。

 先に述べた株主代表訴訟の際に、コンビニ事業である「セブン- イレブン」の好調は、ライバルであるファミリーマートやローソンに対し、ヨーカ堂の「食」がその差別化(優位性)に貢献している、と井阪氏が反論していた事を思いだす。その時は「だからイトーヨーカドーはセブン&アイには不可欠である」という結論だったはずなのだが。1年ちょっとで変節してしまった、と言うとまた叱られそうだが。

岸田氏と井阪氏

 昨今の日本で「迷走」の代名詞となった2人のトップを「政界の岸田、小売りの井阪」と言うらしい。

 名付けた人が天才なのか、いや誰でもがそう思っているのか。残念ながら筆者が思いついた訳ではない。一応お断りしておく。

井阪氏と鈴木氏

 食品スーパー事業の分社化と再吸収のマッチポンプを繰り返し、いまや店舗閉鎖が相次ぐヨーカ堂を、セブン&アイは以前「コンビニ事業強化のカギ」と位置付けていたのだ。

 そこに株式上場で外部資本導入を目指すに至り「切り捨てたいのか残したいのか判らない」と同業者も首を傾げる。正に絵にかいた様な「迷走劇」だ。多分社内でもそう考えている人が大多数なのではないだろうか。

 井阪氏の仕事の仕方は「唯我独尊」なのか「独断専行」なのか、周囲にも理解できない様だ。であれば我々外野に判るわけもなく、批判が増えて行くのは必然であろう。そうして皆、昨年のそごう・西武の売却を巡る迷走ぶりを想起せざるを得ないのだ。

 そもそもが、そのそごう・西武をセブン&アイの傘下に収めたのが、セブン- イレブンを日本一のコンビニに育てた鈴木敏文氏である。

 その「中興の祖である」鈴木氏を2016年春、事実上のクーデターでグループから放逐したのが井阪氏だ。

 その造反当時の社外取締役のアドバイスを受け、株主との対話やガバナンスに力を入れたのだという。

 もちろんそれ自体は間違っていないが、モノ言う株主から「コンビニ事業に専念しろ」と揺さぶりをかけられることになったのは、皮肉と言うしかない。

IPO

 4月10日の決算会見で、井阪氏は祖業であるイトーヨーカ堂の新規株式公開(IPO)を検討すると表明した。

 スーパー、コンビニ、専門店、( 百貨店はもうないが) など多業態で構成されてきたセブン&アイグループは「コンビニに集中」の方向性を鮮明にした。

 アクティビストの要求に沿った方向だが、百貨店そごう・西武の再建は断念して投げ売りし、今度は祖業であるヨーカドーの再建にも「黄色信号」が点滅し始めたのだ。前述した「マッチポンプ」の内容だが、セブン&アイは業態特化を唱えて2020年にヨーカ堂から分社化させた食品スーパー事業を、3年で再びヨーカ堂に吸収した。

 そして現在では「イトーヨーカドー食品館」と名付けた都市型小型食品スーパーの閉店が増えている。

ヨークフーズ

 因みに筆者の家の近所にあるIY食品館は「YORK FOODS」と名前を変えただけで、食品スーパーの営業は継続している。

 個別の事例で恐縮だが、ヨークフーズは激安でもなければ、生鮮産品の品揃えが豊富という訳ではない。お酒の種類も少ない(テレビCMで見たビールの新製品は、陳列されていない事が多々ある)。

 もちろんセブンプレミアム(金のハンバーグとか)のパンやレトルトやカップ麺は充実しているが、食の強みを生かしているとは言い難い。

 閉店するヨーカ堂の4割を、ロピアが譲り受けるのも納得だ。

 ヨーカ堂がセブン- イレブンと連携して「食の強化を図る」としていた、この数年間の井阪氏の主張に対し「本当なのか」という危惧は絶えない。

 そして今度はIPOで新たなステークホルダーを募るのだという。
 これでは、そもそもヨーカ堂を再生したいのかどうかも判らない。

用語解説「IPO」

Initial Public Offering

の略語で、「新規公開株」や「新規上場株式」を意味する。具体的には、株を投資家に売り出し、証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすること。
 この「イトーヨーカドーの上場化」記事に対する読者コメントが、辛口揃いで正直驚いた。筆者も普段のコメントがソフト過ぎたのでは、と反省したほどだ。もっと驚いたのは、皆さんの意見がほぼほぼ正鵠(せいこく)を射ている(と思われる)ことだ。
以下引用する。

様々な意見

・最近の「YAHOO ニュース」では、イトーヨーカ堂に対してこんな意見が並んだ。「2016年にクーデターで鈴木敏文を追い出したのに、結果を出せないままもう何年経つんだ。自分の方が経営に適していると偉そうにしている連中、部下は同じことを考えてますよ。さっさと退職金もらって退陣した方がいいんじゃないかな。もう古い考えでは立ち直れないのに権威に居座る悪癖。今更鈴木敏文に頭を垂れたところで遅きに失す。立つ鳥跡を濁さないうちに、とっとと退陣してください。」

・「セブンイレブンは完全に時代からズレている。まだイオン系列の『まいばすけっと』の方が時代に同調している。深夜のコンビニはガラガラで時代にそぐわないような気がする。」

・「セブンは完全に糸の切れた凧。放っておいたら空中分解後四肢爆散する。鈴木を外したのがいけなかったのか。今は、強者ぶっているだけの弱者。

・「東京のメディアは迷走のイトーヨーカドーを庇(かば)いすぎ。逆に業績の良いイオンや、衣料でいえばユニクロなどを「~に業績を奪われた」など敵に回すような言い方をして腹が立つ。」

・「かつてのダイエーを見ている感が・・・それにしても、今後はどうなる事だろう。」

・「ハゲタカファンドの言いなりで地方切り捨て。未来は明るくなさそう」

・「情けない、客を無視して客商売が成り立つわけがない。恥を知れ。」

以上だ。

何だかセブン&アイというか井阪社長が可哀そうになってしまうほどの「容赦ない厳しい意見」ばかりだ。もちろん「自分の撒いた種」であり「身から出た錆」でもあるわけだが・・・ イオンと並ぶ、日本一の小売業のトップが、散々な言われ様だ。もちろん、これが「世間の声」のすべてではないが、擁護するコメントがひとつもないのもポイントだ。

 どうも悪口ばかりになってしまったが、けしてこれだけが本コラムの本意ではない。

強みは首都圏

 口直しに4月15日号に記した「ヨーカドーの強み」を再掲する。

 人口密度が高く、当然公共交通網の発達しているエリアにドミナント出店し、後発の参入を防いで勝ちパターンに持ち込むヨーカ堂。(中略)

 東京発祥の老舗の総合スーパーであるイトーヨーカドーは、大きなアドバンテージを持っていた。世界有数の公共交通網を有する首都圏中心部において、乗降客数が多い駅前をはじめとする交通動線の要所を、他社に先んじて押さえているのだ。

 そんな優良立地に広い売場を展開しているイトーヨーカドー、そして特に食品売場は、首都圏の顧客にとって便利な存在であり続けたのである。

 後塵を拝する食品スーパーやディスカウンターは、そもそも立地(と面積)の面でビハインドを負って戦わなくてはならないのだから、勝敗は明らかだ。( 以上)

 繰り返しになって恐縮だが、首都圏の人口密集地であっても、他社に比較して広い面積を確保しているのがイトーヨーカドーの強みなのだ。小型食品スーパーでは、その頼みの食品の品揃えに対して「物足りない」というクレームが出てしまうのは、本末転倒であろう。

小型食品スーパー

 好立地のGMSから、アパレルや他業種を排し、食に注力するまでは良い。が「だから小型食品スーパーだ」という答は正しいのだろうか。

 東久留米や東村山、武蔵境や武蔵小金井の様に、テナントに賃貸すれば良いではないか。もっと大きかったらアリオにすれば良い。

 セブン&アイは、ヨーカ堂業態とセブン- イレブンの中間を「小型食品スーパー」で埋めようと「SIPストア」というコンセプト店舗を開発中だという。

 もし、小型食品にトライしたいのであれば、ライバルであるイオンの「まいばすけっと」をもっと勉強してからにしてはどうだろう。

 『まいばすけっと』はライバルであるヨーカ堂が密集する東京と神奈川を中心に、1100店舗を数える。2005年に出店を開始し、20年かけて成長してきたのだ。

 方針転換が得意な割に、プライドが高いセブン&アイに、『まいばすけっと』の「後塵を拝す」ことがはたして可能だろうか。次回、業界に事件が起こらなければ、「まいばすけっと」とイオンの戦略に迫りたい。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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