デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年11月15日号-80

西武 vs ヨドバシから考える百貨店と家電の未来

2 池袋家電戦争

家電量販店の勢力地図

 池袋駅東口にパルコがある。その北側には、山手線沿いにヤマダとビックが立ち並んでいる。ここで、池袋西武の本館北にヨドバシが入れば「三つ巴(どもえ)」の戦いが避けられないのは、誰の目にも明らかだ。

 もう少し詳しく説明すると、池袋駅東口の明治通り沿いを、池袋西武本館北と池袋パルコを左手に見ながら北上すれば、そこにビックカメラとヤマダデンキが「仲良く」並んでいる。

 そして、通りの向かいの旧三越跡に、LABI1LIFE SELECT池袋(ヤマダ電機日本総本店)、その北側にビックカメラ池袋カメラ・パソコン館が位置し、明治通りを挟んで「X:たすき掛け」に ライバル家電2社が睨み合っているのだ。 

 「家電の街」と言えば秋葉原、とは今は昔。市場規模7兆円を超える家電量販店の覇権争いの中心は、今や池袋なのだ。

 豊島区の故高野区長も生前「家電戦争に巻き込まれずに、文化の街『池袋』を守りたい」という主旨の発言をされていた。
※傍観している、とは言えないが、後任の区長には、残念ながらそこまで「池袋の文化を守りたい」という強い意志は感じられない。

 後述する渋谷と池袋のハロウィン格差の話もそうだが、自治体の首長の「意志や覚悟」はいかに大事か、という話だ。この話は余談として後述する。

YBYK戦争

 池袋東口を舞台に勃発するのは、前号で掲出した家電量販店「売上高ランキング」の上位3社の争いだ。念の為おさらいをしておこう。

1位 ヤマダデンキ (1兆6193憶円)
2位 ビックカメラ (7923憶円)
3位 ヨドバシカメラ (7530憶円)
4位 ケーズデンキ (7472憶円)
※この家電量販店、売上上位4社のイニシャルをとってYBYKである。E:エディオンとN:ノジマは含まれていない。

 池袋東口には、家電量販店チェーンで唯一売上高1兆円を超える「絶対王者:ヤマダデンキ」と本社を豊島区に構える「ビックカメラ」の旗艦店や系列店がそこかしこにある。西口にもビックカメラのほか、東武百貨店に「ノジマ:全国6位」が入居する。

 池袋電気街(勝手に命名?)を歩いてみると、家電を品定めする客は、各店舗をハシゴしているのが判る。

ヤマダに挑む

 ヤマダデンキはそもそも郊外の客をターゲットにする「ロードサイド戦略」でシェアを拡大してきた。一方で近年は都心型店舗「LABI」を軸とした「レールサイド戦略(駅前出店)」にも注力しており、池袋の日本総本店はその旗艦店であり象徴でもある。2009年に、いち早く「百貨店」池袋三越の跡地を引き継いだ形だ。

 さて、池袋西武の不動産をファンド経由でヨドバシHDが取得し「ヨドバシカメラ」を出店することは、既にお伝えしており、この流れは変わらない。早ければ来年(2024年)の春夏にも、池袋西武本館の低層階に集積しているハイブランドの「区画整理」が始まりそうな勢いだ。池袋だけでなく、渋谷西武も同様だ。これについては後述する。

ヨドバシプラン

 そごう・西武の親会社であったセブン&アイは、百貨店事業の再建に失敗し、行き詰まった。新たな親会社である米不動産投資ファンドのフォートレスが、ヨドバシHDと連携して行う池袋西武のリニューアルプランは、既に動きだしている。

 早ければ再来年にも、池袋西武の7フロアに亘りヨドバシカメラを展開する予定だ。

 ヨドバシのトップは、B1Fの「デパ地下」と1Fのルイ・ヴィトンについては「譲歩」すると強調している。だが逆にいえば「譲歩」はそこまでであり、それ以上の「妥協」は一切しない、という決意とも受け取れる。なぜなら、既存のビックやヤマダより「駅近」でなければ、何の意味もないからだ。

 ヨドバシが西武に入居すれば、1F路面に入っている『ルイ・ヴィトン』は残しても『エルメス』やその他のラグジュアリーブランドが撤退する可能性もあるだろう。

池袋の文化

 当然、先に述べた様に、百貨店を「乗っ取るような」この計画そのものを批判する動きもある。行政だけでなく、他の百貨店の労働組合や地元商店街からも「異論」が噴出している。

 今年2月に亡くなった高野之夫前豊島区長が、ヨドバシが西武の低層階に入ることに一貫して反対していたことは、本稿で何度も言及して来た。池袋駅東口の、最も目立つ場所に高級ブランドではなく家電量販店チェーンの「看板」がかかる事が「街の景観」を壊す恐れがある、との考えからだ。

 海外ブランドが「文化」であるかどうかは個人の認識の違いかもしれないが。

地の利

 さて、批判を承知の上で池袋に進出を目論むヨドバシ。ただでさえ家電チェーンが密集しているエリアに出店する理由は何か? 家電市場に詳しい専門家は「やはりターミナル駅の『圧倒的な集客力』に期待しているのでしょう」とのこと。インバウンド回帰の波も含め、池袋の家電量販のライバル各店が賑わっているのは事実であり、需要はまだまだ飽和していないとも言える。「巨大ターミナルへの出店戦略でノウハウを持つヨドバシは『後出し』ジャンケンでも勝算がある」という事なのだ。

 実際に業界3位のヨドバシが池袋に参入すると、勢力図は大きく変化する。

 池袋は、駅直結の利便性で他店を上回ったヨドバシが、圧勝する可能性がある上、同時に取得する西武渋谷などを合わせれば、数千億円単位の売上増も見込めるからだ。

 売上高1兆円の大台に乗せてくることも期待でき、ヨドバシは池袋と渋谷の一等地を手中に収め、ビックを逆転するどころか、1位のヤマダに取って代わる事を目論んでいるのかもしれない。

家電と百貨店(承前)

 ヨドバシは家電戦争の中で宿敵ビックや王者ヤマダに迫るため、戦いを繰り広げ、池袋の地で勝機を掴もうとしているのは判った。では、そもそも論として、ヨドバシが入居した後の西武百貨店は、こちらも熾烈を極めるデパート戦争の中で「サバイバル」出来るのだろうか。

●2022年度の全国百貨店売上高(店舗別)
1位 伊勢丹新宿本店 (3276憶円)
2位 阪急うめだ本店 (2610憶円)
3位 西武池袋本店 (1768憶円)
4位 JR名古屋髙島屋(1724憶円)
5位 髙島屋日本橋店 (1127億円)
6位 三越日本橋本店 (1012憶円)
 以上、ここまでが1000憶以上の店舗だ。

※会社単位ではなく、あくまで「店舗の売上」なので、百貨店業界の規模が家電業界より小さく見えるかもしれない、一応おことわりしておく。因みに、百貨店ナンバー1の三越伊勢丹ホールディングスの売上は4,874憶であり、家電トップのヤマダホールディングス(1兆6,193億)の3割程である。業種も違えば、そもそも店舗数も違うので、単純比較は無意味だ。ヤマダは1000店舗を越えている。
※三越伊勢丹は百貨店2 2 店舗、中小型店130店、海外34店舗

 全国3位の池袋西武は、ヨドバシ入居により、仮に売上が半減すれば、ベスト10
に残れるかどうかも危うい状況となる。
7位 髙島屋大阪店 (969憶円)
8位 髙島屋横浜店 (965憶円)
9位 あべのハルカス近鉄本店(885憶円)
10位 松坂屋名古屋店 (864憶円)

西武はオワコンか?

 ファンド関係者は「池袋西武をどうこう言う前に、百貨店のビジネスモデル自体が『旧態依然』で一部の大都市圏以外ではうまく機能しているとは言い難い。うまく行くのであれば、そごう・西武も不振に陥ることなく、売却されることもなかったのでは」と指摘す
る。確かにそれはそうだ。だが、池袋西武の場合、この後ヨドバシが自店の導入を「強引」に進めれば、既存出店テナントの反発は必至だ。移転や撤退に伴う費用請求や、最悪の場合、訴訟に発展したりする可能性も否定できない。

 新経営陣が就任して日が浅く、再建は始まったばかりだ。池袋西武の改装も、今後修正を重ねていくと思われるが、ある都心百貨店の幹部は「売場面積が半分になった上、効率第一の商品政策を進めれば、池袋西武は終わる」と看破し、であれば「我々にとっては大
きなチャンスだ」と、期待を込める。

 池袋の家電戦争は、家電業界の「覇権」だけでなく、都心百貨店全体の「再編」に繋がる、大きな「うねり」を孕んでいるのだ。本コラムでは、渋谷東急や新宿小田急の例を踏まえ、何度もこの事に言及している。

 そして家電業界の覇権を狙うヨドバシは、池袋だけでなく渋谷でも、着々と計画を進めている。

渋谷西武

 フォートレス+ヨドバシ連合は西武百貨店渋谷店についても、駅に近く本館の位置づけのA館をヨドバシ化することで動いている、という。百貨店視点で言うと、渋谷での海外ブランドの受け皿は(東急百貨店なき今)パルコかスクランブルスクエアか、であろうか?某有名ブランドは、池袋西武と渋谷西武にある既存ショップについて、パルコへの同時リプレイスを検討している、と言う話が筆者の耳にも届いている。

 先程の百貨店関係者の話もそうだが、西武が困るということは他の百貨店にとっては大きなビジネスチャンスだ。池袋では家電戦争だけでなく、百貨店ブランドの争奪戦も同時多発的に勃発しているのだ。

 勝者が誰かは、いまのところ定まってはいないが、敗者だけは西武と決まってしまっている。とても悲しい「出来レース」と言うべきか。池袋と渋谷、と言えば西武だけでなくハロウィンのニュースが世間を騒がせていた。

余談「ハロウィン」

 渋谷のハロウィン対応が話題になっている。渋谷区長が外国記者クラブで「ハロウィンで渋谷に来ないで」と異例の「お願い」をしたのだ。韓国の梨泰院(イテウォン)での圧死事件もあり、行政側がナーバスになるのは理解出来る。結局、周辺エリアの路上飲酒禁止や、大量の警察官の動員もあり、渋谷で事件らしい事件は起こらなかったが。

 一方で池袋にはこの期間に14万人のコスプレイヤーが終結した、という。 

 こちらは、企業と行政が手を組み「本気で真面目」なイベントとして「池袋ハロウィン」定着させてきた経緯がある。

池袋

 9年前の2014年10月に、当時76歳であった故高野区長は、池袋で開催された「ハロウィンコスプレフェス」で、自ら「サイボーグ009」に扮し、地元企業のドワンゴやアニメイトと組んで、イベントを盛り上げた。翌2015年には「怪物くん」のコスプレで「魔法使いサリー」に扮した小池百合子衆議院議員(現東京都知事)とともにコスプレ参加し、池袋の街をアピールしている。

 だからこそ、故高野区長の「池袋の街の文化を守りたい」という発言にも、当然、「重さ」を感じられるのだろう。

 筆者は、渋谷区長や現豊島区長に「コスプレくらいしろよ!」と言う無謀なダメ出しをしたい訳ではない。渋谷や池袋の街を「少しでも良くしたい」という気持ちは、その行動に自ずと現れるし、住民やステークスホルダーはそれを「見ている」という事を肝に銘じて欲しいのだ。この山手線で15分ほど隔たっただけの「街」のハロウィン格差はどういうことなのだろう。渋谷と池袋の「違い」は何だったのか。

渋谷

  渋谷のハロウィンについて、SNS等の反響を見ていると「若者はなぜ渋谷に来てバカ騒ぎをするのか」とか「そもそもハロウィンは『コスプレイベント』ではなく、日本で言えば『お彼岸』的な先祖供養ではないか」と言った、そもそも論や若者批判ばかりが散見される。

 正直筆者も渋谷駅前のスクランブル交差点を行き来する輩( やから) を見て「何のために来ているのか?」とは思う。が、スクランブルで騒ぐ「不逞の輩」にとっては、ハロウィンでもワールドカップでも、理由は何でも良いのだ。単に「10月末は渋谷で騒ぐモノ」という暗黙知があるかの様に振舞っているのだ。真面目にコスプレを楽しみたい人は渋谷ではなく池袋に行くし、郊外に限らず住宅街では、親御さんが子供達にコスプレをさせて、お菓子を貰う「微笑ましい」イベントは数え切れないくらい催されている。

定着

 ハロウィンというイベントについて、クリスマスやバレンタインを引き合いに出すのも恥ずかしいくらいだが、日本人は洋物の「年中行事」を日本風にアレンジして定着させるのが好きなのだ。

 結論として、悪いのは渋谷でもハロウィンでもなく「只騒ぎたいだけの輩」であり、大量のゴミの清掃や、警備に係わる費用を彼ら彼女らに負担して欲しいくらいだ。

 しかし、渋谷のスクランブル交差点は「ハロウィン」により世界的に有名になった。インバウンド効果で集客も可能なのに、それを活かす術(すべ)を見つけられないのか、集客した後の「過ごし方、楽しみ方」の提案に失敗したか、のどちらかであるのは明らかだ。
※両方なのかもしれないが。

悪名は無名に勝る

 渋谷の盟主を自任する東急も「我関せず」ではなく、渋谷に繰り出した若者の「受け皿」となるイベントをキチンと用意すべきなのではないか。「人が来すぎて困る」とは、全国のどの自治体であっても、こんな発言を羨ましく、いや恨めしく聞いているに違いない。

 渋谷区の「来ないでくれ」発言は、例えそれが(事件、事故を未然に防ぐための)自治体の本音ではあっても「それを言っちゃあ、おしまいよ!」なのだ。

 行政が音頭を取って、地元企業や、センター街や道玄坂といった商店街と組んで、せっかくのビジネスチャンスをもっと生かして欲しいと思う。

 既に何かしら「やっていたら」申し訳ないが、残念ながら、そうした話は聞こえて来ない。

 街は来る人を選べない。だが、来て欲しい人に「選んでもらえる街」になる努力は、しなければならないと思う。

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