デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年10月01日号-77

シリーズ『そごう・西武』売却 – セブン&アイ、そごう・西武をスト翌日に売却

【禍根だけが残り、決着とは程遠い】

ストライキ

 8月31日、そごう・西武労組は61年ぶりとなる「百貨店でのストライキ」を旗艦店である西武池袋本店で決行した。
 当日は池袋東口でデモ行進も行われ、結果的にマスコミだけでなく、世間の耳目も集まった。そして、ストに対しては概ね好意的な意見が多かった印象だ。

  前号でもお伝えした通り、筆者は7月19日のそごう・西武労組の寺岡委員長へのインタビューを皮切りに、7月25日の「スト権確立」記者会見、8月28日の「スト行使の通知」記者会見と、このニュースを追いかけて続けて来た。

 本紙では、ストライキ権を行使せざるを得なかった、そごう・西武労組の寺岡委員長の発言を軸に、8月まで親会社であったセブン&アイ・ホールディングスの1年半に亘る「不誠実な対応」を訴えて来た。

 8月31日のスト決行、翌9月1日の株式譲渡(実質的なそごう・西武売却)から、早くも3週間が経過しており、本コラムを購読者諸氏が目にするのは、ストから早くも1ヶ月が過ぎている事になる。

賞味期限

 ニュースとは、すべからく「そういうモノ」だが、ストライキ+デモ行進のインパクトは、当然薄らいでおり、そういう意味では、矢面に立たされていたセブン&アイの井阪社長も「一息ついている」のかもしれない。

 メディアというか大手マスコミは( けして彼らに限ったことではないが) 旬を過ぎたニュースは、世間一般よりも早く忘れてしまうのだ。

 残念ながら。それは「世間」というモノが、常に新しいニュースを欲しているから仕方ないとも言える。

 だがしかし、もちろん、我々デパート新聞は「けして忘れない」し、各メディアが脱落しても、このニュースの「行きつく先」を追い続ける。

 購読者諸氏から「またそごう・西武か?」とクレームが来たとしても、関連ニュースをお届けし続ける所存だ。それが日刊紙でも大手でもない我々デパート新聞の矜持であり、そして、その名に「デパート」を冠した、本紙の使命だからだ。

 どうか気長にお付き合い願いたい。

公益と強欲

 そしてなにより我々が危惧するのは、前号でも述べたが、本紙が標榜する「公益」の観点から見て、売るセブン&アイ、買うフォートレス・インベストメント、そしてヨドバシカメラも、ことごとく「現場で働く人びと」への配慮を欠いている、としか思えないからだ。百歩譲って、ファンドであるフォートレスは、自分達が儲かれば良い、株主が喜べばオーライという節理か、少なくともそういうスタンスがあるのかもしれない。

 しかし、これも前号でも述べたが、セブンやヨドバシは「客商売」なのだ。「顧客にどう見られるか」を意識しない経営など、本来「考えられない」はずなのだ。

 売却交渉を巡っては、「資本の論理」の埒外にいる自治体(豊島区)や、商店街などの地元関係者や近隣百貨店労組からも、ヨドバシ反対や、そごう・西武の雇用に配慮が足りない事への意見が百出した。セブンとヨドバシのやり方は「商いの基本」に反するだけでなく「先ずは良く話し合ってから」という「日本の常識」や「礼儀」を欠いたやり方だと、顧客=消費者やマスコミだけでなく、それこそ株主さえも眉をひそめる事態となってしまったのだ。
※前号で説明した「レピュテーションリスク」を持ち出すまでもない。

裸の王様

 コンビニ業界のトップであるセブン&アイのことを、取引先の食品メーカー各社は「最も頭を下げない会社」と呼ぶそうだ。日本一の販売量を誇り、商品をセブンに置いて欲しいメーカーは山ほどあり、どの企業も取引を望むからだ。

 そして、セブン&アイには組合がなく、井阪社長に対しては「モノ言う株主」以外に、物申す人は皆無である。

 いう事を聞かない前社長のクビをすげ替え「労組のストに屈するのは時代錯誤であり、組合が『つけあがる』からクロージング(株式譲渡)延期はすべきではない」と井阪社長に進言した幹部社員も居たと言う。セブン社内は「上意下達」が当たり前で、周りにイエスマンしかおらず、そして異を唱える者は解雇する。これでは「裸の王様」ではないか。おとぎ話であれば、王様の末路は決まっているのだが・・・子会社の社員(=組合員)の雇用や、事業継続などの「プリミティブでナーバスな」問題を、資本の論理だけを基準に、「きちんと説明せずに」売り払ってしまったのは、「世間様」から井阪氏は尊大で傲慢だ、と言われても反論は難しい。

メディアの反応

 さて、メディアはこの一連のニュースをどう伝えているのだろう。

 マスコミの代表としてNHKの時論公論を例に話を進めよう
※本音を言うと、ジャニーズ性加害問題の様に「クローズアップ現代+」でも取り上げて欲しいものだが。

7月31日「そごう・西武売却の行方 デパート業界の将来像は」

 『大手デパートそごう・西武が、親会社から売却される動きをめぐって、揺れています。関係者との協議が難航し、売却に不信感を募らせる労働組合はストライキに必要な手続きに入りました。今回の売却は、投資ファンドなどの異なる分野からの参入など、異例であり、新たな業界再編の難しさを露呈した形となっています。苦境が続くデパートの今後について考えます。

  1. 売却の背景
  2. 売却への根強い反発
  3. 苦境のデパート、その将来像 

 デパートをめぐっては、次々と生まれるライバルとの競争を強いられ、生き残りは簡単ではないという厳しい見方もあります。こうした中で今回、そごう・西武の売却協議をきっかけに、改めてデパートの存在意義が問われています。関係者には、地域にとって何が必要なのか、そして、消費者が本当に望んでいるものは何か、より突っ込んだ議論をすることを望みたいと思います。』

 NHKはそごう・西武売却を契機に「絶滅危惧種」である百貨店という業態そのものの将来を考える「議論が必要」という、お茶を濁した、正にNHKらしい着地でまとめている。

9月4日「そごう・西武売却 61年ぶりストライキが意味するもの」

 『経営不振のそごう・西武の売却をめぐり、大きな動きがありました。雇用などの面から早期の売却に反発した労働組合が、大手デパートでは61年ぶりとなるストライキを行いました。一方、親会社の流通大手・セブン&アイ・ホールディングスは、売却を最終的に決議し、ストライキの翌日には、そごう・西武は投資ファンドの傘下に入りました。

 そごう・西武の売却から浮き彫りになった、デパート再建に向けた課題と共に今回のストライキを契機に、企業の労使関係がどうあるべきか、考えます。

  1. ストに至る経緯
  2. 売却後の雇用は
  3. ストライキの意味

 今回のストから判ったのは、日本企業に浸透していた「労使協調路線」が変化を迫られているという事です。企業の買収や再編の動きが当たり前の時代となる中、経営側は、より多くの利益を求める株主からの圧力も強まっています。※セブン&アイは、海外の物言う株主から、株主総会で社長の退任を求められていた。

 ただ同時に、企業は株主だけでなく、地域社会や消費者、それに従業員といったさまざまな利害関係者・ステークホルダーと向き合うことも不可欠です。企業が資本の論理で、買収や利益の追求を目指すとき、従業員はどう対抗し、雇用を守ってゆけば良いのか。デパート業界大手の61年ぶりのストライキは、新たな課題を投げかけているようです。』

 企業はモノ言う株主やステークホルダーに配慮しつつ、雇用も守れ、という「こうあるべき論」で終えている。

 どこにも良い顔をしたいという「どっちつかず」のスタンスで「ある意味NHK感満載」な結論となった。

 もちろん、新聞各紙だけでなく、天下のNHKが(例え夜中の10分番組とは言え)このニュースを取り上げたことの「意義」は計り知れないほど大きいと言って良い。

 そごう・西武労組の寺岡委員長を1年半の間「蚊帳の外」に置いて来たセブ&アイ井阪社長の怠慢、いや誤算がここにある。

 正に「窮鼠猫を噛む」であるが、蚊がねずみに昇格しても、まだまだ「人間扱い」には至っていない、と言ったら、どちらにも失礼過ぎるだろうか。

 メディアの報道の最後は、テレビ東京が締めくくる。

9月15日 ガイアの夜明け「独占!そごう・西武 ストの舞台裏

 経済ニュースの「現場」をドキュメンタリータッチで見せてくれるので、現場スタッフ( 今回は西武百貨店勤務の組合員やその取引業者等) の置かれた現状が判り、視聴者に、働き手側を「自分事」として捉えてもらえる、良い機会だったと思う。

 高い所から、指示命令を出すだけの経営者たちや、同じ様に高みの見物をしながら高邁な「あるべき論」を語るだけの某公共放送とは違った妙味があったと評価したい。

所感

 セブン&アイの井阪社長は、物言う株主や投資ファンドに翻弄され、いわゆる「外圧」により仕方なく、赤字続きのそごう・西武の売却を余儀なくされたのであろうか?筆者はそうは思わない。確かに、前回の株主総会を巡っては「コンビニ業に専念しろ」とか「そごう・西武だけでなく、イトーヨーカ堂も切り離せ」というアクティビストの声はあった。

 しかし井阪氏は「コンビニ界のトップを守るためにヨーカドーの『食へのこだわり』は不可欠である」と述べている。なるほど、そういった面は確かにあるだろう。

 しかし今回の問題の焦点である西武池袋本店は日本で3番目の百貨店である。失礼ながら、ヨーカ堂やセブンイレブンと池袋西武のデパ地下を比べ(価格やコスパはひとまず置いといて)「どっちが美味いか」に議論の余地はあるまい。

 要するに、井阪氏の理論は屁理屈であり、もう少し優しい言い方をしても、IY内の「えこひいき」に過ぎない。 

 そもそも、そごう・西武を子会社化したのは前任の鈴木氏であり、自分はその「敗戦処理」をいやいや「やらされている」という感覚なのではないだろうか?

 更に居直って「俺はコンビニのエキスパートであって、コンビニ以外の事は判らないという本音さえ透けて見える。業界紙の端くれとしての筆者の「おかめはちもく」の意見だが。

疑問

 そごう・西武全体で見ても、売上ベスト10には入らなかったものの、そごう横浜が11位、そごう千葉が17位と、3位の池袋西武とともに首都圏では健闘しているのだ。3年半のコロナ禍であってもそれは変わらない。

 更に前号でも述べたが、アフターコロナのインバウンドの急回復を受け、今、小売業の中でデパートが最もその恩恵を受けている。

 それに加えて、東急渋谷本店(売上14位)の閉店や、新宿小田急本店(同19位)の移動縮小(ハルクの本店化なので閉店ではない)により、都心エリアでのライバルは減少しており、今が本当に株式譲渡及び百貨店縮小のベストタイミングかは、大いに疑問が残る。

 2005年末にそごう・西武を傘下に治め、17年と8か月の長きに亘り、セブン&アイは地方店の閉店(リストラ)以外、いったい何をやっていたのだろうか?

 自分の金で買ったのだから、いつ誰に売ったって文句は言わせない、ということなのだろうか? だから、地元池袋にも、労働組合にも何の説明もして来なかったのだろうか?

禍根

 本年2月15日号の本コラム、シリーズ「そごう・西武売却」の第6弾でお伝えしている様に、既に売買により利益を確定させた投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループや、そのパートナーであり、実質的に池袋西武本館に出店するヨドバシホールディングス以外にも、財務アドバイザーであり、労組軽視の契約作りを担った三菱UFJモルガン・スタンレー証券(MUMSS)等々、利権に群がる利害関係者がそれぞれの思惑で暗躍(失礼!)した結果がこれだ。

 本コラムのタイトル通り、禍根だけが残り、決着とは程遠い。

 セブン&アイの創業者である故伊藤雅俊氏は生前「驕(おご)りや傲慢さが災いを招く」と説いていた、という。

 もし井阪社長が「これでセブン( と自分) は安泰」と「いい気分」になっていたら、それこそ足元をすくわれるかもしれない。

 モノ言う株主が行き過ぎた資本主義の論理を推し進める井阪社長の方針にノーを出さないとは、言い切れないからだ。

 いやいや、筆者はそれを望んでいる訳ではもちろんない。勝手に心配をしているだけだ。

 盛者必衰の理(ことわり)は平安時代からであり、驕れるセブンは久しからず、とはならない事を願っている。

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