デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年01月01 日号-第129回 ジャパニーズホラー再考

お化けブーム再来でインバウンド取り込み?
本コラム11月15日号「お化け屋敷はデパートの救世主なのか」で、筆者がダークファンタジーと表現したジャパニーズホラー。その号でお化け屋敷企画を開催した松屋銀座と松菱百貨店を紹介したが、それ以前に新宿伊勢丹でも催事が組まれていた、というニュースから始めよう。
新宿伊勢丹で「富江」の伊藤潤二氏グッズ販売
2025年10月
伊勢丹新宿本店で「富江」などのホラー漫画で国際的に知られる漫画家、伊藤潤二氏の期間限定催事が10月1日から14日まで開催された。会場は本館6階催事スペース。複製版画やアパレル商品、棺桶など多様なグッズが展示販売された。海外客の来場を期待しての事だ、という。
展示販売するグッズは100点以上にのぼり、漫画に登場するキャラクターが描かれた棺桶(165万円)は店頭では限定1点の販売となる。店舗の広報担当者曰く「伊藤潤二氏は海外にもファンが多く、ジャパニーズホラーとして国慶節に合せて打ち出す。この機会に楽しんでもらえれば」とのこと。
この伊勢丹の催事は、そもそもはホラー漫画家の新旧大家に対する、世界的評価が高まっている、というニュースが下敷きなのだ。後付けの様に聞こえたら心外だが、弊社のお化け屋敷企画の「タイムリー」な面も、正直もっと評価して貰いたいものだ。先ずは時間を半年ほど前に遡る。
伊藤潤二さんと水木しげるさん、米漫画賞「アイズナー賞」殿堂入り
2025年7月
ホラー漫画「富江」シリーズなどを手がけた伊藤潤二さん(61)が、米国の権威ある漫画賞「アイズナー賞」で殿堂入りを果たした。伊藤さんの漫画を多く刊行する朝日新聞出版が7月26日、発表した。
また、同賞の公式サイトによると、審査員が選出した殿堂入り漫画家の中に「ゲゲゲの鬼太郎」などでお馴染みの水木しげるさんが入った。「日本で最も尊敬される芸術家の一人」と紹介されている。
伊藤さんは「一作一作、なるべく手を抜かぬように努力してきたことが報われた思いです」とコメント。伊藤さんは2021年に「地獄星レミナ」がアイズナー賞の「最優秀アジア作品賞」を受けるなどこれまでに計4度受賞している。
アイズナー賞は「コミック界のアカデミー賞」とも呼ばれ、過去に同賞で殿堂入りした日本の作家には、手塚治虫さん、大友克洋さん、宮崎駿さん、高橋留美子さんらがいる。知っている人は知っているが、4氏とも怪奇、ホラー漫画(アニメ)を描いている。
手塚治虫 バンパイヤ(吸血鬼)
大友克洋 童夢(SFホラー)
宮崎駿 もののけ姫(説明は不要だろう)
高橋留美子 人魚シリーズ(犬夜叉より怖い)
因みに、西洋では人魚姫はマーメイドであり「おとぎ話、童話」である。只、グリム童話には「怖い話」が多く、子供に読み聞かせるのを躊躇うほどだ。日本のアニメ「鬼滅の刃」も昔話「桃太郎」の現代版だ。
持ち上げておいて何だが、確かにここに名前を挙げた4氏は大作家であるが、単にコミックの発行部数や販売額から考えれば、集英社(少年ジャンプ)の連載を経たいわゆる「ベストセラー作家」ではない。
4氏が選ばれた理由の1つは、アイズナー賞が「英訳された」作品を前提としていることと、もう1つは、これは映画界も同様の様だが、文化的価値を重視しているからだと言われている。
アカデミー賞
例えば米アカデミー賞は興行収入だけで「良し悪し」を決めているわけではないからだ。もちろん良くも悪くも「欧米的」な価値を基本に置いていることは否めないし、アジア圏の映画が賞を取りにくいという構図が存在する事も事実だろう。昨今は改善された(様に見える)とも言われてはいる。筆者の記憶では2020年に作品賞を受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」しか思い出せないが。
そういった訳で(どういった訳?)、アイズナー賞も、「売れた」だけでなく「価値」を認められたのだ、ということなのだ。※例えそれが欧米的価値であったとしてもだ。
こんな事を書くと「そもそも漫画(コミック、アニメ)の世界は、常に我が国が世界をリードして来たのではないか。別にまんが後進国のアメリカに認めてもらう必要などない!」という様な、昨今増殖しているネトウヨ的な反論が聞こえて来そうだ。筆者の被害妄想かもしれないが。
もちろん筆者も一瞬似た様な思いにとらわれたが、そこはそれ日本人の「奥ゆかしさ」を発揮して、貰える賞は何でも貰っておこう、という事にしておこう。それに、権威主義的な日本人の多くが、「漫画の文化的価値」をキチンと評価、認識しているのか、という点もはなはだ曖昧である。
漫画に限らず、音楽や絵画の世界でも、海の向こうで認められて日本に凱旋する「逆輸入」は芸術(文化)の世界では往々にしてあるからだ。ちょっと恥ずかしい事だが。
ここは、「井の中の蛙」が、大海の魚たちに「認めて」貰ったことを素直に喜ぼう。 失礼!またまた話がそれた。筆者が言いたかったのは、我が国の文化判定の狭量さ、ではなく、アイズナー賞受賞者たちの作品についてだ。
怪談からホラーへ
筆者が着目したのは、伊藤潤二さんと水木しげるさんに共通する「ジャパニーズホラー」というジャンルである。ヒトはなぜか「怖いモノ」に惹かれる。昔からそうなのであろう。NHKの朝ドラ「ばけばけ」のテーマも「怪談」である。
やはり、本紙11月15日号の本コラムで言及した様に、現代日本でも「お化け屋敷」やホラーブームの流れがあるのだろうか? ※因みに、弊社の企画は「お化か屋敷」だが。
アイズナー賞を受賞した水木しげる先生、伊藤潤二先生に加え、ホラー漫画と言えば楳図かずお先生は当然だが、筆者は日野日出志先生を加えたい。
2024年6月にNHK BSで放送されたダークサイドミステリーというシリーズの『「こわいマンガ」はなぜ怖い?〜トイレに行けない!表現進化の70年〜』と言う番組が放送された。「怖いマンガ」は日本の漫画表現の実験場だとして。怪奇と恐怖、その70年の進化に迫る!という内容だ。
昭和30年代の貸本マンガから始まり、水木しげるの鬼太郎、楳図かずお「へび女」「赤んぼ少女」から、山岸凉子「ゆうれい談」、つのだじろう「恐怖新聞」「うしろの百太郎」、日野日出志、永井豪、美内すずえ、御茶漬海苔、伊藤潤二、そして今話題の犬木加奈子に直撃インタビュー!という内容だった。

豆本
その中で、今なぜ日野日出志かと言うと、弊社で日野日出志の「まめ本」を販売しているからだ。いつもの様に手前味噌で恐縮だが。
〈日野日出志先生の豆本の概要〉
価格:500円(税込)
頁数:表紙4ページ+本文160 ページ
今はなきひばり書房から出版された、日野日出志先生の代表作である蔵六の奇病、毒虫小僧、地獄変、地獄の子守唄の4作品
メーカー:奇人クラブ, 寺井広樹
※寺井氏は弊社「お化か屋敷」のプロデュースにも参加
寺井氏コメント
「日野先生の作品を、ガチャ世代の若い人達にも知ってもらいたいと思ったのが制作のきっかけです。幼少期に日野先生の作品を読んで戦慄を覚えた先輩諸氏が、老眼になってもしっかり文字が読めるぐらい高精細なクオリティです。田中印刷さんに仕上げていただきました。あのトラウマが手のひらで蘇ります。」とのこと。
お化け屋敷の役割
さて、なぜ今「怪奇、ホラー」なのか。本紙デパート新聞の田中社主は「現代のこどもたちは、『非日常体験をさせない時代』に生まれてしまったから『お化け屋敷』で怖がったり、驚いたりすることが新鮮なのかもしれない。普段『キャー!』という悲鳴を上げることもない日常の中で、親も子供にそういう機会を与えてあげたいと思っているのではないだろうか」と分析している。
確かに現代社会は子供達を「怖がらせる」要因を排除する方向に動いているし、それはもちろん間違っていない。但し、危険を回避するつもりで、怖いという感情の発露をすべて塞いでしまうのはどうだろう。人は本能的に「危険かもしれない未知のモノ」を正しく怖がるモノだから。そして物語というのは悲劇、喜劇だけではないのだ。
本紙の企画「お化か屋敷」は本稿の冒頭で触れた様に、地方デパート逆襲(カウンターアタックCA)プロジェクトの一環として開催したものである、が、もしそれが、子供達の情操教育の一助になっているのであれば大変喜ばしいし、編集長冥利に尽きる僥倖(ぎょうこう)である。今回は再来したホラーブームを年の瀬につらつら考えてみた次第だ。

デパート新聞編集長
