デパートのルネッサンスはどこにある? 2024年04月01日号-89

イトーヨーカ堂の閉店から考える

台頭する新勢力ロピア  

 本コラムでは(特に昨年2023年の下半期は)その紙面のほとんどをセブン&アイよるそごう・西武の売却に充ててきた。

 米ファンド、フォートレスと家電量販店ヨドバシカメラによる池袋西武の改装プランについては、2月1日号の「ブランドと百貨店」や15日号の文末で言及したばかりだ。

 その過程で、いわゆる「モノ言う株主( アクティビスト)」による、セブン&アイへの株主訴訟なども取り上げて来た。

 2023年4月15日号の本稿「セブン&アイへの通告」を再掲載する

・退任要求

 3月27日、セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長が、退任要求を突き付けられた、という一報が入った。いわゆる「モノ言う株主」からの提案だ。
 彼らは5月開催予定の株主総会で、セブン&アイの井阪社長の再任に反対する株主提案を行うと通告して来たのだ。

・アクティビスト

 さて、今回の主役はアクティビストである米バリューアクト・キャピタルだ。5月の株主総会で、井阪氏解任の株主提案を行う、というのだが、その理由は明解だ。

 セブン&アイは祖業であるヨーカ堂の分離の遅れや、そごう・西武の不振とその売却を巡る混乱により、多角化で企業価値が低下する、いわゆる「コングロマリットディスカウント」から抜け出すことができない、という理由だ。

GMSはオワコンか

 この問題の根幹は(本コラムで1年前に指摘した様に)セブン&アイの祖業であるイトーヨーカドーの不振であり、先月2月には大規模なリストラプランが報道された。イトーヨーカドーが北海道、東北、信越エリアの17店舗を閉店すると発表したのだ。

 かつて百貨店と並んで、小売業の双璧と称された総合スーパー(GMS)も、百貨店以上に閉店、そして淘汰が進んでいるのは、誰も否定できないだろう。

 そしてそれは、GMSの主戦場である郊外での、カテゴリーキラーや大型ショッピングモールの出店攻勢だけが原因ではない。
※後述するがヨーカ堂は都市部への集中(ドミナント)政策をとっている。

 日本の小売りナンバーワンの称号を手にしながら、百貨店そごう・西武だけでなく、祖業である量販店イトーヨーカドーの整理に着手せざるを得ないセブン&アイ。

 その苦悩を理解すれば、全国でデパートとGMSが絶滅の危機に瀕(ひん)している状況が見えてくるのではないだろうか。

井阪社長の功罪

 最初にお断りしておくが、筆者はセブン&アイというよりは、その経営トップの井阪社長による池袋西武のヨドバシ化について、もっぱら批判的な見方をしている。

 只それは、セブン&アイ・ホールディングスそのものの判断や方向性が間違っているからでない。極論すれば、井阪氏の手法や進め方が自分勝手であり、稚拙であるからだ。

 様々なステークホルダーから批判を浴び、周辺からクレームが来て初めて「後出し」で理由を説明する様なスタンスは、およそ「商(あきな)い」の基本が出来ていない、と思うからだ。

 そもそもが「接客業」である「小売り」の端くれであるなら、顧客や従業員含め、相手の身になって考え、説明責任を果たし、少なくともクレームが来ない様に立ち回るのが「商売人」の常識であり普通なのだ。

 わが国で他人(ひと)から後ろ指を刺されても平気なのは、政治家や議員だけにして貰いたい。

もとい、だから「井阪氏はコンビニしか知らない」と誹(そし)られるのも無理はないということなのだ。
※当然だが、コンビニの接客自体が劣っている、という意味ではない。

 また、言い訳が長くなって恐縮だ。そういった訳でヨーカ堂の閉店に話を戻そう。

勝者の末路

 2月に総合スーパー「イトーヨーカドー」が北海道、東北、信越エリアの17店舗を閉店すると発表した。親会社であるセブン&アイ・ホールディングスの中期経営計画が公になっていたので、訳知り顔の関係者にとっては「既定路線」だったとも言える。

 2023年7月1日号の本稿「迷走するセブン&アイ」を再掲載する

・イトーヨーカ堂が店舗の1/4を削減

(2023年)5月の株主総会でもプロキシーファイトの焦点となった「祖業撤退」は本当に進むのか、セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカドーは、構造改革を推進している。具体的な中身を見て行こう。

 セブン& アイは、2026年2月末までに全国125店舗のイトーヨーカ堂の中で、1/4に当たる33店舗の閉鎖を決定した。

 同時に「祖業」であるアパレル事業からも撤退するとの意向を明らかにしたのだ。こうした改革に着手した同社は、アクティビストの求めているセブンイレブン事業のスピンオフ(分離独立)を回避した後、どこに向かおうとしているのだろうか。

 今回、具体的にリストラ店の名前が明らかになったことで、ネットにも「イトーヨーカドーの衰退」といった記事が躍(おど)った。

 ダイエーや西友と言った強敵(ライバル)の自滅を横目に、独自の都市部ドミナント戦略で、量販店戦争を勝ち抜いてきたヨーカ堂だが、前述したアクティビストの「コンビニ集中」の突き上げにとうとう屈せざるを得なかったのか。

 それとも「時代の流れには勝てなかった」ということなのか。

 営業を終了する17店舗中7店舗は、今を時めく食品スーパー「ロピア」(OICグループ)が一括で譲り受けるという。

ラブラブLOPIA

 因みにOICは「オーアイシー」ではなく「おいしー(美味しい)」と読むらしい。

 ついでに言うとキャッチフレーズの「食生活♥♥ロピア」も「♥♥」は「ラブラブ」と読むのだ。店内で四六時中テーマソングを聞かされている顧客にとっては言うまでもなく常識なのだが。

※ドン・キホーテと同じ手法であり、音楽によるサブリミナル効果とでも言うのか、正直鬱陶(うっとう)しい限りだ。
 個人的には規制があれば強化して欲しい。

 ネットでも、ヨーカ堂が閉店した代わりに、今話題のロピアが開店するということで「世代交代」や「新旧交代」どころか「新陳代謝」というワードまで散見された。
 破竹の勢いのディスカウント食品スーパー「LOPIA」に店舗を譲渡するということが、小売業界の分岐点として後々記憶すべき出来事なのかもしれない。

 Evryday Lowpriceを掲げたOK(オーケー)ストアを筆頭に、コストコ、業務スーパーといった激安食品スーパーのブームの中で、今脚光を浴びているの「ロピア」である。

食品安売り

 だがしかし、筆者の感覚としてロピアは、ヤオコーやライフより「モノによってはちょっとだけ安いかな」というレベルであり「ディスカウンター」という呼び名に相応しいかどうかには、正直疑問符がつく。

 どちらかと言うと、祖業である食肉加工に加え鮮魚類の品揃え(バラエティ)が、ライバルを大きく凌駕していることが、人気の秘密ではないだろうか。いや、実際秘密でもなんでもないが。前出のコストコや鮮魚専門チェーンストアの角上魚類もそうだが「生鮮品が安い」というのは、デフレに慣れ切った日本の消費者には「刺さる」のだ。

 だからロピアは買い物のアミューズメントパークであり、30年にわたる、長きデフレ時代に咲いた「あだ花」が食品安売り(ディスカウント)業界なのだ。

 只、レジャーや余暇の代替を「買い物」に求めなければならない時点で「日本のデフレここに極まれり」とするのは筆者の暴論であろうか。

 株高と円安から賃金のベア上昇という局面を迎え、日銀のゼロ金利政策が終了し、デフレの終焉がにわかに現実味を帯びてきた昨今ではあるが、心はまだまだインフレマインドには程遠い。
※この話はまた別の機会に譲る。

 本題に戻ろう。ロピアがこのタイミングで「閉店するヨーカ堂の4割強を引き継ぐ」というのは、ニュース性も高く、宣伝としても優れていると言わざるを得ない。

ロピアの戦略

 ロピアは只生鮮品が安いだけの食品スーパーではない。失礼「大して安くない」と前述したばかりだが。

 決裁手段としてPayPayを試験導入して直ぐにやめたり、持ち帰り段ボールの配布をやめたり、限られた経営資源の価格への「マイナス転嫁」を徹底しているのだ。経費が嵩(かさ)む電子マネーやクレジット決済はそもそもやっていない。もちろん西友の様な楽天ポイントの付与もない。

 ロピアは、食品を安く提供することに特化し、その他の経費削減には「便利」を犠牲にすることも厭(いと)わないのだ。

 それでも個客はロピアを支持している。店舗が混雑しているのがその証拠だ。
 顧客サービスと称して、便利なモノ(便利に見えるモノ)は何でもかんでも導入する「コンビニエンスストア」とは真逆の政策をとっていると言って良い。

 コンビニのレジ前で、決済方法を選ぶのに「痛痒」を感じるのは、筆者が老いている証拠なのか。

 コンビニの言う便利は、客ではなく店にとっての便利なのではないのだろうか。
 こんな事を言うと「だとしても、それが商売だ」という反論が聞こえてくるが・・・

 暴論ついでに言うと、今回のセブン(ヨーカ堂)からロピアへの世代交代は、小売業界の淘汰の兆しなのかもしれない。
 もちろん、ロピアの時代がどれだけ続くのかは、誰にも(当然筆者にも)判らない。

不振の原因

 イトーヨーカドーの不振については、地方店舗の不採算、アパレルの不振、営業効率が低い、といった問題点は、以前から指摘されていた。

 それはかつてのライバル西友(2020年までウォルマート傘下)や、イオン傘下となったダイエーも同様である。

 そんな衰退産業であるGMSの中で、とうとう優等生であったヨーカ堂にも、縮小、淘汰の波が及んだ、と見る向きもあるだろう。

 さて、なぜヨーカ堂が苦戦しているのか、見て行くことにしよう。
 ことわっておくが、ヨーカ堂の業績停滞は今に始まったことではない。

 かなり前から売上、収益ともに右肩下がりが続いており、少しずつ店舗閉鎖を行いながら戦線を縮小してきているのだ。

右肩下がり

 1 9 9 8 年度には1兆5000億円以上だった売上高は、2022年度で1兆円(総額売上高ベース)へと、2/3に減っている。そして営業利益率は4%以上あったものが、低下を続け、直近ではほとんど利益が出ない状態にまで落ち込んでいるのだ。

 その主要因は、粗利率が高い非食品(衣料品、日用雑貨等)が売れなくなり、いわゆる「館の2階以上の売場」が儲からなくなった、ということなのだ。

 ヨーカ堂の2008年度と2022年度の粗利構成を比べると、食品以外(衣料品、日用品)の粗利額の減り方が大きいことが判る。

 14年間で38・2%から33・2%に減り、結果として5%のマイナスとなっているのだ。

イトーヨーカドーの売上高と粗利益率の推移

衣料品食品
売上利益粗利率売上利益粗利率
2008年3,070億円1,170億円38.2%6,690億円1,700億円25.4%
2022年2,170億円720億円33.2%4,890億円1,330億円27.2%

失った収益源

 売上構成の推移をみると、非食品の売上が大きく減少している。そして実態として、多くの売場がテナント運営に移行しているのだ。

 総合スーパーが小売りの主流であったころは、例え利益率が低くても、購買頻度の高い食品目的で来店してもらい、粗利の高い衣料品を「ついで買い」してもらうことで利益を稼いでいた。

 ヨーカ堂はこの収益源の大半を失ったことにより業績が低迷するようになったのだ。
 その他、データを見れば食品はそこまで売上が減っていない。

 売上マイナスは、店舗数そのものの減少を反映しているのであって、食品の売上水準自体はほぼ変わっていないのだ。

GMS不要論

 ヨーカ堂に限らずだが、総合スーパーに行くと、1階の食品売場には大勢の来店客がいる一方、上層階の衣料品や日用品フロアは閑散としている。

 百円均一にテナント貸ししているケースも多い。

 衣料品や日用雑貨類に関しては、ヨーカ堂ではなく、ユニクロ、GU、しまむら、無印良品、ニトリといったカテゴリーキラーや専門店チェーン、そしてそれらを集積するモール(大型商業施設)にとって代わられるパターンが大半であろう。

 もちろんGMSと、そうしたテナントとの共生も増えている。それが「生き残り策」の一環にはなっている訳だ。

 そうした前提を踏まえ、GMS(総合スーパー)不要論が、業界で信憑(ぴょう)性を帯びて来るのではないだろうか。

役割を終えたのか

 カテゴリーキラーとも呼ばれる、いわゆる専門店チェーンが本格的に全国区になったのは、2000年代以降であり、その成長に代替された総合スーパーの非食品売場は、徐々にその役割を終えていった。

 結果、全盛期の1990年代、小売業ランキングの上位を占めていた総合スーパー企業は、イオンとセブン&アイを除き、すべて再編された。
 屋号は残っていても、ダイエーや西友はM&Aされてしまった。

 今更比較をしても仕方ないことだが、かつてヨーカ堂は、ダイエーや西友に比べアパレルが優れ、そして売れていたのだ。
 だから結果としてGMSとしては破格の長寿を全うしていたのだ。

 只、ここまで来れば、もはや食品特化とアパレル撤退しか道はない。
 総合スーパーとしては最後まで健闘したが、GMS半世紀の歴史から見れば「散る桜、残る桜も散る桜」なのだ。

 イトーヨーカドーは、コンビニ王者セブンイレブンの生みの親として、食品の強みを最大限発揮し、孤軍奮闘してきた。しかし最後に、アクティビストに迫られ、そごう・西武の売却に続き、遂にヨーカ堂のリストラを始めた。

 今後は食品特化型スーパー「ヨークフーズ」等の出店は別として、セブン&アイの先兵としての役割を終えたのだ。

 そしてデパートも他人事では済まない。
                                  次号に続く。

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