デパートのルネッサンスはどこにある? 2020年10月15日号-11

地方百貨店の現状

前年比は地高都低

 前号で、「地方百貨店の復活」の可能性を述べた。
その理由は、半年以上に渡るコロナ影響により、大都市の有力百貨店ほど、大きな売上マイナスとなっているからだ。

 本紙デパート新聞の10月1日号の一面を振り返ってみよう。大見出しに「8月東京は29.1%減」とある。徐々に回復してきているとは言え、東京の百貨店売上は、依然として30%近いマイナスだ。

 一方で10月15日号の見出しは「8月全国は22.0%減」と、同期間対比で東京とは7%の差がある。7月も同様に東京27.9%に対し全国20.3%と8%近い乖離があり、地方百貨店が都心に先駆けて回復しているのが見て取れる。

 いずれも日本百貨店協会による概況だが、コロナ影響以外にも、7月は豪雨と梅雨明けの遅れ、低気温が原因とされ、8月は逆に連日の猛暑によるマイナスが大きい、としている。この伝で言えば9月は台風の影響を取り上げるのだろうか。

 次に、都心の大手百貨店3社の8月の売上を見てみよう。三越伊勢丹は33.4%減。大丸松坂屋は29.4%減。髙島屋は18.6%減、となっている。もう少し細かく見ていく。

 新宿伊勢丹は26.9%減、日本橋三越は26.6%減、銀座三越は47.8%減。コロナ自体と、コロナ禍によるインバウンド需要ゼロの影響が、特に銀座店に如実に現れている。

 大丸松坂屋も心斎橋大丸が53.4%減、梅田大丸35.5%減、東京大丸48.5%減と、いずれも超都心の基幹店が大幅マイナス。

 髙島屋も大阪が29.6%減、新宿、大宮が29.0%減と同様に苦戦だが、泉北、堺、玉川、立川などの郊外店舗が一桁マイナスで踏みとどまり、髙島屋全体では他の2社よりは10ポイント以上マイナス幅が低くなっている。閉店した港南台店が、閉店セール余波で2.2%増となっていることも一因と思われる。

 いずれにしても、日本有数の繁華街を擁する、超都心デパートほど、前年同月比が悪化していることは明解だ。

 再び本紙10月15日号の一面を見てみよう。もう一方の指標として、今度は日本ショッピングセンター協会のSC販売統計調査がある。こちらの8月売上比較では、大都市(札幌から福岡まで)で24.4%減、その他の地域14.5%減、とやはり10ポイントの乖離がある。

都心回避の心理

 連日の猛暑と夏休みのイベント中止により、外出を敬遠した顧客が多かったのだが、もちろんそれだけで都心と地方・郊外との前年比の差が、10ポイントも離れたのではない。筆者が前号で述べた様に、漠然とではあるが、都心を恐れ、都心を回避する心理がはたらいたものと思われる。

 それは、ソーシャルディスタンスを意識して、単純に人混みや雑踏を敬遠するのとは、異なる心理だ。東京近郊の繁華街、吉祥寺、二子玉川、自由ヶ丘などの人出は、「コロナ前に戻っている」のだ。
郊外立地のSCやアウトレットモールも言うに及ばずの状況だ。

 やむを得ずステイホームをしていた顧客は、自粛が解除された時に、先ず始めは、近隣SCに出かけたのではないか。その時には、近所の目が気になったのかもしれない。そこで買物をして、銀座や新宿に「わざわざ」出かけなくても、事足りることに、今さらながら気づいてしまったのではないだろうか。

 会社勤めのサラリーマンが満員電車に乗らなくても済んだのと同じ様に、正しいと信じていた「都心信仰」が消滅したのだ。サラリーマンが出社せずに「リモート」や「テレワーク」を選択できる様に、飲食を店内ではなく、テイクアウトやウーバーイーツを選択できるように。

 コロナにより突如として「働き方改革」が実現した様に、消費においても「買い方改革」として、脱都心が進んでいくのかもしれない。それは、あくまで脱都心であり、地方を含めた「脱百貨店」でないことを祈っている。

 今、百貨店には顧客の「買い方改革」に呼応した、「売り方改革」を断行する決意が必要なのだ。

衰退続く地方

 都心の優位性が「少し」損なわれたからといって、地方であれば、どこの百貨店も回復している、ということにはならない。

 同じ8月に、地方百貨店の閉鎖が相次いだ。16日に高島屋港南台店(横浜市)、17日に井筒屋黒崎店(北九州市)、31日に西武岡崎店(岡崎市)、同大津店、そごう徳島店、同西神店(神戸市)のそごう西武4店に加え、中合(福島市)が閉店した。徳島県は1月に経営破綻した大沼の山形県に次ぐ百貨店空白県となった。

 大沼の破綻については、本紙4月15日号で特集している。興味があれば是非バックナンバーを読み返していただきたい。

 地方は、人口減や顧客の高齢化など、商圏の縮小均衡が続いている。ここ数年の衣料品不況などの影響で、地方百貨店は収益悪化が加速し、自力再生の難しさが改めて浮き彫りになった。

 もはやお決まりの処方箋となった定借テナント導入だけでは、自営面積の縮小による運営コストの削減とはなるものの、構造的な問題解決にはなっていない。

 前にも述べたが、地方百貨店の衰退は、新型コロナの影響による業績の悪化が原因ではない。コロナ前からすでに債務超過になっていた店舗が大半であるからだ。地方に限らず、百貨店が主力としていた大手アパレルは、大量閉店やブランドの統廃合を進めており、それをコロナが加速させていることは論を待たない。

 地方では、売場の一等地が空きスペースとなっても、すぐに後継ブランドが見つからない状態が続いているのだ。

 また、地方百貨店はECなどのデジタル化に伴う大規模投資をする余力がない。いや、もし余力があっても、発信地や発送地を選ばないEC対応において、都心の大手百貨店に対抗するだけのブランド力があるかは疑問だ。

 それよりも、地方百貨店の生き残り策は、地域との共生にあるのではないか。コミュニティーや地元で埋もれた物産品の掘り起こしなど、地域でやり残した課題は多い。
このテーマは後述する。

地方百貨店の反転攻勢

 先に述べた地方・郊外の百貨店の閉鎖は9月以降も止まってはいない。
9月には伊勢丹相模原店と府中店が閉店。来年1月には天満屋広島アルパーク店、同3月に新潟三越が閉店する。いずれも営業赤字から脱却できなかったことが主な要因だ。地方・郊外百貨店を取り巻く環境の厳しさは今後も続く。それでも、増収基調の百貨店は存在する。こうした地方百貨店の取り組みを探る。

改装投資の継続 

 関西や中・四国、北陸の百貨店を例にとってみる。直近で売上が連続5期増収の米子しんまち天満屋(米子市)を筆頭に、2期連続増収のいよてつ髙島屋(松山市)と近鉄百貨店奈良店、加えて山陽百貨店(姫路市)は「勝ち組」にあげられるだろう。中には20年ぶりに増収となった、大和香林坊店(金沢市)という例もある。
 これらの店舗に共通するのは、

  1. 新規客の獲得
  2. 顧客の来店頻度向上
  3. 買い回り性の向上

といった、目的を明確にした改装投資を継続していることだ。

 来店頻度の向上策としては、いずれの百貨店も、食品の両輪である、デイリー性とギフト需要の両方を見直す改装を実施。元々最大の強みであるデパ地下を更に強化したことにより、文字通り足元を固めるという政策をとったのだ。

 新規客の獲得策としては、例えば大和香林坊店では、好調な化粧品の品揃えの拡充が奏功している。地方百貨店の弱点である20~30代女性にターゲットを絞り、その獲得のため、メイクとスキンケア双方の取り扱いブランド数を大幅に増やした。それにより、売上とともに顧客の幅を拡大し、他フロア、他アイテムへの顧客の回遊に成功したのだ。新規客層の獲得と、上層階への買い回りに繋げる改装に、注力した成果がでた好例だ。

 食品、化粧品以外に強化すべきアイテムは、その店舗の立地や規模により異なる。山陽百貨店では、食料品からラグジュアリーブランドまで毎年、幅広く改装し続けている。これにより山陽は多くのアイテムで増収となった。

改装とテナント化

 今、地方百貨店は、ファッション改装をしたいと考えても、取引先やテナントの出店意欲は、端的に言って低い。従って、改装にあたって旧店舗や既存ブランドの退店交渉は、都心と違いすんなりと実現する。なぜなら、館に居残って商売を続けたいと思わないからだ。

 これまでは少しくらいの売上げ不振は、「宣伝費」だと思って営業を継続する百貨店ブランドが多かったが、今は不採算店の閉鎖が企業の最優先事項となっているからだ。

 商圏人口が少ない地域への「新規の」出店となれば、更にハードルは上がる。今まで通り、百貨店特有の消化仕入れや、販売員の派遣といった条件を、受け入れてくれる「奇特」な取引先は確実に減少している。 

 収益改善のため、上層階だけでなく、今まで「聖域」であった下層階でさえ、賃貸借や定期借家契約による、テナントフロア化を模索している百貨店は少なくない。それはけして地方百貨店に限ったことではない。但し、百貨店への出店を検討するテナント側から見れば、ハードルの高さは同じだ。「そこは売れるのか」だけが、出店可否のただ一つの条件だ。加えて、昨今の人手不足は、地方ほど深刻で大きな問題となっている。

フランチャイズ展開

 近鉄百貨店はフランチャイズ=FC 展開に積極的だ。テナントの早期導入と人材育成がその理由だ。成城石井と東急ハンズのFC店を運営している奈良店以外にも、郊外店舗を中心にFC化する業種と店舗数を広げている。

 近鉄はFCを新たな事業と位置付け、中期経営計画の最終となる20年度末には事業売上高100億円を見込んでいた。もちろんコロナが猛威を振るう以前の話となってしまったが。

地域資産の見直し

 10月1日号で本紙社主が述べていた通り、昨今「地域の活性化なくして、地方百貨店の活性化は困難」との認識が高まりつつある。その地域の伝統文化に根差した「地域資産」を活用する百貨店が増えている。地方にはその地域ごとに、全国で支持される様な地元の特産品や飲食店がある。まだ知名度は低くても、魅力的な商品を作っている生産者も必ず居る。こうしたモノやコトを、百貨店内で提案する「地産ショップ」の展開が増えているのだ。それも観光客ではなく、地元消費者に支持されているのだ。

 地方百貨店に限らずだが、収益改善にもっとも有効なのは増収であり、その源泉となるのは入店客数だ。百貨店は、苦し紛れのコスト削減→客数減→売上減→結果的に減収、といった悪循環から脱却しなければならない。そのためには今こそ、集客力を高めるための先行投資が必要だ。そして、「人やモノが集まる、地域のランドマーク」作りが、これからの地方百貨店が目指す姿だと考える。

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