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デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年04月01日号-45前編

「そごう・西武」売却はデパート業界を変えてしまうのか?

先ずは、以下の表を見ていただきたい。

百貨店(企業別)売上高ランキング(2020年3月~ 2021年2月)

順位企業名売上高
三越伊勢丹ホールディングス8160億円
髙島屋6808億円
セブン&アイ・ホールディングス( そごう・西武)4191億円
エイチ・ツー・オーリテイリング(阪急阪神)3477億円
J.フロントリテイリング( 大丸松坂屋)3190億円
百貨店(企業別)売上高ランキング(2020年3月~ 2021年2月)

日本の百貨店の売上高ランキング第3位は「そごう・西武」なのだ。三越伊勢丹、髙島屋に続き、売上高で阪急阪神や大丸松坂屋を上回っているのだ。

 その「そごう・西武」が、日本の百貨店業界で生き残れず、ルネッサンス( 再生、復活) も成しえなかった、ということなのだ。少なくとも、本紙デパート新聞では、この事案を重く受け止めており、前回2月15日号に続き、再び題材として取り上げた。

※2021年度は速報値のため2020年度の確定値を記した。

「売却」により、そごうと西武は百貨店ではなくなるのか?

 百貨店事業から撤退を決めたセブン&アイ。そのそごう・西武の1次入札の顔ぶれから判るのは「不動産物件扱い」だということだ。

 3月に入ってやっと、そごう・西武の売却についての続報が入った。

 流通グループ最大手であるセブン&アイ・ホールディングスが2月末に実施した、傘下で百貨店を運営する「そごう・西武」の売却に関する一次入札で、投資ファンド4社が残ったことが判った。

 セブン&アイに売却されるということは、デパートの各店舗は「単なる不動産」として扱われ、切り売りされてしまうのではないか? それどころか、そごうと西武は百貨店という業種業態ではなくなるのかもしれない。この一か月の間、当事者であるそごう・西武の社員、デパート各店の顧客、そしてもちろん我々デパート新聞も、そういう危惧を抱いていた。

 残念ながら、多分その危惧は現実のものとなるのだろう。入札に参加した企業には、他の百貨店の名前はない。例えば阪急阪神の様に、現そごう・西武とエリア的に補完関係にある百貨店が参加していたのであれば、どの店舗も「デパートのまま」営業を継続するのではないか、という「一縷の望み」が残ったのかもしれない。

 もちろん、購読者諸氏は、本欄で「百貨店の淘汰」や「デパート大量閉店時代」的な記事を、読み続けて来られたので、「残ったとしても池袋西武、横浜そごう、後はせいぜい千葉そごうくらいかな」と、既に見当をつけておられるかもしれない。

そごう・西武 店舗別売上高ランキング( 2 0 2 0 年3 月~2021年2月)

順位昨年順位店舗名都道府県売上高昨対比
3位3位西武池袋本店東京都1823億円-0.9%
11位11位そごう横浜店神奈川県1089億円-1.5%
22位23位そごう千葉店千葉県740億円-2.0%
39位42位西武渋谷店東京都432億円-0.7%
47位48位そごう広島店広島県388億円-2.2%
55位55位そごう大宮店埼玉県312億円-5.1%
76位77位西武東戸塚S.C
2020年6月リニューアル
神奈川県197億円-3.5%
91位95位そごう川口店
2021年2月に閉店
埼玉県153億円-3.6%
95位85位西武所沢S.C
2019年11月リニューアル
埼玉県148億円-19.2%
そごう・西武 店舗別売上高ランキング( 2 0 2 0 年3 月~2021年2月)

そごう・西武の売上下位店舗は・・・

 因みに2020年度のそごう・西武の上位3店舗は、西武池袋店(3位1823億)、そごう横浜店(11位1089億)、そごう千葉店(22位7 4 0 億) が占める。2020年度の売上高は3652億であり、グループ全体(4191億)に占める上位3店の割合は87%超となる。

 グループ4位の西武渋谷店以下の売上は400億弱から150億前後であり、全国100位以内は6店舗に過ぎない。特に95位の西武所沢店は2019年末に新たにSC(ショッピングセンター)業態にリニューアルしたばかりである。2020年度の19・2%のマイナスは、これが主要因と思われる。

 もう一つ、91位のそごう川口店は、丁度1年前の2021年2月に、その30年の歴史を閉じている。従って、今現在百貨店の100位以内にはそごう・西武の店舗は9つではなく、8つしか残っていない。

 くどい様だが東戸塚と所沢の西武は純然たるデパートとは呼べない業態である。そごう・西武を巡る、ここ数年の出来事が、すべて売却に向けた「予兆」だったのではと、勘ぐりたくなってくる。
※2月15日号でも触れたが、本紙2020年8月1日+15日合併号にて「百貨店のテナント化」として、所沢と東戸塚の西武百貨店のSC化について記している。『本業である百貨店の自主編成売り場を、4分の1に縮小した西武S.C.は、例え一部マスコミが「ハイブリッド型百貨店」と、もてはやしても、筆者には「もはやデパートとは呼べないのではないか」という思いが強い。』 当時は、ちょっと言い過ぎかな? とも思ったが、今回の「売却」の報に触れて、「やはり」という感慨が強い。

 これはセブン&アイが、百貨店「そごう・西武」の舵取りを間違っていた、という意味ではない。そごう・西武に限らず、どこも地方、郊外の中小規模の百貨店は、業態変換やリニューアルのみならず、閉店という選択肢も含めて、新たな方向性を模索し続けていたのだから。
※2年前の2020年初頭、山形県の老舗百貨店「大沼」が破綻した。これは創業家、地元有力者に加え、怪しい投資ファンドまで介在した結果、全従業員約190人を即日解雇し、320年の歴史にピリオドを打った「事件」だ。筆者は、地方百貨店の閉店として、最悪のパターンの一つとして記憶している。
 さて、本題に戻る。

外資系投資ファンドは救世主かハゲタカか?

 そごう・西武をめぐっては2006年、前身であるミレニアムリテイリングをセブン&アイが2000億円超で子会社化した。しかし百貨店業態の地盤沈下もあり、長期的には最終赤字に陥るなど、不振が続き、未だ回復基調には至っていなかったことは事実である。

 さらに、セブン&アイの発行済み株式4・4%を保有する米投資会社のバリューアクト・キャピタルから、コンビニエンスストア以外の不採算事業の売却を求められるなど「外圧」が高まってもいた。結果として背中を押されたセブン&アイは、そごう・西武の売却に大きく舵を切った。

 関係者によれば、1次入札は2月21日に締め切られ、ゴールドマン・サックスをはじめとする外資系投資銀行や、多数の投資ファンドなどが応札した、という。その結果、米大手投資ファンドの「ブラックストーン・グループ」、「ローン・スター」、「フォートレス・インベストメント・グループ」と米国投資ファンドが続き、加えてシンガポール政府投資公社(GIC)の4社が残り、2次入札に進んだという。

 このうちブラックストーンは、近鉄グループホールディングスから保有ホテル8施設を始め、東京や大阪などの賃貸マンション約220棟を購入という実績がある。また、三越伊勢丹ホールディングスの子会社で賃貸住宅事業を手がける三越伊勢丹不動産を買収するなど、日本における不動産投資には積極的なことで知られる。GICも、西武ホールディングスから「ザ・プリンス パークタワー東京」など、国内ホテルやスキー場など合わせて30の施設を1500億円程度で買収する基本契約を締結するなど、やはり日本で不動産投資を加速させている。

 こうして投資ファンド4社が残ったことで、そごう・西武の「百貨店としての存続」に対し、周辺はその「先行き」を危惧しているわけだ。

 もちろん売却後も、池袋や横浜など、旗艦店に関してはサブリースのような形で百貨店を運営するという道は残っている。但し投資ファンドというのは、「ハゲタカ」等と揶揄される様に、いずれも短期のリターンを求めるのが常であるのは、言うまでもない。当然百貨店を続けても「儲からない= リターンに乏しい」と判断すれば、存続させるつもりなどないのは当然だろう。

 これから前記4社は、資産査定などを行ったうえで2次入札に進む、という。期限は5月中旬としている。夏を待たずに日本の売上高3位の百貨店の「行く末」が決まるのだ。

「売却」の意味は、「百貨店ビジネスの限界」だけに止まらない

 セブン&アイが百貨店事業から撤退したのは、コンビニ事業に集中するためだけ、ではなく、日本の国内市場が「限界」に達していると見たからではないか、という意見もある。

 当初、セブン&アイがそごう・西武の売却を決めたのは、不振が続く百貨店事業を切り離し、コンビニ事業に集中するのが狙いと考えられていた。一企業としてのセブン&アイ単体では、そうした解釈が成立するが、さらに視野を広げると、百貨店という事業形態の終焉と、人口減少に伴う国内市場の限界という、より根源的な問題が見えてくる。

 セブン&アイは2006年に、そごう・西武(当時はミレニアムリテイリング)を約2000億円で買収した。元々「そごう」と「西武」も別々の企業であり、旧そごうグループの経営破綻や西武百貨店の業績低迷などを受けて2004年に経営を統合した。当時は「弱者連合」等と揶揄する論調の記事も目立ったと記憶している。 その後、セブン傘下で本格的な再建を図るはずが、業績は思うように伸びなかった。結果的に、買収当時全国28店舗あったそごう・西武は、不採算店舗の縮小を進め、2020年度には10店舗にまで減少した。これに伴い販売も大幅に縮小し、ピーク時に9700億円だった売上高は4300億に半減した。 それでも新規の設備投資の見送りや、コスト削減を図り何とか営業黒字を確保していたのだ。しかし、コロナ禍の2020年度に遂に赤字転落。完全にグループのお荷物になってしまったことは、前回の特集でも言及している。

 そごう・西武の単位面積当たりの売上高は、本体であるセブンイレブンの半分でしかなく、グループ内スーパーであるイトーヨーカ堂と大差ない水準にまで落ち込んでいる。元々百貨店というのは高コスト体質であり、スーパーと同程度の売上効率では、到底黒字は見込めない。

投資ファンドの狙いは、「立地」だけ?

 セブン&アイが、国内のマーケットに「見切りを付けた」とは言っても、一方で百貨店は駅前など好立地であることから、例え業績が悪くても、今なら買い手は付きやすい、という見方も出来た。元々そごう・西武は、セブン&アイのカリスマ経営者であった鈴木敏文氏が残した「負の遺産」であり、今が事業撤退の最後のチャンスと捉えたのだろう。 セブン&アイは、縮小が続く国内市場全体にも「見切りを付け」、アメリカのコンビニ大手「スピードウェイ」を2兆2000億円で買収するなど、海外事業に軸足を移している最中だ。

 本紙で何度も特集を組んだ様に、百貨店については競合他社も苦戦が続いており、今後もネット通販に主軸が移っていく時代において、もはや存続が難しいとの指摘もある。そごうと西武であるから、ではなく、百貨店という業種そのものに、「将来性がない」という判断をしたのであろう。このため当初から、競合他社が買収する可能性は低く、結果的には「投資ファンド」が名乗りを上げる、との見方が裏付けられた格好だ。投資ファンドは、不採算店舗を閉鎖した上で、好立地の店舗を転売するといった戦略を描いているのではないだろうか。最終的には事業会社がファンドから店舗を買うだろうが、百貨店としての運営は考えてはいないのではないか、と思われる。

 セブン&アイという企業単体で見ると、コンビニ、スーパー、百貨店を抱えるコングロマリット的な業態に限界を感じ、コンビニ事業へ集中する、という見方が大半だ。もう少し視野を広げると、今回の売却は、国内市場が限界に達しており、業界トップといえども、海外に注力しなければ生き残れない、ということの現れなのかもしれない。

 コロナ後は小売業界の再編が加速するとの予想もあり、そうなるとセブンの祖業であるイトーヨーカ堂の今後の展開にまで話が及ぶ可能性も、低くない。ヨーカ堂は創業家のシンボルであり、簡単にリストラ対象にはできないだろうが。セブン& アイの経営陣が、ヨーカ堂の事業縮小に手を付けるタイミングこそが、国内消費市場にとっての一大転換点となるのかもしれない。

(次号へ続く)

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