デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年05月01日号-46
立川高島屋S.C.が「百貨店区画」の営業を終了
2023年1月末で半世紀に及ぶ歴史に幕
高島屋は、4月11日に立川高島屋S.C.の百貨店区画の営業を2023年1月31日で終了すると発表した。1970年に高島屋立川店として開業した同店は、徐々に百貨店区画を縮小する一方、テナント区画を拡大していた。
2018年の大型改装によって10フロアのうち百貨店区画は既に3フロアにまで集約されていた。サイズ感としても、百貨店を三十貨店に縮小したイメージだった。
高島屋は「立川駅周辺の再開発に伴う商環境の変化や、次世代顧客獲得を踏まえ、専門店に特化した商業施設への移行を決めた」という。もはや3フロアでさえ「百貨店の体」を維持できないコトの、言い訳にしか聞こえないのは、筆者だけだろうか。
立川高島屋S.C.は百貨店区画3370坪、テナント区画6044坪の計9414坪の中規模商業施設である。百貨店区画は地下1階の食料品、1階の特選ブティック・化粧品・婦人雑貨、3階の婦人服の3フロアで構成していた。百貨店区画の2021年度の売上高は80億円だった。それ以外は2階も含めテナント区画であり、ニトリ、ユザワヤ、ゴールドジム、ジュンク堂書店など51店舗が営業している。百貨店区画には正社員を含めて約140人が働いており、正社員は配置転換、地域雇用従業員には雇用支援を行う、としている。
立川マーケットは隆盛
JR立川駅周辺には立川高島屋S.C.、伊勢丹立川店、ルミネ立川、グランデュオ立川などの商業施設がしのぎを削っている。またモノレールで2駅しか離れていない再開発エリアには、2014年にIKEA、2015年にららぽーと( 立川立飛) がオープンし、小売の競争は激化していた。高島屋の百貨店区画の撤退により、立川では伊勢丹が唯一の百貨店となる。
本欄で繰り返し報じているが、渋谷、新宿といった「超都心」でも百貨店の「淘汰」が続いており、東京の大動脈である中央沿線一の中核都市である立川といえども、デパートの運営がぎりぎりの状態だったと言うことが、改めて確認できたというコトだ。
吉祥寺や国分寺どころか、新たな商業施設が「ひしめき合う、即ち顧客が潤沢な」立川であっても、デパートという業種の「サバイバル」は難しいというコトなのだ。
来歴と概要
立川高島屋S.C.は、高島屋立川店が百貨店として1970年6月に立川駅前にオープンし、1995年3月に現在の場所に移転。2015年9月に商業開発子会社の東神開発が施設全体の管理を担うこととなった。2018年10月には高島屋立川店を核テナントとする「立川高島屋S.C.」として改装オープンした。1969年に二子玉川という「郊外」で百貨店という業種の新たな「あり方」を体現させてきた東神開発の58年のノウハウをもってしても、百貨店を継続できなかった、というコトなのだ。デパートのルネッサンスを標榜する本紙にとっても、非常に重いニュースとなった。
なお百貨店営業終了後も、同社グループの商業施設であることが、顧客や地域住民に伝わるよう、「立川高島屋S.C.」の名称は継続する、という。
立川高島屋S.C.
所在地:東京都立川市曙町2- 39 - 3
延床面積:3万1121㎡(百貨店1万1141㎡、専門店1万9980㎡)
店舗数:51店舗(高島屋立川店、専門店50店舗)
開業:2018年10月11日
高島屋立川店
売上高:81億5000万円(2022年2月期)
開業:1970年6月5日
従業員数: 1 4 0 人(2022年3月)
百貨店の「生存条件」
立川高島屋S.C.の百貨店区画「高島屋立川店」の営業を2023年1月末で終了する。前述した様に、同店は18年の大規模改装で百貨店区画を10フロア中の3フロアに縮小している。館の主役をニトリ、ユザワヤ、ジュンク堂書店といった専門店区画に明け渡しており、3割の区画を残し、かろうじて百貨店としての「体面」を保ってきたわけだが、マーケットの変化はそれすら許さなかったのだ。
立川高島屋S.C.は2023年秋に専門店「のみ」のショッピングセンターに再改装される。
11日に行われた高島屋の22年2月期決算説明会で、同社の村田社長と並んで登壇した東神開発の倉本社長は、立川高島屋S.C.について「高島屋の所有物件であり、それにふさわしい稼ぎを出さなければならない」と語った。
立川高島屋S.C.の百貨店区画は、地下1階の食品、1階の特選ブティック・化粧品・婦人雑貨、3階の婦人服の3フロアのみだ。他の7フロアは51店舗が入居する専門店区画であり、家賃で稼ぐ不動産事業である。運営主体も高島屋本体ではなく、グループ会社でショッピングセンター運営を担う東神開発だ。約3330坪の百貨店区画の売上高は、もはや80億円にすぎない。隣接する伊勢丹立川店の323億円にだいぶ差をつけられている。コロナによる販売不振が続く中、東神開発倉本社長は「立川に伊勢丹以外の百貨店が必要なのか」という根本的な問いを突きつけられたと、大変素直なコメントを残している。大都市をのぞき「地域二番店は成立しない」というのが近年デパート業界の常識となった。そのエリアで最も売上高を稼ぐ「地域一番店」に人気ブランドが集中し、二番店には回ってこないからだ。ブランド側も一番店にエース級の販売員を送り込む。かつては共存できたが、百貨店マーケット自体の縮小が進んだため、二番店が分け前にあずかれる状況ではなくなっていた。まさに弱肉強食のサバイバルであり、適者生存の「淘汰」が進む構図だ。
立川唯一の百貨店となる 伊勢丹立川店
高島屋は百貨店を核にしながら、併設する専門店で新しい客層も呼び込む、というスタイルを確立した。そして百貨店と専門店のハイブリッド運営において、歴史と実績に裏打ちされた定評を得た。
日本におけるショッピングセンター事業の草分けである玉川高島屋S・Cは古典的な成功事例である。その後も新宿タカシマヤタイムズスクエア、日本橋高島屋S.C.、柏高島屋ステーションモールなどで実績を築いてきた。だが、いずれも「強い百貨店」という核があればこそのハイブリッド運営だったのか、と合点が行く。
百貨店区画を3割だけ残して効率化するという立川高島屋S.C.の4年前の目論見は、結果を見れば失敗に終わった、という結論になる。確かに販管費は削減されたが、縮小された百貨店区画は、ブランドや品ぞろえの魅力に乏しく、集客力が落ちてしまった。効率重視の落とし穴とでも呼ぶべきか。平時ならもう少し延命できたかもしれないが、ことコロナ下の商環境では館全体の競争力の低下を招いてしまったというコトだ。
衣料品売上は20年で3分の1に
本欄でも何度も取り上げているが、元々百貨店の収益の「柱」は、利幅の大きいファッション部門であった。婦人アパレルの落ち込みの激しさも高島屋にとっては大きな誤算となった。
立川高島屋S.C.は百貨店区画として3階に婦人服フロアを設けていた。同フロアの具体的な数字は不明だが、衣料品がコロナ下で大打撃を受けたことは間違いない。日本百貨店協会によると、百貨店における衣料品の売上高は2000年には3兆5476億円だったのに対し2019年には1兆6833億円に大幅ダウン。さらにコロナ後の直近の21年には1兆1664億円となり2000年対比で3分の1にまで落ち込んだ。
コロナ前から不振化していた大手アパレル(オンワード、ワールド、三陽商会)も大幅に売場を削減し、一世を風靡した( この表現自体古いが)レナウンも、あっけなく倒産した。百貨店はもはや自力では婦人服や紳士服の売場を埋められなくなった。そうしたスペースを苦肉の策としてPOPUP催事として運用する光景が、文字通り全国規模で見られるようになってしまったのだ。
富裕層地盤がカギ
本紙1月15日号まで連載されていた「百貨店のさらに恐ろしい未来」でも何度も言及していたが、欧州や米国では、大衆型の百貨店の淘汰が日本以上に進んでいる。低価格主体のショッピングモールの隆盛と、もう一方で高所得の顧客に特化した百貨店へと、急速に2極化が進んだ。
また、本欄で毎号の様に言及しているが、百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングスや、大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ.フロント リテイリングは、富裕層を対象にした外商サービスを強化。ラグジュアリーブランドや時計・宝飾など高額品の品揃えの拡充を事業戦略の柱に据えている。
絶対数としては少ないかもしれないが、馴染みの百貨店で、年間数百万円を使う富裕層( ニューリッチ層) は、着実に増えている。ショッピングセンターやEC=ネット通販等と、実質競合しない富裕層を呼び込むことが、百貨店の現実的な生き残り策になっているのだ。ただし、富裕層の強固な基盤を持てるのは、大都市の大手老舗百貨店に限られるのだ。
立川高島屋S.C.は百貨店区画に「ルイ・ヴィトンやグッチ」を揃えるものの、館全体としてみれば、富裕層を満足させるプレステージ性も、幅広い層にアピールする大衆性も中途半端になっていた。1~3階の下層階のフロアマップを見れば、一目瞭然だ。
立川は商圏としては西東京エリアの中でも、最も肥沃なエリアといえる。周辺の昭島市や国立市などを含め、子育て世代の若いファミリー層も潤沢だ。実際、立川駅周辺のルミネやグランデュオや、少し離れた再開発エリアにはららぽーと立川立飛(2015年)、IKEA立川店(2014年)が開業し、大勢の若者や家族連れでにぎわってはいる。
立川高島屋S.C.は、2023年秋の専門店化リニューアルで、若い世代を呼び込みたいと目論んでいる、という。ありきたりの説教の様で恐縮だが、人気テナントを集めるだけでなく、館としての独自性を高めることが重要だ。
続く閉店ラッシュ
東京都心でも大手百貨店の閉店は相次いでいる。ランダムに列挙する。
新宿
2012年に三越2022年9月には小田急渋谷
2020年に東急東横店
2023年春に東急本店
池袋
2009年に三越
2021年に丸井
銀座
2010年に有楽町西武
2013年に松坂屋
※但し、銀座松坂屋は2017年に「脱百貨店」を掲げGINZA SIXをオープンしており、大丸松坂屋的には広義のリニューアルと呼べるかもしれない。
恵比寿
2021年に三越※因みに三越が閉店した恵比寿ガーデンプレイスの商業棟地下2階には食品スーパー「ライフ」が手掛ける「セントラルスクエア」が本年4月16日に先行オープンしている。
新宿小田急も渋谷の東急も今後は「百貨店」という業種にこだわってはいない様だ。前号まで2号に渡ってお伝えした西武・そごうの「存続」についても、同様の推理が成り立つ。
奇しくも、小田急も東急も生粋の電鉄系百貨店であり(もちろん西武も)失礼な物言いになるかもしれないが、三越伊勢丹や、大丸松坂屋などの呉服屋を発祥とする、老舗デパートとは、事業継承の考え方が、根本的に違っているのかもしれない。
彼らが「百貨店という業種」を選んだのは、都心ターミナル駅前での、当時の集客と利益の「最適解」であったからだ。こと商業だけでも、これだけビジネスの多様性が求められる中で、単純に「デパート」を選ぶ理由は「もはやない」のであろう。
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