デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年12月01日号-81

そごう・西武労働組合寺岡委員長インタビュー(二回目)

お店が半分以下になる

これまでの経緯

 そごう・西武労働組合の寺岡泰博中央執行委員長には、2023年7月19日に一回目の単独インタビューを受けて頂いた。

 筆者はその後7月25日の「ストライキ権確立」、8月28日に「8月31日ストライキ実施の通知」と、2回の記者会見にも出席した。

 今回は、そごう・西武の親会社が、セブン&アイからフォートレス・インベストメントに変わってから初のインタビューとなる。

 前回同様、西武百貨店池袋本店書籍館2階のそごう・西武本社で行った。デパート新聞最新号(11月1日号)掲載の「西武vs.ヨドバシから考える、百貨店と家電の未来」についてお伝えした。寺岡委員長は既に目を通されたとのことだった。

2023年11月6日10時にインタビュー開始。
※寺岡委員長の発言は太文字で示す。

労使協議

【デパート新聞:以後はデ】最初にお聞きしたかったのは、そごう・西武は、クロージング(株式譲渡)が終わり、セブン&アイから投資ファンド(フォートレス・インベストメント)の傘下に入られました。

 そのファンドなりパートナーであるヨドバシカメラから、組合に対して何かご説明というか、話し合いの機会は持たれたのですか?

【寺岡委員長:以後は寺】ないです。会社としてはありますけど。

【デ】組合へのアプローチはないということですか。

【寺】いわゆる労使協議というのは何回かやっていますけど。労使協議の中では、事業計画がどうしたとか、そういう話はまだです。

【デ】今回、ヨドバシが池袋西武に出店するのでなく、逆でしたね。(今の池袋西武の)館に同居されることになると。

【寺】向こう(ヨドバシ)が入るのではなくて、こっち(西武百貨店)で「残る部分がある」という事です。

【デ】これは他のメディアの受け売りで恐縮ですけど、池袋西武のデパ地下ですとか、ハイブランドは「一部残す」と、先方(ヨドバシ)が妥協したような言い方をしていると、記事で読みましたけど、実際問題としてはその辺りは、具体的に伝えられているのですか。

具体的には

【寺】それは組合と言うよりは、対会社として、ですね。ですから、そごう・西武の経営側が、我々にどこまで伝えているのか、ということです。それで言うと結論はまだ出ていなくて、労使協議の中でどういう話になっているのかというと、
(以下、箇条書き)
①9月1日にオーナーが変わり、これからは経営体制が変わります。
②今後は「経営と執行」を分離します。
③「執行」は今まで通り旧経営陣である田口社長を筆頭に、現場はお任せします。
④「経営」を担うフォートレスは、資金面を含めてサポートする側です。という話があって、その後詳細については、また改めてという話になっています。労使協議の中で「改めて」というのはいつになるのかと聞きましたが、「申し訳ないが計画が遅れている」と。そもそもお店(百貨店)が半分以下になるわけですから、すぐにプランが出て来る訳もない、と思うのですけど。経営側は「まだちょっと出せるレベルにないので、もうちょっと待って欲しい。年内にはなんとかなるのでは。」というのが 最新の状況です。

退職者は?

【デ】ちょっと差支えのある質問かもしれないですが、今回のことで(親会社が変わる、ヨドバシが入居し百貨店が半分になる)という理由で、そごう・西武を退職された方とか、いらっしゃるのでしょうか。

【寺】実際は今回のことが直接の原因かどうかは判らないですけれど、退職された方はいます。皆さんいろいろ諸事情もあるでしょうし、いわゆる定年退職とか、自然減とか、そういうこと以外のプラスアルファの部分がどれぐらいあるかっていうことです。まあ普段よりは少し多いかもしれません。まあそれは何かしらの影響はないとは言えないです。

変わらないコト

【デ】今後のことについては、先ほどの「年内には説明する」というところを聞いて、それからということになりますか。

【寺】何かをするとすれば、どのみち我々は今持っている情報から基本的には何も変わっていません。(現実にはいろんな報道がありますけど)いわゆる正式なフロアプラン(という表現が良いかどうかわからないですけど)、その事業計画が、そもそも池袋だけじゃないとするならば、そごう・西武としてどうしていくのか、そして池袋店はどうなっていくのか、もっと言うと千葉とか渋谷とか、いろいろ言われておりますけど、それもどうなっていくのか。みたいなことは全部一緒くたになって、こうなるよっていうのが出せるというか、それは( 組合に) 話します、ということです。それまでは基本何かが大きく変わって、説明を受けたとか、具体的に現場が変わったという話は現実的にはないです。

変わったコト

【寺】単純にヨドバシがうちの土地建物を取得して、フォートレスが「執行権」を握って、取締役が増員された、ということ以外の事実は、現実的にはないです。
 そうすると現場の人間にとって、営業上何か変わったという話で言うと、決算期が変わったぐらいのものです。 もともと2月末締めで3月スタートだったものが、9月締めの10月スタートになった。これは単純に親会社の決算のタイミングに合わせて変わりました。
 只、決算期が変わったから 営業上何かが変わるっていう話は基本的にはないので、そう考えると営業の現場の人たちが、今何か目の前で大きくその影響で、自分たちの売場が変化したとか、働き方が変わったとか、そういう話はないです。

プランとスケジュール

【デ】これはあくまでも推定というか噂レベルですけども、渋谷西武のA館B館で、A館をヨドバシにする、という話を聞いています。当然ですけど、千葉をどうするとかも含めて、日々の仕事は今のところ影響を受けていないということですね。

【寺】今のところは、そうです。

【デ】これは委員長が知り得る情報ではないのかもしれませんけど、来年の夏にはそのプランが出て、それに向けて売場の区画整理始まるという様なスケジュールですか。

【寺】来年の夏というか、それはそんなに遅くないと思います。もっと早いですよ。

【デ】ハイブランドがいろいろ反対をされる、というようなことは、想定はされているとは思います。これは百貨店業界にとってはすごく大きなことですけど、ヨドバシにとっては、家電業界でビッグカメラにとって代わって第二位になり、ヤマダデンキに迫るために、この池袋の街を(渋谷もそうですけど)足掛かりにしようとしている、ということですよね。

【寺】只、我々現実そのことに触れるとか、コメントできる立場にはないです。

現在進行形

【デ】東急や東武、パルコもそうですけども、渋谷も池袋も、外資系のハイブランドや、日本のデザイナーズブランドは、池袋と渋谷の両方で売場を(西武から)移動しなくてはいけないのでは、と考えていると思います。そういう情報も漏れ聞いています。
 そういうことは水面下でいろいろ動き出しているだろうな、と思っています。今、各ブランドさんと具体的に場所をどうするか、という話はされていますか。

【寺】スタートし始めたところだと思います。

【デ】例えば象徴的にエルメスとかルイ・ヴィトンとかのブランド名が出ますけれど、そういうところとの話し合いはこれからということですか?

【寺】これからというより、現在進行形です。それは別に経営が変わるとか変わらないとかという以前から、水面下ではずっとやっているわけで、表に出ていないだけで。

ストライキについて

【デ】ストライキに関してですが、これは我々デパート新聞の中でも、社主も含めて「意義があった」という見解です。前日にやってどうかとか、結局翌日にはクロージングしてしまったじゃないかと言う人も居ましたけれど。

 やはり耳目を集めるというか、マスコミやメディアに対して、こんなことが起きているのか、という、セブンとかヨドバシの発言まで含めて、いろいろな人の「口に上る」様になったということは、それだけでもストライキ決行に大変意義があったと思います。

 それに関して、寺岡委員長はどう考えてらっしゃいますか。

【寺】 改めて言っておくと、当時その辺のコメントも出していると思いますけども、そこから特段今も変わっているつもりはありません。結果が変わらなかったのは、これはしょうがないということ、それはやっぱり、結果を変えるべくやったわけだから、そういう意味では残念ですけども。
 只、ストライキによる社会的インパクトというか影響は間違いなくあったでしょう。そのことに関しては、「経済合理性だけでいいのか」ということも含めて、 記憶に残る出来事だったと思います。

・資本の論理と公益

【デ】デパート新聞では、「百貨店は公益事業」だという、ちょっと極端な言い方ですけど「百貨店と言うのは、自分さえ良ければいい、という考え方では成り立たない商売だ」というスタンスを公言しています。
 その辺りのことは一致する考え方だと思います。ストライキについては 労働者の権利ではありますけど、一つの手段という考え方でしょうか。

【寺】もちろん、むやみやたらに振りかざすつもりは全くないです。第一義はやっぱり我々小売業なので、お客様やお取引先様に迷惑をかけることはやっちゃいけない、というこのスタンスは変わってないと思います。ただやはり、これは労働者の権利であり、それを使うことが「悪い」とか、労使協議が対等でないとか、誠実でないとか、そういうことがもしあるのだとするならば、ストライキをやるかどうかは、(またスト権を確立しなければいけないでしょうし)それは一般論として必要だと思います。
 そういう意味でいうと、少なくとも池袋西武は1万人規模の人が働いている、全社のお取引先様3万5千人の方が働いているわけで、お取引先の企業は2千社あるわけですから。

【デ】皆さん心配ですよね、それは当然だと思います。

【寺】やはり親会社が資本の論理だけで、そのまま仕切っていくと、少なくとも事業が拡大していくならまだしも、縮小するわけですから。
 しかも( 池袋西武が)売れてないならまだしも売れているわけで、そこを(ヨドバシ導入改装を)やるわけだから絶対に何らかの歪(ひずみ)が出ますよね。

労働者の権利

【デ】今まで 「失われた30年」とか「給料が全く上がってない」とか、賃金についていろいろ言っているのに、労働者は自分の権利をまるで主張しない世の中になってしまったと思っています。先ほど委員長もおっしゃっていましたけれど、ストライキは「悪ではない」と「労働者の権利じゃないか」ということです。「労働者が大人しいから資本家に搾取されている」とまでは言いませんけど、極端に言えばそういったことが起きているのではないかと思います。
 ストライキの意義というのは 百貨店業界に限らずですが、日本で今働いている人みんなが「そうだよね、言われっぱなしで、なんか貰える物を只貰っているだけだったよね」と(今更ですけど)皆ちょっと気づいたのではないかと思っています。
 そういう意味でも「意義」があったのではないかと思っています。多分それは委員長自身も感じておられるのではないかと思いますが。

【寺】確かに経団連の会長が話をし、国際的にも話題に上がっているという認識はあります。只、ストの当事者たちは、別に日本のためとか、そんな大きな話ではなく(結果そうなっただけで)自分たちはもう自分たちの生活を守るために、必死でやっていただけなのです。
 やはり我々も、ストライキのやり方も、単純に自分たちの給料を上げろとか、処遇を改善しろというのは、それによりいろいろな影響があるということを考えなければいけないと思います。

闘う御用組合?

 今回は自分たちのみならず、地域だとか、どれだけ影響が出るのか、ということも含めて 考えてほしいという思いは強く持っていました。そう考えると今後も同じような境遇になり得るのだとするならば、それは 躊躇なく(ストライキも)やることも考えないといけないというスタンスは変わっていません。只、誤解されると困るのですけど、僕らは普段から「闘う組織」でもなんでもなくて、普段は我々も「御用組合※」と呼ばれている、その一部なわけです。別にそんな特別な組織でもなんでもなくて。只「いつまでも黙ってはいない」という思いはあります。

【デ】今回特に 蚊帳の外というか、セブン&アイのやり方が(情報開示の話もそうですけど)稚拙という事があって、我々にも「言う権利」はあるのだ、という「意志」を示すというのは、非常に大事な行為だったと思っています。

セゾン文化

【デ】2回目の記者会見の時に、そごう・西武労組の支部の皆さんの発言を見て聞いて、いわゆる旧セゾングループの、そういうアピールの仕方の「いいところ」を見たような気がしています。

【寺】あの後、個別の取材で、今更ながら、セゾングループの考え方というか、当時の「文化を造る」みたいな、ひょっとすると一周回って、今の時代に必要な話なのではないのか、みたいなことで、取材要請は結構来ています。私が語るのも変ですけど。

【デ】まだまだ我々はデパートというものを盛り上げていこうという立場なので。後方支援というか、応援団のようなつもりで(メディアにあるまじき言い方かもしれませんけど)います。また何かありましたらお話を伺いたいと思います。

【寺】またお越しください。

※用語解説御用組合(ごようくみあい):使用者(会社側)から経済的援助を受けたり、使用者の意向に従って動くなど、自主性のない協調的な労働組合の俗称(蔑称)。
会社組合(Company Union)、黄色組合(Yellow Union)とも言う。

インタビュー後記

 寺岡委員長曰く、8月31日のストライキ前後は毎日(鬼の様に)取材が入っていたが、11月現在、週2本ほどに落ち着いた、という。 マスコミというのは、事件があると一気に殺到し、ちょっと時間が経つと、直ぐに興味を無くしてしまう。これはメディアの報道を受け取る我々の興味が続かないという事でもあり、報道の必然であり、限界でもあろう。

 であればこそ「百貨店の名を冠する」デパート新聞だけは、池袋(渋谷)西武のヨドバシ化の先行きを注視し続けていきたい。それが我がデパート新聞の「使命」であると考えているからだ。

 尚、前回のインタビューは8月16日に発行した「号外」に掲載している。今回は通常通り、連載コラム「デパートのルネッサンスはどこにある?」の記事として掲載した。

 2回の記者会見は、それぞれデパート新聞の本コラム「デパートのルネッサンスはどこにある?」に掲載しているので、ご興味があればバックナンバーをご参照いただきたい。
1.7月25日の「ストライキ権確立」会見は8月1、15日合併号に速報を、9月1日号に詳報を掲載。

2.8月28日の「8月31日ストライキ実施の通知」会見は9月15日号に掲載している。ご参考まで。