デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年02月01 日号-第131回 「食べる本屋さん」の「ニジコミ」企画とは?



百貨店内書店は日常の文化体験の拠点に
年末年始は各地の地方デパートで開催された「選べるガチャガチャランド」のニュースを重点的にお伝えして来たが、本紙が進める地方デパート逆襲(カウンターアタックCA)プロジェクトはそれだけではない。
今回は「食べる本屋さん」で開催されている「ニジコミ」を知って貰いたい。先ず説明しよう。三重県のデパート松菱の店内にオープンした「食べる本屋さん」は、出版社の推し本だけを揃えた書店であり、ここで開催される顧客参加企画が「ニジコミ」なのだ。
さて、「百貨店と書店の共通点とは何か?」こんなクイズを出されたら、購読者諸氏は何と答えるだろう。こんな話で手間をとっても仕方ないので、すぐに回答を明かそう。答えは、「ともに全国的に閉店が相次ぎ、店舗数が激減している。」だ。
筆者は百貨店を「絶滅危惧種」と呼んでいる。書店、街の本屋さんも同じだ。百貨店の不調については、昨今のインバウンドバブルの影響から「反転攻勢」に転じている様に思われるかもしれないが、それはごく一部の都心大手百貨手店に限られることは、本紙の購読者なら当然良くご存じであろう。
一方書店は「読書離れ」が叫ばれて久しいが、スマホの普及と逆相関の関係があり、特に若い人の本離れが原因と考えられている様だ。電車に乗っていると良く判る。あれだけ皆スマホを見ていたら、本を読む時間などないだろう。
それを言ったら、百貨店も「若年層」が意識さえしなくなった購買チャネルである。
只、ひとつ申し上げておきたいのは、デパートも書店も、その地域の「広い意味での文化の拠点」であった、という事だ。図書館とか、文化センターなどと言う「官製」の施設ではなく、市井(し せ い)に暮らす庶民が、自らのクオリティオブライフを高める場であった、という事だ。
もちろんそれが、パソコンやスマホを入口とした「ネット環境」の発達により、その役割が小さくなっていることは否めないし、だからこそデパートも書店もその店舗数を減らしているのも事実だ。
さて、そんな「落ち目」の(失礼!)デパートと書店のコンビだが、本紙デパート新聞は地方でおし進める「地方デパート逆襲プロジェクト」の一環として、三重県津市の松菱百貨店で、「食べる本屋さん」を運営している。
「食べる本屋さん」は東販、日販といった、いわゆる取次(問屋)を経ないで、出版社のお勧め本を直販している書店だ。本紙はそこを拠点に「ニジコミ」というイベントを開催しているのだ。
※ほぼ毎日「午後2時に始まる小規模なコミュニケーションイベント」なので「ニジコミ」なのだ。命名したのはデパート新聞の田中社主だ。そして「ニジコミ」の運営は暮らしのサポーター前部淳職員が担っている。



「吉村英夫が語る小津映画と山田映画の世界」には多くの観客が集まった。
「ニジコミ」が生む新しい学びの場
津市の松菱百貨店内書店「食べる本屋さん」で、文化交流の時間「ニジコミ」が注目を集めている。2025年10月に始まったこの取組みは、予約不要・参加費無料で、買物の途中に気軽に立ち寄れる「設計」が特徴だ。週2〜3回の頻度で、可能ならほぼ毎日継続開催され、文化や学びを「学習」として構えるのではなく、日常の延長として体験できる場を目指している。
多彩な企画で幅広い世代にアピールするため、11月には、地元津市出身の写真家・浅田政志氏を迎えたトーク&サイン会を開催した。映画『浅田家!』の原作者として知られる同氏が、家族写真に込めた視点を語り、参加者との直接対話の時間
も設けられた。
様々な工夫
生成AI講座では、専門用語を避け「見ているだけでもよい」というスタイルで高齢者の心理的ハードルを下げる工夫をして実施した。
写真企画では撮影技術ではなく「なぜ撮ったのか」を言葉にする時間を重視し、上手い・下手の評価を行わない、という場づくりを行っている。映画上映、鼻笛やアコースティックギターの音楽企画、水彩画のライブペイント、鉄道模型の展示など、企画は多岐にわたる。いずれも「立ち止まっても、通り過ぎてもよい」自由な関わり方を前提とし、百貨店空間に自然に溶け込む体験を提供している。
地域の福祉拠点として



直近2026年1月には、津中央地域包括支援センターの保健師・看護師をお迎えし、地域での暮らしや健康、介護について学ぶ会を開催した。
「まだ大丈夫な今こそ知っておきたい」支援の仕組みを、身近な場所で構えずに受け取れる機会となった。
この取り組みは2025年12月に朝日新聞朝刊でも紹介され、地域に根ざした新しい百貨店活用の事例として評価されている。
対話・鑑賞・傾聴を軸に、世代を越えた交流が生まれる「ニジコミ」。百貨店という開かれた空間が、文化と日常をつなぐ新しい拠点として機能し始めているのだ。
もちろん、イベントがない時も、普通の書店には置いていない「出版社の推し本」が面陳(表紙が見える陳列)されているので、見ているだけで楽しめる空間だ。
※以下にニジコミの最近の具体的活動を時系列で紹介する。
浅田政志 トーク&サイン会
2025年11月1日
三重県津市出身で、映画『浅田家!』の原作となった写真集で知られる写真家・浅田政志氏を迎えた特別企画。作品制作の背景や、家族写真・日常写真に込めた視点について、具体的なエピソードを交えながら語っていただいた。
トーク後のサイン会では、参加者一人ひとりが直接言葉を交わせる交流の時間を確保。百貨店という開かれた空間で行うことで、写真文化を特別なものではなく、身近な表現として伝える機会となった。
GPT講座(生成AI講座)
2025年11月〜
生成AIを新しい技術として解説するのではなく、日常でどのように関われるかを体感してもらうことを目的として実施。専門用語や仕組みの説明は極力避け、実際の画面を見ながら、問いかけ方によって返答が変わる様子を共有した。
操作は強制せず、『見ているだけでもよい』ことを繰り返し伝えた。百貨店という安心できる「場」が、新しい技術への入口として機能している。
ニジコミ 写真の時間
2025年11 月〜
一般的な写真教室とは異なり、撮影技術の指導を主目的としない写真企画。参加者が持参した写真を一緒に眺めながら、『なぜ撮ったのか』『何に惹かれたのか』を言葉にする時間を重視した。
上手い・下手といった評価は行わず、感じたことを話してよい場であることを明確にし、初心者から経験者まで同じ目線で参加できる。
松菱キネマ倶楽部( 映画上映企画)
2025年11〜12月
日本映画を中心に上映を行い、上映前には時代背景や監督について簡単な手がかりのみを提示。鑑賞後は感想を共有する時間を設けるが、発言は任意とし聞いているだけでも成立する姿勢を大切にしている。
百貨店内という日常空間で映画を観ることで、作品との距離が近づいたと高評価。
音楽企画( 鼻笛・アコースティックギター・北欧音楽)
2025年11〜12月
百貨店空間への配慮を最優先とし、大音量や強い演出は避けた音楽企画。鼻笛やアコースティックギター、北欧音楽など、やさしい音色を中心に選定している。
立ち止まって聴いても、そのまま通り過ぎてもよい自由な関わり方を前提とし、買物空間に自然に溶け込む音楽体験を提供した。
水彩画ライブペイント
2025年11〜12月
完成した作品を見せることよりも、制作過程を共有することを重視したライブペイント企画。下描きから着彩までを公開し、迷いや試行錯誤を言葉にしながら進めることで、表現行為が特別な才能ではなく、身近な営みであることを伝えた。来店者との自然な会話が生まれる点もライブならではの特徴。
鉄道模型 展示・鑑賞企画
2025年11〜12月
専門的な説明を前面に出さず、『ここを見ると面白い』といった声かけを中心に進行。
模型の細部をきっかけに、子どもと大人が一緒に覗き込み、自然に会話が始まる場となった。世代を越えた交流が生まれる文化体験として展開している。
以上、いくつか例をあげたが、「ニジコミ」は現在進行形であり、文字通り日々進化している。新しい企画が次々生まれ、コミュニケーションの輪が広がっているのだ。昨日の参加者が、翌日の主宰者となり、その人の知り合いが来週の企画を考えているのだ。そこには話す人と聞く人が居り、日々その役割が入れ替わる。
いろいろなコトが学べるが、先生と生徒の様な関係ではないのだ。平等なのだ。真に開かれた(小さなカルチャーを伝え合う)コミュニケーションスペースなのだ。
ついでに下世話な話もしておく。ニジコミには材料費やお茶代などの実費以外には、基本的に参加費や場所代といった「お金」がかからないのだ。
それは本紙デパート新聞の社主であり、一般社団法人 東日本大震災 雇用・教育・健康支援機構の理事長である田中潤が、地方のデパートを存続させる事を「公益」として考え、活動しているからだ。震災機構は現在、被災した能登地方の支援にも注力している。
朝日新聞に活動が掲載
2025年12月17日朝日新聞朝刊にニジコミの取り組みが掲載され、百貨店内で行われている文化・学びの場づくりとして紹介された。生成AI講座をはじめ、高齢者や初心者にも配慮した企画設計や、地域に根ざした新しい百貨店活用の好事例として評価された。

デパート新聞編集長
