デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年02月15日号-19
「GINZA SIXで大量閉店」のニュースは本当なのか
百貨店に関する報道で、気になる記事があったので取り上げたい。
先ずは以下のニュースをご覧いただきたい
銀座最大級の商業施設「G I N Z A S I X(ギンザ シックス/東京都中央区)」で1月17日、飲食店、アパレルショップ、コスメブランドなどのテナント14店舗が閉店した。2020年12月27日以降での閉店は計18店舗になる。
GINZA SIX17年4月にオープンした銀座地区最大の複合商業施設。松坂屋銀座店の跡地を利用しており、オープン当初は241店舗が入居していた。
1月19日の「改装のお知らせ」によると、昨年末に2店舗、21年1月10日に2店舗、1月17日に14店舗が閉店している。なお、20年12月24日にホテルショコラが開店しており、1月下旬には新店舗のオープン情報も出るとのこと。
同施設は、森ビル、大丸松坂屋百貨店、住友商事、Lキャタルトンリアルエステートが共同出資した「GINZA SIXリテールマネジメント」が運営している。森ビルのみ20年2月29日で共同運営業務を終了していた。
●銀座最大級の商業施設「GINZA SIX」で大量閉店
1月17日に14店舗が一斉撤退(2021年1月19日)
【追随する続報を見ると】
計20店舗のクローズを受けて、SNS上では「びっくり。コロナで打撃を受けたのか」「賃料が高そうだから仕方がない」といった声があがり、1月 19日にTwitterでトレンド入りするなど話題を集めている。
今回の大量閉店についてギンザシックスの広報担当者は「次のステージへ向けた新たな挑戦として、開業から4年が経過した段階で想定していたリニューアル計画。コロナ禍とは関係ない」と説明。新たに入居する40店舗の詳細は1月26日に発表する予定だという。
●「GINZA SIX」テナント大量閉店に驚き
広がる 「松坂屋が懐かしい」の声も(2021年1月20日)
こうした知らせを受け、ネット上では
「GINZA SIX、テナント大量閉店かぁ迂闊に行けなくなった今ではあまり関係ないけど悲しいな」
「開店した当時は、百貨店の新しいビジネスモデルみたいに持ち上げられてたのにね」
「今までのデパートと違って物凄い高級感は漂ってるんだけど店の中が物凄くギラギラしてるから正直店に入りづらい印象は持った」
など、寂しさをにじませつつも、ある程度テナントの入れ替わりを予想していたとするコメントが目立つ。
また、「GINZA SIX」の前身である「松坂屋銀座店」を懐かしむ声も多い。
「銀座は松坂屋、松屋、三越がやっぱりいいな」
「SIX、松坂屋のままでよかったのかなって思ってしまうよね」
「銀座松坂屋は私のほしいものだいたい揃ってたからすごく重宝してたんだよなぁ三越より庶民的なデパートというか」
「近所のOLとしては、松坂屋が懐かしい。500円弁当とか、ストッキングが伝線した時とか、会社の備品とか気軽に買いに行けたし」
「懐古厨(*)だからGINZA SIXは松坂屋に戻して欲しい
あの古き良きデパートが良いんじゃ…」
*筆者注:昔の方が良かったというような言葉を繰り返す人を指すネット上の俗語
一等地にありながらふらっと立ち寄ることができた雰囲気を恋しがる、かつての松坂屋ユーザーの声が多く投稿されている。
翌日には反論する発信もされたが
下記の通り、店舗のOPEN・CLOSE情報をお知らせいたします。GINZA SIXではオープンから4年となる今春に向け、初の大規模リニューアルを準備してまいりました。いよいよこの春より、新店舗が順次オープンいたします。
●GINZA SIXのお知らせ(2021年1月21日)
今後も施設の体験価値向上に努めてまいります。1月26日(火)に約40の新店舗情報を一斉に公開いたします。ぜひご期待くださいませ。
※筆者注具体的店舗名はGINZA SIXのHPをご確認ください
どうだろう、あくまで筆者の印象だか、特に後半の「SNSの声」とやらは、大半が「元々関係ない」人の意見ではないのか。
GINZA SIXには行ったけど、結局高すぎて買えなかった、とか。元々、中国人観光客向けのビルで、「私たち日本人=庶民」には関係ない、とか。果ては「昔の松坂屋の方が良かった」とは・・・。
ネットの意見であるから、少なからず人びとの「本音」が含まれていることは否定しないが、それにしても、一体どんな人の意見だろう。全体的に「ひがみっぽい」印象を受ける。極端に言えば「ざまぁみろ」と言わんばかりの、むき出しの負の感情を感じる。もちろん、好意的な意見を載せても、SNS内では誰も「喜ばない」のも、また事実である。夕刊紙や週刊誌がテレビのワイドショーになり、今はSNS上のネットニュースに変遷しても、「他人の不幸は蜜の味」というゴシップ記事の「大原則」だけは健在の様だ。
記事では、かつての松坂屋ユーザーの声が多く投稿されている。としているが、そんな声だけを拾ってコピペしている、というのが実態ではないのか。負の意見だけを、「人びとの声」としてライターの思惑を代弁させているのだ。旅行業も飲食店も大変だが、高級デパートも苦労してるね、とはならないらしい。
残念ながら、ここでメディア論、マスコミ論を取り上げる紙面はないので、これくらいにしておく。機会があれば再考し、紙面を割きたいと思う。
ネガティブ報道の罪
そもそも241店舗の中で14店舗なら、5.83%であり、1割の半分強ではないか。この数字で「大量閉店」というのは、あまりに過大な表現だ。どの商業施設でも毎年10~20%のテナントの入れ替、店舗のリニューアルは極々普通のことだ。計画的に改装しているからこそ、一斉撤退し、一斉にオープンするのだ。改装をせずに陳腐化している百貨店=ショッピングセンターの方が余程「先行きが危ない」、と言える。
コロナを原因とした、百貨店を含む小売~商業施設の不振は確かに顕在化している。倒産したレナウンは言うまでもなく、大手アパレルのワールド、樫山の大量閉店のニュースが、人びとの記憶に新しいことも否定できない。主力のファッションテナントが撤退し、食物販やサービス業種を導入する商業施設も少なくない。これは事実だ。だからと言って、コロナ禍→インバウンド客の激減→銀座の街が閑散→GINZA SIX大量閉店、とは、あまりに短絡的な記事である。シロウト記者による「ミスリード」と言われても、反論できない、正直お粗末なレベルだ。
マスコミによる「マッチポンプ」とはこのことだが、1週間後に以下のニュースがリリースされた
GINZA SIX(ギンザ シックス/東京都中央区)で今春、初の大規模リニューアルが行われる。1月26日、新たにオープンする約40店舗の情報が公開された。
開業4周年にあわせた試みで、新たに「グッチウォッチ&ジュエリー」「THE ROW」などの高級ブランドや「HOORSENBUHS」「DEVIALET」「LaBoutique Guerlain」など8店舗の旗艦店が出店する。
〇「閉店は契約に基づくもの」GINZA SIXが大規模リニューアル40以上の新規店が順次オープン(2021年1月26日)
同施設では昨年末から1月24日までに26 店舗(期間限定店含む)が閉店している。運営元のGINZA SIXリテールマネジメントに問い合わせたところ、今後も複数の店舗が閉店して入れ替わるほか、区画の見直しも行われるとのこと。
閉店理由については「GINZA SIXは百貨店と異なり、商業施設のため、各店舗様とは一定の期間で契約をしています。今回の閉店は契約に基づくものであり、開業から4年が経過した段階での想定されたリニューアルです」「日々の来館者数や売上については、当然コロナ禍の影響がございますが、各店舗様とのお取組みは、中長期的な視野に立ったものであり、短期的な売上で出退店を決定するわけではありません」との回答があった。
同社の竹原幹人社長は「昨年は、ビジネス環境やお客様の生活様式が大きく変化した1年でした。一方で、開業以来、特に20~40才代のお客様を中心にご支持をいただき、ハイクオリティー、高感度のものが好まれる等、施設の特徴がより明確になり、更なる成長の機会を感じております」とコメントしている。2017年4月以来、“想定を上回る業績で推移”してきたという。
百貨店と異なる、商業施設の契約とは
さて、ここまで読んでいただき、だいたいの経緯はご理解いただけたと思う。GINZA SIXの閉店情報を、伝える側であるマスコミを「ミスリード」と断じたが、発信するSC側のスタンスにも、首をひねる箇所があった。ここは公平に見て行こう。
GINZA SIXは「短期的な売上で出退店を決定するわけではありません」としているが、もちろん「短期的な売上のダウン」が原因で退店を決めることは、往々にしてある。売上の低迷から「日本一高い」賃料を払い続けることが出来なくなって、撤退したテナントが26店舗あったことは、事実である。
逆にもしも、「百貨店と異なり、商業施設のため、各店舗様とは一定の期間で契約をしています」だけが、閉店の理由だとすれば、売上悪化を理由に、テナントは退店の申し出をしたものの、契約を盾にされ、いやいや営業を続けざるを得ない、とも読み取れる。
「コロナ影響による大量閉店」を、否定したいために、「契約があるからテナントは簡単には辞められない」というのは、ビル側のスタンスが問われる。テナントと顧客の声を聞いていない「不動産屋」発想だからだ。
失礼、不動産業を揶揄する意図は毛頭ないが、少なくともデパートマンのビジネススタンスではない。
運営会社であるGINZA SIXリテールマネジメントに共同出資した、森ビル(は既に降りているが)、大丸松坂屋百貨店、住友商事、Lキャタルトンリアルエステートの中で、百貨店母体である「大丸松坂屋」の力は、余り強くないのでは、と感じる。考えすぎだろうか。
銀座の百貨店というニュースバリュー
GINZA SIXによると、代わりの出店者は既に予定されている、という。これはやはり、銀座の一等地だから、であるし、コロナ第三波による2度目の緊急事態宣言下で、この告知を出せる「強み」が、銀座の街にはまだまだ残っているからだ。
コロナ禍により、日本一の繁華街であった、新宿や銀座のデパートは、最も大きなマイナスを負ったことは、衆目の一致するところである。都心回避(都心でのショッピングを避ける心理)とそれに呼応する郊外の再評価が、コロナにより進行したことは否めない。が、「日本の国の一等地」である「銀座」が、このまま衰退する、と予想する人が居られるなら、是非ご意見を拝聴したい。
EC(ネット通販)やリモートワークの加速度的な普及を「コロナの副産物」と呼ぶと、叱責を受けるかも知れないが、少なくともこの令和の時代、2020年が、小売=商業(施設)の大きな転換点になったことは否めない。
だからと言って、都心を拠点に商売を続ける百貨店やSCが、すぐに小売の最前線から「退場」するわけではない。その様な印象を植え付け様とする報道はフェアではない。マスコミの一員、いや失礼「端くれ」としても心外だ。今後も「端くれ」として、たとえ声は小さくとも、正して行くべきは正して行きたい。少なくとも本紙は、「デパートの業界紙」として、引き続き、公平な「報道」を心掛けて行きたい。
もちろん、地方で奮闘する百貨店に対しては、都心の大手百貨店よりも、少しだけ「肩入れ」する立ち位置であることは、おことわりしておく。
閑話休題
もし、「大量閉店」の記事から、得るものがあるとすれば、GINZASIXの地下一階の化粧品フロアはどう変わるのだろう、 ということではないだろうか。
以下、地下の閉店店舗SABON/SHISEIDO/shuuemura/HACCI/john masters organics Select/LIVINGNATURE organicsいずれも、大手百貨店に出店する、有名な化粧品ブランドが撤退店舗として列挙されている。
本紙でもコロナ影響で多大な影響があった業種として、ツアー旅行、飲食店に次いで「化粧品」を挙げて来た。ファッションアパレル同様、インバウンドマイナスもさることながら、百貨店では対面接客でのタッチアップ(お試し)を控えたことによる化粧品の顧客減が大きい。1月15日号でも触れたが、マスク生活へのシフトにより、口紅はほとんど売れなくなってしまった。そんなニューノーマルを反映し、化粧品テナント6店舗の入れ替えは、それに対応したリニューアルだと推測できる。
いずれにしても、4月になれば新規導入予定の店舗も出揃うとのことだ。
前述した様に、筆者もマスコミの「端くれ」として、自戒も含めて記したつもりだ。新しい百貨店、商業施設の可能性を追求する、GINZASIXに期待したい。さて、リニューアル後のGINZA SIXを見て、件の記事を書いたライターや、「松坂屋が懐かしい」と投稿した自称「顧客」は何と言うのだろう。もちろん、その時には、自身が発信したことも、覚えてないかもしれない、元々何の興味もなかったのだから。
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