デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年10月01 日号-第123回 池袋西武の現在位置 ―代表と店長と―
売却から2年の月日を経て、そごう・西武の旗艦店「西武百貨店池袋本店」は、この夏から徐々にリニューアルフロアのオープンを五月雨(さみだれ)式にスタートしている。
このことは本コラムで、新たに現場を任された池袋本店の寺岡店長のインタビューも交えて8月1日号でお伝えした通りだ。


それでは、セブン&アイからそごう・西武を引き継いだ米ファンド「フォートレス」から遣(つかわ)された新たな代表のコメントを見てみよう。
米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループがそごう・西武の親会社になってから、この9月で丸2 年が経過した。フォートレス日本法人からそごう・西武の代表取締役に就任した劉 勁(りゅう じん)氏は旗艦店の西武池袋本店について、家電量販店との協業により「かなりの人流が期待できる」と話した。
※いちいち茶々を入れるのは気がひけるが、「ヨドバシによって来店客が増える」とはどういう意味だろう。元々が池袋駅直結の西武百貨店であるから、そもそも池袋で一番の集客エリアであったのは、論を待たない。
彼はシナジー(相乗)効果の事を言っているのだろうか? インバウンドはともかく、館の面積減を富裕層シフトによる売上効率のアップで補おうとしている池袋西武と、ヨドバシに「安さ」を求め来店する客を「一緒くた」に語る事に、筆者は違和感を持ってしまう。

そごう・西武 代表取締役 劉勁氏
Q1 池袋本店の改装について。
「ヨドバシホールディングスとそごう・西武、取引先ブランドなどの改装投資を合計すると1000億円近くになる。既存の建物を改装するのにこの金額をかけるのは見たことがない。我々の意気込みや顧客に対する責任感を示すものだ。それだけ館の魅力、価値も上がっていく」
「金額の半分以上はそごう・西武や取引先に関連する。建材費や人件費の高騰でコストはかなり膨らんでいる」
Q2 7月には3階に化粧品フロアが開業しましたが、状況は。
「百貨店業界の経営経験は今回が初めてだが、なぜ化粧品フロアはいつも1階にあるのか不思議だった。(改装では3階で)ゆったりと時間を使える作りにした。上層階にも名だたる宝飾・時計ブランドが出店するが、路面店のように大きな店構えで接客する。各店舗が百貨店の中では最大級の面積になると思う」
※ここで、デパート歴2年の彼の経験不足を指摘しても仕方ないかもしれないが、新宿伊勢丹は2階に、銀座三越は地下1階をコスメフロアにしている。銀座シックスも地下だ。
名だたるライバルたちは化粧品顧客のリピート率の高さを考慮し、立地よりもブランド集積のためのスペースと丁寧な接客を重視している。もちろん、池袋西武の場合は、今まで改装に使えるお金がなかったのだから仕方がないのかもしれないが。
Q3 同じ館に家電量販店「ヨドバシカメラ」が出店しますが。
「かなりの人流が期待できる。西武からも、顧客の要望に応じた相互送客ができる。全フロアがヨドバシとつながるが、連絡通路は相当工夫した。違う世界に入っていく気分になれると思う。」
Q4 という事は、ヨドバシの家電製品も西武の顧客に案内するのでしょうか。
「もちろんだ。我々はもう小売業ではない。百貨店だから来てくれる『顧客資産』と百貨店だから入店してくれる『ブランド資産』、これらをマッチングさせるビジネスだ。顧客が望む物を誰よりも理解して商品構成・運営を変えなければならない。」
「顧客起点で考え、トライアンドエラーを繰り返すことが重要だ。これまではブランディングはブランドに任せきり、集客は立地頼りだった。ここを改善すれば(企業、店舗として)かなり伸び代があると思う。」
Q5 本店を除く9店舗の改装計画の進行度合いはいかがでしょうか。
「私が就任して以降、9店舗では60億〜70億円くらいの投資、300プロジェクトほどを承認して展開している。そごう横浜店では営業利益が従前の1・7倍ほどになった」
「横浜店やそごう広島店では大規模な改装を進める。これまでは一回改装して10
年放置するようなことをしていたが、毎年やっていかなければならない。」
「従業員1人で複数業務を担う『多能工化』にも取り組んでいる。従業員のスキルアップになるだけでなく、責任感ややりがいも出る。人材の質向上に期待している。」
Q6 そごう・西武の他社への売却など、将来的な出口戦略はどうお考えでしょうか。
「イグジット(投資回収)ありきで買収した訳ではない。全ての選択肢はテーブル上にあるが、まずは長期的に会社の価値を上げ、マインドセットを変えていくことが重要だ。」
※投資ファンドが「イグジット(投資回収)ありきで買収した訳ではない。」は、お約束の台セ リ フ 詞過ぎて、思わずニヤッとしてしまった。失礼!投資ファンド「出身」でした。
筆者は批判ばかりしたい訳ではない。セブン&アイの前社長の様に、本業のコンビニエンス事業に集中するために、お荷物であった百貨店を「早く売り飛ばしたい」と考えていた経営者よりは、何倍もそごう・西武のために(ひいては顧客や社員のために)なったであろう。コンビニ事業への集中を掲げていたセブンというか井阪前社長は、捨てるつもりのロバ(そごう・西武)に餌をやる余裕はなかったであろうからだ。
劉勁(りゅう・じん)氏プロフィール
2010年東大院修了、モルガン・スタンレーMUFG証券入社。12年フォートレス・インベストメント・グループ・ジャパン、2020年同マネージング・ディレクター。
2022年レオパレス21取締役。2023年9月そごう・西武代表取締役。中国・内モンゴル出身。41歳
さて、大所高所からのトップの意向は聞いた。現場はどうなっているのだろう。
2025年9月16日、筆者は西武百貨店池袋本店のリニューアル第2弾である、食品フロア(デパ地下)のオープニング内覧会にお邪魔した。翌日の再オープン前に、我々メディアと招待客だけを招いた、いわゆる「お披露目」だ。
先ずは8月19日に発表された新生池袋西武の新たなデパ地下「スイーツ&ギフト」の概要から説明しよう。


西武池袋本店の食品フロアがいよいよリニューアル
百貨店初出店11を含む約180ショップからなるデパチカがオープン


西武池袋本店は、2025年9月17日(水)を皮切りに、地下食品フロアを順次リニューアルオープンいたします。
百貨店初出店11ショップを含む41のショップが新たに仲間入りし、約180ショップからなる日本最大級のデパチカが復活します。
長くご愛顧いただいてきたショップはもとより、いま話題の人気ショップを多数導入し、「いつ来ても発見がある」「毎日来たくなる」デパチカを目指します。
地下1階スイーツ&ギフトフロアでは、改装前から充実したラインナップで人気を集めた生ケーキの取り扱いをさらに拡充いたします。
またフロア内厨房で作る焼きたて・出来立てスイーツを多数のショップで扱い、充実した品揃えでお客さまをお迎えします。
また、日本各地の銘菓・名産ショップ「卯花墻・味小路」も新たに人気の限定品を加え、バージョンアップしてご披露いたします。
9月25日 地下2階デリ(惣菜)/地下1階ブーランジェリー
地下2階のデリフロアでは、行列のできる話題店の惣菜からライブ感を楽しめる焼きたて・揚げたて・作りたての惣菜まで、専門店の本格的な味わいを揃えます。
10月以降 地下1階BENTO ステーション
地下1階駅コンコース側には日本の食文化でもあるBENTO(弁当)に特化した「BENTO ステーション」を新設。近隣にお住まいやお勤めの方々、さらには遠方から池袋駅を利用される皆さまも含め幅広い方々に、多様なシーンに合わせてお楽しみいただける弁当をご提案いたします。
2026年1月以降 地下2階デパ地下北ゾーン(生鮮・酒)
新たなコンテンツを加え、生鮮・酒など全国各地から旬のおいしさをお届けするフロアに生まれ変わります。
西武池袋本店は、食品フロアを、池袋を訪れる多くのお客さまのニーズにお応えする、魅力あふれる食の新スポットとして、展開してまいります。
以上、そごう・西武の広報から入手した資料からお伝えした。因みに池袋西武のホームページには更に詳しい情報が載っている。覗いて見て欲しい。

最後に、本コラムの準レギュラー(筆者の勝手な思い込みだが)である、西武百貨店池袋本店の寺岡店長のコメントを紹介して締めくくろう。
※尚、今回は寺岡店長の回答は要約した内容でお届けする。
西武百貨店池袋本店店長寺岡泰博氏
Q1 今回のデパ地下のリニューアルまでの、池袋西武7階の臨時食品フロア、通称「デパナナ」の成果について、どうお考えですか。
「実績ある、池袋西武の広大な食品フロアを、7階という(悪い)立地と小さな面積でリカバリーすることは、到底出来ないことは最初から判っていました。
それでも、今までの池袋西武で食品を買ってくださる顧客の皆様から「西武の食品売場がなくなってしまうのは困る(特にギフト需要)」、出店者様からも「継続したい、一部でも残して欲しい」というお言葉をいただきました。
結論として「デパナナ」を造った意義はあったと思います。西武百貨店とお客様、そしてテナント各社との繋がりを維持する、という事が大事だったのだ、ということです。」
Q2 結果的に長い改装期間になり、今までの顧客が、近隣他店に流出してしまった、という事はないのですか?
「当たり前ですけど「お客様はまったく減少していません。」等と言うことは、さすがにあり得ません。改装期間中にある程度そういった覚悟はしています。それでも、西武のお客様は「帰ってきてくださる。」と思っていますし、逆に言えば、
帰って来て貰えるような、デパ地下を造らなければならないと思っています。」
Q3 リニューアルオープンのスケジュール、(10月以降、年末、年明け以降など)は発表されていますが、最終的なグランドオープン(改装完了)はいつ頃を目途にしているのでしょうか。
「発表されている以上のことは、言えませんが(笑い)、今のところこれ以上遅れるという想定はしていないので、年明けの時点で、ある程度確度の高いお知らせが出来るかと思います。」


笑顔
3階の化粧品フロアに続き、一部とは言え、百貨店の集客装置である食品(デパ地下)がオープンしたことにより、メディアの取材を受ける寺岡店長も、どことなくニコニコと話しをする場面が見られた。
食品売場にお客様が「ひしめき合う」様子を見て、西武百貨店の再生を実感する事ができたのではないか、と筆者には見えた。
※掲載した寺岡店長の画像を見て貰いたい。

「微笑む寺岡店長」
余談だが、東武のデパ地下は、以前に比べ客の入りがやや少なくなっている様に感じられた。元々東武のデパ地下は広々とした造りになっていたのも事実なので、単なる印象でしかないが。

デパート新聞編集長
