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デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年06月15日号-48

去年の今頃は

 今現在、全国の新型コロナ感染者数は減少傾向にあり、政府も遂に6月から外国人観光客の入国制限緩和など、経済・社会活動の再開に向けた検討を進めている。

 一昨年(2020年)の4月に、初めて緊急事態宣言が発出されてから、2年以上経過し、関係者からは「やっとか!」という声が聞こえて来る。

 どの業種もだが、人が集まったり、対面接客を伴ったりする業種は特に、大幅な売上マイナスを被った。もちろん百貨店も例外ではない。それどころか、都心立地の老舗店舗ほど「不振を極めた」と言っても過言ではない。各デパートの経営陣は、足並みを揃える様に、売上をコロナ前(2019年)の水準まで戻す、という目標を掲げた。

 先ずはコロナ真っただ中の1年前に遡ってみよう。

 2021年2月期通期決算を公表した髙島屋と、大丸松坂屋百貨店を擁するJ.フロントリテイリングの決算資料には「百貨店の再生と、グループ収益基盤の強化」「完全復活から、再成長へ」といった新型コロナウイルスの影響から立ち直るための力強い文言が並んだ。

 巨額の最終赤字から再生し、復活することができるのか。1年前の時点でその戦略を検証した。
※結果を見て、後から占いの「答え合わせ」する様ではあるが・・・

 勿論、本当の「答え」は年を跨いで2023年に初めて判る。2022年の数字が両社の通信簿となるからだ。

コロナ前から衰退産業

 本コラムを読んでいる購読者諸氏には、毎度おなじみの標題で恐縮だ。髙島屋は17年ぶり、大丸松坂屋百貨店を擁するJ.フロントリテイリングは、統合前の大丸単体の赤字から実に19年ぶりの最終赤字となった。

 新型コロナウイルスの感染拡大、とりわけ2020年春の最初の緊急事態宣言による臨時休業が響き、2社の2021年2月期決算に多大な影響を与えた。

 髙島屋は、連結営業収益が前年同期比25.9%減の6808億円、営業赤字は134億円、最終赤字は339億円。

 国際会計基準を導入しているJ.フロントは、総額売上高が前年同期比32.4%減の7662億円、営業赤字は242億円、最終赤字は261億円となった。

 2020年初頭の中国での感染拡大から、インバウンド客が消失した後、店の営業自体を止めざるを得なかったのだから、当然の結果だ。その後再開したとはいえ、もちろん客足は従来のようには戻らなかった。

 当時、コロナはアルファやガンマといった変異株が広がり、2社が主要店舗を持つ関西地方の状況はとりわけ深刻となった。高齢者へのワクチン接種が始まったばかりのこの時期、誰も今後の事は見通せなかった。

 しかし、そもそも百貨店はコロナ前から、インバウンド需要で都心の店舗が潤っていたとはいえ、地方都市も含めた、業界全体としては衰退産業と言われていたのだ。コロナ禍で彼らのルネッサンス( 改革と復活) は、更に難航を極める結果となった。2021年決算を発表した2社は、今後の戦略をどのように描いていたのだろう。

髙島屋は内憂外患

 先ずは、高島屋の24年2月期までの「3カ年計画」を見てみよう。

 百貨店ビジネスを「ブランド価値の源泉まちづくりの原点」と位置付け、これらを商業開発や金融など他の事業に波及させるイメージを描いていた、という。24年2月期の数値目標は、営業収益8500億円、営業利益300億円、自己資本比率37.5%。

 営業利益300億円の内訳は、国内百貨店90億円、商業開発100億円、海外百貨店47億円、金融55億円としており、国内百貨店は3分の1以下の水準だ。

独自色なくアパレル頼み

 百貨店の主力商品は、この10年間、売れないと言われ続けているファッションであり、もっと言えば婦人服である。髙島屋は百貨店部門の立て直しのため「取引先のアパレルメーカーと個別に商品の打ち合わせをしている」という。只、具体的な施策として、独自にプライベートブランド(PB)を強化するとか、百貨店特有の「消化仕入れ」を減らして、自社の買い取り商品を増やすのではない。具体的には、アパレルを供給する側の、オンワードが、売場編集のアイデアを売り込んでいると言う話は聞こえて来た。

 しかし、会社資料やオンライン記者会見の説明を聞く限り、髙島屋としての独自色は薄く、アパレルの言いなりになっているだけ、という批判もあった様だ。

 「新たな取引先とデザイナーの開拓」というテーマを掲げたものの、髙島屋のバイヤーの力量では、「これから伸びるブランド」の掘り起こしは難しいのでは、という意見がもっぱらだ。

 食品売場についても「魅力ある品揃えと効率運営の実現により、安定的利益を創出する」「将来的には、構築した売場運営モデルを他の売場に拡大」等と決算資料には書いてあるが、やはり既存事業の立て直しの域を出ていない。

海外も不動産業も

 一方、同社がリスクを取って挑んでいる海外事業を見てみよう。
21年2月期は、タカシマヤシンガポールが15億円の営業利益を確保しており、上海は1億円の赤字、ベトナムが1億円の黒字、タイが9億円の赤字と、まだら模様だ。 

 コロナ禍の影響はもちろんあるが、実は海外はシンガポールを除くとコロナ前から低収益だったのだ。上海は19年には一度、撤退を表明した後一転して、家賃の大幅な削減で継続を決めるなど迷走。家賃の減額でようやく維持できるといったビジネスモデルでは、先行きが心配になるのは筆者だけではあるまい。

 同社は経費削減以外の方策として、金融や商業施設以外の不動産開発を強化するとしている。新規事業に挑戦すること自体は大変重要だが、それだけの人材が髙島屋内部にいるかが問題だ。髙島屋に限らず、主力の衣料品をオンワードやワールドといったアパレル任せで売ってきた百貨店には、自力でビジネスを構築できる人材が十分に育っていないのが実態だ。

 結論として、髙島屋が早急に実現できそうなのは、既存事業の立て直しと、コスト削減だけなのだ。

 百貨店部門の運営コストについては、20年2月期の1903億円から、24年2月期には1686億円に減らす計画だ。リストラや消耗品の削減など、付け焼刃の対応でも容易に達成可能な目標と言ったら、厳しすぎるだろうか。

強気のJ.フロント

 対する青コーナー、大丸松坂屋百貨店を擁するJ.フロントリテイリングはどうだろう。同社も24年2月期の目標を掲げており、営業利益403億円、ROE(株主資本利益率)7%としている。コロナ禍の前の20年2月期の営業利益が402億円なのだから、3カ年でコロナ前の利益水準に回復させようというものだ。

 そして、2031年2月期という中期的な目標も示している。中身は、営業利益800億円と、かなり強気な数字だ。うち60%を百貨店とパルコなどのショッピングセンター事業、残り40%を不動産や金融で稼ぎ出すというものだ。決算資料にはこう書かれている「変革なくして、完全復活なし」。

スクラップ&スクラップ

 子会社であるパルコの営業赤字68億円の中身は、店舗閉鎖損失という特殊要因だ。

 具体的には、閉店が決まった津田沼(2023年2月)と新所沢(2024年2月)の2店舗の後始末にかかる経費である。但しこの2店舗の閉店については、単店での赤字というよりは、もはやリニューアル改装の投資回収が困難という判断から来ている、という。

 親(大丸松坂屋)の金詰りで、子(パルコ)を泣かせる、というと、厳しすぎるかもしれないが。

 両店とも、年間100億以上の売上を計上しており、それでも営業継続が不可能とは、百貨店同様難しい商売なのだろう。

 パルコはコロナ前の2016年から、毎年の様に千葉店、宇都宮店、大津店、熊本店を順番に閉店している。

 因みに千葉パルコの跡地には、31階建てのタワーマンションが2024年春に開業予定だ。大津店は別のデベロッパーが建物を引継ぎ、ショッピングセンターを運営している。熊本だけは、パルコがビルを建て替え、3〜11階は星野リゾートが手がけるホテルが2023年に開業する。パルコは下層階でテナントビジネスを継続するものの、規模は小さく「PARCO」の看板は掲げられない、という。

都心シフトのツケ

 パルコとしては、渋谷や心斎橋など、都心の新しい店舗に注力する考えなのであろう。しかし、コロナの打撃が最も大きかったのは、正にその都心店舗であった。比較的コロナのマイナス影響が少なく、近隣集客で潤った郊外店舗を、このタイミングで閉店せざるを得ない、というのは、中々皮肉な結末だ。叱られるかもしれないが。

 果たして、パルコには、地域の特性に合わせた、店舗運営のノウハウがないのか。それとも経営陣の先見性は、新店開発にばかり注がれ「持続可能性」には、重きを置いていないのか。良くも悪くも、サスティナビリティよりもアバンギャルドがPARCOの社是の様だ。

 地方+郊外店のリストラの内情は、最近閉店が相次いでいる地方百貨店と変わらないのかもしれない。

ECと富裕層シフト

 J.フロントは、髙島屋よりも強くデジタルシフトを打ち出している。ただし、百貨店はどこもインターネット通販(EC)に成功しているとは言えない。デパートの悪癖で、売上高ばかりに目が向き、儲けが確保できていないのだ。ECは、昨年の臨時休業時に、既存のリアル店舗の客が「やむを得ず」利用したものの、既存顧客以外の新たな消費者を取り込んだとは言えない。
大丸松坂屋百貨店は、外商向けの会員制商品サイト「コネスリーニュ」を運営しているが、問題は、このサイト上では「買い物ができない」事だ。専用ダイヤルか電子メール、または各店のゴールドカスタマーデスクに電話で注文する仕組みなのだ。高額品が中心で、そもそも若年層向きではないが。失礼ながら、これでは、大丸東京4階に去年10月にオープンしたショールーミングスペース「明日見世」の二の舞だ。売らない店は買えない店だからだ。

サブスクは諸刃の剣

 若年層向けのサービスとしては、衣料品のサブスクリプション(定額課金)サービス「アナザーアドレス」を2021年3月にスタートさせた。ただ、本来なら百貨店で衣料品を買ってくれたかもしれない消費者を定額課金に誘導してしまうリスクもあり、Z世代の新規客の獲得策としては不十分だ。

 前述の24年2月期の営業利益目標403億円のうち、こうしたデジタル事業は37億円を占める。リアル店舗の売上げを奪うことなく、純粋に外部の消費者を取り込んで、この数字を実現できるのか、については疑問符が付く。

高級時計に薬局

 不動産開発については他社に比べてJ.フロントはその開発力は評価されている様だ。神戸大丸や、上野松坂屋周辺の開発で実績がある。

 2020年11月に名古屋の中心栄( さかえ) にオープンさせた「BINO栄」は栄の交差点にある日本生命栄ビルに入居した形だ。当初は大丸松坂屋の不動産事業部管轄だったが、2020年9月にパルコに移管された。

 地下2階でサカエチカのクリスタル広場に直結しており、土地勘のある人間からしても「一等地」であることに間違いはない。テナントも高級腕時計ブランド、ロレックス、IWC、ウブロが名を連ね、東京銀座と見紛うばかりだ。但し、飲食店は今流行りの「名古屋めし」にこだわりすぎたのか、CoCo壱番屋やコメダ珈琲が同居し、正直違和感を覚える。テナント数が16店舗と少ないのに、軽飲食に加え薬局まであると、雑多な感じは否めない。その雑多感が名古屋なのでは、と言われれば「何をか言わんや」だ。尚、CoCo壱番屋は今年の正月早々に閉店した。

 コロナも収束の兆しが見え始め、百貨店売上の回復基調が明解になりつつある今が、デパート各社の正念場だ。比喩的な表現で恐縮だが「本腰を入れた」のか「付け焼刃」な対応なのか、によって、この後10〜20年の各社の命運が変わって来る。
筆者はそう思う。

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