デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年12月-39

(後編)模索続く百貨店 第二章

「Subscription」

 オミクロンショックのニュースだけで終わってしまうのは、デパート新聞の、そして本欄「ルネッサンス」の本分ではない。年末に引き続き、切磋琢磨する百貨店の動きを伝える。

 2021年12月1日と15日の2号に亘り、百貨店の「新たなトライアル」として、リサイクル、OMO、VRを取り上げて来た。OMOとVRは企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の最前線の動きであり、リサイクルは今や全世界的な潮流である「サステナブル」の流れに沿ったライフシフトの一環である。今回取り上げるサブスクも同じ「持続可能な社会」を体現したビジネスであり。それは、大量生産+大量消費 という、今までファッションを支えて来たビジネススキームが終焉を迎えつつある証拠でもある。モノを購入し所有するという今までノーマルであった「社会常識」が、SDGs(持続可能な開発目標)の洗礼を受け、少しずつだか変わりつつあるのだ。

Subscription

サブスクリプションとは、商品の購入代金やサービスの利用料を毎回請求するのではなく、一定期間利用することができる権利に対して料金を請求するビジネスモデルである。例えば、サブスクリプション型の音楽( A p p l e M u s i c やSpotify)、動画配信( N E T F L I X やHulu)のサービスが知られている。

百貨店もサブスク事業に参入

 J.フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店は、2021年4月から、ファッションのサブスクリプション事業を開始した。同社のサブスクサービス「AnotherADdress(アナザーアドレス)」では、50ブランド数千着の中から、1カ月に3着までレンタルできる。手続きはオンラインで完結し、自宅に商品が配送される。レンタル期間が終了した後、気に入れば商品を割引価格で購入することも可能だ。月額料金は11880円(税込み)で、クリーニング代や配送料なども含まれる。

 税込11880円でマルニやメゾンマルジェラなどのブランドアイテム3着を1ヶ月レンタルできるというサービスは、百貨店業界では初めてのコトである。

 以前は、サブスクリプションのマーケットは、今ほど認知が進んでいなかった。レンタルと言うとビデオやCDを「その都度課金」して「借りる」というシステムであり、サブスクの「使い放題」のイメージとはそもそも異なっていたのだ。ファッションをサブスクで提供するというコトのもう一つの側面は記事の中で担当者も語っているが「服は使い捨てではない」というコンセプトであろう。SDGs、特にサステナブルの考えを色濃く反映させている。

ブランドとの良好な関係を活用

 国内の衣料品サブスク市場では「エアークローゼット」などの新興企業が先行している。同社のサービスは税込み月額7480~14080円で、比較的リーズナブルな女性向けのカジュアル系衣料品を中心に、同時に3~5着をレンタルできる。コロナ禍でも順調に拡大しており、会員数は45万人を突破した、という。

 一方、大丸松坂屋のサブスクでは、扱う商品を小売価格が2万~20万円程度の高価格帯の女性用衣料品に絞っている。長年の百貨店事業で培ってきたアパレルブランドとの関係性を生かし、先行する他社サービスと差別化するためだ。サービス開始時点では、「シーバイクロエ」や「マルニ」など海外の有名ブランドのほか、三陽商会の「エポカ」、TSIホールディングスの「アドーア」など国内の百貨店向け有力ブランドも多く取りそろえた。

 大丸松坂屋がサブスクサービスに参入する背景には、リアル店舗での販売にこだわっている間に、デジタル対応に大きく出遅れてしまったという危機感がある。担当者は「EC(ネット通販)が世間に普及していく流れの中でも、社内は『服は店頭で接客するから売れる』という反EC意識が強かった」と語っている。

デジタル化への遅れが業績を直撃

 コロナ禍の今、デジタル化に遅れた影響は更に顕著に表われている。昨年、2021年2月期の大丸松坂屋の衣料品売上は、前期比32% 減の1733億円に急落。以前から百貨店アパレルの需要が縮小していたところに、リモートワークの定着やECへの顧客流出が追い打ちをかけた格好だ。同社のEC売り上げも成長はしてはいるものの、売上全体の3%程度にすぎない。

 衣料品売上がコロナ前の水準まで回復することが期待できない以上、大丸松坂屋もデジタルの収益チャネルを確立する必要に迫られ、サブスク参入に踏み切ったという構図だ。

 問題は、衣料品サブスクでは、従来の百貨店ビジネスとは異なり、大きな在庫リスクを背負うことになる、という点だ。百貨店の衣料品販売では通常、売上が立った時点で仕入を計上する「消化仕入れ」と呼ばれる独特の取引形態が主流で、アパレルメーカー側が在庫を抱える。店頭接客もメーカーから派遣された販売員が担うなど、販売を「丸投げ」している反面、百貨店側は詳細な顧客データを得られない。それが、自社でマーケティングを進めるネックになっていたのだ。

複数シーズン着られる服を主力に

 今回参入するサブスクでは、前述の様に大量の在庫を抱える必要があるため、大丸松坂屋が商品を完全買取りするというリスクがある。その代わり、顧客データを蓄積できるというメリットも享受できる。

 顧客に利用シーンを聞いたアンケート結果を活用し、同社は新しいサービス・商品の開発や仕入れなどに役立てていく方針だ。商品ラインナップの考え方も、百貨店の売り切りモデルとは使い分ける。

 デザインなどの流行や季節性に左右されるブランド衣料品は通常、1商品当たりのサイクルが非常に短い。そのため「春夏モノ」や「秋冬モノ」などとして正価で販売される期間は4カ月程度にすぎない。その後のセールで売れ残れば、アウトレットや在庫品買い取り業者などに流れていく。サブスクでは返却された商品をクリーニングし、繰り返し貸し出すことにより、1着当たりの使用期間を2~3年と想定する。収益化には保有在庫の回転率をいかに上げられるかが重要になるため、冬しか着ないダウンやウールコートのような季節性の高い商品の仕入れは極力抑え、複数シーズンにまたがって着られるものを主力にしているという。

 また、通常の小売りでは、店頭在庫を切らすことを嫌う百貨店側の要求に応え、アパレルメーカーは必要以上の量を生産したうえで、シーズンが過ぎた余剰品を大量に処分することが常態化していた。そうした商慣行にはSDGsの面からも批判が多く「流行が過ぎたら服は捨てるもの」いう常識を変えていきたい、という。

 サブスクの目標は、5年後に会員数3万人、年間売上高60億円を見込む。もちろん小売りの落ち込みを補うには足りないが、将来的に拡大が予想されるファッション・サブスク市場のノウハウを蓄積していくことを狙っているのだ。

閑話休題

 大丸松坂屋のブランドファッションサブスク事業は、スタートから9ヶ月経過したことになる。只、ちょっとだけ心配なのは、現在アナザーアドレスのホームページから会員登録をしようとすると、以下のメッセージが表示される

会員登録(無料)

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 登録まで3ヶ月近く待ってくれとは・・・好評過ぎて対応が追い付かないのか?もしかして逆に・・・
考え過ぎだ。春物の入荷を待っているのだろう。

 我々もコロナの無い春を待望している。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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