デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年09月15日号-76
シリーズ『そごう・西武』売却 - 【そごう・西武労組「ストライキ突入」の意義
8月27日に、そごう・西武労組の寺岡委員長から「ストライキ権行使の通知について」記者会見のご案内というメッセージを受け取り、筆者は翌日会場に赴いた。
筆者は、7月19日の寺岡委員長の単独インタビュー、7月25日の「そごう・西武労組スト権確立」記者会見と、取材を続けて来た。そして1ヶ月余り経過した8月28日、三度( みたび) 寺岡委員長の「肉声」をお届けする次第だ。
会場は100坪くらいで前回の2倍程度の広さだったが、出席したマスコミ各社は前回のおよそ3倍の100人超で満席となった。60年ぶりのストライキのニュースであり、その注目度の高さが窺(うかが)える。後方には各社のテレビカメラが並び、慌ただしい雰囲気だ。
前回と違うのは、寺岡委員長以外に5~6人の列席者がいたことだ。これについては後述する。
定刻になると、前回同様A4資料が配布され、寺岡委員長が着席した。
以下、会見を再現する。
そごう・西武労組「8月31日ストライキ実施の通知」記者会見
■日 時:2023年8月28日(月)午後4時~
■会 場:西友労組会館2階大会議室 ( 豊島区東池袋)
■会 見 者:そごう・西武労働組合中央執行委員長寺岡泰博氏 ほか
それでは、そごう・西武労働組合記者会見をスタートしたいと思います。早速ではございますが、そごう・西武労組労働組合中央執行委員長寺岡泰博よりご挨拶をさせていただきます。
《寺岡》
皆様、本日は「ストライキ権行使の通知について」ご案内をさせていただきました。お集まりいただきましてありがとうございます。今しがた、今日は1時半から( セブン&アイと) 団体交渉をしておりまして、3時過ぎぐらいまで交渉をしておりました。会見前、先ほどになりますけれども、争議行為予告通知書ということで、そごう・西武の社長に向けて、開始日を2023年の8月31日木曜日ですね、ストライキ権( 以下、スト権)の行使ということで、通知をさせていただきましたので、先ずそのことをご報告させていただきます。
皆様にはこの会見という形では2回目になると思いますけれども、まず7月25日に(組合員の)93・9%の賛同を得て、スト権が確立されました。
そのタイミングで、このスト権の確立というのは「雇用維持」と「事業継続」それから1年半「情報の開示」がなかった、この株式譲渡にまつわる情報の開示、これをお願いするにあたって、交渉力を上げるという目的で、確立をさせていただきました。
そういう意味で言いますと、今月に入りまして、そごう・西武の労使協議は、全7回となりますが、そのうち今日を含めて、直近4回については、セブン&アイホールディングの井阪社長をはじめ、経営幹部の関係者が複数名参加して、この事業計画の趣旨、それから内容について説明をいただけると、こういう状態になったわけです。
そういう意味では このスト権の確立というものは、一定程度の役割を果たしたと思いますし、その意味では、我々労働組合の組合員の投票行為が具体化したと、我々も思っております。
加えてホールディングスの井阪社長はじめ、この方々にも(使用者ではないということでの少し注釈がつきますが) 関係者ということで、説明いただいたことについても、まずは御礼したいと思っております。
一方で、今日の団体交渉も含めてなのですが、我々の今回のスト権の行使の、大義といいますか、目的ということで言えば、そもそも現時点での協議というのが、この株式譲渡のスキーム自体が、本当に大丈夫なのか、事業継続あるいは雇用の確保につながることが本当に大丈夫なのかどうか、これを見極める労使協議だと思っております。
少なくともホールディングスから見れば、1年半というのは長い期間に見えるかもしれませんが、我々労働組合としては、まだ今月に入ってから、ようやく情報開示がされた、ということからすれば、少なくともまだまだ納得感が得られている状態には至っていないと思っています。
そういうことからすれば、今一度ですね、納得度を上げるためには、もう一段ステージを上げた行動も含めて、やっていかなければいけないと思っております。そう感じた出来事としては、今月に入ってから林社長の解任と、それにまつわる社外取締役の新たな選定です。加えて直近25日にリリースされておりますが、更に加えて3人の社外取締役の選定というような形で、矢継ぎ早に売却を進めていこうという、「前のめり感」が見え隠している状態です。それからあくまで井阪社長の言葉を借りれば「クロージングは決めていない」ということですが、1日も早くクロージングを目指したいという、この事実自体は、発表されておりません。
そういう意味で言うと、直近の報道を見る限り、9月1日のクロージング、もっと言うと31日には取締役会決議が行われるではないかと(あくまで我々の推測ですが)その疑念が晴れない。そういう状態で、このまま一方的に株式譲渡が進めば、我々としてもそれは何のために この権利を確立したのか、もしくは組合員のために、我々の役割自体を発揮しているのかと、そういうふうに感じている次第でございます。
改めて、仮にもそれを阻止するという意味においては、労働協約上も、事前の通知をしなければいけないということですので、その期限ギリギリの本日、予告という形で通知をさせていただいたと、こういう経緯と大義ということでございます。
詳細といいますか、公表の中身あるいは、ここに至った経緯については、先ほど皆様にお配りした用紙の中に、ある程度まとまっていると思いますので、少しその部分はお読み取りいただければと思います。
先ずは私の方から事前の概略ということで、お知らせ、ご報告をさせていただきました。
《ここで、そごう・西武組合大会の様子と労組各支部の決意表明等をVTRで紹介した》
一旦私からは以上ですが、本日は、急遽と言いますか、日頃我々の活動を支えていただいております、同業の百貨店各社の労働組合の方々、それから池袋地域、とりわけ旧セゾングループの中で、資本の繋がりはありませんけれども、友好労組として共に活動していただいた組織の方にも、お集まりいただいておりますので、少しずつコメントをいただきたいと思いますので、少しお時間を頂きたいと思います。
《西嶋委員長》
私は高島屋労働組合で中央執行委員長を務めております、西嶋と申します。 今ほど寺岡委員長からありました通り、本日は私たち百貨店労働組合の仲間としまして、寺岡委員長を始めとしたそごう・西武労組労働組合の取り組み、これに賛同し、支援を継続していく姿勢を改めて表明しようと思い、同席をさせていただきました。
本日は考えを共にします百貨店労働組合の有志の中から、私のほかに、三越伊勢丹グループ労働組合の菊池委員長、大丸松坂百貨店労働組合の大島委員長、阪急阪神百貨店 労働組合の宮本委員長、以上4名が代表して同席をさせていただいております。
我々がこの場にいることに、少し唐突感があるかもしれませんので、少しお時間をいただいて、解説をさせていただきたいと思います。
私たち百貨店の各労働組合は、そごう・西武労働組合とは、日常的なつながりを持つ労働組合の仲間であります。そしてそごう・西武労働組合の組合員も、同じ百貨店で働く仲間です。今回の株式譲渡に関する経緯につきましても、1年以上情報共有を重ねながらその動向を見守り、支援を続けてまいりました。具体的なこの間の支援としましては、本年の年明けにセブン&アイホールディングとフォートレス社の経営に対し、健全な労使関係、労使協議とともに、ステイクスホスルダーへの誠実な対応を求める要請書を提出するとともに、同時に百貨店協会に対しても、我々がこのような要請活動をするということに対する理解を求める要望書を提出してまいりました。
また本年5月にはそごう西武従業員有志で実施されました、西武池袋本店を守る署名にも、主体的に参画をしてまいりました。さらに直近では、スト権行使後の労使協議に至りましても、未だ懸念事項の解消には至らないという状況を受けまして、セブン&アイホールディングの取締役及び監査役に対しても 改めて我々がそごう・西武労組を支援し続けるという意見表明をしてまいりました。
改めて、そごう・西武労組が一貫して主張されております、そごう・西武百貨店の事業継続 、取引先を含めた従業員の雇用維持、これが確信できる建設的な労使協議を目指すという、この姿勢に賛同をしてきたということであります。
その中で 本日のスト権行使の通知、ここまでに至る状況を、我々としても非常に深刻、あるいは異例の事態と捉えております。
こういう時にこそ、そごう・西武労働組合を孤立させない、ということですとか、困っている仲間がいれば寄り添い、ともに行動するという、我々労働組合の精神にのっとり、できることはないかというふうに考えてきた次第です。
その結果としてこの会見に同席をさせていただくことで、この間も、そしてこれからもそごう・西武労働組合の姿勢、行動に賛同し、支援し続ける、我々の行動を広く訴え、そしてそごう・西武労組の組合員の雇用確保であったり、不安の解消、これに向け懸命に行動し続けるそごう・西武労働組合の力になりたい、というその一心でこの場にいるということです。よろしくお願いいたします。私からは以上です。
この後、クレディセゾン労働組合から同様の支援表明があり、質疑応答へと続いたが、筆者は記者会見の会場が西友労組会館ということも含め、旧セゾングループの「絆」を感じた。
8・31池袋西武ストライキ決行
8月31日、西武百貨店池袋本店は、そごう・西武労働組合がストライキを決行したため、終日営業を休止した。
午前中には組合員と支援者も含め、ストライキを実施している池袋西武周辺を約1時間、デモ行進した。参加者ら約300人は「西武池袋本店を守ろう!池袋の地に百貨店を残そう!」の横断幕を掲げアピールした。寺岡委員長はデモ終了後、報道陣の囲み取材に応じた。
デモを終えての今の思いは?――
「現場の組合員の他、百貨店各社の労働組合、池袋にある労働組合の方々にもご賛同いただき感謝しています。これだけ大きな力になったことで、励みにもなったし、会社にも十分伝わったのではないかと思います。」
デモ行進の最中に、セブン&アイが臨時取締役会で売却を決議したが――
「我々としては時期尚早という気持ちがある。そういう意味では残念だし、本来であれば労使で協調路線をとりたいと、いろんな道をセブン&アイの井阪社長含め探ってきた。結果的に意見の相違があって溝が埋まらなかったことは残念です。こういう形でしか伝えようがなかったというのが我々の今の思いですので、複雑な気持ちです。」
百貨店でのストライキは61年ぶり。今回のストはどんな意味があったと思うか?――
「組合員の全員投票をやり、その総意として会社にぶつけたことは意義があったと思う。また、競合の百貨店各社の労働組合の皆さんにも参画いただき、もう一つ大きな声として訴えたということは、歴史の中でも重要な位置づけとして役割を果たしたのではないか」
所感
百貨店のストライキは61年ぶりだと言う。もちろん60年前は「賃上げ交渉」としてのストライキであった訳だが。
今回のそごう・西武労組が、西武百貨店池袋本店のストにより求めているのは、寺岡委員長が言っている、雇用維持、事業継続、情報開示である。
「雇用の維持」は労働者の権利として、最もプリミティブ( 根源的) なものであり、半世紀以上前の「賃金のベースアップ」に比べ、今回のそごう・西武労組は、より切実な状況に置かれていると言うことの証左である。
逆に言えば(そして大変恥ずかしい事に)日本の雇用の根本的な「危うさ」は60年の時を経ても、何ら改善されていない、ということなのだ。
元首相の何とかミクスも含め、30年間賃金がほとんど上がっていないにもかかわらず、それを是認してきた「御用組合」は猛省し、内部留保ばかりにご執心な経営層に対し、モノ言う労働者にならなければならない、と思う。
※最近は「モノ言う株主」ばかりが話題だ。
ここ10年程だが、労働環境が劣悪な会社を指して「ブラック企業」と呼んでいる。ブラック企業は、非上場の中小企業である場合がほとんどだった。そうでなければ今回のビッグモーターやジャニーズ事務所の様に、マスコミによって白日の下に晒され、世間からも顧客からも、非難、糾弾される。こうしたレピュテーションリスクを勘案すれば、大企業であれば当然、健全で、なるべく従業員コンシャスな企業を目指すのは自明だ。
翻って、今回のストライキの原因を作ったセブン&アイとヨドバシカメラはどうであろう。
百貨店と、コンビニ、家電量販店という出自の違いはあるものの、広く一般消費者を顧客とする、同じ「小売業」であり、顧客の評判を蔑(ないがし)ろには、出来ない「商売人」であるはずだ。
敢えて言うが、セブンとヨドバシの所業は、外資系ファンドの考える「株主資本主義」を「是」としており、決して「不道徳」とは言えないものの「無道徳」の誹(そし)りを免れない。
※株主資本主義とは、企業(株式会社)は、その名が示す様に株主のモノであり、結果として利益を出して株主が潤えば、(そして法律に触れなければ)なにをしても良い、という考え方だ。
そこには西武百貨店の従業員や、顧客、ひいては消費者に対する「公益性」への配慮が全く欠けているのだ。そもそも日本人は、「自分さえ良ければ良い」という考えを嫌う国民性であり、であれば(社会正義と言えば大袈裟過ぎるとしても)「公益性」の観点は小売や商売には不可欠な観点であろうし、寺岡委員長の言う「大義」の意味も、これに通じている。
そして何よりも、3年半かかったがコロナが収束し、インバウンドが戻った現在の日本で、今最も売上を伸ばしているのは百貨店である。
※もちろん地方百貨店の復調に関しては正直「まだら模様」であるが。
全国の主要都市や、ビッグターミナル駅であればあるほど、インバウンド需要の高まりは凄まじく、売上も利益も、コロナ前の2019年度を越えて伸長し続けている。
こんな時に伊勢丹新宿本店や、阪急うめだ本店を閉店したり、縮小したいと言ったら、業界人ならずとも、正気を疑われよう。
日本で3番目の売上を誇る百貨店を、インバウンドに湧くこのタイミングで縮小しようという考えは、利益至上主義の外資ファンドからしても、合理性があるとは言えないのではないか。
これは、近視眼的なシロウト意見かもしれない、であればその道の専門家の方に、是非ともご意見を伺いたいものだ。
※用語解説レピュテーションリスクとは、企業に関するネガティブな評価が広まった結果、企業の信用やブランド価値が低下し損失を被るリスクのこと。
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