デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年11月01日号-79

西武 vs ヨドバシから考える百貨店と家電の未来

1「百貨店+家電」のシナジー効果は?

百貨店で61年ぶりスト

 そごう・西武の労働組合は本年8月31日にストを決行し、西武池袋本店は終日休業した。

 ストを決行した背景には、労組の一丁目一番地である「雇用の維持」と、そのための大前提である「事業継続」への不安があった。このことは前号まで本コラムで何度もお伝えしている。

 スト翌日の9月1日には、親会社のセブン&アイ・ホールディングスが、そごう・西武の株式を米投資会社フォートレス・インベストメント・グループに譲渡。
※セブンの決議はストライキ当日に行われた。

 新たな親会社のもとで、西武池袋本店はフォートレスのパートナーである家電量販店
「ヨドバシホールディングス」が、本館北側の低層階の中核テナントになることを前提に、そごう・西武労働組合との話し合いを継続している。

蚊帳の外から一矢

 ヨドバシの出店計画に対し、インタビューに答えたそごう・西武労働組合の寺岡泰博委員長は「赤字の地方店を放置したまま、一番の稼ぎ頭をたたき切る」と表現し、2度目のストも辞さない構えを示したという。

 こうした発言からも、このディールが「穏やかな譲渡」ではない事については、衆目が一致するところだ。

 ストライキの是非については、当然賛否はあるものの、メディアを介して「世間」は、労働者の権利を守るため「ストもやむなし」という意見が大勢を占めた。

 「物価は上がりつづけるのに、給料は全然追いついていない」そして「資本家(大企業)は、内部留保に腐心し、労働者(社員)を蔑(ないがしろ)にしている」という庶民感情を反映しているのかもしれない。

 今回の「スト決行の意義」は、本紙の提唱する「公益という大義」にも適うものであり、世間=消費者の顔色を窺(うかが)い、池袋西武への出店の「仕方」について、ヨドバシカメラは「一定の配慮」をせざるを得ないと思われる。

 そういう意味で言うと、寺岡委員長は蚊帳の外から、セブン&アイとヨドバシに対し「一矢報いた」と言えるだろう。

百貨店の衰退

 百貨店業界は、都心、地方を問わず、長く低迷を続けてきた。業界全体の売上高は1991年の9・7兆円をピークに、コロナ禍の2020年には、収益が半減し、直近では5兆円前後で推移している。特に百貨店の主力アイテムであった衣料品の落ち込みが著しいことは周知の事実だ。

 デパ地下(食品売場)や、北海道物産展などの催事によって、にぎわうゾーンもあるが、そうした一部のフロアを除き、消費者ニーズの多様化に百貨店側の対応は「後手に回った」という批判は、間違っていない。

 衣料品は低価格で最新の流行を提供するファストファッションや、ネット通販に顧客が流れ、家具、生活雑貨は無印良品やニトリなどに顧客を奪われ、家電に至っては、売場自体がほぼ消滅しているといっても過言ではない。

 富裕層シフトやインバウンド需要の復活により、都心の大手百貨店が最高益を達成した、といっても、デパート業界全体の地盤沈下に歯止めがかかっていないのだ。

後述する「家電量販店のテナント導入」が一つの答えではあるが、この辺りの百貨店の実情は、本紙本コラムの購読者諸氏なら「常識」であろう。

業態変換

 百貨店業界は生き残りのため「業態転換」といわれるような、大胆な対応を打ち出している。駅前の好立地を武器に、集客力のあるテナントを呼び込むなど、百貨店が自社でモノを売るのでなく、売場のスペースを貸す、いわゆる「テナント化」に注力しているのだ。

 前号でもお伝えしている様に、松坂屋銀座店が再開発によって複合商業施設「GINZA SIX」へ変換、渋谷の街からは東急百貨店東横店、東急本店が消え、新宿西口は再開発により、小田急百貨店本店はハルク館に移設し、実質的な売場面積は減少している。

 東急、小田急、そして京王も、再開発跡地を「商業施設」としており、百貨店を再開する予定はない。

 そして、その「商業施設」の中核となるのが、家電量販店などの大型専門店だ。

家電量販店は百貨店のイメージダウンなのか?

「池袋家電戦争」に於いて、ヨドバシカメラのライバルであるビックカメラの出店戦略を見て行きたい。

 老舗中の老舗、日本橋三越本店の新館の6~7階のビックカメラについて、直近オープンの札幌「東急+ビックカメラ」を見る前にチェックしておこう。
※本コラム「デパートのルネッサンスはどこにある?」の本年2月15日号のシリーズ「そごう・西武」売却 第6弾の中で、家電量販店の「対百貨店戦略」と「三越+ビックカメラ」を例に挙げている。要約して再掲載する。家電量販店の百貨店、SCへの出店パターンを見て行こう。

ビックカメラ

ビックカメラは中型~大型展開にこだわっており、ビルインでも複数フロアにまたがる大型展開が多い。都心では新宿小田急ハルク2~6階や日本橋三越の新館6~7階。SCビルのワンフロアに収める(中型展開の)場合は、系列店の「コジマ+ビック」の看板を掲げて出店しており、西友ひばりヶ丘店の2階がそうだ。

ヨドバシカメラ

ライバルであるビックカメラ同様「レールサイド戦略」を取っており、これまでも、東京や大阪などの大都市のターミナルに超大型店を展開してきた。川崎(西武百貨店)、横浜(三越)、吉祥寺(近鉄→三越)、京都(近鉄)など数多くの百貨店の跡地を、家電量販店を核としたヨドバシ流の商業施設に転換してきた実績がある。 
 ビックカメラがいずれも大型SCの「キーテナント」としての出店するのに対し、ヨドバシは土地、建物を取得するスタイルを貫いており、ノジマを含めた家電各社とは一線を画す。

 もちろんビックカメラも、2001年にそごう有楽町を、2012年には新宿三越を、一棟丸ごと家電量販店に転換させているが。
 ヨドバシもビックも百貨店跡地の超大型店舗は「家電専業」ではなく、スポーツ用品からブランド品、食品、ホビーに至るまで、ある意味百貨店的なMD展開となっている。

  池袋でヤマダと共に、直接ヨドバシと「覇権を争う」ビックカメラは、2020年2月から、富裕層ターゲットに向け三越とタッグを組んだ。ビックカメラのコラボ戦略を見ておこう。

ビック日本橋三越

 富裕層向けプレミアム家電強化を狙い、ビックカメラは2020年2月7日、日本橋三越本店新館に「ビックカメラ 日本橋三越」をオープンした。
 コンセプトは「三越のおもてなしと、ビックカメラの家電に関する専門的品揃えを融合した家電の新スタイルショップ」としており、両社のメリットを次の様に謳っている。

  1. ビックカメラは三越が得意とする富裕層の顧客を三越の外商と連携して取り込む。
  2. 三越はインテリアとともに家電を提案メニューに加え、顧客満足度向上を目指す。

 360坪の売場面積に、富裕層向けのプレミアム家電、人気の美容・健康家電、近隣のビジネス顧客をターゲットとしたスマートフォン、パソコンといった日常使いの製品を揃えた。

 そして、ビックカメラの販売スタッフの服装は日本橋三越本店の雰囲気に合わせ、これまでの赤ベストの「制服」ではなくスーツを着用する。接客時のイメージは大事なのだ。

 筆者は、大手家電量販店の対百貨店政策に於いて「ヨドバシカメラは敵対的」「ビックカメラは友好的」といったレッテル張りをしたい訳ではない。只、顧客、消費者の目に「その企業活動がどう映るのか」は、当然考慮すべきと思っているのだ。

2例目は札幌東急

 西武池袋本店がストライキで終日休業した翌日の9月1日、東急百貨店さっぽろ店にビックカメラがオープンし「館に再び活気が戻った」というニュースだ。

 東急百貨店さっぽろ店のリニューアルは、5~6階にビックカメラ、7階にユニクロとGU、9階にバンダイナムコのアミューズメントパーク、そしてヴィレッジヴァンガードが出店し、9月末までに新たな店舗が出揃った。

 東急百貨店は多事業化ビジネスモデル「融合型リテーラー」という施策を進め、さっぽろ店もその一環として、特に5~9階には集客力の高い大型専門店を複数揃えた。テナント貸借の部分もあれば、従来型の百貨店として運営している部分もあり、両者が混在している。

シナジー効果

 東急さっぽろ店のリニューアルによるシナジー効果について「お客様は多いときは、前年同期の2倍になる」とは東急百貨店広報の話だ。更に「フードやコスメなど強みのあるところに注力して、新規事業などへも人員を配置する」と話す。百貨店業界では従来の経営スタイルにとらわれず、大型専門店にフロア単位でテナント貸しをしたり、自社のスタッフを弾力的に配置転換することは、いまや当たり前になってきている、という。同じ「百貨店+家電」であっても、ビックカメラの三越や東急とのwin―winの関係が、池袋では「西武vs.ヨドバシ」という対立の構図となってしまったという事だ。

 突き詰めて言えば「百貨店+家電」でビルを運営する、という意味に於いて、ビックカメラとヨドバシカメラの手法の良し悪しというよりも、セブン&アイによる「情報開示と進め方の不手際」という側面が大きいのでは、と筆者は考えている。

そごう・西武の場合は?

 冒頭で述べたストが示す様に、そごう・西武労組の「反発」は、新たな親会社のもとで西武池袋本店の中核が家電量販店になるという「懸念や心配」からだけではない。

 そごう・西武労組の寺岡委員長は「ヨドバシカメラの出店自体に反対しているわけではありません。百貨店業界や、会社の経営状況が厳しいことは十分に認識しています。」とも話しているからだ。

 以前の親会社だったセブン&アイの井阪社長は「百貨店のスタッフの雇用は守るから安心して欲しい」等と話して来たという。しかし、そごう・西武労組は、店舗運営の大幅転換などを、外部から漏れ聞こえて来るメディアの情報以外、事前に全く知らされていなかったのだ。

 そごう・西武労組がストライキに至った経緯から見て、セブン&アイの譲渡手法が、厳しい言い方となって恐縮だが、稚拙(ちせつ)であったことは、否めない。

 そしていよいよこの後、我々は新たに親会社となったフォートレス(と言うか実態はヨドバシカメラ)の池袋西武への「出店の仕方」を注視していく必要がある。

 それが、ビックカメラの日本橋三越や札幌東急への出店とは「どう異なるのか」という、その一点においてだ。そしてそれは、従業員を納得させられない企業が、ましてや顧客や一般消費者を納得させられるのか、という一点でもある。

 まだまだ池袋西武から目が離せない。

【付録】家電量販店売上高ランキング

1位 ヤマダデンキ  1兆6193憶円
2位 ビックカメラ    7923憶円
3位 ヨドバシカメラ   7530憶円

4位 ケーズデンキ    7472憶円
5位 エディオン     7137憶円
6位 ノジマ       5649憶円

 尚、ベスト電器はヤマダに吸収合併されている。また、ビックカメラはコジマとソフマップを傘下に納めている。電器屋ではないが、大塚家具もヤマダ傘下だ。 ヤマダデンキは、家具+家電に加え、キッチンやバス、トイレまで揃え、総合インテリア産業を目指している様だ。

 ヤマダは2位以下の2倍の売上を維持し、そのポジションは一見安泰に見える。これについては次回以降で言及する。

 そして問題は2位と3位のビックカメラとヨドバシだ。ヨドバシが池袋戦争を制して、ビックに取って代わろうとしている事は明らかだ。

 やはり池袋からは目が離せない

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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