デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年09月01日号-31

8月のコロナ狂想曲(前編)

五輪後の感染爆発を受け対応に追われる百貨店

臨時休業相次ぐ

 本紙は例年8月15日号を休刊としている。オリンピック開催後の8月、百貨店を取り巻く状況を時系列で追ってみた。

百貨店や大型商業施設の従業員の感染が拡大臨時休業相次ぐ  

 8月に入り、都心の百貨店などで従業員やテナントスタッフの新型コロナウイルス感染に伴う臨時休業が相次いでいる。感染場所が店頭であるとは確認されていないが、各社は臨時休業して消毒作業にあたった。従業員が使う食堂や更衣室、ロッカールームなどでの感染の可能性も踏まえ、大規模なPCR検査も行っている。当該店舗の利用者からは不安の声が上がっており、影響拡大が懸念される。以下、ネットニュースを含め業界を騒がせた事例を列挙する。

8/4ルミネエスト新宿

 7月22日以降、約70人の感染が判明した。家族や友人の感染を機に陽性が判明したケースが多くこれまでテナントごとに休業と消毒を実施してきたが、8月4日に臨時の全館休業に踏み切り、専門業者による一斉消毒を実施した。担当者によると、従業員の感染に伴う自主的な全館休業は初めて。「引き続きお客さまと従業員の安全対策に徹底して取り組む」という。感染経路はスタッフの家庭や友人経由だと判明しており、クラスターではないという。逆に、クラスターでもないのに同一施設で50人以上が感染するというのは、やはり「異常事態」と呼んでよいだろう。

8/5阪神梅田本店

 クラスターが発生し、5日までに計138人の感染を確認。7月31日、8月1日に全館を臨時休業して消毒を行い、感染者数が多い1階と地下1階の食料品売り場は2日以降も休業を続けた。同店は、店頭ではなく従業員が使用する休憩所や食堂での感染の可能性もあるとみて注意喚起を進めている。すでに従業員約2千人にPCR検査を実施しており「検査結果がすべて出揃い販売体制が整うまでは、一部売場での休業を続ける」とした。同店には感染への不安など1千件超の問い合わせがあったという。

8/6伊勢丹新宿店

 7月30日から8月5日まで感染者を計91人確認した。8月6日は、地下1階にある洋菓子や総菜など17店、イートインコーナー6カ所を休業し、一部売場の営業時間を短縮した。現時点で、フロアの閉鎖や全館休業 の予定はないとしている。また、保健所からはクラスターが発生したとの認定は受けていないという。

◆日本一のターミナル駅である新宿は、日本一の人流があるのは事実だ。これだけ感染爆発が広がっていれば、余程の田舎(失礼!)でない限り、安全な場所などない。これまで各自治体が実施していた、積極的疫学調査も、今回の第五波を受け、諦めざるを得ない状況となっている。今や近所のコンビニやスーパーなら大丈夫、とも言っていられないフェーズに踏み込んでいる。セブンイレブン・ジャパンは7月だけで、延べ十数店舗を臨時休業した。

●デパ地下や家電量販店といった「生活必需品売場」が感染危険ゾーンに

 上記3店舗で多数の従業員が新型コロナウイルスに感染していたことが公表されたが、すべての事例が逐一報道されているわけではない。実はコロナの急拡大で、このところ都心の百貨店では毎日のように感染者が出ている。百貨店だけでなく、駅ビルや家電量販店なども含めて、各大型商業施設は連日対応に追われている。都心百貨店のウェブサイトには連日、従業員の感染状況が掲載されている。

8/8身近なところに迫るコロナ

 8月2週目に入り、東京ではデルタ株のまん延により、毎日のように3000~4000人のコロナウイルスへの感染が発表されている。人口が多い東京で、いったい誰がどこで感染しているのかということが、今一つ判らなかったが、こうした百貨店のウェブサイトの連日の報告を見ると、身近なところでコロナが横行していることがわかる。

 とくに百貨店では「食品売場」が要注意ゾーンになっていることに気づく。閉店間際になると、値下げ品を求めて、客が急増する店舗も多い。マスクはしていても従業員の呼び込みの声は大きくなる。緊急事態宣言も、最初のころは緊張感があり、買う側も売る側も言動を抑制気味だったが、発生から1年半が経過し、最近はすっかり平時に戻っているところが多い。しかし、従業員の感染は客にとっても多大なリスクだ。

 百貨店以外でも、多数の客が集まるところで感染者が増えている。例えば家電量販店ビックカメラのサイトを見ると、「新型コロナウイルス感染者の発生について」の報告が連日目白押しだ。

 ヤマダ電機やユニクロなども、全国の店舗で毎日のように感染者が出ている。これらも、サイトで感染概況を確認できる。各社各店とも粛々と事実を報告= 掲載しており、そこには「非常事態宣言下」の切迫した空気はなくなっている。2020年4月15日本紙社主の提言

 1 年4 ヶ月前の2020年4月15日号の号外で、本紙社主は「すべてのデパートは率先して休業すべき時」と主張した。社主は続けて「政府が国民に自粛を求めるのであれば、デパートこそが休業すべき代表的業 種である。デパートは顧客だけでなく、従業員、取引先の安全を最優先しなければならない」と看破した。まさに慧眼であり、今年に入り、政府や自治体が高級ブランドや飲食店を標的にした、上っ面だけの「見せしめ」行政よりも、問題の核心を突いていたことは、言うまでもないだろう。社主の念頭には、常に百貨店の社会的な「存在意義」があることの証左とも言える。さて、身内贔屓は程々にして、本題に戻ろう。

常態化していた「消毒後は平常営業」

 各社の対応の中で、際立つのは前述した阪神百貨店だ。運営するエイチ・ツー・オーリテイリングによると、約2000人にPCR検査を実施したこともあって、( 皮肉なことだが) 感染者数が膨らんだようだ。

 関西テレビの報道によると、エイチ・ツー・オーリテイリングは、「対策を強化していたにもかかわらず、多くの感染者が出たことに驚愕している。換気の強化やPCR検査の実施、科学的な調査などを進め、全館の営業再開に向けて全力で取り組む」としている。

 もしかしたらエアロゾルによる空気感染なのかデルタ株に置き変わってから、感染者増加のスピードは増すばかりだ。

 都内の百貨店では、いままでは感染者が出ると、「当該勤務者の行動を特定し、適切に消毒・清掃を行った上で、翌日は通常通り営業」というところが多かった。かなりのコストをかけ、検温、マスク着用及びアルコール消毒等の感染拡大防止策を講じていたにもかかわらず、なぜ感染者が出たのかという悔しい思いも垣間見える。中には館内の客数を店頭のパネルで常時明示している店舗も見受けられる。しかし、阪神百貨店のように、感染判明後に関係従業員のPCR検査など、さらに詳しい検査をしたら、感染者数がもっと増える可能性もあり、最後は最も避けたかった「休業」に行きついてしまう。

8/9「国は百貨店などに休業要請すべき」

 緊急事態宣言が出ている都府県の知事と西村担当大臣によるテレビ会議で、千葉県の熊谷知事は、県内の感染状況について「感染者数の最多を更新し続けていて、感染爆発で最大限の危機感を持って対応にあたっている」と述べた。

 また千葉県では、重症者用の病床使用率が8日時点で51・9%となっていることを踏まえ「医療提供体制は極めて厳しい状況で、入院調整も困難になってきている」と述べた上で、特に困難となる夜間に、入院先が決まるまで一時的に処置を行ってもらう医療機関の確保に取り組んでいることを説明した。

 会議のあと熊谷知事は休業案内記者団に対し「百貨店などでもクラスターが発生している。休業要請を行うことで直接的なリスクを減らし、人流抑制をする意味もある。首都圏でどこか1つの県だけがやっても意味がなく、国がやってほしい」と述べ、国が大規模商業施設への休業要請をすべき段階だという考えを西村大臣に伝えたことを明らかにした。8/12「人流抑制に更なる強化を」

 新型コロナ分科会の尾身会長は12日、新型コロナウイルスが全国で拡大している状況を受け、「期間限定の緊急事態措置の更なる強化」とする提言を行った。

 尾身会長は「救える命が救えなくなってしまう危機的な事態の回避のため、人々に協力をしていただく必要がある」として、「人流の抑制、接触の機会を抑制する前に、国や自治体はやるべきことをもっと汗をかいてやっていただきたい。それが医療提供体制などの強化・効率化だ。このことは今までも提言してきた」と行政に訴えた。

 その上で「人と人との接触機会が減れば新規の感染者は必ず減る」として、「感染に歯止めをかけるため、2週間で東京都の人と人との接触機会の低減を徹底的にやっていただいて、7月初め、緊急事態宣言の前のレベルの5割にしてほしい」と呼びかけた。具体的には、「百貨店のデパ地下やショッピングモール等の売り場への人出を強力に抑制、テレワークのさらなる強化、外出をなるべくしない、外出をする場合は感染リスクが高い場面を徹底的に回避、県境を越える移動はできるだけ控える」ことなどを例示した。

◆至極ごもっともな発言である。問題は、政府や分化会や自治体の言う事を「真に受ける」人が少なくなっている事ではないだろうか。理由はこれもまた「もっとも」なのだが、この1年半の間に「何度も同じ提言を聞いている。我々は提言を守ったけれど、コロナは一向に収束しない。いつまで我慢すれば良いのか」というのが我々国民の「本音」だ。発せられたメッセージが国民に届かない( 少なくとも届きにくくなっている)、ということだ。これは受け手側である国民が悪いのだろうか?それとも、何度も「これが最後」「ワクチン接種さえ進めば」「自粛してください」と言いながら五輪を開催し、その関係者へのダブルスタンダードを見せつけられ、挙句に重症者以外は自宅で療養しろ、と宣う。

 筆者の様なシロウトであっても1年半の間になぜ病床数を増やせなかったのかと思ったほどだから、大抵の人は「うんざり」し「正直物がバカを見る」という境地に達するのではないだろうか?特にワクチンを打ちたくても未だに何の連絡も来ない「若者」ほど、その思いを強くするのではないだろうか? もし百歩譲って、国民に( 何度目かは判らないけど) 自粛を求めるのであれば、飲食店に謝罪し、ワクチンの遅れを謝罪し、接種時期を明確にし、厚労省や医師会に圧力をかけ、といった、やるべき事をやった後にしてもらいたい。

8/13分科会の提言

 百貨店各社は、12日のコロナ対策分科会の提言を受けて食品フロアの入場規制の準備に取り掛かっている。百貨店の売り場で最も混雑する食品フロアで人流を抑制し、感染拡大を防ぎたい意向だ。早ければ、14日から実施する。

 百貨店をめぐっては、7月末から阪神梅田本店でクラスターが発生して8月19日まで食品フロアが休業となったほか、伊勢丹新宿店でも食品フロアを中心に従業員の感染者が急増していた。大半の百貨店の食品フロアは駅のコンコースと接した地下にあり、最も客数が多いため密ができやすい。

 新型コロナウイルスの国内感染者は、8月12日に過去最多の1万8889人になった。コロナ分科会の尾身茂会長は「東京の人流5割減」を提言するともに、対策の一つとして百貨店食品売場の人出の抑制を求めた。これを受けて日本百貨店協会は12日夜、「業界を挙げて感染防止の実効性を高め、顧客や従業員にとって安心安全な環境整備に努める」とのコメントを発表し、全国の加盟企業に一層の対策を要請した。具体的な実施内容については、13日午後の東京都の発表なども踏まえた上で各社が決定した。

 ある百貨店の関係者は「一部の百貨店で実際に感染拡大してしまった以上、デパ地下の入場制限はお客様と従業員を守るためには仕方ない。感染者が続出すれば、再び休業要請を求められるかもしれず、それだけは避けたい」と話す。

デパ地下入場制限開始

8/14百貨店各社が、デパ地下入場制限開始

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない状況の中、そごう・西武や大丸松坂屋百貨店、高島屋、三越伊勢丹は14日、食品フロアなどで人数制限を開始した。百貨店の混雑が問題となる中、各社とも感染拡大防止に知恵を絞っている。

 百貨店では、阪神梅田本店で7月26日~8月8日、地下1階と1階の食品売り場を中心に従業員計145人が感染。伊勢丹新宿店でも12日までの1週間で53人が感染した。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は12日、東京の「人流5割減」を提言。対策の一つとしてデパートの地下食料品売場を例に挙げ、尾身茂会長は「デパ地下、百貨店の人流を強力に抑制してほしい」と訴えた。

 各社とも更なる感染拡大を防ごうと躍起になっており、阪急うめだ本店では13日、混みやすい午後2~7時は地下の入口を出口専用としエレベーターも停止しないよう設定。経路をエスカレーターに限ることで人流を管理しやすくした。

 三越伊勢丹は狭い場所でのミーティングの禁止や在宅勤務の推奨に加え、昼食休憩は1人で取ることにしたほか、社内の指針を見直し、感染予防効果が高いとされる不織布マスクの使用を「推奨」から「徹底」に改めた。東武百貨店は、食品フロアの入口で担当者が目視で人流を確認しており、池袋本店では食品フロアの職員用休憩室に空気清浄機を設置したほか、従業員用の喫煙所を閉鎖した。

 各社が対策を強化するのは集団感染が発生する危機感に加え、休業という最悪の事態を避けたい思いもある。客数減に悩む百貨店にとって集客効果の高い「デパ地下」は一定の業績が見込める最後の砦。ある大手百貨店幹部は「デパ地下の営業ができればその分売上につながる。お盆休みも開けたい」と話す。別の幹部も「休業要請にまでなると困る」と打ち明ける。

 一方、元から従業員や客数も多い売場だけに、人流の抑制といっても「入店してから売場までの動線は細かく追えない。実際には目視で数えることになる」( 都内の百貨店担当者)という。いつを基準にどの程度ま で人流を抑えるべきか、分科会の提言も踏まえた自治体からの具体的な要請が現時点では示されておらず、実効的な対策を講じるのは容易ではない。

次号に続く

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