デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年03月01日号-20
大丸松坂屋の2021年1月実績から、緊急事態宣言下のマイナス影響を探る

本紙デパート新聞では、毎月1日号の1面に東京地区の百貨店の売上と、大手3大デパートである、三越伊勢丹、髙島屋、大丸松坂屋の概況を掲載している。本欄と合わせてご覧いただきたい。
去年2020年3月から始まった「コロナ禍」も、間もなく丸1年が経過することになる。そんな中で、昨年4月7日に全国に発出された緊急事態宣言が、2021年1月8日に再度発出された。
売上数値を比較する一年前の2020年1月と言えば、まだ日本のマスコミも(世界中のマスコミも同様だが)、中国の武漢で新型コロナウィルスによる感染者が…という、どこか他人ごとの、正に対岸の火事の様なイメージで捉えていた。
それからは、2月3日にダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に到着し、新型コロナを巡って、オリンピック・パラリンピックの延期を挟み、日常と非日常との間の状況のまま、コロナ禍の1年が過ぎようとしている。
従って、1年前の大丸松坂屋の売上は、コロナ影響ほぼゼロの、誰もがごく普通に日常生活を送り、夏のオリンピックの開催を疑いもしていなかった時の売上である。
話を2021年の1月に戻そう。
およそ7か月半ぶりの、2回目の緊急事態宣言の影響により、百貨店各店は再度、大幅な売上マイナスに陥った。もちろん今回は、理不尽な全面休業ではないものの、都心立地の店舗ほど、より深刻な客数減に、見舞われた。
今回の緊急事態宣言は、首都圏一都三県や関西圏、名古屋、福岡等のいわゆる大都市圏に限定されたが、大手百貨店は正にその「大都市」に出店を集中させているので、その被害は甚大だ。以下、最も売上マイナスの大きかった、大丸松坂屋の1月の売上から、概況を整理していく。
全体動向
対12月比 | ||
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全体売上 | ▲35.9% | ▲15.4 ポイント |
全体客数 | ▲36.2% | ▲9.2 ポイント |
全体売上▲35.9%(対12月比で▲15.4ポイント)全体客数▲36.2%(対12月比で▲9.2ポイント)緊急事態宣言影響により前月よりも入店客の更なる減少が見て取れる。
売上マイナスの実額はおよそ178億円と巨額であり、これは後述するが、大手ショッピングセンターである、ルミネ全店の2021年1月売上の合計額(181億)に匹敵する。
梅田・東京などの売上は▲(マイナス)50%を超え、大都市の巨大ターミナル駅店舗の更なる悪化が顕著となった。続いて 札幌▲40.3%、京都▲29.4%、名古屋▲22.8%、神戸▲18.7% という状況。いずれの店舗も客数減が売上減に直結している。
婦人服動向
カテゴリー別では婦人服が▲30.6%だが、基幹店である梅田▲59.0%・東京▲58.1%は、ほぼ6割減の壊滅的なマイナス数値となっている。
但し特選(ハイブランド)では、エルメス、ディオール、セリーヌなど売場面積の拡大による純増部分があり、既存対比でも比較的売上へのマイナス影響は限定的であった。
これは12月からの続く傾向であり、店別動向に関してもハイブランドシェアの高い店舗は、影響が比較的軽微で済んでいる状況がある。一概には言えないが、髙島屋や三越伊勢丹でも同様の傾向が見られ、株高に裏打ちされた、いわゆる富裕層の消費動向は、庶民のそれとは大きく異なる動きで推移している。
この件はまた別の機会に述べたいと思うが、コロナ禍の中で、日経平均株価が30年ぶりに3万円を突破する、というのは、異常事態である。コロナ禍で行き場をなくしたマネーが作り出した株高である、と説明されてもだ。実態経済との乖離がありすぎて、売上マイナスで四苦八苦する我々小売業界の人間には、遠いおとぎの国の出来事であり、「好景気」という実感は当然だがない。
ブランド品売上だけが好調という現象は、デパートマンにとっては「あだ花」である。特選品以外の婦人服、バッグ、靴の売上は、客数マイナスと比例している。当然、福袋やバーゲンによる集客策も、コロナ感染者数の急増に怯えた顧客には響かず、中途半端な結果に終わってしまった。今年度最後の大型売上獲得の山場も、バレンタインも、無為にすぎてしまった。
婦人服以外のアイテム
毎度、この欄で言及する化粧品は、▲57.8%と婦人服以上に大幅減。 ハンドバック▲49.9%婦人靴▲58.9%も、集客に連動したマイナスを記録した。
その他、紳士服飾が▲44.2%と、こちらも婦人服の▲30.6%を上回っている。こちらはリモート出勤の日常化(ニューノーマル)による通勤減→スーツ離れが影響していると思われる。
青山、AOKI、コナカといった大手紳士服チェーンや、ワイシャツのクリーニング激減した結果、白洋舎の店舗撤退のニュースも相次いでいる。都心部ほどその傾向は顕著だ。
美術呉服宝飾が▲17.1%とマイナス幅が少ないのは、ご推察のとおり、前述のハイブランド売上同様、コロナ不況の影響を受けなかった富裕層の消費が、いささかも減退していない事の証左である。
この国には、もはや中流や庶民という階級は存在せず、富裕層と貧困層とに大別される究極の2極化だけが、進行しているのかもしれない。遂に我が国のアメリカナイズ現象も、本家に近付きつつあるのだろうか?
株高を歓迎する投資家と、銀座のクラブ通いが止められず、庶民感覚を逆なでする自民党の政治家だけが、「富裕層」というのでは困る。もちろん百貨店は富裕層だけに特化しては、立ち行かないことも事実だ。
食品
食品は▲33.3%と、これでも全体の1/3が失われている勘定だ。食品に限って言えば、贅沢をいわなければ、近所のスーパー、ディスカウンターでこと足りるし、ネット通販のシェアは右肩上がりである。大手百貨店各社もその知名度を利用して、ネットによる食品宅配に力をいれており、規模としては前年の何倍にも達しているものの、飲食店需要の減った分をデパ地下だけで補うという形には当然なっていない。食品ほど最寄り消費が顕著な商品は他にない、というのがその答えだ。
残念ながら。毎日の様にデパ地下通いをする顧客は元々少数派であり、外出(特に都心への遠出)はだれも奨励していないのが現状だからだ。
1月の週別動向
元旦~三が日・日数対比 | ▲51.1% |
元旦~三が日・同曜日対比 | ▲12.8% |
4~10日 同曜日対比 | ▲32.8% |
11~17日 同曜日対比 | ▲32.7% |
18~24日 同曜日対比 | ▲38.3% |
25~31日 同曜日対比 | ▲22.3% |
大丸松坂屋の全店売上も、1月最終週は月中より10ポイントほど改善している。
政府の当初の目論見の様に、2/7での収束はおろか、新規感染者の顕著な減少には至らず、宣言は3/7まで延長となったものの、1月最終週には、感染者数の増加傾向がピークアウトした感はあった。
それは、栃木県だけ解除というオマケ付きの、緊急事態宣言の延長であった。そうした、更なる感染者数の減少への期待感を反映してか、あるいはバレンタイン商戦を迎え、ブランドのチョコレートを欲する消費動向も加わり、大丸松坂屋の曜日対比も、25日以降はいささか改善の兆しが見られたのだ。
現在、2月も中盤から後半に入り、東京都も全国も、新規感染者数がやや落ち着ついた数字を示し、医療機関逼迫の赤信号である重症者数が減って来たことが大きいだろう。
ワクチンとオリンピック(パラリンピック)
去年12月のクリスマス前の「あれよあれよ」という間に感染者数が増加した時とは、正に逆の心象を後押ししているのは、ワクチン接種開始のニュースも、大きいのかもしれない。
消費動向というのは、消費者の心理的要因に最も左右される。たとえその希望の光が、どんなに小さく、今は遥か彼方にしか見えなくてもだ。たとえ自分達が医療従事者でも、高齢者でも、高齢者施設の職員でもなく、一般人であっても、たとえ我々のワクチン接種が、夏どころか、2021年中に終わるかどうかわからなくてもだ。光が、目標が、あるのとないのとでは、天国と地獄ほどの違いがあるのだ。
それが人間の心理ではないだろうか。だから我々は、為政者に、政府に要望する。我々国民に、小さくても良いから「希望の光」を、どんなに小さくても、カケラでも良いから、見せて欲しいのだ。
だからこそ、たった4ヶ月先に予定されているオリンピックでさえ、開催するかどうか「謎」のままであることが、我々国民は「許せない」のだ。いったい誰の面子なのか、誰のお金のためなのか、皆目判らないが、とにかく、先行きを示してほしいのだ。
大した税金を納めてはいない事を自覚しつつ、それでも決めて欲しいのだ。もちろん今は、オリンピックよりワクチン接種の予定をだが。
2020年度を振り返る
緊急事態宣言で明けた2020年度(2020年4月~2021年3月)は結果的に、再度、緊急事態宣言で幕を降ろす結果となった。
1月13日に宮城、福島で震度6強を観測する地震が発生し、首都圏でも震度4以上の揺れを感じた。その瞬間、当然10年前の東日本大震災を思い出し、パンデミック+自然災害という、最悪のシナリオが頭を過った方も大勢居られたと思う。2011年の大災厄と、2020年のコロナ禍を単純に比較するのは容易ではない。只、10年後のこの国では、人びとは2020年をどんな年として記憶しているのであろうか。「あの時は大変だったね、コロナで」だろうか。
ワクチン接種の始まったニュースを受けても、未だオリンピック開催の予測もたたず、制限された生活を強いられる現在。元の日常を取り戻せるのか、新しい日常に順応していくしかないのか?
それさえ定かではなく、先行き不安は解消されないままだ。
旅行やライブやカラオケや飲み会に行ける「本当の日常」、来日観光客が歌舞伎町や銀座や道頓堀や北海道に戻って来て、都心のデパートが再びインバウンドの恩恵を受ける日。百貨店業界、特に都心比率の高い大手百貨店グループは、その日の再来を只々待っている、いや夢見ているのだ。
ほとんどの日本人が、ほぼ初めて経験する「パンデミック」。その終わりを予測するのは、専門家であっても非常に難しい様だ。只言えるのは、来年の今頃は、今現在よりは大分「戻った」感を実感できる状況になっていてほしいということだ。このぐらいの極々「控えめな」夢だけは、見続けたい。それが無いと、ディスタンスを保ったままの生活は辛く、空しすぎるのではないだろうか。
もちろん、通勤から解放されて、上司の顔色や職場の空気を読まなくて良くなり、行きたくもない飲み会に参加しないで良くなった。と現在の状況を謳歌している人も、大勢いるらしい。人は皆、人それぞれなのだ。2019年までの「日常」を懐かしみ、そこへの回帰を熱望する人もいれば、ニューノーマルの到来を歓迎し、もう元の日常には戻れない人もいる。
「多様性」とは、その両者を認め、尊重することではないだろうか。
2060年の百貨店
ロボットSFで有名なアイザック・アシモフの未来SFでは、宇宙に進出した人類は、機械に労働のすべてを任せるうちに、やがて個々人同士が、共同で働くことがなくなる。
そして、人と人との距離を取るうちに、対人恐怖症となり、他人とは何キロもの距離を隔てて生活する様になる…という究極のソーシャルディスタンス社会が実現した未来世界を描いている。
労働も生殖も必要なくなった世界では人と人とのコミュニケーションも不要になり…という、これからの近未来を予測している様でもある。
これが、60年以上も前に書かれたとは思えない。作者アシモフのイマジネーションの鋭さに、驚くばかりだ。
何々?SFの様な遥かな未来ではなく、ここ数年先の百貨店の行く末が心配だと、おっしゃる。
至極ごもっともなご意見だが、それでは20年いや10年前に、賢明なる読者諸氏は、パンデミックにより海外渡航が出来なくなる世界や、電車通勤を止めてリモートで働き、必要な買物は百貨店や店舗に行かず、ネット通販や宅配便で済ませてしまう、という今の日本の現状を予測していたのだろうか?
もしそうであれば、今、貴殿は本紙を読んでいる場合ではない。GAFAか、それが無理でもヤフーや楽天やメルカリに、あるいはウーバーイーツの配達員に転職すべきだ。もしあなたがビジネスパーソンなら、少なくともそれらの企業と取引するか、あるいは投資すべきだったのだ。それも10年前に。
SF小説は常に、もちろん正確にではないが、おおまかな未来は予見している。それは宇宙旅行やサイボーグという古典的な分野だけでなく、今は誰もが身近になった、パソコンやスマートフォンを例にとるまでもなく。
例えば、バーチャル技術を使ったリモート接客も既に現実化している。もちろんそれが、進化していくのか、廃れてしまうのか、違った形に生まれ変わるのか、それはわからないが…
以前にも触れたかもしれないが、百貨店という販売形態は実に100年以上も続いて来た。大げさに言うと「奇跡」の様な商売だ。只それが、10~20年後、あるいは30年「未来」の2060年には、この世に存在しているのだろうか。
いや、存続させるのが、我々デパート新聞のミッション( 使命) である。
一つ残念なことは、多分あと30 年も筆者の寿命が持たないことだ。無念だが仕方がない。
付録 ルミネの1月実績
前年比 | |
---|---|
ルミネ大宮店 | ▲33.2% |
池袋店 | ▲41.5% |
有楽町店 | ▲46.3% |
新宿店 | ▲45.7% |
立川店 | ▲28.8% |
横浜店 | ▲41.9% |
北千住店 | ▲28.8% |
百貨店ほどではないものの、有楽町(銀座)、新宿といった、「百貨店の本拠地」ほど、売上マイナスが大きい。
因みに池袋パルコも▲45.8%と、新宿ルミネと同水準だった。
準郊外の立川と、都心の外れ北千住は30%弱の影響で済んでいる。地方都市の大宮も同様だ。客層が百貨店に比べて「若い」こともマイナスの少ない要因と言える。

デパート新聞編集長
連載 デパートのルネッサンスはどこにある?
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- デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年4月01日号-第112回パルコが消え、百貨店も消えた「松本」(前編)
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