デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年06月01日号-47(後編)

前編 より続く

百貨店のライバルなのかそれとも救世主か

ユニクロの時価総額はZARAの半分に 

 ファーストリテイリングの株価はピーク時には10万円以上だったが、現在は6万5670円(22年2月1日終値)という状況だ。時価総額も6兆円台となっている。

 これに対しよくユニクロと比較されるスペインのZARAを展開するインディテックスの現在の時価総額は約11兆円。一時期、ファストリはインディテックスを抜いたこともあった。しかし、今や倍近い差をつけられている。

 これでは、「しょせん、ユニクロはアジアのブランドだった」と欧米だけでなく世界中から言われかねない。

 そもそも、ユニクロが世界的なブランドに名を連ねることができた成長要因は、中国市場での躍進であった。

 ユニクロは「日本のブランド」から、中国市場の拡大によって「アジアのブランド」まで押し上げた。

 中国での勢いのままに、ファストリの時価総額は、先述のように一時、インディテックスを追い越したというわけだ。

 しかしユニクロが「この世の春」を謳歌したのは束の間だった。海外の投資家、特に欧米の投資家からは、その中国市場での躍進により「アジアのブランド」としか映らないのである。

 つまり、ファストリには越えられない「アジアの壁」があると言って良いし、それが真の世界的なブランドになり得ない主要因なのだろう。

「アジアブランド」という限界 

 かつてのソニーやトヨタがそうであった様に、工業製品は機能や性能で評価されるが、ファッション製品はそうはいかない。アパレルを販売するには必ず、アジアの壁がある。日本のブランドは、欧米人からすれば「アジアのブランド」つまり、「東洋人が製造した商品」なのだ。アジアのブランドは欧米では未だにマイノリティーの扱いなのだ。

 これを「人種差別的」という表現でくくりたくはないが、欧米側から見るアジア圏への偏見は、今も存在する。中国が世界一の生産国となり、日本のアニメ人気や、韓国のBTSが全米チャート1位になっても、それは変わらないのだ。
失礼、話が逸れた。

 アジアの殻を破ることがファストリの最大の課題であることには違いなく、ユニクロが低迷している真の要因なのかもしれない。少なくとも、柳井正会長兼社長が言うところの「真のグローバルナンバーワン」に脱皮できないのは間違いない。

 逆に欧米ブランドであるZARAやH&Mも、今の展開に満足しているわけではない。だが、こちらも実際のところ難しい。それはアジアでは「ユニクロ」というブランドが防波堤になっているからだ。

 アジアの壁はユニクロには欧米進出への壁となり、逆にZARAやH&Mにとってはアジア諸国制覇への大きな壁となっているのだ。

 日本の商業施設には、津々浦々までユニクロが出店している。だからと言ってZARAやH&Mに今からユニクロを押しのけて入居する実力はないだろう。百貨店や駅ビル、SCにとって「売れている」ユニクロを追い出してZARAやH&Mを入れる「勇気」もないだろう。デパートマンは元々が「冒険」を嫌う人種だ。

鍵は中国政略だけ?

 結局のところ、ユニクロが欧米ブランドと肩を並べる鍵は、中国依存を強め、その戦略を突き詰めることしかないのかもしれない。何といっても中国は生産大国であると同時に消費大国でもあるのだから。

 多種多様な中国の人々の嗜好に合わせ、魅力的な商品を届け続ける事こそが、ユニクロを真のグローバルブランドへと押し上げる道なのかもしれない。

 しかし、飽きっぽいのは中国人だけではない。日本でも第二のユニクロへの「目移り」が始まっているのかもしれない。例えばワークマンが、そうだ。

 元々は作業着メーカであったが、その機能性とコスパの良さに「アウトドアブーム」が追い風となって、売上絶好調と聞く。「ワークマン女子」など、インスタなどのSNS映えを狙った販促戦略にも「小回り」が効いていると思う。とにかく、職人の作業着をスポーツウエア、アウトドアウェアに転用しよう、というアイデアは大変素晴らしい。

 但し、ユニクロもそうであったが「人気ブランド」として、全国的なポジションを得るためには、今後、二の矢、三の矢のヒットアイテムが必要となるのも、また自明の理だ。
※このワークマンブームは、短期的な「波に乗っている」だけかもしれない。「第二のユニクロ」の称号を授けるのは早すぎる、とお叱りを受けるかもしれない。もちろん、ワークマンが失速しても、筆者は責任を負えない。ご容赦願いたい。

ユニクロの出店戦略

スクラップ&ビルド

 以下は大手デべロッパーの知人から聞いた話だ。ファーストリテイリングは、昨年に引き続き、今期もユニクロ100店舗、GU60店舗を達成すべき出店目標としてい

る。 新規出店と同時に、首都圏を中心として、「エリア戦略の再編」も課題の一つとしている。東京都心部であれば、特に、世田谷、目黒、杉並エリアは、古いタイプの100坪規模の小型店舗の再編が進んでいない。

 現在のフォーマットだと最低350坪は必要としており、都心のロードサイド立地は、迷っていると他社に決まってしまうので候補物件がでてきたら即断できるようなスキームを整えつつある、という。

 この2〜3年は「ライバル」である無印良品が大型化(300↓600坪)の傾向を強めており、無印やニトリとは物件競合となっている、という。一方ロードサイドへの出店については、マスターリースではなく、事業借地あるいは土地を購入して、自社で建物を建てる方向に変更してきている。

 ユニクロは、エリア再編の一環で、郊外立地の中規模商業施設(SC)内店舗についても、場合によっては契約の中途解約を申入れ、大型店舗(500〜600坪)に集約して行く動きが加速している。例え売上が好調で収益が出ていても、同一エリア内で駐車場完備の大型物件が出てくれば即決でスクラップアントビルドを決定している、という。

例〈所沢エリア〉

 埼玉県所沢駅周辺については、駅の東口のグランエミオにユニクロ、駅の西口の西武所沢SCにGUと棲み分けしている。

 2024年以降に予定されている、西武線の旧所沢操車場跡地の再開発(西武鉄道、住友アーバン等)にも出店を計画している様だ。但し、駅前だけでは乗降客中心となり、広域集客が図れないため、サテライトの路面店の運営は継続する、としている。

GUの言い訳

 ファーストリテイリングのもう一本の柱であるGUについては、もっと端的な方針が打ち出されている。GUはユニクロよりも安価であり、ターゲット層もより「ヤング」に絞っている。従って、ユニクロの様に土日にクルマでロードサイドの郊外店に行く、というファミリー顧客は多くない。

 この3〜4年は、駅立地、それも乗降客数が10万人以上の大型ターミナル駅立地の百貨店や駅ビル( SC ) 出店にシフトしている。例えば、本欄でも良く言及するハイブリッド型百貨店「西武所沢SC」に大型のGUを出店し、エリア周辺のSCはすべて撤退しているのだ。

 この辺は、前述したユニクロとは、その出店戦略は大きく異なっているし、ファーストリテイリング内の出店コンセプトは明解だ。

 しかし、当然大きな面積で出店して「貰っていた」SC側は、GUの撤退により大型売上がなくなり、コロナ禍でその跡地の200坪超の面積を埋めるのに「四苦八苦」する、という構図は残る。所沢に限らず、全国の商業施設で、担当者の「同じ様な悲鳴」が聞こえるはずだ。

 ファーストリテイリングのGU開発担当者の弁はいつも判で押した様に同じで「ウチの柳井が言っているので」だという。会長兼社長であり、かのカリスマ経営者( もしかしたら日本一の金持ち? ) に対して、社内外を問わず、誰もクレームを言うことは出来ないだろう。

 普通のビジネスマンであれば、「弊社の方針でして」とか言い訳をするトコロを「スミマセン、ヤナイが言ってますんで」で済んでしまう。この最後通牒には誰も反論出来ないから最強、と言う訳だ。情けない。

都心ターミナル立地

 通常多店舗化しているSC(ルミネやパルコやららぽーと等)は、大型テナントの出店に際し、先方にバーター出店の提案をしている。
※当事者である開発担当者は認めないかもしれないが。

 例えばルミネであれば、あるテナントに対し、新宿のルミネエストに出店したければ、藤沢や大船にも「バーター」出店を条件とする、というやり方だ。「抱き合わせ販売」と同じ理屈だ。通常は多かれ少なかれ「慣れ合い」として通用する手法だ。当然、藤沢や大船の賃料はある程度ディスカウントする場合もあるだろう。但し、ユニクロに関しては、この手法は通用しない。何故なら今や「ユニクロ」がアパレルNO.1ブランドであるからだ。ユニクロ側は「じゃあ、新宿エリアは他店に出店するから良いです。」で終わりだ。

 以上はあくまで「一例」として挙げただけだ。ルミネ側も坪当たり賃料の高い「新宿」に、いくら集客核とはいっても500坪単位の大型店を入れる余裕はないからだ。

 現に新宿は東口のマルイの隣に「ビックロ」、西口は小田急百貨店の並びにビル1棟単独店舗、南口は髙島屋12階にユニクロは出店している。日本一のターミナルである新宿駅を囲むトライアングルを形成している。

 因みに、池袋も東口に路面ビル、西口は東武百貨店9、10階、そしてサンシャインという、新宿同様の体制だ。

 結論として、大手百貨店や有力デベロッパーでさえ、「お山の大将」となったユニクロには、他のテナントの様に「上から目線」は通用しなくなったのだ。

 逆に言えば通常のテナントに対しては「出店させてやる」といった力関係は未だ存在する。特に都心ターミナルの百貨店や駅ビルはそうであろう。鎌倉殿の時代から「泣く子と地頭には勝てない」のだ。正確には地頭ではなく「地主」だが。

デパートにとってユニクロとは

 文末に、結論めいた事を書かなくてはいけない。デパートの立場からは「必要悪」では言い過ぎだ。「功罪相半ば」と言えば良いのだろうか。ユニクロは百貨店の平場の穴を埋めて、大型売上をもたらす最強のテナントである。

 もちろん、百貨店の衣料品(婦人服、紳士服、子供服)の売上高が減少の一途を辿っているのは、ユニクロを始めとする、カジュアル衣料が全盛だからだ、などと言う一元論で片付けることは、けして出来ない。もし日本にユニクロがなかったら、前述したZARAやH&Mが、そしてGAPが「国民ブランド」になっていたかもしれない。レナウン、ワールド、オンワードにそれを阻止することは出来なかったからだ。

 ここで柳井さんのコトバを敢えて再掲しよう「服はファッション性が全てではない。そんなことに興味がある人はごく一部。服に興味がない人がストレスなく楽しめるのが本当に良い服だ」百貨店やファッションに携わっている人びとにとっても、この言葉は真実であろう。現実がそれを裏打ちしているからだ。しかし、デパートマン達は心のどこかで「それだけではないよな」という反論を唱えているのではないだろうか。

 筆者はそれで良いと思う。柳井氏は最も成功したカリスマ経営者ではあるがデパートマンではない。真のデパートマンにはファッションに対する「矜持」も残っていて欲しい。彼らの反転攻勢を応援し「ルネッサンス」を目指すのが本紙の本分だから。

〈付記〉

「ビックロ・ユニクロ新宿東口店」は、店舗の契約満了に伴い、6月19 日で閉店する。ビックロは2012年9月にオープンしたグローバル旗艦店で、ビックカメラと合体して話題を集めた。ユニクロはビックロの閉店を「スクラップ&ビルド」の一環としており、新宿駅周辺で新たに店を出す計画という。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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