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デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年07月15日号-50

全国百貨店年間売上の推移

淘汰続く百貨店

人口と売上から百貨店の閉店を検証する

 最速で梅雨が明け、猛暑日が続く7月初旬、新型コロナ感染者が2ヶ月ぶりに増加に転じている。第7波とも言われているが、いったい何度目の「いたちごっこ」なのだろう、もはや勘定したくもない。せっかく取り戻しつつある日常( 百貨店にとっては日常= 売上だ) が「ふりだし」に戻ってしまう、という、何とも不快な感覚だ。

突然の訃報

 7月8日の金曜日、驚くべきニュースが飛びこんで来た。自民党の安倍晋三元首相が奈良県で銃撃を受け死去したのだ。67 歳だった。

 首相に2度就任し、在職期間は通算3188日と、憲政史上最長を更新。大規模金融緩和を柱とする経済政策「アベノミクス」の推進など、内政・外交両面で大きな足跡を残した。退陣後も、党内最大派閥のトップとして影響力を保持してきたが、参院選の遊説中に非業の死を遂げた。凶弾に倒れた安倍氏に対し、謹んで哀悼の意を表したい。

 アベノミクスの是非については、筆者は「今世紀に入って20年間、日本人の給与所得が上がらなかった」コトで明らかだ、と思っている。理由はどうあれ、暗殺と言う手段は言語道断であり、けして許されるものではないが、それと安倍元首相の功罪は別物として考えなければならない。日本人は死者を鞭打つことを嫌う。が、だからといって、今更の様に安倍氏の功績だけを取り上げて、参議院選挙に「弔い合戦」などと言うワードを使うほど、今の日本国民は浅はかだとは考えたくない。

 安倍氏のご冥福を祈り、本題に入ろう。

 近年、地方を中心に百貨店店舗の閉店が続いている。特に新型コロナウイルス感染拡大以降は、その影響から突然の閉店が発表され、山形や徳島の様に「百貨店消滅県」が誕生するなど、世間を驚かせるニュースも目にする。コロナを経て、10年前から売上高や店舗数はどのように変化したのか? 日本百貨店協会の加盟店舗数をもとに考えてみよう。

売上は2兆円減

 まず全国百貨店の年間売上高の推移を見ると、日本百貨店協会に加盟する全店の2021年度の売上高を合計した総額は約4 兆4 1 8 3 億円。2011年度の約6兆1526億円からこの10年で2兆円近く減少している。元々の経営難に加え、2020年と2021年の新型コロナウイルス感染拡大の影響が、閉店の大きな要因につながっている。

 日本百貨店協会の資料によれば、2022年4月末時点の加盟店店舗数は190店舗。2012年4月末時点の店舗数は249店舗あったので、10年間で約4分の1にあたる59店舗が閉鎖したことになる。店舗数が76%となり、売上が72%になったのだ。

 コロナとの一進一退の攻防が続く中で、前述した様に全国の百貨店は減り続けている。本紙4月号でも取り上げているが、今年に入り、セブン&アイ・ホールディングスが、傘下にあるそごう・西武の売却を検討していることが明らかになった。 

 直近では4月に青森県八戸市の三春屋が閉店した。閉店の連鎖は地方だけには止まらない。東京でも、都下の立川だけでなく、日本一の繁華街である新宿、渋谷でも百貨店という小売業種の見直しが進んでいる。

 髙島屋立川店が来年には百貨店の業務を終了するニュースは、本紙5月1日号でも特集したばかりだ。小田急百貨店新宿店が建て替えのために、10月1日に新宿本館の営業を終了することについても、7月1日号で言及したばかりだ。小田急は現在の業容が新ビルで復活するかは未定、としている。

東急の街「渋谷」

 渋谷の東急百貨店本店も同様に2023年の1月末の閉店を発表している。当該店は松濤という日本有数の高級住宅街をバックヤード(後背地)に持ち、富裕層の集客には困らない立地だ。但し、渋谷駅からはいささか距離があり、かつての東横店の様な、全方位型MDの「デパート」をリニューアル後も継承するとは思えない。※元々東急は東横店と本店をそれぞれ「駅前の大衆百貨店」と「富裕層向けの高級デパート」として棲み分け、運営していた経緯がある。

 しかし、東急グループが「渋谷の盟主」として実施した「100年に一度」の再開発により、東横デパートは消滅した。10年前の渋谷ヒカリエ( 2012年4月) を皮切りに、ストリーム( 2018年9月)、スクランブルスクエア( 2019年11月)、フクラス( 同年12月) と次々にSCビル( 商業施設) を建て、文字通り渋谷駅を包囲していった。

 それでも百貨店という業種は復活せず、東急本店の百貨店MDも継承される可能性は低い様だ。

 東急を交えた渋谷の変遷を語ると紙面が尽きてしまう。本題に話を戻そう。

百貨店の成立与件

人口50万人都市

 それでは、そもそもなぜ百貨店は減っているのか。百貨店の消滅与件は、先ず、その売上がピーク時の半分以下になり、年商で100億を下回って来ると経営的には黄色信号だという説がある。もちろん全国には、70〜80億で持ちこたえているデパートはいくつも存在する。

 自社ビルか賃貸か、外商の強さ等により、単純に売上額だけでは測りきれない部分が大きいことは、もちろん大前提だ。そしてその売上減の直接の原因は、客数減であり、簡単に言えば、その街( エリア) の人口減だ。

 それでは百貨店の成立与件たる人口は何人なのだろう。調べてみると、人口50万人以上の都市であれば1店舗が存続している計算になる、という。例えば50万〜100万人の都市(千葉、船橋、新潟、浜松、姫路、北九州、熊本、鹿児島など)であれば、やがて1店舗に絞り込まれていく勘定だ。百貨店が成立しなくなる要件を、人口だけで判断するのもいささか乱暴だが、何かしらの指標にはなると思っている。

売上60億の壁

 前項で、百貨店の成立与件として「人口50万人の壁」の話をした。50万人を切ると百貨店消滅都市となる、ということだ。では、当該百貨店の年間売上はその時いくらなのか。

 またもざっくりとした数字で恐縮だが、年商が60億の壁が存在する様だ。
見て行こう。

売上ランキング

 ここで2020年全国百貨店店舗別売上高ランキングを見てみよう。実際にはコロナ着前の2019年度のデータなので、各百貨店の本来の数字が示されていると言って良い。

 この時点で、年間売上で60億を下回るのは156位の津松菱からだ。

 誤解なきよう、もう一度断っておくが、年間売上が60億を下回る=廃業、閉店を示しているのではない。百貨店のサバイバルは、商圏人口、その年齢層、その所得水準、駅前繁華街の状況、競合店の存在などにより、大きく左右されるからだ。更に申し上げるが、このリストにある百貨店は、消滅予備軍などではないのだ。都心であっても、老舗であっても、年間100億以上の売上があっても、新宿小田急や渋谷東急の様に、百貨店業を継続しない例はあるのだ。もちろん、エリアの人口は多いに越したことはないのも、また事実である。
※標記は、売上順位、百貨店名、年間売上額、前年比の順

順位百貨店年商昨対比
156位津松菱59.65億円マイナス9.2%
157位佐賀玉屋59.06億円マイナス9.8%
158位さくら野青森本店58.04億円11.3%増
159位藤丸56.11億円マイナス5.4%
160位佐世保玉屋55.78億円マイナス6.0%
161位池袋マルイ54.73億円マイナス6.9%
162位米子しんまち天満屋54.23億円マイナス3.7%
163位松屋浅草53.46億円マイナス3.4%
164位丸井吉祥寺50.36億円マイナス4.3%
165位神戸マルイ48.62億円6.9%増
166位草加マルイ47.93億円4.6%増

 尚、前年のランキングは190位まであったが、店舗閉鎖が相次ぎ、2019年は185位までのランキングとなった。年々百貨店の数が減っている、確たる証拠でもある。

池袋マルイ

 161位の「池袋マルイ」( 東京都豊島区) は2021年8月末に閉店した。

 池袋マルイは1952年の開業であり、マルイにとっても新宿、渋谷と並ぶ都心繁華街にある主力店だった。最近は近隣の百貨店( 西武、東武)やファッションビル( ルミネ、パルコ) との競争に敗れ、2020年の売上高は54億円とピーク時の270億円の2割にまで落ち込んだ。

 昨年池袋マルイを訪れて驚いたのは、客がまばらなことだった。100円均一ショップ大手の「セリア」やファストファッションの「COCA」は健闘している、様に見えた。

 一番驚いたのは、苦し紛れとは言え、仏壇の「光雲堂」が大きな面積を占めていたことだ。もちろん催事だろうが・・・ 断っておくが、筆者は仏壇仏具そのものについて、とやかく言うつもりはない。それが証拠に、どこの百貨店であっても( 特に地方都市では)、仏具コーナーは上層階の必須MDだ。但し、ヤング客層に向けたカジュアル衣料と雑貨を扱う「ファッションビル」の一画を担うMDとしては、かなりミスマッチだと言わざるを得ない。リーシング担当者の苦労が忍ばれる。

 164〜166位の吉祥寺、神戸、草加のマルイについても、当然予断を許さない状況だろう。次に単店ではなく、都市を例に考えてみよう。

ケーススタディ「宇都宮」

 宇都宮市の現在の人口は約51万人だ。「百貨店が淘汰される、人口50万人の壁」説の、検証にはもってこいだ。宇都宮の百貨店の歴史には東武百貨店、上野百貨店、福田屋という3つの百貨店の歴史を紐解く必要がある。

東武宇都宮百貨店

 まず現存する宇都宮唯一のデパートである「東武宇都宮百貨店」は、東武宇都宮線の駅前にあり、1959年に開店した。「高度経済成長」という名の、現在の若者にはまるで「経済神話」の様に語られる、あの時代だ。

 JR宇都宮駅と東武宇都宮駅の周辺は、1960年代から1990年前後までは、多くの百貨店を始めとする、大規模小売店舗( ファッションビル) が立地し、激しい競争があった。が、その後、福田屋の移転や、パルコの撤退等が相次ぎ、現在駅周辺では、東武百貨店だけが営業を継続している。

 2020年2月通期の売上は198億円である。コロナ禍による売上減も比較的軽微で済んだ。これは、元々インバウンドによる恩恵がほとんどなく、逆に落ち込みも無かったからだ。逆に、コロナ禍が「幸いし」宇都宮から1時間で行ける埼玉県の浦和や大宮まで足を延ばしていた顧客が、宇都宮に戻ってきているという。

 正に富裕層の都心から地方への回帰が如実に見られた地域だった。ラグジュアリー関係の売上が、コロナ禍によって増え、ルイヴィトン、ティファニーの特に高額商品の売れ行きが良い。結婚披露宴を行えず、その結果、結婚費用をエンゲージリングの高額化に充てるといった現象も出現した。

 商圏は、宇都宮市内を中心とする栃木県のほぼ全域( +茨城県の一部)であり、顧客の60%は宇都宮市民だ。

 宇都宮の百貨店が「淘汰」された理由は「モータリゼーション」にある。栃木県は「自動車社会」であり、全国屈指の所有率を誇る県である。当然それは、来客手段にも反映されており、来客手段の90%が自家用車である。契約駐車場と合わせて、2000台の収容規模がある。宇都宮東武の強みは外商でありその売上は全売上の20%を占める。外商スタッフは約30名で1万人の顧客を担当している。

福田屋と上野百貨店

 一方で、先に言及した栃木のモータリゼーションを背景に、大胆な施策を行ったのが、福田屋だ。1994年10月に、福田屋は既存の都心部店舗を廃業し、郊外に福田屋ショッピングプラザ宇都宮店(略称FKD:売場面積約5000坪超)を移転出店。全国有数のモータリゼーション社会となった地域特性への対応を図り、事実上その郊外移転を成功させて、宇都宮デパート戦争を生き残ったのだ。

 東武が翌年1995年10月に売場面積を9870坪へ増床を図ったのに対して、市街に残った上野百貨店は同年9月17日に本館での百貨店営業を終了。同年11月にテナントビル「T‐ZONE」に業態変更し、土俵際で踏ん張った。

 しかし小売不況の影響を受け売上は減少。その後メインバンクである足利銀行の支援を受け1999年に大田原店(売場面積4600坪)を開店し、宇都宮一極依存からの脱却を図ったものの、売上は目標に達せず、逆に52億円の投資負担が財務状況を一層圧迫。この失敗により、2000年4月には足利銀行が新規融資を打ち切り、新たな運転資金の借入ができなくなった。

 同年8月、事実上宇都宮での百貨店営業から撤退。最後は外商と大田原店の営業に集約したが、「時すでに遅し」同年末に宇都宮地方裁判所に自己破産を申し立て、1895年から続いた、百年余りの歴史に終止符を打つこととなった。

 一方、宇都宮の郊外に移転した福田屋ショッピングプラザ宇都宮(FKD)は、2003年には郊外2店舗目の「FKDショッピングモール宇都宮インターパーク店」を開業した。FKDインターパークは文字通りの大規模商業施設であり、駐車台数8800台、別館のIPSビレッジ、IPSスタジアムを含めた売場面積が19000坪。敷地面積では69000坪あり、東京ドーム5個分という、とてつもない規模の商業施設となっている。

 メインとなる「FKDインターパーク店」は、食料品、衣料品からアミューズメント施設が同居しており「車で来店したファミリーが丸1 日過ごせる」という、ロードサイドSCの謳い文句そのものの施設だ。

進化の覇者は

 宇都宮では、上野百貨店やパルコは絶滅し、生存競争に生き残ったのは東武百貨店、という様に一見思えるが、しかし、真の「進化の覇者」は、百貨店という殻を破り、早くから新天地である郊外立地にシフトチェンジしたFKD = 福田屋ではないだろうか。都心ターミナル立地に固執し、富裕層= ほぼ高齢者という、美味しい餌をしゃぶり尽くす一方、突然変異のない「ぬるま湯」で生きながらえるデパートは、現代の恐竜なのではないだろうか。少し大げさに聞こえるかもしれないが、昔からの商売の方法を変えない彼らには「絶滅」への道しか残っていないのかもしれない。

 進化論では、現在の「鳥類」は恐竜の生き残りだとも言われている。もちろん、鳥の様に郊外へ羽ばたいたFKDやその仲間のららぽーとやイオンモールでさえ、コロナ禍を背景にしたEC企業の隆盛により、次の時代には絶滅に追いやられるのかもしれない。50年先か30年先かは筆者にも判らないが。 

 ECは、目に見えないウイルスの様なモノかもしれない。現実の生物界でも、天変地異により地球上であらゆる生物が死滅しても、最後に生き残るのは人類でなくウイルスだという説は有力だ。SFの世界でなく、科学の世界での話だ。

 なるほど、ECの代名詞である「アマゾン」というのは、弱肉強食の進化の世界=時代を表すのに、「相応しい」名前だ。ジェフ・ベゾスのセンスに脱帽したところで、今号は筆を置きたい。

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