デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年02月01日号-18

2020年の百貨店売上、45 年ぶりの低水準、新型コロナ影響で

 日本百貨店協会が1月22日発表した2020年の全国百貨店売上高は、4兆2000億円まで激減し1975年(4兆651億円)以来45年ぶりの低水準に落ち込んだことが分かった。2019年(5兆7547億円)に比べ2割超、実額で1兆億円以上のマイナスとなり、減少幅は過去最大となった。 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、デパート各社とも、昨年の春先(4~5月)に多くの店舗で臨時休業を余儀なくされたことが影響した。コロナ収束は依然見通せず、厳しい経営環境が続いている。

 同協会によると、20年の売上高は4月に前年同月比72%減、5月も65%減となるなど、1月から12月まで一度も前年実績を上回ることなく推移した。

 関係者によると、年末商戦を迎えた12月は、各社とも巣ごもり消費を取り込もうと、食品やおせちの販売を強化し、福袋の販売を前倒しするなど、てこ入れを行ったものの、コロナの感染再拡大を受け苦戦を強いられた。

 百貨店の売上高は、ピーク1991年に9兆7130億円に達した。その後は流行のデザインをいち早く安価で提供するファストファッションの台頭や、EC(インターネット通販)の普及に押され年々減少。リーマン・ショック後の2009年には6兆円台まで減り、2016年以降は5兆円台で推移していた。

デパートの一人負け

 コロナ禍は、休業による売上高の減少だけでなく、在宅勤務=リモートワークの浸透や「都心回避」志向の高まりを受け、家の近くで買い物を済ませるといった、消費者の行動変化をもたらした。中心顧客であった中高年層は都心店舗から遠ざかり、“稼ぎ頭”だった大都市立地の基幹店の業績回復は、未だ見通せない状況だ。因みに、それまで大手百貨店が“頼みの綱”としていたインバウンドによる免税総売上高(加盟89店)も80.2%減の686億円と、激減した。

 商品別では全品目がマイナスとなった。ただ、生鮮食品をはじめとする食料品(15.9%減)や家庭用品(21.0%減)など、いわゆる“巣ごもり”需要に関連する品目は、比較的下げ幅が小さかった。
衣料品は外出着からインナーウェアも含めた日常着へ、需要が移行するなどし、31.1%減となった。
もちろんこの数値は、コロナとは無関係に進行していた、ファストファッションの台頭によるマイナスも含めてだが。

量販店では

 一方、日本チェーンストア協会が発表した2020年の全国スーパー売上高( 既存店ベース) は0.9 % 増と2015年以来5年ぶりのプラスとなった。
全国スーパーマーケット協会など業界3団体が発表した2020年の全国の食品スーパー売上高も既存店ベースで5%増となり、2016年以来4年ぶりの前年超えとなった。コロナ禍の巣ごもり需要で、家で調理し食事する内食化が進み、結果スーパーでの食料品販売は堅調に推移した結果だ。

 コロナ禍が生んだ、百貨店(都心、インバウンド需要) →スーパー( 郊外、巣ごもり需要)の構造変化により、小売関係者の誰も予測しえなかった、デパートとスーパーの逆転現象が現出した。残念ながら、元々インバウンドの恩恵を受けていない、地方百貨店は除く。

 もちろん現象としては、ECや「ウーバーイーツや出前館」に代表されるフードデリバリーの台頭も忘れてはならないが、リアル店舗の「地殻変動」の大きさは特筆しておきたい。

 次に、全国の百貨店に45年ぶりの低水準をもたらした「コロナ禍」の見通しは、と言うと。

緊急事態宣言が2月7日で収束しない理由

神奈川県

『神奈川県、濃厚接触者の追跡を見直し「市中感染広がり意味ない」』
少し前になるが、1月8日の夕方のニュースの見出しだ。

 神奈川県が、新型コロナの濃厚接触者などの調査を見直すと発表した。

 これまでは原則、すべての感染者について、保健所が感染経路などをたどる「積極的疫学調査」を行って来たが、今後は、リスクの高い医療機関や高齢者施設などに調査対象を絞り、市中での感染は原則、追跡を取りやめる、という。

 理由について県の担当者は、「保健所の負担軽減」に加え、「市中感染が広がり、濃厚接触者の追跡などに意味がなくなってきている」ことをあげている。

 このニュースは、今まで、最も効果的とされてきた、いわゆる「クラスター潰し」が、ここまで市中感染が広がってしまっては、もはや意味が無いので、止める、というコトの様だ。逆に言えば感染経路をたどって、次のクラスターへの連鎖を防ぐことが、もはや不可能なレベルまで、感染が蔓延してしまった証拠である。

 有名な東京都のクラスター対策班は、昨年4~5月の第一波の時には効果を上げたものの、半年後の第三波の(爆発的な感染拡大)のフェーズでは「もはや手遅れ」というコトだろう。

 因みに、東京都で3日連続で新規感染者数が2000人を突破した1月9日に、神奈川県でこれまでで最多となる999人を記録した。市中感染に歯止めが掛からないという、前日のニュースを裏付けてしまった形だ。神奈川県民というか横浜市民はこの結果に、全国で東京に次ぐ大都市は、名古屋でも大阪でもなく、やっぱり横浜だったと溜飲を下げたのでは、と言ったら叱責されるだろうか。

 今回の緊急事態宣言再発出で、本当に新型コロナの感染拡大は食い止められるのか、皆が皆不安に思っている、その背景を考えたい。

 今の段階で発表されている宣言の内容を見ると、前回と比べ、営業制限は飲食店中心となり、映画館や劇場、ホテルなどは制限対象から外した。また前回と違い、学校の一斉休校もない。メディアに登場する専門家の意見を見ると、まさに賛否両論で、実効性に関して悲観的な指摘も目立つ。当然と言えば当然だが、シロウト目にもそう映る。

社会実験

 最初に指摘すべきは「先行して緊急事態に突入した北海道、大阪では、すでに新型コロナの新規感染者数は減少に転じている」ということだ。北海道と大阪の対応は、それぞれ一定の効果があった、とみるべきだろう。もちろんこの地域限定の「封じ込め」が一定の効果を示したことにより、年明けの菅内閣による「限定的な非常事態宣言」に、過剰な“お墨付”を与えてしまった可能性も考えられる。結果論ではないが、今現在、それが奏功したとは、お世辞にも言えない状況が続いている。とにかく、昨年末の北海道と大阪の「社会実験」を振り返ってみよう。

北海道

 北海道の札幌市と旭川市で新型コロナが急増し、医療崩壊が起き始めたというニュースが広がったのが2020年11月中旬。大阪でも同じ時期に感染が急増した。そして11月24日には札幌市と大阪市がGoToトラベルの対象から外れることとなった。

 札幌のすすきのエリアでは営業制限が徹底され、年末の夜の街から明かりが消えたが、その自粛効果は意外と早く現れた。北海道の新規感染者数は11 月20日の304人をピークに、漸減し、1月5日には79人まで減少した。これは人口100万人あたりでいえば、15人に過ぎない。

 当時の人口100万人当たりで県別に比較してみると、東京が92人と突出しており、神奈川68人、埼玉50人、千葉42人と続く。愛知(名古屋周辺)、大阪、兵庫、京都、福岡、そして沖縄でも100万人あたりの感染者は40人前後なので、それらの都府県と比較して北海道の感染爆発はすでに収束に向かった、とみられる。

 何が言いたいかというと、今後も緊急事態宣言によって、「夜の街」での感染がなくなることで一定の効果は得られるということだ。人々の意識が高まり、自粛やリモートワークが広まった上で、手洗いの励行が徹底されれば、コロナ第三波は冬場でも収束に向かう希望は持てるということだ。

大阪

 しかし、同じ先行自粛組である大阪の減少状況には、問題がある。大阪も新規感染者数のピークは11月22日の490人で、そこから吉村知事が医療非常事態宣言を出す中で、1週ごとに減少に転じ、年末には1日の新規感染者数が300人前後という水準まで落ちてきた。

 但し、減少ペースは北海道と比較すれば明らかに鈍く、しかも正月明けの1月4日からは新規感染者が再び増加に転じた。そして新規感染者数が減少しても、大阪のような緩やかなペースだと、病床数は逆に逼迫。実際、直近の大阪府のコロナ重傷者数は171人と、過去最多を記録した。

 この辺りのメカニズムは、「8割おじさん」こと京都大学の西浦博教授のシミュレーションにより構造が理解できる。西浦教授によれば、前回の緊急事態宣言では、人と人との接触を8割減らすことで、実効再生産数を0.6以下に減らすことができた。

 大阪府の場合、2週間で2割減のペースであり、これは実効再生産数0.8辺りの水準だ。これだと減少ペースが遅いため、状況が少し変わるだけで、再度感染増加に転じる水準だ。
※実効再生産数とは、1人の陽性者が何人にコロナを“うつす”のかを示す数字で、1よりも高ければ感染は拡大し、1を下回れば感染は減る。ただ、着実に収束させるには、0.6くらいの水準に抑え込まなければならない。

結論

 では、北海道と大阪は何が違ったのかというと、1つは、大阪では新型コロナの感染者数が同様に多い、隣県の京都や兵庫との“人の行き来”を、制限できなかったこと。そしてもう1つは、北海道では当然だが、冬の外出が少ない、という地域特性がある、という点だ。
こうしたことが、GoToが諸悪の根源と言われる証左ではないだろうか。

今回の緊急事態宣言のウィークポイント

 以上を踏まえ、西浦シミュレーションから、今回の緊急事態宣言の「弱点」は、前回と比べて、「例外」が多過ぎると断言出来る。菅政権の常で、水面下で様々な交渉があったのだろうが、対策はほぼ飲食店の営業自粛に集中している。一方で例外リストには、劇場、映画館、体育館、プールなどが並ぶ。その例外リストからは、「何としても東京五輪を実現したい」という“願望”が透けて見える。その代償は、人びとの外出が思ったほど減らないことによ り、実効再生産数が思った様に下がらないことではないだろうか。毎夜のニュースで、昼のワイドショーで、相も変わらず渋谷のスクランブル交差点の実況中継やインタビューを見せられても、人びとの行動にもはや大きな変化は期待できないのだ。

 そして例外リストの中で、今回の緊急事態宣言の再発令の、一番の弱点は「学校」だ。

 文科省は全国的に、学校を極力閉鎖しない方向で調整を進めている。確かに、小学生は新型コロナに感染しにくいが、現実には、中学生以上の10代の新型コロナ感染者は60代と同じくらい多く、彼らが感染源となる“家庭内感染”が非常に多い。

 ここを潰せない以上、昨年4月の緊急事態宣言のように、実効再生産数を0・6以下に下げることは、論理的には極めて難しい。蛇足だが、静岡で見つかった変異種は感染力が強く、子供への感染も例外ではないと聞く。

 そもそも昨年の一斉休校で授業が遅れている分、今年の3学期は極力授業を進めておきたい。ただ、そのことにより、学校が開いている期間は日本全体で実効再生産数が0.6までは下がらない、という結果である。
飲食店の営業自粛が進み、職場もリモートワークが進む中で、学校はその例外のまま、結果的に家庭が感染源となるケースが増え続け、社会全体の減り方も緩くなる。という最悪の予測をせざるを得ない。

コロナに対して、後出しジャンケンの自粛は効き目があるのか

 この後はどうなるのか。過去の政府や官僚の対応から考えると、おそらく“追加対策”が組まれ、学校は3学期の終盤で前倒しの休校に踏み切る、というストーリーだ。

 1月初めに発令された緊急事態再宣言では、政府の目論見とは異なり、コロナは想定した様なスピードでは収束せず、仕方なく追加の自粛策を乱発することになると思われる。

 予測だが、結果的に効果が出始めるのは、再度対策を徹底した2月中旬辺りから始まる“本格的”自粛以降となる。そう考えると、新型コロナが収束して(※終息ではない)、かろうじて緊急事態宣言が明けるのは、4月に入った辺りではないか。

 百貨店の売上だけでなく、日本経済全体について、この予測は「最悪のシナリオ」だ。本来2カ月で収束させられるものが、対策の遅れにより長引く可能性が高い。
「今回の緊急事態宣言は実施が遅い上に踏み込みが甘い」というのがシロウト、クロウト問わずの主張であり、菅首相が「対応は遅くない」と言ってうそぶき、それを賛美するのは自民党の幹事長だけ、という構図だ。一旦反省し、是正する。小学生なら出来るのに。

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