デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年05月15日号-69

第69回 水戸京成百貨店 コロナ雇調金を不正受

今号は先ず、5月1日付けの最新ニュースからスタートしよう。

マスクレス接客本格化

 政府が5月8日から、新型コロナを現状の2類から5類へ移行させる事に伴い、商業施設でも販売員のマスク着用の取りやめが本格化している。三越伊勢丹ホールディングスは国内百貨店20店舗で5月8日以降、従業員のマスク着用を「個人の判断」とし、アクリルボードとサーモグラフィーも撤去する、としている。
※尚、3月13日から、来店客へのマスク着用の呼びかけは既にやめている。

 2020年、2021年、2022年と続いた「コロナ禍」での経済停滞が、いよいよ終息を迎えたというニュースだ。前号の本コラムの文末でお伝えした通り、三越伊勢丹の3月の売上高は前年同月比で24・8%を記録した。ゴールデンウィークのインバウンドを含めた観光客の趨勢も、2019年のコロナ前水準を上回ったと伝えられている。

 百貨店業界が3年ぶりに「盛況」を極める中、「冷や水を浴びせる」不祥事が発覚した。ある意味「コロナの負の遺産」とでも呼ぶべき事件だ。

 コロナが百貨店業界に残したマイナスは、売上の停滞だけではない、という事だ。

 3月15日号の文末で言及した「水戸京成百貨店」の不祥事に話を移そう。

※事件は2月初旬に発覚し、既に3ヶ月以上経過しており、新聞として扱うにしては、いささか旧聞に属する。しかし、水戸京成の不正受給事件は、デパート業界全体が内包する「危うさ」を示す事例であることに疑いはない。遅まきながらここで総括をさせて貰いたい。

事件の概要

 水戸京成百貨店( 茨城県水戸市) による雇用調整助成金など、計3億円余りの不正受給を巡り、茨城労働局は2023年2月28日、支給取り消しと10億円超の返還を求める処分を発表した。

 処分は2月20日付で、百貨店は22日に全額を返還した。返還額は県内過去最多とる。

 発表によると、不正受給が認定されたのは新型コロナウイルスで打撃を受けた企業の休業手当を国が助成する「雇用調整助成金(雇調金)」と「緊急雇用安定助成金」。

 2020年5月から22年10月の申請分について、従業員が出勤しているにもかかわらず、休業したとする虚偽の申請書類を作成し、助成金の一部を不正に受け取っていた、としている。茨城労働局はこの処分で、不正受給分も含め、期間中に受け取った助成金の全額計約10億7380万円の返還を命令。ペナルティーである罰則金や延滞金を含め計約13億4400万円の支払いを求めた。

 百貨店は既に支払いを終えているものの、今後5年間は雇用に関する助成金の受給ができなくなる、という厳しい罰則だ。

電鉄が肩代わり

 百貨店側の発表では、不正はコロナ禍を背景に、事件当時の取締役総務部長が主導した。総務部の人事担当に勤務データの改ざんを指示し、人事担当課長ら4人が勤務実績を改ざんしたとされる。

 同局は今後、詐欺容疑での刑事告発を含め、対応を検討するとしていたが、今年3月7日に茨城県警は、同社と元幹部宅を詐欺容疑で家宅捜索した。

 水戸京成百貨店は、親会社の京成電鉄から返還に必要な融資を受けたことを明らかにし「社内のコンプライアンス体制を再整備し、安心してお買い物いただけるように信頼回復に取り組む」とコメントした。
※このコメントに対しては、その凡庸さを含め後述する。

関係自治体からも「県内唯一の百貨店」に猛省を求める声が相次いだ。

 大井川知事は「地域経済における役割は極めて大きい。責任を自覚し、コンプライアンスに努めてもらいたい」とのコメントを発表した。

疑問も黙殺

 水戸京成百貨店で発覚した約3億円にのぼる雇用調整助成金(雇調金)の不正受給問題。県内唯一の百貨店は、なぜ自らのイメージを貶(おとし)める不正に至ったのか。
そしてなぜ、不正を内部で正すことが出来なかったのか。

 水戸京成百貨店のホームページによると、2022年1月時点の従業員は474人。売上高は251億円だ。

 同社によると、不正が始まった20年春は新型コロナウイルスの感染が広がり、ほとんどのフロアで休業が続き、同年4、5月の売上は前年同期比で約6割減少したと言う。 

 決算では、当期純利益は、20年2月の2億1100万円から、21年は1500万円、22年は1900万円に減少している。

 同社の決算規模から見て、3億円は決して小さくない金額だ。1月31日に会見した芹澤弘之社長は、不正受給について「赤字に対する恐怖心」「過度な黒字確保への意識」が背景にあったとした。不正は約2年半にわたって組織的に行われ、不審に思った従業員からの指摘も黙殺されていた。

データ改ざん

 同社によると、不正は新型コロナウイルスの感染拡大が契機となった。

 同店は2020年4、5月、緊急事態宣言に伴って一部を除く全館が休業した。同社は従業員の出勤を制限する代わりに休業手当を支給。国に助成金を申請し、受給分を「営業外収益」として計上するようになった。だが、国への申請は虚偽の勤務実績に基づくもの
だった。当時の取締役総務部長だった男性が20年春以降、総務部人事担当に勤務データの改ざんを指示。人事担当課長ら4人が、実際には勤務している従業員を休業扱いにするなどしていた。

 勤務実績はカードリーダーに従業員がカードをかざすことで自動的に集計されるが、総務部はそのデータを改ざんしていた。不正受給の延べ日数は20年4月から22年8月で雇調金が2万3795日、雇用保険の非加入者が対象の緊急雇用安定助成金が161日に上った。

 内部でも不正を疑う指摘はあった。給与計算を不審に思った複数の従業員が人事担当に問い合わせていたほか、21年1月には総務部に対し「助成金をもらうのは不正ではないか」という意見も寄せられていたという。

 但し、内部通報制度の事務局や内部監査の担当も総務部だったため、事実上、内部統制が働かない状況だったと言う。

 社内の人事も総務が束ねており、通報制度も総務の管理下であれば、「揉み消し」も簡単だったであろう。自浄作用が働かないどころか、通報者への口止めさえ可能だったのではと疑いたくなる。

内部通報、虚偽報告

 発覚の端緒は、退職者から茨城労働局にもたらされた情報だった。22年11月に茨城労働局の査察を受けた同社は調査を総務部に指示したものの、同部長は12月上旬まで事実を隠蔽し「当該部門が処理を間違えた」などと虚偽報告を続けていた、という。芹澤弘之社長は今年1月31日の記者会見で「総務部を監査するシステムがなかった」と組織体制の不備を認めた。

 見苦しいと言うか、不正を認める前に「時間稼ぎ」までしているのだから、社内で責任の「なすり合い」が行われたのでは、と疑いたくなる。

 芹澤社長は「総務部を監査する部署がなかった」とし「独立した牽制(けんせい)機能」が必要との見解を示した。事後に言うのはだれでも出来るし、最終責任者であるはずの社長の言葉が「他人ごと」に聞こえて虚しい限りだ。

 またこれで「トップは知りませんでした」と白を切って責任回避が出来ると思っていたのなら「問題は更に根深い」と言わざるを得ない。

 外部弁護士や親会社の京成電鉄による調査チームに対し、総務部長は前社長の指示があったとも主張している。ただ、前社長はこれを否定し、調査報告書では「指示は確認できなかった」と結論づけているという。

 外野からモノ申して恐縮だが、社長の指示があろうがあるまいが、こんな大きな不正見逃した時点で、社長も同罪だと、断ぜねばならない。これについては後程言及する。

 茨城労働局などによると、不正受給は県内で21年度に27事業所(計約1億7500万円)で確認された。もちろん、3億円を超える不正受給は全国でも有数の規模だ。

家宅捜索

 デパート新聞の記事を執筆していて「家宅捜査」という単語を打ち込んだのは、正直始めてだ。それだけ不正受給の「違法性」が高く「重罪に相当する」という司法の判断が窺(うかが)える。

 茨城県警は3月7日、水戸京成百貨店が勤務データを改ざんするなどして国の「雇用調整助成金」などあわせて3億円余りを不正に受給していた問題で、詐欺の疑いで同百貨店と元総務部長の自宅の捜索に入った。

 当時、取締役だった元総務部長の指示で勤務データを改ざんし、従業員の出勤日を休業日扱いにするなどして国に助成金を申請していたというのは前述の通りだ。

 警察は、この不正受給について詐欺の疑いがあるとして7日午前、本社がある百貨店と、元総務部長の自宅に捜索に入った。

 このうち、警察の捜索が行われた水戸京成百貨店の元総務部長の自宅では、7日午前8時すぎ、捜査員5人が捜索に入った。警察はこのあと、元総務部長に任意で事情を聞いた。

 水戸京成百貨店の広報担当者は、7日午前、百貨店に警察が訪れているとしたうえで「警察の捜査には協力していきたい」と話したと言う。

雇調金詐欺

 県内唯一の百貨店で起きた不祥事は、警察の強制捜査が行われる事態へと発展した。

 水戸京成百貨店が不正に受給した国の雇用調整助成金は、言うまでもなく新型コロナウイルスで打撃を受けた事業者を支援するものだ。従業員の休業手当や賃金を国が一部助成する制度であり、助成を受けるには売上や従業員の休業状況などの資料を労働局に提出する必要がある。

 同店の内部調査で、この休業状況を偽って、国の雇用調整助成金など3億600万円余りを不正に受給していたことが明らかになった。

コロナマイナス

 経営への打撃に加えて百貨店のイメージダウンも免れないこのような不祥事がなぜ起きたのか。背景にあるのは言うまでもなく、コロナ禍による売上の減少だ。

 同百貨店によると、新型コロナの感染が拡大し始めた2020年3月から、売上は急速に減少。4月中旬には緊急事態宣言が出され、およそ1か月にわたってほぼ全館を休業する対応をとったこともあり、4月の売上は前年同月の4割ほどにまで落ち込んだ。

 その後も、8月には県独自の非常事態宣言で、入場者数を通常の半分に制限することが求められるなど、苦しい状況が続いた。

 勤務データの改ざんを指示したとされる元総務部長は、百貨店の調査に対して「赤字になれば雇用が守れず、会社がもたないという思いが強かった」と話していたという。少なくとも、私利私欲ではなく「会社と社員のため」だった、という訳だ。

厳しい批判

 この不祥事に対し、地域からは厳しい批判が相次いだ。

 高橋水戸市長は「言語道断で大変遺憾だ」と失望感を示し「入札参加資格の停止など、市として対処を厳正に行う。単なる商売ではなく市街地の活性化や良質な消費活動を支えているという責任意識を持ち、客との信頼関係を回復させる努力をしてほしい」と要望した。 本コラムで何度も言及しているが、地方の百貨店は他の企業とは違った「見方」をされる。地域住民からは親しみと畏敬の念も含め屋号を「さん」付けで呼ばれる事もある。

 京成百貨店は言うまでもなく「電鉄系」ではあるが、茨城県唯一の百貨店として、水戸市民は言うに及ばず、茨城県民から「親しまれて」いた地元の名店である。その不祥事ともなれば地元の反発は必至だ。今までの「信頼」が裏切られた事による「落胆」も自然と大きくなる。

 長年の顧客だと言う水戸市の主婦は「3億円の不正とは驚いた。開店当初から通い続けてきたので信頼を裏切られて残念だ」と話す。

 地域に根差して「商売」をするというのは、そう言う事なのだ。顧客以外の取引先であれば「いろいろ大変でしたね」で済み、取引は継続する。

 しかし、信頼を裏切られた「お客様」は当該店舗を「敬遠」するのが常だ。そして、信頼回復には当然時間がかかる。

識者の指摘

 企業統治に詳しい大学教授は、総務部が窓口になっていた内部通報の仕組みが従業員から信頼されていなかった可能性があると分析している。「グループ管理の側面からも、社内ではなく、親会社の京成電鉄内に窓口を置くべきだった。一般的に、子会社には独立した通報窓口を運用できる人的、財政的余裕が乏しいことが多い」と指摘する。こういった指摘は、極めて妥当なのだが、すべては結果論である。

 企業というのは、効率化の名の元に、不要なセクションを極力作らない。出来るのは、小さな不祥事を経て、適切な対応に近づけて行く事だけだ。

百貨店探訪

 デパート新聞2021年11月15日号の特集記事「明日を目指す百貨店探訪第4回」で株式会社水戸京成百貨店芹澤弘之社長(当時)のインタビュー記事を掲載している。
※「明日を目指す百貨店探訪」は、地域密着産業である地方百貨店は地方経済のバロメーターである、という前提の元、地域一番店である地方百貨店を全国津々浦々に訪ねてその様々な実情を発信するシリーズだ。

 先ず水戸京成百貨店の芹澤弘之前社長の来歴を振り返ってみよう。

1989年4月 京成電鉄株式会社入社

2009年〜関連のバス会社の社長職を歴任

2013年 本社である京成電鉄の内部監査部長兼経営統括部長

2015年 取締役就任

2017年 同社取締役総務人事部長から千葉交通株式会社の社長に就任

2021年 5月 株式会社水戸京成百貨店代表取締役社長に就任


 芹澤社長は、堅実な経歴の集大成として水戸京成百貨店の社長に就任したものの、今回の不祥事により2年足らずでその職を辞することとなった。

 ここで留意したいのは、芹澤氏は親会社である京成電鉄時代には、内部監査と総務人事の部長を歴任しているということだ。今回の不祥事は総務(人事)が事件を主導し、内部監査が機能しなかった事により起こった事件である。

 誤解を恐れずに言えば、営業畑の人間であれば見過ごしていたかもしれない事案も、監査と総務に精通していた芹澤氏であれば未然に防げたのではないか、と思うのは、筆者が無知だからであろうか。

 不正を実行した元総務部長が「社長から指示された」と証言していることからも、少なくとも社長は「知っていながら、見て見ぬふりをしたのでは」と考えるのは、決して突飛な推理とは言えないのではないか。

 もちろん筆者はこの不祥事を断罪する立場にはない事は申し添えておく。

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