デパートのルネッサンスはどこにある? 2024年02月01日号-85

ブランドと百貨店 「蜜月から卒婚へ」

ルイ・ヴィトン記事の訂正

 前号(1月15日号)の本コラム「西武池袋本店の元日営業で思う事」の中で、西武百貨店池袋本店の、いわゆる「ヨドバシ改装」に言及した。

 その中で大手経済系メディアの12月末の記事を引用し池袋西武の1階は現状北側にある高級ブランドの「ルイ・ヴィトン」を南側に移転させ「エルメス」や「ディオール」などが並ぶ高級ブランドのゾーンとする方向だ。と伝えた。

 筆者は当初この記事を読んで、ラグジュアリーブランドの代名詞であるヴィトンであっても「背に腹は代えられぬ」と、苦渋の決断をしたのだろうと感慨した。

 なぜ筆者が、そう思ったかと言うと、ちょうどその4ヶ月前に、同メディアが掲載した以下の記事を思い出したからだ。

LVMHジャパン社長「売場変えない」

西武池袋改装で 『LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン・ジャパン)のノルベール・ルレ社長が9月1日、取材に応じ、そごう・西武の売却で家電量販大手ヨドバシホールディングスが西武池袋本店に入る改装案について「そごう・西武から説明を受けたことがなく、現状の売場を変えるつもりはない」と述べた。

 高級ブランド最大手の動向によっては、計画通りに改装が進まない可能性がある。』と報じていたのだ。

 もちろん4ヶ月の間に百貨店から説明を受け、説得されて、方針転換をしたのでは、と思う方もおられると思うが、筆者は「以外とあっさり受け入れたな」という感想を持った。

「決定してない」

 さて、ルイ・ヴィトンの南側ゾーンへの移転について、筆者は、しかるべき筋から「その大手経済メディアの報道は誤報だ」という話を聞いた。
※尚、この情報は良くある「業界関係者」でなく「当事者」からの話だ。但し、そごう・西武の関係者ではない、ということだけお断りしておく。

 もちろん(急にトーンダウンして恐縮だが)誤情報は「南側への移転が『既に』決定した」ことであって、正しくは「まだ、決定していない」ということだ。

 「なーんだ、まだ確定ではないが、結局移転する可能性もあるのね」と言われれば、首肯するしかないが、ヴィトンは、違う選択肢も捨てていないということなのだ。
※「1月末までには決定する」と報じているメディアも多く、今号発送時点では、既に公(おおやけ)になっているかもしれないが、とにかく1月上旬時点には未確定だった訳だ。

「西武かそれ以外か」

 もちろん、ヨドバシが池袋西武の北側に入る、という大前提は変わらないので、ヴィトンが現在営業している区画に残れる可能性は極めて低い。問題は今一番可能性が高い(と思われている)西武百貨店内で1F南側への移転を拒んだ場合だ。

 必然的にヴィトンは西武百貨店から撤退し、池袋で「他の拠点」を探すこととなる。
※因みに、現在ルイ・ヴィトン西武池袋店の年間売上はおよそ90億円だという。

 他のビッグターミナル駅と異なり、基本的にはビルイン以外考えられない、という池袋駅の特殊事情から、選択肢は非常に限られて来る。

 パルコか東武百貨店か、それともルミネなのか。

 因みにルイ・ヴィトンとエルメス以外のラグジュアリーブランド(シャネル、セリーヌ、ディオール、グッチ、プラダ等)は、現在は池袋西武6F南のプレステージゾーンに軒を連ねている。

※いつも掲載している「西武百貨店池袋本館」の写真の右下を見てほしい「LOUIS VUITTON」の看板が確認出来る。彼らのブランド戦略では、好立地かつ1Fで道路に面している、ということが大前提だ。

「渋谷よ、お前もか?」

 実は、西武百貨店のヨドバシ化、と言えば、渋谷西武も同様の状況にあり、こちらもルイ・ヴィトンの去就が気になるところだ。

 渋谷ではヴィトンメンズはミヤシタパークの北館1Fにあり、レディースのみ西武百貨店渋谷店A館1Fに出店している。

 こちらも、ミヤシタパークを運営している三井不動産、そして渋谷の盟主を自認(自任?)する東急、そしてパルコなど、各社が「水面下での争奪戦」を繰り広げているはずだ。

 そしてこのことは、ルイ・ヴィトンだけに止まる話しではなく、西武に入居している海外ブランドすべてに共通していることである。

 ここ1~2年で山手線の西側のブランド勢力図は、大幅に塗り替えられことになる。

出店戦略

 海外ブランドといっても、その出店ルールは千差万別であり、ヴィトン同様1F路面にこだわるのは「Hermes(エルメス)」であろうか。但し、エルメスがヴィトンと異なるのは、今回の池袋西武のヨドバシ改装でもそうだが、館の1Fとは言っても駅に近い北側でなく、結果的に最初からヨドバシ出店の影響を受けない南側に位置しているのだ。
※これは新宿伊勢丹でも同様であり、館の1Fではあるものの、正面玄関ではなく、あえて裏口(勝手口?)をチョイスしている様に見える。

 賃料的な「最適」を考えているのか、短期的な改装プランに抵触しづらい場所を選んでいるのか。

 王者の貫禄とでも言おうか、「金持ち喧嘩せず」筆者の目にはそう映るのだが。

 その一方エルメスは銀座丸の内エリアでは、百貨店内ではなく路面店を選んでいる。表参道もそうだ。

 池袋、新宿、渋谷でのビル入居政策とは対応を変えているのだ。これについては後述する。

GINZA SIX

 ファッションの流行には「流行(はや)り」があり、当然廃(すた)れる事が「世の習い」だ。

 前述のエルメスの様に、比較的その「威勢」を長く保ち続けるブランドもあれば、そうでないもの(消え去るモノ)は文字通り「枚挙に暇(いとま)がない」。

 今現在強いブランドは何か、そしてどの程度立地(出店場所)にこだわるのかは、ギンザシックスを見ると参考になる。

 同店舗の店頭を北から順に見て行くと「フェンディ、ヴァレンチノ、ヴァンクリーフ&アぺル、サン・ローラン、セリーヌ、ディオール」と居並び、どの店もメゾネットで2Fも使っている。

 正面入口を入った正面には「ロエベ」があるが、これは館内だ。

 もちろん上層階も海外ブランドは多種多様だが、今回は1F立地にこだわる主要大型ブランド(ラグジュアリーとかハイブランド)の話しなので、これくらいにしておこう。

 因みに、銀座三越の1Fには前記に加え「バレンシアガ、グッチ、プラダ、ボッテガ・ヴェネタ」が鎮座している。

 次いで、松屋銀座の1Fには今回のテーマである「ルイ・ヴィトン」がある。蛇足だが、前述したエルメス以外にも、プラダとグッチは路面で旗艦店を展開している。

逆格付

 ひと昔前は、海外ブランドも大手百貨店の1Fに大型区画を確保することが、自分たちのブランドとしての「格」を(無知な日本の顧客に)知らしめる手段であった。

 顧客からすれば、馴染みにしているデパートが「ちょっと高いけど品質の良い品物ですよ」という「お墨付き」を与えてくれていたのだ。誤解を恐れず言えば「虎の威を借りる狐」の様な関係であった。

 その後は「持ちつ持たれつの二人三脚」の関係が長く続いたが、現在はどうであろう? 

 人気ブランドを館に収めることが、今度は逆にその百貨店の「格を表すバロメーター」になっている、と言ったら言い過ぎであろうか。

 今回の主役である「ルイ・ヴィトン」が、池袋西武内に残るか否かが、その分岐点になるのかもしれない。ルイ・ヴィトンが池袋で「新たな拠点」 を見つける事が、長く続いたデパートと海外ブランドとの蜜月関係の終わりを示す「エポックメイキング」な出来事として記憶されるのかもしれない。

 百貨店が主要テナントである海外ブランドから見放された時、それは、そのブランドの顧客からも見放される時なのだ。「ブランド物は百貨店で買う」という一つの時代が終わりを告げる。そして、百貨店に残された時間は少ない。

インバウンド

 それでは、海外ブランドはすべて、路面店や他の商業施設に移ってしまうのか。

 デパートの味方というか、救世主も存在する。それが再び活況を呈している海外旅行客、いわゆる「インバウンド」だ。彼らは時間が惜しいので、なるべくひとつの拠点でスムーズに買い物をしたい。暑さ寒さやその日の天候に左右されず、子供たちがうろちょろしても怒られない百貨店は、食事もいろいろ選べるし、免税手続きもまとめて出来る。インバウンド客にとっては正に至れり尽くせりの「ワンストップ拠点」ではないだろうか。

 もちろん、新宿伊勢丹の様に海外ブランドの集積に優れた、ほんの一部の大手かつ老舗デパートに限られるとは思うが。

 後は、円安がいつまで続くかにかかっている。

渋谷の特異性

 それでは、東急が東横と本店の二つの百貨店を閉店したことにより、渋谷エリアでは、西武がすべての海外ブランドの受け皿になっているのか、と言うと、さにあらず。元々、銀座エリアの様に百貨店と路面が交錯しているわけではないものの、海外ブランドの路面(フラッグショップ)展開ゾーンである表参道と渋谷とは「微妙に近い」距離なのだ。

 なおかつ、東急グループの渋谷での新たなランドマークである「スクランブルスクエア」の3Fに「バレンシアガ、サン・ローラン、ジバンシー」といったハイブランドを出店させている。

 「ステラ・マッカートニーとsacai」といった新進のデザイナーに、老舗の「KENZO」も加え、そこそこ百貨店に匹敵するラインナップと言えるのではないだろうか?

 渋谷パルコにも「グッチとロエベ」が入居しており、「ジルサンダーやトムブラウン」といった中堅どころも揃えている。

 百貨店不在の街でも、ブランドは必ず居場所を見つけるのだ。

イオン化

 結論として、海外ブランドは百貨店の専売特許ではなくなったのだ。いろいろなものを好むと好まざるとにかかわらず「後進」に譲ってきたデパートではあるが、今やデパ地下以外に「百貨店らしい物」はなくなりつつある。

 逆に今まで相手にしてこなかった(失礼!)テナントを受けいれざるを得なくなっているのだ。それが今回の家電量販店ヨドバシである訳だが。もちろんそれだけではない。

 池西のライバルである池袋東武の「こなれた」テナントを見て行こう。

4F家電「ノジマ」
4F手芸「ユザワヤ」
5F家具「匠大塚」
6F百均「ダイソー」
※300円均一のスリーピーと新業態のスタンダードプロダクトも併設)
9.10F衣料品「ユニクロ」


尚、6Fにあった「ニトリ」は1年前にサンシャインの東急ハンズ跡に移転した。

 もちろん無印良品とLOFTは「昔馴染み」の池袋西武に残っている。

「これではイオンと変わらない」と言うのは、果たして悪口なのか賞賛なのかの区別もつかないほどだ。

 ブランドとインバウンドに頼っている百貨店は、今そのアイデンティティを脅(おびや)かされているのだ。そして絶滅の危機にさらされている。

 それはそごう・西武に限った事ではない。電鉄系が次々とデパート事業から撤退し、インバウンドの届かない地方の百貨店も、徐々にその数を減らしているからだ。

 首都圏であっても、本当に最後の最後には、両手の指の数しかサバイバルできなかったとしても、けして驚くべきことではないのだ。

 存在意義が明解でないものは、生き残れないのだ。いつも申し上げている通り。

閑話休題

コングロマリット

 LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンは、パリを拠点とする世界最大級の多業種複合企業体(コングロマリット)であり、全世界で約20万人を雇用し、2022年度の全体売上高は約7 9 2 億ユーロ( 約12兆7500億円)に上る。

 因みに、昨年10月に発表された、ユニクロやGUを手掛ける日本最大のアパレルメーカーであるファーストリテイリングの売上高が約3兆円なので、4倍以上の規模だ。そしてLVMHで驚くべきは、その売上規模だけでない。その成長の速さだ。もちろんLVMHの躍進には理由がある。

 LVはルイ・ヴィトンであるが、Mはモエ・エ・シャンドン、Hはヘネシーであり、シャンパンとコニャックを扱う洋酒の会社であった。

 1978年高級ファッションブランドLVと、高級洋酒MHが合体し、巨大コングロマリットを造った訳だが、本当に驚くべきはその後だ。

 1989年のクリスチャン・ディオールの買収を皮切りに、今日まで数々のブランドを傘下に入れ、グループの総従業員数は前述の様に20万人を超えているという。
※因みにファーストリテイリングはパートアルバイトも含めて半分強の11万人に止まる。

 その扱いブランドについては、前述のルイ・ヴィトン、ディオールに加え、ジバンシー、フェンディ、ロエベ、セリーヌ、KENZOからマークジェイコブ、ゼニス、そしブルガリ、ティファニーといった高級腕時計や宝飾にいたるまで幅広い。

GSIXと東急

 ギンザシックスの項で紹介したブランドの半分は、実はLVMHに所属しており、そこにも「からくり」がある。

 ギンザシックスの敷地には元々は松坂屋があり、運営するGINZASIXリテールマネジメント株式会社は、株式会社大丸松坂屋(J.フロントリテイリンググループ)と住友商事株式会社にLキャタルトンリアルエステート(LCRE)の3社の共同出資により設立されている。

 そしてLCREのスポンサーがLVMHなのだ。

 自社ブランドを銀座の一等地に出店させるために、開発の一旦を担った、という図式だ。

 蛇足だが、このLCREは、渋谷の東急本店の跡地開発にも、東急や東急百貨店とともに名を連ねており、シロウトが考えても、東急本店跡がGINZA SIXに近い形態のビルになるであろうことは容易に想像がつく。良くも悪くもだが・・・百貨店関係者の端くれとしては、ちょっと歯がゆい状況ではある。

蜜月から卒婚へ

 海外ブランドと百貨店とは、どちらかの片思いからスタートした関係が、いつしか「お互いにとってかけがえのない存在」になり、数十年を経た。

 只、今となって、ブランド側は「このまま百貨店に居る意味ってあるのかしら」と明らかに稼ぎの悪くなったパートナーの先行きを心配し始めているところなのだろう。

 完全な離婚までは考えていないけれど、この先ずっと「一連托生」の関係ではないし、これからは「是々非々」のお付き合いにシフトしよう、と「卒婚」を決めた。

 身につまされる例え話だが、筆者のイメージはこんな感じだ。

ライバルたち

 最後に、LVMHのライバルであるケリングとリシュモンにも触れておこう。

ケリング

 傘下のブランドはグッチ、サン・ローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガ、アレキサンダー・マックイーン、そこに昨年、新たにヴァレンチノが加わった。

リシュモン

 グループは高級腕時計に特化しており、カルティエ、IWC、ジャガー・ルクルト、ランゲ&ゾーネ、ボーム&メルシ、パネライ、ピアジェ等が主軸メンバーとなっている。

独立系ブランド

 グループに属さない独立系ブランドは、大御所のエルメスとシャネルを始め、プラダ(ミュウミュウ)、バーバリー、コーチ、そして腕時計のロレックスなどがそうだ。
※ラグジュアリーブランドに限っているので、ここではスウォッチグループは含めない。 

 ラグジュアリーブランドのビジネスはコロナ禍であっても一向に衰えなかった。そしていよいよコロナが明けた現在、各国のインバウンド需要の復活を背景に、再び我が世の春を謳歌している。しかし稼ぎの良くなった海外ブランドたちは、百貨店との「別居」という選択が増えている。

 ブランドたちは、百貨店の「信用や立地」に頼らず「自立」の道を選び始めているのだ。

 デパートは顧客からも、テナントからも、ONE OF THEM(ワンオブゼム)の存在となってしまったのだ。

 ONIY ONE(オンリーワン)には戻れないのだ、二度と。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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