デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年09月15日号-32

8月のコロナ葬送曲

だれも責任を取らない論理的な裏付けのない楽観論

 前号、9月1日号に続き、オリンピック開催後の8月の百貨店を取り巻く状況を時系列で追った。

8/15終戦の日に考える

 例えコロナ禍であっても、終戦記念日は巡って来る。最近目にする各紙のコラムでは、76年前に終結した、先の大戦とコロナ禍を比べる論調が目に付く。曰く「コロナ敗戦」で繰り返される「失敗の本質」、曰く「今更やめられない」が生んだ350万人の悲劇等々。日本の太平洋戦争における犠牲者の数は、300万人とも350万人とも伝えられているが、そのほとんどが戦争末期の1年間に集中している。

 2021年8月15日現在、日本の新型コロナによる累計死亡者数は15402人となっている。

 死者数が1万人を超えたのは4月26日なので、直近4ヶ月弱で5千人の増加という勘定だ。何が言いたいかというと、2020年の最初の緊急事態宣言下では、世界的な流行に歯止めがかからず、「未知のウイルス」ということで、治療法はおろかワクチンもない状態であった。だが今は、重症化予防の切り札であるワクチン接種の総人口に占める割合は、1回接種が50%を上回る所まで来ている。1日当たり100万回の首相公約については、最近は供給不足からあまり喧伝されなくなったものの、着々と集団免疫の獲得に近付いている印象であったのだが・・・ もちろんデルタ株という、より感染力の強い変異株に置き変わり、人間対コロナの戦いは一進一退の攻防となるのは、仕方ないのかもしれないが。

 結果として、秋までにはコロナ禍の終息を見通せる段階に近づいているのでは、という「楽観的な予測」は、真に「楽観的」であったと、今更ながら気づかされた。実は、この様な為政者の無責任と楽観論が、戦争末期に、日本人犠牲者を急増させたのだ。

 各紙のコラムから読み取れたのは、我々日本人の「だれも責任を取らない」+「論理的な裏付けのない楽観論」の体質(習性)は、76年前の終戦から何も変わっていない、ということだ。

 戦争もコロナも、我々国民は文字通り「耐え忍んで」来た。「理不尽さ」に程度やレベルがあるのなら、もちろん今は戦時下とは比べ物にならないのは明白ではある。しかし、お上( 政府) の無策、無作為によって、庶民の生命が脅かされる事態に、事象として大小の差はない。我々は今、あの忌まわしい過去を追体験しているのではないのか、そんな気さえしてくる。

 7月末で全世界の新型コロナ感染症による死者の累計は400万人を超えた。先の大戦での日本人犠牲者の数を上回り、コロナ禍は戦争をも上回る災害となった。驚くべきことに、感染者数も死者数もいくつか小康状態はあったものの、未だにピークを過ぎたとは断言できない状況だ。それは、今日本でも猛威を振るっているデルタ株だけでなく、先日日本でも第一号が確認された、未知のラムダ株の出現など、判っていないことが、まだまだ多いからだ。終戦記念日を過ぎても、コロナとの戦争は容赦なく続く。

8/16緊急事態宣言9月12日まで延長

 政府は16日、新型コロナウイルス感染の急拡大を受け、緊急事態宣言の対象地域に茨城、栃木、群馬、静岡、京都、兵庫、福岡の7府県を追加する方針を固めた。期間は20日から9月12日まで。東京、大阪など6都府県に発令中の宣言も、月末までの期限をこれに合わせて延長。また、宮城など10県に「まん延防止等重点措置」を新たに適用する。17日に専門家らによる分科会に諮った上で正式決定する。

 菅首相は16日、西村担当相ら関係閣僚と首相官邸で協議。この後、記者団に「全国的に過去最大の感染拡大が続く中、宣言や重点措置について17日の分科会にかけることを決定した」と表明した。これにより、宣言は13都府県、重点措置は16道県に拡大。全都道府県の約6割が宣言・重点措置の対象となる。

 一方、全国的な感染拡大を踏まえ、日本医師会などは全国への宣言拡大の検討を求めているが、政府は慎重だ。首相周辺は「全国一律の宣言は考えていない」と断言した。首相は、ワクチン接種の加速化など「国民に影響がないようにするため全力で取り組んでいる」と説明。「目先のことの解決に向けて全力でやるのが私の責務だ」と強調した。

 揚げ足を取るつもりは毛頭ないが、コロナ対策のトップが「目先のこと」しか見ていない、というのには呆れるし、ある意味恐怖を感じる。誰が好き好んで「こんな無責任な船頭が舵を取る船」に乗り続けたいと思うだろうか。「あなたの責務は、感染爆発と医療崩壊を防ぐためにオリパラ中止という英断をすることだった」と改めて言いたい。

8/17ワクチン1回接種全人口の5割超に

 新型コロナウイルスのワクチンを少なくとも1回接種した人は17日までに6399万人余りで、全人口の5割を超えた。政府が18日公表した最新の状況によると、1回目の接種を受けた人は6399万5377人で、全人口の50・3%となった。2回目の接種も終えた人は4935万6133人で38・8%。

8/19大型商業施設に入場制限要請、SCの大半は実施。休業要請は回避

 政府は緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の期限延長と対象地域の拡大に伴い、床面積1000平方メートルを超える大型商業施設に対して、人流を抑制して新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、営業時間短縮の継続とともに、新たに入場制限を要請した。

 7月下旬からの百貨店の食品売り場やファッションビルの一部の従業員の感染拡大を受け、大半の百貨店と一部SCは自主的に入場制限をしてきた。今回の政府の決定により、行政から正式に入場規制が求められることになった。

 但し、百貨店、SC業界が懸念していた国としての休業要請は回避された。

 入場制限の要請は政府が8月17日に改訂した新型コロナ対策に関する「基本的対処方針」に沿って、休業・時短要請と同様、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置対象の都道府県が行う。休業要請については、都道府県の独自の判断で、土・日曜日は行えるようにした。既に沖縄県は大型商業施設に土日の休業を要請した。

 本紙のお膝元である横浜の相鉄ジョイナスや京急上大岡でも社員の職域接種は進んでいる。但し、テナントスタッフやそのFC先、販売代行までは接種が行き渡っておらず、結果として打てる者と打ちたくても打てない者の格差が生じている。この「ワクチンカースト」については、伊勢丹新宿店が取引先の外部社員に対し「自主的にPCR検査を受けるならば、結果判明の2日前から休んで」という「感染防止ルール」が反発を招いている。現場スタッフからは「事実上のPCR検査‶ 阻止令″だ」と、不安の声があがっている。

 どちらの例も「お客様の安全」は置き去りだ。SCでは入場制限について、18日の午後1時時点で「対応を検討中」(三井不動産など)という企業や施設が多いが、検討中の企業を含め、大半が行政の要請に従う方針 だ。

〇イオンモールは従来から入館者数と建物の容積から導いた混雑率を掲示しており、90%を超えると換気強化や入場制限などの対策をとる、としていた。さらに8月8日からは50%に基準を厳格化しており、その運用を継続する、という。

〇ルミネは「館の事情に合わせて、可能な範囲で入館口の数を絞り、混雑時には館として入館を制限する。さらなる入館制限も検討中」という。

〇パルコは既に池袋、渋谷、名古屋、心斎橋の各パルコと東京・上野のパルコヤのホームページで混雑緩和の呼びかけや、混雑時に入館制限を実施する方針などの情報を掲示する、などして対策を取っている。今後、他施設でも同様の対応を行う方針だという。

8/25緊急事態に8道県、重点措置は4県追加 首相が正式決定

 菅首相は25日、新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象に、北海道、宮城、岐阜、愛知、三重、滋賀、岡山、広島の8道県を追加することを正式決定した。宣言に準じた「まん延防止等重点措置」に高知、佐賀、長崎、宮崎の4県を加える。追加地域の宣言・重点措置の期間は27日から9月12日までで、宣言は計21都道府県、重点措置は計12県に拡大される。

 首相は25日の記者会見で「明かりははっきりと見え始めている。9月12日の宣言の期限は、ワクチンの接種状況、重症者の数や病床利用率などを分析し、判断を行っていく」と強調。「その先にはワクチン接種証明書の積極的な活用方法を含め、飲食店利用、旅行、イベントなど日常生活や社会経済活動の回復もしっかり検討する」と述べた。

 首相のこの「明かりははっきりと見え始めている」という楽観発言について、作家の村上春樹氏が、オリンピックの開催前にTOKYOFMで放送された「村上RADIO」のコーナーで取り上げている。「われらが菅義偉首相のお言葉です。彼は7月のオリンピック開会式直前にIOCの総会で、新型コロナに関して、『新型コロナの感染拡大は、世界で一進一退を繰り返していますが、長いトンネルに出口が見え始めています』」と語り、この発言に対し「あのですね…。もし、出口が本当に見えているんだとしたら、菅さんはお年の割に、すごく視力がいいんでしょうね。僕はね、菅さんと同い年だけど、出口なんて全然見えてません。この人、聞く耳はあまり持たないみたいだけど、目だけはいいのかもしれない。あるいは見たいものだけ見ているのかもしれない。どちらでしょうね?」と、皮肉まじりに菅首相を痛烈に批判した。

 村上春樹氏以外に、菅首相の発言を取り上げる人は少ない。国民はだれもこの人の話を「聞いていない」のかもしれない。

無責任な「政権投げ出し」

8/27自民 総裁選9月29日投開票で決定党員・党友の投票も実施

 自民党は、来月末の任期満了に伴う総裁選挙について、9月17日に告示し、29日に投開票を行う日程を決めた。菅総理大臣の総裁としての任期が9月末で満了するのを前に、自民党は、午前の総裁選挙管理委員会の会合に続き、午後には総務会を開き、総裁選挙の日程などを協議した。

 その結果、9月17日告示、29日投開票の日程で、党の規程に基づいて党員投票も実施することを決めた。これにより、今回の総裁選挙は、▽国会議員1人1票の「国会議員票」383票と、▽全国の党員・党友による投票で配分が決まる「党員票」383票の、合わせて766票で争われる見通しだ。

 総裁選挙をめぐっては、菅総理大臣が再選に重ねて意欲を示しているのに対し、去年の総裁選挙にも立候補した岸田前政務調査会長が立候補の意向を固めている。また、高市前総務大臣が立候補に意欲を示している。総裁選挙管理委員会は、今後、公開討論会などの日程について調整を進める。

菅首相「時期が来たら立候補に変わりない」

 菅総理大臣は、視察先で記者団に対し「何回か発言させていただいている。その時期が来たら出馬をさせていただきたいということは申し上げている。それに変わりはない」と述べ、再選への意欲を重ねて示した。

8 /28全国重症初の2000人台新型コロナ

 厚生労働省は27日、新型コロナウイルスによる重症者が全国で2000人になったと発表した。重症者が2000人台となるのは初めて。今春の「第4波」ピーク時に確認された1413人を大きく上回り、15日連続で過去最多を更新した。

 全国では同日、新たに2万4200人の感染が確認された。死者は57人。東京都では4227人の陽性が判明。1週間前と比べて1178人少なく、5日連続で前週の同じ曜日を下回った。死者は30~90代の男女18人で、3日続けて2桁となった。

8/29菅内閣支持率26%最低更新 不支持66%

 毎日新聞と社会調査研究センターは28日、全国世論調査を実施。菅内閣の支持率は26%で、7月17日の前回調査の30%から4ポイント下落した。2020年9月の政権発足以降で初めて30%を切り、最低を更新した。調査方法は異なるが、第2次安倍政権で最も低かった17年7月の支持率と並んだ。不支持率は66%で前回の62%から4ポイント増え、過去最悪となった。

 菅政権の新型コロナウイルス対策を「評価する」と答えた人は14%で、前回(19%)から5ポイント減少し「評価しない」の70%(前回63%)を大幅に下回った。「どちらとも言えない」は16%(同18%)だった。

 日本の医療が崩壊する不安を感じるかとの問いには「不安だ」との回答が70%に上り「不安はない」の15%を大幅に上回った。「どちらとも言えない」は14%だった。感染拡大で患者が急増し、入院できない自宅療 養者が増え、療養中に死亡するケースも相次いでいる。多くの人が不安を感じて当然の常態だ。政府のコロナ対応や医療体制の逼迫が改善されないことへの不満が、内閣支持率低下につながった形だ。

 政府が発令している緊急事態宣言に感染拡大を抑える効果があると思うかとの質問では「効果があると思う」が16%にとどまり「効果があるとは思わない」の64%を大きく下回った。「どちらとも言えない」は20%だった。宣言の対象地域は27日、北海道など8道県が追加されて計21都道府県に拡大した。

 新型コロナの感染がここまで拡大した理由については「行政の責任が重い」は46%で、1月16日の調査の40%から6ポイント増えた。「感染対策を守らない人たちが悪い」は32%(1月調査30%)「新しいウイルス なので仕方ない」は21%(同29%)だった。感染拡大に関して、行政に対する批判が一層強まっていることが窺える。

8/31「世界最低の信頼度」

 コロナ対応の失策により、支持率が急落した菅総理。なぜ彼の言葉は「国民に響かない」のか? その根本原因は、彼の「伝える力の欠如」であることは間違いない。

 デルタ株が猛威を奮う中では、誰が陣頭指揮をとっても厳しい状況に変わりはない。更に、ワクチン接種も、立ち遅れや、異物混入問題等はあるものの、何とか順調に推移しており、接種者も増えている。その一方、国民の不満は爆発的に高まり、菅総理の支持率は20%台に落ち込み、不支持率は66%と非常に高い水準となった。なぜなら、彼の言葉は国民に全く「響かない」からだ。

 専門誌による直近の世界のリーダーの支持率を見ると、アメリカのバイデン大統領は49%、イギリスのジョンソン首相は42%、ドイツのメルケル首相は54%。

 支持率20%台の菅総理は、支持率から不支持率を引いた値が調査対象の13か国の中で一番低く、「世界で最も支持されないリーダー」という不名誉な結果となった。

 国民の不満の根本にあるのは、菅総理への「信頼の欠如」だ。信頼するリーダーであれば、国民も納得し、その声に耳を傾ける。では、なぜ、その信頼を得ることができないのか。

 リーダーシップに必要なのは決断力でも実行力でもなく、最も重要な条件は「関係性を構築する力」だ。いくら決断力や実行力があっても、関係性を築けなければ、強いリーダーシップは発揮できない。

 ハーバードやスタンフォードといった名立たるビジネススクールの研究者らはその論文で「関係性を構築」するにあたって最も求められるのは「相手の感情を理解し、寄り添う力」だと結論づけた。特にポジティブな感情よりネガティブな感情に「気づいてあげる」ことで信頼性は上がる。人の痛みや不安を敏感に感じ取り、理解し、言葉に出すというプロセスが大切なのだ。つまり、この「共感力」の欠如こそが、菅総理の「最大の弱点」と言える。派手なパフォーマンスを好まず、「決断と実行力さえあれば支持は得られる」という考え方は、旧来型の日本の政治家には少なくないが、愚直に言葉少なく( 棒読み+行飛ばし) ても、仕事をすればいいという信念なのか。

 残念ながら、このコロナという未曽有の危機には、そのような考え方は通用しない。国民が望むのは「正面から向き合ってくれるリーダー」なのだ。

 一方的に言いたいことを言うだけで、相手の質問には一切答えない。そういった意味で、菅総理には「傾聴力」が皆無だ。周囲の意見、国民の意見に耳を傾け、チームとしての結束を呼びかけ、推進していくのが真のリーダーの条件だからだ。

 いや、もうこれぐらいにしておこう。日本人は「死者に鞭打つ」事を嫌うから。

9/3菅首相、自民党総裁選不出馬 月末で退任

 菅首相は3日、今月末に予定されていた自民党の総裁選に立候補しないことを表明した。9月末の総裁任期いっぱいで首相を退任する見通しだ。菅首相は同日午後、首相官邸で記者団に対して、総裁選出馬と新型コロナウイルス対策の両立には「莫大なエネルギー」が必要となるため、「新型コロナ対策に専任したい」と、総裁選(9月17日告示、29日投開票)に出馬しない意向を述べた。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続き、菅内閣の支持率は7月、8月と下がり続けた。各地で医療が逼迫し、入院治療が受けられない人が続出する中、8月に入り菅内閣の支持率は30%を割り込み、毎日新聞が8月 28日に実施した世論調査では支持率が26%まで落ち込んだ。

 8月22日には地元・横浜で行われた市長選で、菅氏が後押しした候補が、18万票の大差で野党推薦の候補に敗れた。

 菅氏は同日午前に開かれた自民党の臨時役員会で、総裁選不出馬を伝えた。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く日本では現在、21都府県で9月12日まで緊急事態宣言が発令されている。陽性者は累計152万人を超え、計1万6184人が亡くなっている(9月3日現在)。

 池袋で車を暴走させた「上級国民」ではないが、判決が出たり、辞任をすれば「終わり」ではない。なぜならそこには「犠牲者」がいるからだ。1万6千人の尊い命が失われ、この後も亡くなる方は大勢いる。失業や心の病から自死を選ぶ人も後を絶たない。前任の安倍氏の方針を踏襲しただけの菅首相は、無責任な「政権投げ出し」まで、そっくり模倣したのだ。

 もちろん何も解決した訳ではない。この秋の選挙で我々国民は「強い意思」を示さなければならない。

 デパートのルネッサンスはそれからだ。

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