デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年10月15日号-78

【閉店連鎖は地方から都心へ】

ストライキと売却

 8月31日、そごう・西武労働組合による西武池袋店でのストライキが実施された。これについて本紙は、そごう・西武労組の寺岡泰博委員長の「動静」を中心に詳細にお伝えして来た。

 百貨店業界では61年ぶりのストライキ実施であり、新聞各社、テレビ各局始め、大手メディアに大きく取り上げられた。背景にあるのは、親会社であるセブン&アイの「怠慢、いや傲慢」である。そごう・西武を売却する方向が公(おおやけ)になってから1年半以上、売却後の「事業継続、雇用維持と、それにともなう情報の開示」が労組側に示されなかったのだ。 これはそごう・西武労組の寺岡委員長が何度も主張して来た事だ。

 そして、各メディアが注目するもう一つの論点が、買う側のファンド、と言うよりは、そのパートナーであるヨドバシホールディングスが画策する、そごう・西武の(主には西武池袋本店の)先行きだ。

 これについては、未だに時期も含めて導入プランの大部分が不透明のままだ。

そごう・西武はどうなるのか

 9月1日、そごう・西武は不動産ファンド、フォートレス・インベストメントの子会社となった。

 前述した様に、実態としてはヨドバシカメラによる「池袋進出」こそが、問題の焦点であり、そごう・西武だけでなく、様々なステークスホルダーが、議論に加わったのは、周知の通りだ。

 そう言った意味では、(ストによる池西休業により、迷惑を被った顧客には申し訳ないが)ストライキ実施によるニュースの拡散については、それについての賛否も含めて、大いに意義があったと思う。

 「61年ぶりのスト」という事案が、水面下でコトをすすめようとしていた、売り(セブン)にとっても、買い手(実質はヨドバシ)にとっても「不本意な事に」世間の注目を集めることとなったからだ。

 そしてこれは、セブン&アイの井阪社長によるそごう・西武売却=株式譲渡の不手際だけでなく、そごう・西武発足から14年、セブンの傘下に入って18年間の「衰退の歴史をも際立たせる結果となった。

負の遺産

 セブン&アイはこの間に20店舗以上の百貨店を閉めている。「衰退の歴史」というのは、正にそごう・西武の「閉店の歴史」であった。

 けしてセブン&アイに同情するわけではないが、不採算店舗の閉鎖は避けられない状態であったのも、恐らく事実である。日本一の小売=流通業の雄であるセブン&アイの担当者にとっても、衰退する一方の「百貨店」は、只のお荷物であり「負の遺産」そのものに思えたに相違ない。

 そごう・西武は、その前身である「そごう」も「西武百貨店」も、共にバブル期に郊外や、地方都市に大量出店したことで成長した、という経緯がある。

 口の悪い「事情通」からは「遅れて来た百貨店」と揶揄(やゆ)されることもあった。

 日本経済が右肩上がりの時には見えなかった綻(ほころ)びが、バブル崩壊を境に一斉に顕在化し両社は相次いで経営破綻した。結果として多くの不採算店をスクラップした。

 そして再生を図るため、ミレニアムリテイリングとして統合し、これまた「弱者連合」という誹(そし)りを受けながら、最終的に「一大流通帝国」を目指していたセブン&アイの傘下に入ったのだ。

絶滅危惧種

 日本の百貨店業界にとっては、今世紀に入ってからの23年間は、自らが「絶命危惧種」であることを、証明するための歳月であった、というのは(筆者の様な業界の端っこにいる人間にとっても)真に残酷な話だ。かつて、地方の雄と呼ばれた、あまたの老舗百貨店や、西武の様な電鉄系だけでなく、押しも押されもしない大手デパートである三越伊勢丹、髙島屋、大丸松坂屋、そして関西の阪急阪神も、結果として次々と店を畳んだ。

 そしてそれは地方都市だけでなく、都心店舗も例外ではなかった。直近3年半に及ぶ「コロナ禍」が、それに追い打ちをかけた事は言うまでもない。
※西武を電鉄系、と申し上げたが、西武百貨店は稀代の経営者である堤清二が、西武電鉄と「袂(たもと)を分かち」文字通り一代で築き上げた西武流通グループ(後のセゾングループ)の中核企業であった。

 電鉄の利用者を顧客とする(通常の)地方百貨店とは「一線を画する」企業であったことは、申し添えておきたい。

閉店の歴史

 ここで、そごう・西武の「閉店」を振り返る。この間に21店舗が閉店している。

2009年そごう心斎橋店、西武札幌店。
2010年有楽町西武。
2012年そごう八王子店。
2013年西武沼津店、そごう呉店。
2016年西武春日部店、そごう柏店、西武旭川店。
2017年西武筑波店、西武八尾店。※そごう神戸店と西武高槻店はH2O(阪急阪神)
に譲渡。
2018年西武小田原店、西武船橋店。 
2020年 西武岡崎店、西武大津店、そごう西神店、そごう徳島店。 
2021年 そごう川口店、西武福井店( 新館)。

※尚、2019年に西武所沢店、2020年に西武東戸塚店をS C(ショッピングセンター)業態に転換しているが、自主編集売場も一部残っており、閉店にはカウントしていない。
※因みに本コラムでは、2000年8月1日+15日合併号にて「コロナ禍で生き残りを模索するデパート」のタイトルで、コロナが分けた明暗により、百貨店の衰退のカウントダウンが始まっており、SCという名の百貨店のテナント化が進んでいる実態を、西武所
沢店、と西武東戸塚店のSC業態への転換を例に解説している。

 また続く同9月1日号にて「岐路に立つ百貨店の『郊外進出とSC化戦略』」の中で「退場が迫る西武」のサブタイトルで、相次ぐ西武百貨店の閉店を伝えている。

ご興味があれば本紙バックナンバーをご参照いただけると幸いだ。

閉店連鎖と再開発

 今号のサブタイトルにもある様に、近年では、地方だけでなく都内の主要百貨店の「閉店」も珍しいことではなくなっている。

 再開発という名目で百貨店を閉店し、その後に複合商業施設(テナント誘致をベースとしたショッピングセンター)を作る事例がほとんどだ。

 ちょっと前であれば松坂屋銀座店が再開発によって複合商業施設「GINZA SIX」に生まれ変わっているし、渋谷の街からは東急百貨店東横店、東急本店が消えた。新宿西口は再開発がスタートし、小田急百貨店本店はハルク館に移設し、実質的な売場面積は減少している。
※従って小田急百貨店本店は閉店していない。但し盟友(いや、ライバルなのか)である京王百貨店新宿店も、閉店(再開発)に向け、本年8月に以下リリースを発表している。

 京王電鉄は2日、東京・新宿駅周辺で進める再開発の総事業費が3000億円程度になりそうだと発表した。 高さ225メートルの高層ビルを2028年度に開業するほか「京王百貨店新宿店」を建て替え、高さ110メートルの商業施設を2040年代まで
に建設する。

 同駅構内も改良し、エリア一帯の回遊性を高める、としており、現京王百貨店新宿店は2020年代の後半(2029年?)に閉店すると見られている。

 くどい様だが、東急、小田急、京王の電鉄三社は、異口同音に再開発の跡地を「商業施設」と表現しており、百貨店という言葉は使っていない。

セブンの所業

 しかし、こうした数々の事例のどこをどう見ても、そごう・西武の様なストライキに至る、いわゆる「騒動」は起こってはいない。

 今回は何が違ったのだろう?

 筆者はセブンの「態度」ではなかったかと思う。態度が判りづらいなら「スタンス」か「心がけ」と言っても良い。

 本コラム「デパートのルネッサンスはどこにある?」の中での最長シリーズである「そごう・西武売却」では、何度も言及しているので「またか!」とお思いかもしれない。が、ご批判覚悟で敢えてもう一度言う。

 そごう・西武も、セブン&アイも、そしてヨドバシも、百貨店、コンビニエンスストア、家電量販店という違いはあっても、顧客を相手に商売をする「小売業」である。

 いろいろと、モノ言う株主に翻弄され、苦労させられたセブンの井阪社長は、数あるステークスホルダーの中で、「株主」しか見えなくなってしまったのだとしたら、大変残念だ。

 それはそれで悲しい職業病であり、お見舞い申し上げる。

 だが「小売」の最大のステークスホルダーは従業員でも取引先でもなく、もちろん株主でもなく、顧客=消費者なのだ。

 お客様は、常に自分が買物をする先の「お店を見ている」のだ。不正をしないか見ているのだ。そして「お店の評判」を聞いているのだ。

小売の公益性

 もちろん家電は「安い」にこしたことはないし、コンビニは「欲しい物がほぼすべて手に入る」ことは非常に重要だ。

 だが、小売というのは百貨店に限らず、先ず公正であるべきなのだ。

 偽ブランドを売ったり、消費期限を偽ったり、FC先をいじめたり、スタッフに長時間労働をさせたり、ハラスメントの温床であったり、ということは許されないのだ。
※いやいや、最後の三つは小売に限らずアウトであるが。

 商売はBtoBでなくBtoCである。であれば尚更、カスタマーの目を一番に意識すべきなのは当然だ。

 老舗百貨店に古くから伝わる「先義後利」を、本紙は「公益」とも呼んでいるが、小売は「自分達(の企業)さえ良ければ」という発想を「是」とはしないのだ。

 井阪社長には申し訳ないが、こと百貨店においては余計に「株主資本主義」とは相入れないのだ。であるから、今回そごう・西武労組が、従業員を束ね、顧客を巻き込む形にはなっても、マスコミを通じて広く世間(一般消費者)に訴えたことは、戦略として間違っていなかった、と言える。

結果論

 結果として、セブン&アイはストの当日に決議をし、結局翌日にはそごう・西武は売却されてしまったではないか、という穿(うが)ったご意見もあるだろう。

 しかし、ストライキのニュースによって、セブン&アイによるそごう・西武の売却は「公正」だったのか? という事について、多くの人が「考えるきっかけ」になったのだ。消費者に対して、無道徳の人として、記憶に刻まれることになるのだろうか。

 少なくとも、井阪社長は「従業員の声に耳を傾けない経営者」という、不名誉なレッテルを貼られることについては、甘受しなければならないだろう。

 1年半の間「何も聞かされていない」状態であったそごう・西武労組もモノ言う従業員となったことで、セブン&アイの井阪社長と「直談判」の場を持つことは叶ったわけだ。

 そして、新たな親会社であるフォートレスやそのパートナーであるヨドバシも、そごう・西武労組の寺岡委員長との面談を拒否することは出来なくなった。

 最終的には、西武百貨店池袋本店の外壁に「ヨドバシカメラ マルチメディア 池袋」のサイン看板が掲げられる日が来る事は不可避であろう。それを止めることは労組にも行政にも百貨店の顧客にも出来ない。もちろん我々マスコミもほとんど無力だ。

 それでも「話し合い」の席を設け、双方の主張を公(おおやけ)にすることは出来る。

 そして、それこそが、我々マスコミの使命(ミッション)なのだと思う。

 どんな企業であっても「レピュテーションリスク」は出来れば回避したいし、当然、世間の評判は落としたくない。ヨドバシホールディングスも、そう思っているだろう。

 可能であれば、西武とヨドバシが只同居するだけではない、新たな「商業施設」の誕生を願っているデパート新聞社も、微力ながらその一助になれたら幸いである。

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