デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年12月15 日号-第128回 新宿伊勢丹に学ぶ

新宿伊勢丹

 本紙デパート新聞は地方デパート逆襲(カウンターアタック CA)プロジェクトと称し、都心の大手百貨店ではなく、地方で奮闘するデパートの支援をミッションとしている。購読者諸氏は既にご承知だと思うが。

 大手百貨店は、去年に比べやや沈静化したとはいえ、まだまだインバウンドの恩恵を受けている。一方地方デパートは、繁盛する都心大手の動向、特にトップランナーである新宿伊勢丹の動向、方向性は常に注視していると思う。伊勢丹から学ぶべき事は少なからずあるはずだからだ。

※尚、本コラムでは高市首相の発言により中国からの旅行者が減っているとか、都心百貨店の売上に翳りが見えて来た、といった話は今のところ謹んでおく。具体的な数字として表れてはいないからだ。まあ、どっちにしても、地方デパートにはインバウンド影響がほぼないに等しいのだが。

 先ずは三越伊勢丹の足元の状況からチェックして行こう。

純利益を上方修正

 三越伊勢丹HDでは鈍る訪日客向け販売に対する対応策を急いでいる。

 三越伊勢丹は11月13日、2026年3月期の連結純利益が、前期比17%増の620億円になる見通しだと発表した。従来予想から20億円上振れし、14年ぶりに最高益を更新する、という。

 為替の円安で持ち分法投資利益が増額されるほか、海外での一部資産の売却が全体に寄与する形だ。国内顧客(富裕層顧客)を中心に百貨店事業は相変わらず好調だ。

 修正後の純利益は事前の市場予想(591億円)を上回る水準に達し、好調な業績を背景に株主還元を手厚くする方針だ。年間配当は、前期54円に対し65円と従来予想の60円に比べ5円積み増す、という。

 利益の増加や自社株買いも含めた株主還元の強化により、今期の自己資本利益率(ROE)は10・3%と前期から1・5ポイント程度改善する。売上高は5560億円と増え、営業利益は2%増の780億円の見通しだ。売上高は従来予想から10億円引き下げた。下方修正の背景はインバウンド(訪日外国人)の高額品需要の減退が要因だが、対策は以下のごとく万全だ。

脱・インバウンド

昨年と比べ、免税カウンターに行列する訪日外国人客は少なくなった

 為替の変動(円安)や前期にあったラグジュアリーブランドの値上げ前の駆け込み需要の反動から、伊勢丹新宿本店や三越銀座店など、訪日客向け比率の高い店舗を中心に販売が落ち込んだ。この辺りは本コラムでも既に詳細に述べている。
下期の既存店のインバウンド売上の見通しは14%減の1454億円と従来予想から213億円も引き下げた。

 只、一方では好調な国内顧客が売上を下支えし、インバウンドマイナスを相殺している実態も見える。株高による資産効果の追い風を受け、富裕層向け消費は堅調なのだ。これは、クレジットやオンラインストアでの会員向け販売の好調が裏付けている。

 特に三越伊勢丹グループで年300万円以上の買い物をする顧客(プラチナステージ会員)による売上見通しは11%増となり、従来想定から60億円上方修正した。

プラチナステージ

 これを「外商など富裕層の売上が堅調に推移した。」で片づけてしまうのが、経済ニュースの悪癖だ。実態は、一向に歯止めのかからない「物価上昇」の影響により「今までの生活を維持しているだけ」の富裕層であっても、その消費支出は優に10%以上アップしているのだから。

 もし富裕層が、自らの生活水準を「現状維持」で止めようとしても、生活費の水準が上がっているので実質支出は増加している。なぜなら、物価高であっても、MIカードプラチナ会員には節約して「生活水準」を落とすという選択肢はないからだ。

 そして何より、伊勢丹での買い物を、年間300万円以下に抑えて、プラチナステージで獲得した「優待」を失うのは、彼ら彼女たち富裕層(準富裕層も含め)には「没落」を意味する。金もあるけどプライドはそれ以上にあるのが「富裕層」というものだ。
※もしもそうでない富裕層の方をご存じでしたら、個人的に筆者に教えて欲しい。

三越伊勢丹のPLATINUM

三越伊勢丹ロゴ

STAGE 優待
バレーパーキング
ザ・ラウンジ
おまとめご自宅配送
ファミリータイズサービス
※12項目中、上記4項目は、ゴールドステージ以下の会員には付与されない。
このサービス受けることが富裕層の証あかしと言ったらオーバーだが。

 バレーパーキングというのは、只の駐車場サービスではなく、駐車場へのマイカーの出し入れを代行してくれる高級ホテルの様なサービスだ。外国ドラマで良く見る光景だ。 ザ・ラウンジは新宿伊勢丹7階や日本橋三越5階にある、顧客専用の休憩室であり、これは空港のラグジュアリーラウンジに近い。同伴者とともにソフトドリンクと茶菓のサービスが受けられる。富裕層というのはこうした「エグゼクティブ」対応を好むものだ。

富裕層シフトはマスト

 失礼!ちょっと話がそれてしまった。筆者は特段富裕層に恨みがある訳ではないが、地方デパートにとっても富裕層の分析はマストである。来店しない訪日外国人よりもだ。

 三越伊勢丹が進める構造改革の進展により、営業利益の見通しは据え置かれ、従業員の再配置による人件費の削減などで固定費を圧縮する方針だ。

 クレジットカードやオンラインストアの会員数は約800万人にのぼり、ターゲット顧客層への販促を進める一方で、マスでの広告は抑えている。販管費は前期比1%減と圧縮され、従来予想から減る見通しだ。

 同日発表した2025年4〜9月期の連結決算は売上高が前年同期比4%減の2538億円、営業利益が10% 減の314億円も、純利益は16%増の293億円だった。営業減益だったものの、持ち分法適用会社の株式売却益で最終増益を確保した格好だ。

円安でインバウンド戻る

 下期の販売動向について三越伊勢丹の財務責任者は同日の決算会見で以下の様に述べた「10月の訪日客向け売上は客数が前年並みだが単価はプラスに転じた。為替の円安などが影響しており、このペースがしばらく続くだろう」と。
三越伊勢丹は訪日客向け販売の更なる強化策として、多言語対応の海外客向けのアプリを3月下旬にスタートさせ、登録件数は9月末までに約43万人にのぼったという。

 10月からは、購買促進のためクーポンなどアプリ内での情報発信も前倒しで始めている。担当者は「海外客向けアプリが機能すれば来店頻度向上や買上点数増加に寄与する」とみている。尚、前期に新設した海外客向けアプリや新たなクレジットカードによる(国内外からの来店客をIDで認識する)識別顧客化の戦略は、今下期から来期にかけて本格化させる予定だ。

顧客業から個客業へ

 アプリ開発だけでなく人事制度でも「個客シフト」は明確だ。同社は12月2日、本業である百貨店業で、「店舗・仕入れ・外商」の3つの事業領域に精通した「三位一体(さんみいったい)人財」の育成を推進していると発表した。

 社員が、複数領域の経験を軸に、顧客に対し最適なサービスを提供できる体制を整える目論見だ。グループ企業による関連事業と百貨店との間の人材交流も促進し、新たな価値創造につなげる、としている。繰り返しになるが、目的は上位顧客への選択と集中だ。

脱百貨店の次は

 三越伊勢丹が同日開いた「サステナビリティ説明会」で発表した内容は以下。
 同社は百貨店の店頭販売のみに頼る従来型のビジネスから、百貨店の顧客データを分析した上で個々の客に合う商品・サービスをグループ事業の中からを組み合わせて提供する、としている。そしてこの「個客業」により、収益増を目指す方向へ転換する。

 そのため、スタッフには複数領域での経験を積ませ、育成していく新しい事業モデルを推し進めている、というのだ。

 筆者が前号で言及した「只モノを売るだけではない」の実践だ。自他ともに認める「日本一の百貨店」は次の一手を店頭販売以外に見出そうとしているのだ。
 業界ナンバー1だからこそ「ネクスト」への動きも活発なのだろう。もちろん、地方デパートと違って財務的にも人材的にも「余力」があるのも事実だ。

社員の実体験

 百貨店で接客や仕入れを経験後に、セレクトショップであるイセタンサローネや外商部に配属された担当者曰く「顧客を個客として再認識し、その個客が伊勢丹に望む事を把握し、周辺セクションを巻き込んで対応することにより、他社との差別化が可能だ」と。

 百貨店とグループ企業間の人材交流も進める。金融事業を担うエムアイカードでは、現在10人以上が百貨店に兼務出向中だという。両分野を理解した人材を通じ、顧客の金融サービス利用が拡大するなど成果が表れているという。各事業では外部の専門人材の受け入れも進め、新たな価値を生み出す人材を育てている。

 富裕層シフトという言葉が単に「お金持ちの欲しいモノを集めて、売る」というだけでなく、個客が望む使い道(例えば資産運用等)を複数提供できる体制が整っている、という事だろう。

人事面でも

 社内では募集要件の定義を明解にし、上司との新宿伊勢丹に学ぶ面談を通じて、自身のスキルと希望部署をすり合わせる申告制度などを連携させている。これにより、社員がキャリア意識を高めやすい環境を整えているのだ。人事責任者は「社員が納得して目指せる指針を示し、様々な課題について共有し、組織内のマネジメント力を強化していく」と語った。ひと昔前から百貨店の外商は、顧客の希望を承るコンサル的な「執事業務」であった。今はそれを進化させ、デパートの枠に囚われない領域までカバーしているのだ、という。

 さて、伊勢丹の戦略を聞いたところで、正直地方デパートは、どう参考にすべきか直ぐには判らないだろう。筆者もそうだが、何がしかのヒントになれば幸いだ。
 三越伊勢丹というと、伊勢丹の話題ばかりになってしまう。ここで相棒である三越も含めた都心大手デパートの歳暮商戦を紹介して、最後は年末らしく締めくくろう。

都心百貨店の歳暮商戦総括

歳暮商戦の決起セレモニー(三越日本橋本店)

  11月15日号で、松屋銀座の招福袋のメディア発表会の記事を掲載したが、百貨店というのは、こういった決起大会的なデモンストレーションが好きらしい。

 マスコミが、冬の風物詩として、こういった「絵」を欲しがるからかもしれない。需要と供給の一致だ、としておこう。我々年配の視聴者(消費者)にとっては「そろそろお歳暮の時期か」とか、「正月はどの百貨店に行こうか」といった「古き良き時代」のハレ消費を想起させるのだ。習い性とでもいうのだっけ。

 蛇足だが、本号に掲載した日本橋三越のセレモニーの画像は、11月15日号3面の松屋銀座の招福袋の集合写真にそっくりだ。

スイーツの新ブランド

 大丸松坂屋では10月8日から電子商取引(EC)で歳暮の受注を始め、店頭注文は11月1日から受け付ける。目玉の一つが「東京ばな奈」を手掛けるグレープストーン社と共同開発した菓子ブランド「BLUE POND」のキャラメルミルクサンだ。北海道の生乳で作ったキャラメルソースをホワイトショコラで包んだ。直ぐに販売予定数量に達する見込だ。

 カジュアルな贈り物や自分向けギフトを集めた企画「GOHOUBI(ご褒美と読むのか)」ではレンジ調理で手間のかからないご飯ものを揃えた。高知県の産品を使う独自ブランド「星と南風(かぜ)」からは、同県の地鶏の卵を使った新商品のカヌレを送料込み5千円で販売する。

 中元や歳暮は得意先や親せき等に贈る習慣が薄れている一方、旺盛な自家需要対応として、大丸松坂屋では前述したGOHOUBIの品ぞろえを2024年から10商品増やした。担当者は「今後3年ほどで歳暮売上高に占める自分用ギフトの割合を10%に高めたい」と語る。

 購入手段のECシフトも明らかに増えている。同店では、直近の中元、歳暮のEC販売シェアは43%にのぼる、という。この数字には、筆者もいささか驚いた「EC化」は進んでいるのだろうな、くらいの感覚でいたからだ。こうして4割を上回る数字を出されると、「来年は5割を超えるのか」と考えてしまう。

実演販売も

 三越日本橋本店は10月29日、歳暮商品などを実演販売する区画を設けたギフトセンターを開いた。11月半ばにかけて百貨店各社が店頭に特設エリアを設ける。歳暮は自分向けの購入も増えており、各社が需要取り込みのため工夫をこらす。

 三越日本橋本店の7階に開いたギフトセンターにイートイン区画を設け、初週は仏ブランドワインを提供する。11月5〜10日にはフィナンシェのパフェやラザニアとビーフシチューのプレートなどを実演販売する。担当者は「商品の味を知ってもらい、贈答用や自分用への購入を促進したい」と語る。尚、10月7日に始まった三越のE歳暮商戦の決起セレモニー(三越日本橋本店)C売上高も前年比5%増と好調だという。

歳暮の未来

 筆者の感想としては、歳暮についてECシフトは進んでいるものの、福袋ほど「モノからコト」への変化は少ない様に見える。自家消費である福袋に比べ、歳暮はあくまでギフトであるからだろう。自分の嗜好を他人に押し付けるのが「贈答」の宿命であるから、どうしても「万人受け」を狙わなくてはならない。

 では、そろそろ「AI歳暮」はどうだろう。AIは、「候補を探す」「条件から最適化する」のは圧倒的に得意だからだ。送る相手のデータを入力するとその人にふさわしいモノや体験価値をAIが予算に応じて選んでくれるのだ。

 この「何でもAIに頼る」コトが「普通」になるのは、楽だが怖い。そのうち「この人に贈る必要はありません」とか「相手はあなたからのギフトを喜びません」とか「嫌な未来」に行きついてしまいそうだ。例によって筆者の妄想だが。