デパート新聞 第2718号 – 令和5年10月01日

松菱百貨店 谷政憲社長 独占インタビュー

谷社長

 令和5年8月27日デパート新聞社は、松菱百貨店 谷政憲社長に地方デパート逆襲CA(カウンターアタック)プロジェクトに関して、インタビューを実施しました。以下、インタビューの内容を記載します。

(デパート新聞社)

 まず、今の地方百貨店の置かれた状況について、お考えをお聞かせください。

(谷社長)
 現在私たちの地方百貨店を取り巻く状況は、大変厳しい事に違いありません。しかしながら当社はこの地域で唯一の百貨店であり、イオンやユニクロ、家電量販店等は至るところにありますが、上質で、付加価値の高い商品を提供できる店は他にそうありません。

 かつては商店街にあった老舗専門店も、売上減だけでなく、後継者不足等の問題を抱え、年々減少しています。

 どちらが良い悪いではなく、それぞれの果たす役割が違うのです。役割分担を通じて健全な社会は成立します。

 当社の年商は50億円ありますが、これは百貨店売上としは小さいのですが、地域のマーケットの中では、決して小さくありません。確たる地域顧客のニーズがある中で、要はこれをいかに、将来的にも、経済的に持続可能なサービスとして事業展開して行くかが、私たちの使命であると思っております。

(デパート新聞社)
 松菱百貨店において、公益というキーワードをどういう位置づけで考えておられますか。

(谷社長)
 大都市における百貨店は、売上は巨大ではあるものの、数ある小売形態のひとつに過ぎず、またA百貨店が閉店すればB百貨店と、いくらか代わりが効くのに対し、地方では、当社が唯一の百貨店であり、売上規模は比べようがなくとも、お客様の生活に与える影響は甚大です。

 更には、昨今の商店街の衰退とともに、上質で付加価値の高い商品を提供できる専門店が、次々と無くなっていく中、中心市街地最後の砦として、その役割は益々大きくなっています。

 おしゃれで文化的な生活を送りたい地域のお客様の為に、県都に無くてはならない都市機能のインフラのひとつとして、必要とされる店になる事こそが「公益」であると考えます。

(デパート新聞社)
 谷社長は、CAプロジェクトを進めるにあたり、何を最も重要なことであると考えておられますか。

(谷社長)
 この地域における他業態と私たちとの役割の相違について先に述べましたが、それでは名古屋等の都市百貨店との役割の相違は何かと言うと、単純に品揃えや設備面では勝負になりようもなく、私たちのアドバンテージはと言うと物理的な距離であり、心理的にはお客様との距離感であり、その関係性の深さだと思っております。

 もともと百貨店において、固定客、「お得意様」は、創業以来続く、他の他業態が真似のできないコア・コンピタンスであったはずです。

 私たちはいつも地域のお客様の近くにあって、寄り添い、相談され、頼りにされる店でありたいと願っております。

 地方百貨店にとって、最も大切にしなくてはならないものは、このお得意様との繋がりであると思います。

(デパート新聞社)
 CAプロジェクトを進めるにあたりお得意様とのつながりを大切にするために、具体的なお考えがあれば、ご教示いただけますか。

(谷社長)
 お客様との繋がりを深めているのは、紛れもなく店頭の、或いは外商の販売員です。接客・対面販売こそが、百貨店の持つ強みです。最近は人気が無いと言われて久しい販売職・営業職ですが、自分は好きである、向いている、才能がある人材は、いつどこにでもいます。当店にも地域の他小売店では決して見られないような、素晴らしい販売員は何人もいます。当店は地域で唯一の百貨店として、本来そのような方々が働いていただくのに、県内では、最適の場所であるはずです。しかしながら主に条件面の問題から、卒業後、東京、大阪に就職したり、たとえ地元指向でも名古屋の百貨店や、他の営業職に、流失している事も少なくないと思います。このような方々にも働いていただける店になれば、お客様との繋がりは今以上に深まっていくと考えます。

インタビューを終えて

 谷社長はCAプロジェクトを成功させる要諦について顧客としっかり結びついた人材の確保であると言い切っています。これはデパート新聞社の考える人材こそデパート最大の資産であるということと一致します。松菱百貨店が今後この方針を経常的に示していくことが出来ればCAプロジェクトは大きな成果を上げることになると確信しています。

10月東京は10.0%増

 日本百貨店協会は、令和5年8月東京地区百貨店(調査対象12社、22店)の売上高概況を発表した。売上高総額は1135億円余で、前年同月比10.0%増(店舗数調整後/24か月連続増)だった。店頭・非店頭の増減は、店頭17.7%増(91.8%)、非店頭マイナス36.3%(8.2%)となった。

百貨店データ

3社商況8月

都内各店令和5年8月商品別売上高

関東各店令和5年8月商品別売上高

8月店別売上前年比(%)

8月インバウンド売上高317億円 コロナ前比24%増加

8月インバウンド売上高 19年4月以来最高 昨年比3.4倍に急増

2019年8月2023年3月2023年4月2023年5月2023年6月2023年7月2023年8月
総数2520134181761619492361899176207330023206002156900
中国100063975814108295134510208500313300364100
中国のシェア39.7%4.2%5.6%7.1%10.1%13.5%16.9%
【中国からの訪日客数推移】単位:人

 日本百貨店協会が9月25日に発表した23年8月の全国百貨店のインバウンド売上高(免税総売上高)速報値は、前年同月比約3.4倍と高い伸びを示し2019年4月以来最高の約317億9千万円となった。コロナ禍前の実績も大きく超えており、19年8月(256.6億円)比では24.1%増だった(店舗数調整後)。
購買客数31万人 コロナ前の81% 上位は中国・韓国・台湾・東南アジア

 購買客数は、水際規制が緩和された昨年10月(7万人)から増加傾向に転じ、8月は前年比約11.4倍の約31万人であった。

 8月10日に日本への団体旅行を解禁したばかりの中国からの訪日客数が36万4 1 0 0 人と5万800人の増加に留まったことから、19年8月(38.1万人)比では81.3%だった。

 来店の多かった国は、前月と変わらず中国本土、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア。

売上の人気商品、化粧品・ハイエンドブランド・婦人服飾雑貨

 売上の人気商品は、前月と変わらず、化粧品、ハイエンドブランド、婦人服飾雑貨、食料品、紳士服・洋品だった。

8月訪日客215万人3か月連続200万人超えコロナ前の85%に回復

 3月水際規制緩和受け回復傾向鮮明 学校夏季休暇に円安追い風

 日本政府観光局(JNTO)が9月20日に発表した8月の訪日外国人客数( 推計値) は、215万6900人で、6 月以降3 か月連続200万人を上回った。

 回復率は、コロナ禍前の19年8月(252万人)の85.6%で、コロナウイルス拡大後、初めて80%を越えた。(表とグラフ参照) 国際線定期便は、コロナ禍前の約6割まで運航便数が回復し、その後も東アジアを中心に増便・復便が継続している。

韓国首位、次いで台湾・中国・香港、米国 上位5ヶ国で77%占める

 国・地域別で訪日客数が多いのは、前月と変わらず韓国、台湾、中国、香港、米国だった。19年8月単月の訪日客数を上回ったのは、韓国、香港、インドネシア、フィリピン、や米国、カナダ。日本の水際規制緩和に学校の夏季休暇期間の影響に加え、140円台後半の円安が追い風となった。23年1月〜8月の数値では、この5か国の中で唯一米国が、コロナ前の19年水準を13.9%上回り、中国を抜き香港とほぼ並んだ。

 海外と比較して相対的にインフレ率の低い日本はモノが安く、さらに、この3年間で4割の円安効果により、かつての一時期、日本人観光客が東南アジアや中国で買い物した時に「なんて安い!」と感じたように、今の日本はインバウンド客には「買い物天国ニッポン」と映るのかもしれない。

中国、日本行き団体旅行解禁も訪日客戻り鈍く

福島原発処理水問題による日中関係冷え込み

 中国政府は今年1月のゼロコロナ政策を廃止に続き、8月10日に日本や米国、英国、ドイツ、韓国など78ヶ国・地域への団体旅行を約3年半ぶり解禁した。中国からの訪日客数の最初の実績となる8月は、36万4100人と7月比5万人余り(16.2%増)の増加で、訪日客全体に占める比率は16.9%と19年8月の39.7%には、まだ大きく届かない。(表とグラフ参照)

 8月24日に東京電力福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出が始まったことに対し、中国政府が強く反発し、日本からの水産物の全面輸入を禁止したほか、中国からの迷惑電話などにより日中関係が冷え込んだことが影響した模様だ。

 9月29日(中秋節)から10月6日(国慶節)にかけての大型連休に、中国からの団体旅行客に期待が高まるが、日本よりもタイなど他のアジア諸国を選考する可能性や、中国国内の長引く不動産不況や、20%を越える若者の高い失業率など景気後退による消費の低迷が影を落としており楽観できない。

 中国からの訪日客数は、コロナ前の19年8月は100万人余りで、海外旅行者全体(252万人)の約40%で、観光庁によると中国からの訪日客の旅行消費額は1兆7704億円で、訪日外国人全体の36%を占め、その内買い物代は9365億円で全体56%だった。

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 消費税のインボイス制度が、いよいよスタートする。この制度は、適格請求書発行事業者に登録した事業者のみ消費税を買い手に請求できるというものであり、これが実施されることで、基本的に免税事業者が得ていた益税は解消されることになる。
そもそも、免税は事業基盤が弱く売上の少ない事業者に適用している制度だけに、今後増税負担に耐えることができるのかという心配は残る。また、元請業者が下請業者に対し免税事業者のままだと、消費税相当分の支払いを拒否する独占禁止法のリスクも見え隠れしている。
どのように事業者が自らの生活を守っていくことができるのかを、注視していかなければならない。

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