デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年09月01日号-75
シリーズ『そごう・西武』売却
【そごう・西武労働組合ストライキ権確立】詳報
前号( 号外) でも述べたが、次々に新しいニュースが入るので、紙面が追い付かない。
本題に入る前に、直近8月23日夕方のニュースから。
そごう・西武売却最終決議9月1日に完了売却額は2200億円
大手デパート、そごう・西武の売却交渉で、親会社のセブン&アイ・ホールディングスは、25日に臨時の取締役会を開き、アメリカの投資ファンド「フォートレス・インベストメント」への売却について、最終的に決議する方針を固めた。売却の完了は9月1日で、売却額は2200億円としている。
業績の不振が続くそごう・西武をめぐっては、親会社のセブン&アイが2022年11月、フォートレスへ売却する方針を決めたが、売却に反対しているそごう・西武労働組合などとの調整が難航している。労組は全組合員投票によって得た「ストライキ権」を武器に、セブン&アイを「交渉」のテーブルに引っ張り出す算段だ。※これが本論であり、詳細を後述する。
売却の完了後は、フォートレスのパートナーである家電量販大手のヨドバシホールディングスが、そごう・西武の全国10店舗のうち、旗艦店の西武池袋本店を含む3つの店舗に出店する計画で、百貨店店舗の取り扱いが今後の焦点となる。
※前回のインタビューでも述べたが「ヨドバシが出店するのではなく、ヨドバシのビルとなった後に、ビルの一部に百貨店が出店(同居)する」という表現が正確だ。
一方、セブン&アイは、そごう・西武労働組合等が反発する中で、取締役会の決議にむ形となることから、今後も説明を継続する方針だというが、9月1日までに残された日数は、あまりに少ない、と言わざるを得ない。
売却の決定から何度も延期を繰り返し(一時は無期延期となった)異例の長さで続い売却交渉が決着する見通しとはなったものの、正直、時間切れ間際の「どさくさ紛れ」と言われても、セブンは反論できないだろう。
※セブン&アイの「後は野となれ山となれ」なイメージは消費者目線でダメージとならないのかは、本紙では今後も追及していく。この件には豊島区長も苦言を呈している。
セブン&アイ 豊島区長らに売却について説明
こうした中、セブン&アイHDは8月23日午後、西武池袋本店がある豊島区の高際区長や地元の経済団体に、売却や、そのあとのフロアプランなどについて説明した。会議は非公開で行われ、終了後、高際区長は記者団に対し「地元の経済団体からは『売却後も継続的に街づくりにパートナーとして関与してもらえるか』ということについて確認を求める意見が出た。セブン&アイからは『今後も、街づくりや地域との連携について協議していきたい』という回答があった」と一定の理解を示した。
その一方で、高際区長はセブン&アイが25日臨時の取締役会を開いて、売却について最終的に決議する方針を固めたことに関連し、「住民から『何も聞いていない間に、どんどん話が進んでいく』という不信感が生まれ、( ヨドバシが) 街のパートナーとは思えなくなる」ということは伝えた」とも述べ、セブン( とヨドバシ) に対する不信感も口にした。
※筆者は、故高野区長の主張に比べ、幾分トーンダウンした様な印象を受けた。前区長の「池袋の文化を守る」という「当事者としての強烈な使命感」が薄まった様な気がするのだ。「○○に口なし」と言うと、虚しい限りだが。
それから2日後の8月25日、更に驚くべきニュースが飛びこんで来た。
そごう・西武労組28日にスト通知へ決裂なら31日実施
セブン&アイ・ホールディングス傘下で売却が決まっている大手デパートそごう・西の労働組合が、31日にも西武池袋本店でストライキを実施するための検討に入ったことが25日分かった。百貨店事業の継続と雇用維持を求める狙いで、決行されれば、百貨店でのストライキは実に60年ぶりとなる。
セブン&アイの井阪社長はそごう・西武労組の寺岡委員長にヨドバシの出店計画を説明し「売却に理解求める」としていたが、9月1日の売却実行を目前に控え、両社の「つばぜり合い」が山場を迎えている。
但し、いざスト決行となれば、そこには「顧客を置き去りにしている」という非難も当然予想され「レピュテーションリスク」を避けながらのブラフ(脅し)合戦が「泥仕合」となる可能性も高い。
そごう・西武労組は、28日にセブン&アイ経営陣との協議を予定しており、決裂すれば実力行使に踏み切る公算が大きい、と見られる。池袋本店に勤務する組合員が出社せず、入口の一部を封鎖することも検討する、としており、同店は休業に追い込まれる可能性がある。
※ストライキは労働者の正当な権利ではあるが、60年使われていない「伝家の宝刀が、世論や顧客を前にして「さび付いていない」ことを祈るばかりだ。
当然この「宝刀」は「諸刃の剣」であり、従業員(組合員)の「雇用の維持」という御旗を、消費者(顧客)が支持してくれるか、そしてそれをマスコミがどう報じるかにかかっているのだ。SNSなどではストに批判的な意見も散見される。
本紙は、そごう・西武(の労組)をストライキをも辞さない所まで、「無視」し続けて来たセブン&アイの井阪社長の「罪」は決して小さくない、と改めて述べておきたい。
いつもの様に様々なニュースが飛び込んできて、前段が長くて大変恐縮だ。それでは、今回の焦点である「スト権の確立」がなされた、1ヶ月前に話を戻そう。
閑話休題
先ず簡単な経緯から。7月19日に、そごう・西武労働組合の寺岡委員長の単独インタビューを実施。※本紙「号外」にて特集した。その2日後の7月21日に池袋西武へのヨドバシ出店計画について関係各社のトップ会合が行われた。更にその4日後の7月25日そごう・西武労働組合「スト権確立」記者発表が行われた。
※8月1日号のシリーズ「デパートのルネッサンスはどこにある?」にて、その概要を速報でお伝えしているが、今号ではその詳細をお伝えしたい。
そごう・西武労働組合は、ストライキ権の確立に向けて約4000人に上る組合員に、その賛否を問う投票を行った。投票期間は7月9日から22日とし、集計を経て25日に結果を公表する、としていた。
そごう・西武労働組合寺岡委員長記者発表 ( 詳細)
日時:2023年7月25日16時~
会場:TKPガーデンシティ御茶の水2階
筆者は7月21日に、寺岡委員長から直接連絡を受け、会場に赴いた。
前号(号外)でお伝えした、7月19日の単独インタビューから1週間を空けず「そごう・西武」売却の新たなキーパーソンであるそごう・西武労働組合の寺岡委員長の「肉声」を再びお届けする機会を得た訳だ。
会場は、小さな教室程度の広さで、マスコミ各社30人程で満席となった。席の後ろには、テレビカメラの放列も出来、中々物々しい雰囲気だ。定刻になると、先ずA4資料が配布され、寺岡委員長が着席し会見が始まった。
寺岡委員長(以下寺岡)
「7月3日に告示しました、そごう・西武労働組合の争議行為の開始に関する全員投票の集計結果が出ました。今日は、皆さまにご報告したい、と言う事でお集まりいただきました。
我々の規約で行きますと、争議行為の開始について、投票総数3833票、賛成率は
93・9%ということで(先程皆さまにお配りした、配布資料には全組合員数の記載はありませんが)過半数を超えた、ということで、ストライキ権は確立された、という事でございます。
今回これをもって、今すぐ争議行為が可能になった、という事ではありませんが、いずれにしましても、ここに至るまでの経緯を少しお話させて頂きます。
昨年の1月末に報道が出てから、約1年半に亘(わた)って、我々は『雇用の維持』と『事業継続』とそれにともなう『事前協議』というものを求めて来ました。
しかしながら、本日に至るまで、情報がない中で、我々も色々と手を尽くして来た訳ですが、最大限我々の持っている手段を活用していくと、言うことの中で、今回この『全員投票』に至ったと、いうことでございます。そこにも記載されておりますが、この『争議行為』ということで言えば、対象は労使関係があるそごう・西武である、ということになって行きますが、本来的には実質的な使用者になるのは、我々の意識としてはセブン&アイ・ホールディングスだと言う風に認識しております。
そう考えますと、我々従業員から見ますと、このホールディングスの対応というのは、余りにも1年半に亘って情報がないという事にかんして、『不誠実』に映っていると言わざるを得ません。それを反映した数字が、この3833票であると思っていますので、改めてこれは労働組合の執行部ということではなくて、全組合員の総意だという認識でいます。また改めて、当社の経営陣に対しても、ホールディングスに委ねるという事ではなく、事業会社としても自主的に進むべき方向を、具体的に提示して欲しいという願い、意志の表れでもある、という風に認識しております。
いずれにしましても、今回、我々は何も知らされてない訳ですが、各報道で踊っております、池袋のフロアプランみたいなモノ、こう言う問題に限らず、我々の認識としては、そごう・西武そのものの『存続の危機』もしくは『存続がかかっている』と認識しております。そういう意味では、このことをきっかけに、今一度『交渉力』を上げて、会社と対峙して行きたいと、そういう強い覚悟、意志を持って今日を迎えた、ということで皆様に開示させて頂きます。私からお話する内容は皆様にお配りしたペーパーにほぼ集約されておりますので、これをもって冒頭の挨拶に代えさせて頂きたいと思っています。尚、組合員に対しては、今、皆様にお配りした内容と近しい内容で、先程告知をさせて頂きました。従って皆様にお配りした内容については、一部抜粋した内容だということでご理解頂ければと思います。簡単ではありますが、私からは以上になります。この後質疑があればお願いします。」
どうやら紙面が足りない様だ。記者達との質疑は次号に続く。
この7月25日の投票結果については、8月1日号で報じた通りであるが、過半数どころではない数字に、そごう・西武の一般社員の方々の、戸惑いや不安が如実に表されている。
セブン&アイの井阪社長にとって、そごう・西武労組は、寺岡氏曰く「うるさい蚊」の様な存在であり、蚊帳の外に置かれていた1年半の間は、文字通り「痛くも痒くもない」存在であった訳だ。但し今回のスト権確立を受け、今後はマスコミや顧客( 一般消費者)の手前、只「知らぬ存ぜぬ」と言っていれば通る段階ではなくなってしまった、という事だ。
さて、本紙9月1日号を購読者諸氏がご覧になるころには、実施されるか否かは不明だが、ストも売却も終わっているはずである。ラジオやテレビやSNSなどの即時媒体が羨ましく、恨めしい。いやいや、本紙は日刊紙ではないので、そもそも時間軸での議論は無駄であろう。
8月25日に筆者はこう思った、というだけの事だ。事の顛末は9月15日号の本欄で総括させて貰いたい。
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