デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年06月01日号-70

第70回シリーズ『そごう・西武』売却 第8弾 【迷走するセブン&アイ】前編

 先ずは最新ニュースからお伝えする。セブン&アイの株主総会が5月25日午前、東京都千代田区で開催された。

物言う株主の要求退け社長続投可決

 セブン&アイ・ホールディングスは同日、定時株主総会を開き、井阪隆一社長の続投を可決した。井阪氏を含め会社が提案した取締役15人の選任を承認した。「物言う株主」である米投資会社バリューアクト・キャピタルは株主提案で、経営方針を巡り対立する井阪氏の退任を求め委任状争奪戦を展開したが、他の株主から十分な賛同を得られず、結果として退任要求は退けられた。

 井阪氏は総会で、2023年2月期連結決算の好業績を強調し、自身を中心とする経営体制で「世界トップクラスのグループへの飛躍を目指すことが可能だ」と訴えた。

 これに対しバリューアクトは、井阪社長、後藤副社長らに代わり、弁護士ら4人を選任するよう提案していた。

 セブン&アイは、バリューアクトが企業価値向上に向けた抜本的な改革として求めたコンビニ事業の即時切り離し+コンビニ事業の独立を拒否した。業績不振が続く総合スーパー、イトーヨーカ堂の売却要求に対しても、不採算店の閉鎖などで改善を進める方針を示
した。

 井阪氏はヨーカ堂が持つ生鮮食品などの調達力を生かした「相乗効果」を強調した。

ルネッサンス70回

 本コラム「デパートのルネッサンスはどこにある?」も連載開始から3年を経て、この6月1日号で70回を数える。そして『そごう・西武』売却も第8弾となり、予想外の長期シリーズになってしまった。

 本コラムでは、昨年の2月15日号にてセブン&アイによる『そごう・西武』売却の一報を伝えている。シリーズをスタートして1年と3ヶ月が経過したのだ。

 今号でもお伝えする様に、そごう・西武売却は、2度の延期の末、遂に無期限延期となってしまった。このディールがいつ再開されるかは、我々外野には判らない。

 いずれにしても、親会社であるセブン&アイの「迷走」が売却の長期化、泥沼化の原因であることは明白であり、巡り巡って本シリーズも長期化している、という訳だ。

 記事を執筆する立場から言うと「美味しい」状況だ、と言ったら不謹慎過ぎるだろう。特にそごう・西武の社員や取引先、テナント、そして顧客はヤキモキしているはずだ。そういう意味でも「モノ言う株主」の井阪体制批判は、間違がっているとは到底言えないのだ。

四面楚歌の井阪体制 

4月15日号の本コラムでも言及した様に、セブン&アイは小売業としては、初の売上高11兆円超を達成した。しかし、好事魔多し、物言う株主(アクティビスト)の米バリューアクト・キャピタルの攻勢を受け、防戦一方だった。

 前述の様に5月25日の株主総会で、アクティビストの攻勢を一旦は押し止めた形だ。しかし、前述した過去の負の遺産の処理を巡り、先行き不透明の状態が続いている。

 本紙はデパート新聞であり、その性格上「西武百貨店池袋本店がヨドバシカメラに変わるのか」をメインテーマとして「この事案」を見守って来た。

 しかし、セブン&アイからヨドバシカメラの代理人であるフォートレスへの売却自体が延期された。その理由がセブンの「大失態」にあることは事実である。

 業界紙として、小売の巨人であるセブン&アイは「一体どうするのか」を追うのはジャーナリズムの鉄則である。今しばらくこの騒動にお付き合い願いたい。

 本題に入ろう。

株主総会での争点

 セブン&アイは当初から、イトーヨーカ堂の再建が、コンビニの商品開発に必要だと主張し、株主総会に向け、アクティビストからの解任要求を拒むスタンスだった。だが、とうの昔に処理すべきはずの「そごう・西武売却」を無期限延期にせざるを得なくなり、行き詰まってしまった格好だ。こうした井阪体制のガバナンス不全については、社内からも疑問の声が上がっており、井阪社長は大事な株主総会を前に、文字通り「四面楚歌」の状態となってしまっていたのだ。

 コンビニの「セブン―イレブン」にスーパーの「イトーヨーカ堂」、そして百貨店の「そごう・西武」などさまざまな業態を傘下に持つセブン&アイ・ホールディングスは今、岐路に立っている。

 アクティビストの狙いは、好調なセブン―イレブン( コンビニ事業) だけを分離・独立させ、ヨーカ堂やそごう・西武を切り離せというものだ。なぜならセブン―イレブン以外の事業は不採算となり、長期に渡りグループ全体の足を引っ張っているからだ。更には、そうした状況を一向に解決しない井阪体制に「退場」を迫っているという「筋書き」だ。

プロキシーファイト

 セブン&アイ・ホールディングスと、アメリカの投資ファンドであるバリューアクト・キャピタルとの「バトル」はヒートアップし、既に否決はされたが、バリューアクトは定時株主総会に向け、井阪隆一社長ら4人の退任を実質的に求める取締役選任案を提案した。

 これを受けてセブン&アイの取締役会は、その提案に反対すると表明、プロキシーファイト(委任状争奪戦)に突入していた。セブン&アイの井阪社長は仮にバリューアクトの提案をのむと「会社がおかしくなる」と訴えた、という経緯だ。

 本紙は公正を期すため、これに対するバリューアクトの反論を以下に記す。問題点が鮮明になると思うからだ。

バリューアクト・キャピタルの主張

 「セブン&アイ・ホールディングスは非常に高いポテンシャルを持つ企業です。しかし更なる成長には強力なリーダーシップが必要です。井阪社長は7年に亘り、経営トップの座に就いていますが、実績を見れば、その実力は不十分だと言わざるを得ません。」

 「私共は常に長期的な視点で企業との関係を重視する投資家であり、今回の様に株主提案にまで踏み切るのは極めて珍しいことなのです。バリューアクトの23年の歴史の中でも、今回が2回目であり、実に17年ぶりのことです。決して軽い気持ちで提案を行っているのではないのです。」

 「具体的な井阪社長の評価については、実績もさることながら、リーダーシップや意思決定、また説明責任について、大変問題があると考えています。実際、そごう・西武の売却の不手際に代表されるように、井阪社長は就任以来、自身が打ち出してきた約束を破り続けてきたのです。」

 「セブン&アイの多くの従業員もそのことに気づいており、同社が実施したエンプロイーエンゲージメント(会社に対する従業員の愛着度)に関するアンケート調査によれば、従業員の仕事への熱意は極めて低い状況になっています。」

 「この2年あまり、セブン&アイの取締役会にデータ分析に基づいた何千ページにも及ぶ資料を提出し、客観的なファクトに基づく提案を行って来ました。しかし井阪社長には、それに真摯に応える態度が全く感じられませんでした。そして、井阪社長以外の取締役についても、長年セブン&アイの取締役でありながら、改革を実行できておりません。」

 「今回提案している新たな取締役候補は、いずれも変革や戦略の実行に対する経験が豊富で、非常に優れたビジネスリーダーたちです。彼らは新しい視点をセブン&アイにもたらし、戦略オプションの検討やその執行状況の監督に貢献してくれると思います。こうし
た理由から井阪社長らトップ4人には退任していただき、取締役をリフレッシュするために株主提案に踏み切ったのです。」

 「セブン&アイには以前からコンビニ事業のスピンオフ(分離・独立)を求めてまいりました。これまでに行った何百もの企業への投資経験から、『選択と集中』は企業の長期的な目標達成に貢献すると考えています。セブン&アイにとっても、コンビニ事業のスピンオフは企業として大きく成長する有力な手段の一つとなると思います。」

 「われわれの試算では、セブン―イレブンをスピンオフさせ、同業他社並みに成長させれば、株価は今後6年間で3倍程度上昇するでしょう。それにもかかわらず井阪社長は、コンビニとスーパーという異なる事業間に『定量化できないシナジーがある』と繰り返す
ばかりです。」

 「18年前に持ち株会社体制にして以降、セブン&アイは中期経営計画を出すたびにヨーカ堂の構造改革を進めると言い続けて来ました。つまり国内に約100店舗展開するヨーカ堂の再建に注力するあまり、世界に8万店以上ある、成長の原動力でもあるセブン-イレブンに注力しきれていないのは明白です。」

 「セブン&アイは、セブン―イレブンで取り扱う食品をヨーカ堂の社員が開発しているからヨーカ堂が必要だと主張しています。確かに開発メンバー130人のうち約80人は、ヨーカ堂など他のセブン&アイ傘下のスーパーストアの従業員であるということも理解しております。しかしその人数は、全グループ従業員の0・2%に過ぎず、さらに言えば、セブン―イレブンとヨーカ堂の資本関係がなくなったとしても、この130人が一
緒に仕事ができないということにはなりません。」

 「世界を見回すと、ジョイントベンチャーを作り、企業の枠を超えて協力するという例は多くあり、セブン―イレブンがスピンオフして独立したとしても、コラボレーションは実現できます。従って、セブン―イレブンと建て直しが困難なイトーヨーカ堂を同じホールディングカンパニー傘下に置く理由はないと考えています。」

 「優れた企業は、優れたリーダーシップによって生まれるのが世界の常識です。セブン&アイが、よりすばらしい企業になるためには、今、変化しなければなりません。そのために事実を基に、引き続きセブン&アイやその株主に呼びかけてまいります。」

 オリンパスとソニーのジョイントベンチャーの成功に裏打ちされた、バリューアクトの自負が現れた提言であり、シロウトが聞いても納得出来る内容だ。株主総会の結果はどうあれ。

 紙面が尽きてしまった。バリューアクトにとって株主総会での否決は「想定内」であり、彼らにとっては「まだ第一ラウンドが終わった」に過ぎない。次号に続く。

〈お詫びと訂正〉

 本紙、令和5年5月1日号4面掲載の「シリーズ デパートのルネッサンスはどこにある?」文中において、「閉店した新宿小田急」という事実と誤った記述がありました。

 小田急百貨店新宿店は、新宿西口ハルクにおいて現在も営業をしております。ここにお詫びして訂正いたします。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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