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デパートのルネッサンスはどこにある? 2020年7月15日号

現場の今

先行する顧客の心理

 5月25日に緊急事態宣言の全面解除が発表され、ほぼ1ヶ月が経過した。もちろんコロナウイルスの感染者がゼロになったわけではない。特に首都東京では、このところ連日の様に40人近い新規感染者が「発見」されている。当然第2波を心配する声も聞こえるものの、6月19日からは休業要請の全面解除に加え、県境を跨いだ通行もOKとなった。一度動き始めた「経済」という歯車は、もはや誰にも止められない、と言うところだろうか。

 東京に限って言えば、都知事選挙のスタートも加わり、誰にとっても、今更あの自粛生活に戻る、という選択肢はNOなのだ。コロナ前の日常(に近い)生活にもどりつつある今、コロナ感染は「いわゆる夜の街」だけの出来事であり、普通に生活している我々庶民が、今さら通勤や買物を自粛する必要はない、という居直りや達観が、皆の心を支配している。

 マスクをして、良く手を洗い、他人とのディスタンスをとっていれば、「ちょっと不便だけど元通りの生活」が満喫出来る様になったのだ、と誰もが思いたいし、国や各自治体も、喜んでお墨付きを与えてくれているのだ。

 筆者自身も正直そう思いたい。それを「早計」と非難することは出来ない。誰しもが、2か月間の長い「自粛」に対する「見返り=ご褒美」が欲しいのだ。それは10万円の給付金だけではないし、もちろん2枚のガーゼマスクでもない。それは特にこの自粛期間にちゃんと我慢した人ほどそうであり、皆、この後来るかもしれない第2波までの、ひと時の「自由」を謳歌したいのだ。それはもちろん制限付きの自由ではあるが、そもそも制限なしの自由なんて世の中に存在しない訳なので。

コロナ後のデパート

 百貨店の自粛休業から再開への経緯については、本紙6月1日号で伝えているが、業績の回復については、各地各店ごとに「まだら模様」と言ってよい。実態として、店舗ロケーションやフロア・業種によって売上の差(前年比)が大きく異なる状況だ。入口を絞り、モニターによる体温チェックや手指の消毒スプレーといった対応だけでなく、時短営業や、「混雑緩和」を合言葉に、セール企画の中止を「判で押した様に」横並びに発表している。

 主力のファッション、特にシーズン性の高い衣料品については、正直2ヶ月分の在庫を、セールで処分したい、という「本音」と、混雑を避けるため集客を控える、という「建前」の板挟みの間で、苦悩する担当者の顔が、マスク越しに垣間見える。

 苦肉の策として、三越伊勢丹は「夏のクリアランスセール」を単純に中止にするのではなく、オンラインストアのみの実施に切り替えた。実施期間も6月9日から8月31日までの3ヶ月弱という超ロングランに設定するという徹底ぶりだ。お買物のタイミングはお客様にお任せします、というスタンスだ。髙島屋もほぼ同じ対応となる。逆にそごう・西武は混雑緩和という大前提は同じでも、セールを6月15日から前倒しスタートとし、7月19日まで期間を延長する、としている。

ライバルSCの対応は

 一方、都心の駅ビル・ファッションビルでは、ルミネが「夏のセールは実施しない」という見解だ。夏のセールはテナントごとに判断し、実施してください、という、こちらはテナント任せの対応となった。背景としては、万が一店舗でクラスターが発生した際に、店舗のみならず、直結するJRの駅をも封鎖して、消毒作業をするという、前代未聞の不祥事を防ぐため、という噂まで、まことしやかに囁かれている。

 パルコは恒例の「グランバザール」の名称を使わずに、今年に限っては6末から7末の1ヶ月開催で「サマーセール」というタイトルで実施予定だ。混雑緩和のため、実施期間を前年の2倍に長期化している。但し、毎年グランバザールの後に、必ず「夏物最終処分セール」と銘打って、長々とセールを実施していたので、実態として、ほぼ前年踏襲では、と指摘する向きもある。

アイテム別の好不調

 デパートの状況に話を戻そう。コロナ影響が最も小さいのは、ご推察の通り、食料品(いわゆるデパ地下)だ。そもそも休業要請自体がなく、一部自粛を選んだ都心百貨店を除いては、時間短縮の対応のみに止まった。もちろん3密を避けるために通路幅を広げたり、新たにレジ列のスペースを確保したり、様々な対策をしており、これまでの様に「効率重視」一辺倒ではなくなった。但し、顧客がデパ地下に求めるモノは、近所のスーパーでは手に入らない食材、総菜、スイーツである事に、基本変化はない。都心での厳しい自粛要請により、地方、郊外に「疎開」していた有名食品催事も、6月より順次、捲土重来を果たしている。

 コロナ禍により消失したインバウンド需要が戻らない今、ファッションに代わる新たな柱であったブランド化粧品は、従来の様な対面接客が出来ず、難しい再出発になった。顧客は容器に触れられず、美容部員は顧客の顔にタッチさえ出来ないのだから当然だ。化粧品は従来の販売手法を見直さざるを得ず、突然、強制的なターニングポイントを迎える事となった。

 但し、一概に化粧品全般が不振という訳ではない。分かりやすい例で説明しよう。マスクで隠れてしまう口紅は、自粛+テレワーク真っ盛りの4/20の週は前年比26%まで落ち込んだ。自粛明けの6/1週でも37%と低調推移を継続。一方マスクで隠れないどころか、かえって強調される目の周りは違った推移となった。アイシャドウの売上は4/20に前比64%で底を打ち、早くも5/25週には100%を回復し、口紅との明暗を分けた。

 苦戦する化粧品とは対照的に、デパートにおける集客の要である食品は、その重要性を、更に高めて行く必要に迫られている。

 一方、同じ「食」テーマであっても、「飲食」については、路面店同様の厳しい状況が継続している。特に都心百貨店のレストランフロアは、館の上層階に位置することが多いため、高い目的性が必要であり、客層も比較的高齢者の比率が高い。ディスタンスに配慮した稼働率と、感染による重症化率を考えると、顧客にとっても店側にとっても、高リスク低リターン業態となってしまった。

 最後にファッション=衣料品だが、前号でも本紙で取り上げた、大手アパレル「レナウン」の破綻に止まらず、秋冬商品の仕入れを30%削減するワールド、21年2月までに国内外で約700店舗を閉店するオンワードHD、再び社長交代を余儀なくされた三陽商会など、いわゆる百貨店ブランドが、軒並み苦境に立たされている。前述した飲食や化粧品との違いは、コロナ以前から、業界の不振は既に始まっており、コロナはきっかけ、あるいは最後の一撃という位置づけという点だ。

新しい生活様式にも

 サラリーマンのリモートワークが増え、スーツ需要は激減していると聞く。部屋着やパジャマの需要も増えているが、これは一過性の現象に過ぎないのだろうか。パンデミックが、クールビズ以上に、ファッションの「当たり前」や「日常」を否応なく変容させていき、コロナ禍によるカジュアル化が、更に進行している。デパートで売れなくなったと言われたスーツが、今はそれ以外の場所でもまったく売れなくなった。

 エコ、フェアトレード、サスティナブルと、様々なトレンドを商売に替えて来たファッション業界は、アフターコロナの世界の「ニューノーマル」をも取り込んで行くのか。その時百貨店は、その販売拠点として生き残れるのか、生き残る価値があるのか、が問われている。

閑話休題

 いささか不謹慎な言い方になるが、アフターコロナを謳歌しているSCがある。アウトレットモールだ。もちろん、ららぽーとやイオンといった郊外モールも概して堅調だが、理由の一つは、自粛によって失われた2ヶ月の間に積み上がった、各ブランドの潤沢な在庫だ。もう一つの大きな理由は、アウトレットモールは、従来型のモールに比べ、より郊外にあり、よりオープンエアであり、他人とのディスタンスをとりやすいという点だ。それを利点として捉える客層が増えたのだ。

 他人の目や他人との距離を、これほど気にする時代が、これまであっただろうか。基本、都心のビルに依拠するデパート内では、他人との距離がどうしても気になる。皆、他人を気にしながらの買物にストレスを感じている。しばらくの間は、利便性や接客、品揃えではなく、お店の「解放感」が、売り場選びのプライオリティ上位を占めるだろう。

 しばらくの間だと良いが。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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