デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年12月01日号-58

シリーズ「そごう・西武」売却 第3弾

「売却難航から混迷へ」

 連載コラム「デパートのルネッサンスはどこにある?」では今年に入りセブン&アイ・ホールディングスによる、百貨店「そごう・西武」の売却のニュースを2度に亘って伝えて来た。
(1)2/15号「そごう・西武」売却
(2)4/1+15号

「そごう・西武」売却はデパート業界を変えてしまうのか?

 ざっと経緯をおさらいしておこう。
そごう・西武をめぐっては2006年、前身であるミレニアムリテイリングをセブン& アイが2000億円超で子会社化した事に端を発する。しかし、百貨店業態の地盤沈下もあり、長期的には最終赤字に陥るなど、不振が続き、未だ回復基調には至っていない。百貨店事業だけでなく、元々のイトーヨーカ堂でさえ、好調とは言えない中で、昨今はグループの「お荷物」という位置づけとなっていた。

セブン&アイの事情

 セブン&アイは、発行済み株式4・4%を保有する米投資会社のバリューアクト・キャピタルから、コンビニエンスストア以外の不採算事業の売却を求められていた。いわゆる「外圧」の高まりに抗しきれず、結果として背中を押されたセブンは、2022年初頭に、そごう・西武の売却に大きく舵を切った。1次入札は2月21日に締め切られ、ゴールドマン・サックスをはじめとする外資系投資銀行や、多数の投資ファンドなどが応札した結果、米大手投資ファンドの「ブラックストーン・グループ」、「ローン・スター」、「フォートレス・インベストメント・グループ」といった米国投資ファンドに加え、シンガポール政府投資公社の4社が残り、2次入札に進んだ。結果フォートレスが交渉権を得たのだが・・・

米ファンドはヨドバシ出店で合意

 そして遂に、セブン&アイ・ホールディングスが進めている傘下の百貨店事業、そごう・西武の売却交渉がまとまった。家電量販店大手のヨドバシHDの出店を計画する米投資ファンドとの間で大筋合意したのだ。労働組合との間で争点となっていた「そごう・西武」社員の雇用については、一部をヨドバシ側が採用することを検討しており、これで最終的な合意に向け、道筋がついた、という見方が大勢だ。

 米国の投資ファンドであるフォートレス・インベストメント・グループへの売却額は2000億円を超える模様だ。
※奇しくもセブン&アイが16年前にそごう・西武(ミレニアムリテイリング)を子会社化した時と同額だ。ちょっとした「運命」を感じる。いや、これは「必然」の結果なのかもしれない。当のセブン&アイにとって、長らくグループに何の寄与もして来なかった、という証左なのかもしれない。ちょっとヒネクレ過ぎであろうか。

池袋と渋谷、横浜?

 そごう・西武の百貨店10店舗のうち、目玉である西武池袋本店は、ヨドバシが将来的に取得して家電量販店を出店する、としている。百貨店と共存し、家電を販売する大型店を併設したビルとすると思われる。池袋西武はかつて日本一の売上を誇った、西武百貨店の旗艦店であり、池袋という巨大ターミナル駅に隣接している。ヨドバシとしても、集客と、それに伴う売上については、当然大いに期待できる、と踏んでいるのであろう。一方、西武渋谷店とそごう千葉店は、ヨドバシが不動産の一部を買い取って、家電量販店を出店する計画だ、という。余談だが、渋谷西武が営業を終了し、百貨店でなくなれば、東急東横、東急本店と続いた渋谷の百貨店閉店連鎖に連なり、ついに渋谷は「百貨店消滅都市」の仲間入りとなる。
※毎回エクスキューズをして申し訳ないが、自主運営売場(平場)を持たない丸井は、もはや百貨店にはカウントしない。言うまでもなく、パルコもヒカリエも109も、商業施設(テナントビル)であり、百貨店ではない。もう一つ気がかりな事がある。どのニュースソースを見ても、そごう横浜店への言及がない。横浜を地元とするデパート新聞社としては、こちらも心配だ。

 横浜は、そごう・西武の自社物件でなく、再開発ビルにそごうが入居しているパターンである。当然、勝手に閉店や建て替えとは行かない道理だ。地権者や自治体との協議もあるだろう。そごう横浜については、引き続き注視していきたいと思う。

従業員4500人の雇用の行方

 さて、問題はここからだ。そごう・西武のパートを含む従業員約4500人の雇用が売却交渉の最大の焦点となっているのだ。セブン&アイ側は地方店舗も含めて、百貨店事業を可能な限り維持するよう、ヨドバシ側に求めているとみられる。

 米SNS大手、ツイッター社を買収したテスラ創業者のイーロンマスク氏は、7500人の従業員の半分を解雇した。もちろん、ちょっと前まで「終身雇用」が当たり前であった日本と、転職天国のアメリカ企業を単純比較しても意味が無いことは承知している。だからこそ、まだまだ雇用第一の日本に於いて(今回は解雇の是非は議論しない)セブン&アイにとっても、ヨドバシにとっても、そごう・西武の雇用維持は大前提になる。

 前号でも記した様に、客商売にとって「世間の目」は最も意識しなければならない点である。これも前号で伝えたが、結果的に「広告で客を騙した」スシローの失敗を例に挙げるまでもない。

百貨店の勢力図

 そごう・西武は、インターネット通販の広がりやコロナ禍の影響を受け、業績が低迷していた。2022年2月期の最終利益は88億円の赤字と、3期連続の最終赤字だった。

 出遅れていたデジタル戦略を強化していた、という報道もあったが「遅きに失した」と言っては失礼になるだろうか。

 本コラムで何度もお伝えしているが、例え都心の大手百貨店であっても「生き残り」を賭けて各社必死であり、セブン&アイがどれほど本気かは判らないが、そごう・西武が他のデパートに比べて「周回遅れ」という見方は、あながち間違ってはいないと思われる。

 三越伊勢丹、髙島屋、大丸松坂屋といった、「大手、老舗」という看板を背負っている百貨店グループと比べ、富裕層への対応ひとつとっても、横並びとは言い難い。関西拠点の阪急阪神を含めても、4強1弱というよりも、「番外」扱いなのだ。

モノ言う投資家

 セブン&アイは、大株主の米投資ファンド「バリューアクト・キャピタル」から、何度も「コンビニエンスストア事業に集中する」よう求められていた、と報道されている。

 そごう・西武の売却については、結果として複数の投資ファンドなどからの応札があり、フォートレスに絞り込んで交渉を続けてきたことも、既に業界周知となった。

 フォートレスは、ソフトバンクグループ傘下の投資ファンドで、賃貸住宅大手のレオパレス21やゴルフ場運営大手のアコーディアへの投資実績がある、という。

 セブン&アイは2006年、小売り事業を強化するために、そごう・西武の前身であるミレニアムリテイリングを買収したのだが、結局「相乗効果を出す」には至らなかった。この2年半のコロナ禍が、大きな疎外要因となったのは明らかではあるが。

 セブン&アイの井阪社長は10月の決算記者会見で、「何とか構造改革して、再成長の軌道に乗せようとやってきた。外部環境もあり、このままグループにおいておけば、成長にブレーキをかけることになるとの考えで動いている」と述べた。井坂氏の言う「外部環境」がモノ言う投資家のコトなのか、コロナ禍での百貨店業界の衰退を示しているのかは不明だが。

ヨドバシの戦略

 井坂社長は、そごう・西武の売却先について、「事業継続とそごう・西武の再成長に対して、良い提案をしてもらえるパートナーが相応しい」とも話していた。コンビニやスーパーも広義に捉えれば、百貨店と同じ「小売業」であるから、本音なのであろう。

 但し、家電量販店であるヨドバシの思惑はいささか異なっているのではと推測する。彼らが欲しいのは、巨大ターミナル駅である池袋駅直結の「立地」であることは、例えシロウトでも判る。特に池袋は、ビックカメラ、ヤマダ電機といったライバルに先行されていたのだから、池袋西武の立地は文字通り「喉から手が出るほど」欲しかったはずだ。

 大手ブランドを集積させた1Fは百貨店にとって大事な「顔」である。その低層階にヨドバシの看板を出すというフロア構成を聞けば、西武のことなど「お構いなし」の腹の内が透けて見える。デパートと家電量販店の商売が、作法も文法も異なっているのは、当然ではあるが・・・ 彼らのビジネススキームにとっては、部外者のノスタルジックな感傷に付き合っている暇はないのだ。

栄枯盛衰

 ヨドバシの開発手法は、川崎(西武)や横浜(三越)、吉祥寺(近鉄〜三越)を見れば自ずと判る。そして最たるものは(関東の人間にはピンと来ないかもしれないが)「ヨドバシカメラマルチメディア梅田」だ。ヨドバシ梅田は、総売上1200憶(年商)を誇っており、言葉は悪いが「弱小デパート」では太刀打ちできない売上規模だ。ヨドバシは有楽町や梅田の実績を踏まえ、ターミナル立地の百貨店の跡地を使えば、「何が出来るか」を熟知しているのだ。百貨店の「暖簾や看板」は彼らには大した価値はないのかもしれない。

 かつて日本一の百貨店であった「池袋西武」の栄華を知っている顧客やデパートマンからすれば、今回の売却劇が、百貨店の歴史の中で、大きな転換点として記憶される事は間違いない。

 本コラムの下段に連載されている、伊東潤氏の「英雄たちの経営力」を読み、当時の「栄枯盛衰世の習い」を現代の百貨店の興亡と重ねて見るのは、筆者だけかもしれないが。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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