デパートのルネッサンスはどこにある? 2020年05月01日号-1
目次
全面休業vsデパ地下営業で別れた都心百貨店のコロナ対応
4月15日発行の本紙号外でも伝えたように、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月7日に安倍首相が非常事態を宣言。政府による7都府県を対象にした同宣言及び各都府県知事からの要請を受け、百貨店大手各社は8日から営業自粛=一斉休業に突入した。
号外でも述べたが、百貨店各社は食品売場を営業するかどうかで対応が分かれた。東京都が公表した対応案で、休業を要請する業種に百貨店が含まれていたため、大手百貨店各社は翌7日、相次いで当面の臨時休業を公表した。4月8日からの「全面」休業を早々に決めたのは、三越伊勢丹ホールディングスと松屋、大丸東京、京王新宿店だ。
おかしなことに宣言が出された4月7日夜、大手4社のトップが経済産業省に呼ばれ、宣言前に当面の休業を決めたことを非難された。政府は食料品を扱う「デパ地下」の営業は続けてほしいと考えていたからだ。政府のその場しのぎの「経済優先」策はその後何度も物議をかもすこととなる。後に続く緊急事態宣言の全国への拡大の遅れや、休業要請業種の線引きについても政府の対応には問題が残る。
一方で当初から食品売場の営業を継続したのは、髙島屋、そごう・西武。新宿小田急と池袋東武も食品売場の時短営業を決めている。
その後、東京都の小池知事と西村経済財政担当相が、休業を要請する業種の線引きで揉めた。4月10日、一転して都は国の見解を受け入れ、百貨店を休業の対象外とした。結果として、政府(経産省)と東京都の方針が異なり、都心百貨店各店は政治に振り回される形となった。
4月15日号外で本紙社主が「すべてのデパートは率先して休業すべき時」で主張したように、政府が国民に自粛を求めるのであれば、デパートこそが休業すべき代表的業種である。社主は続けて、デパートは顧客だけでなく、従業員、取引先の安全を最優先しなければならない、と看破した。
食品スーパーやコンビニが営業を継続する中で、デパ地下にどれだけの「不要不急」性があるのかはなはだ疑問だ。都心=繁華街への人の移動を制限したいのであれば、尚のことデパ地下の存在意義はこの時期皆無に等しいと言わねばならない。
コロナ禍により加速する地方デパートの苦境
新型コロナ影響により休業を決める前から、訪日観光客(インバウンド)の需要激減が都心百貨店の業績を圧迫し始めていた。その結果、大手百貨店5社の3月の売上高は前年同月比で過去最大の落ち込みとなった。
バブル崩壊後も、2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災と続き、市場の縮小に歯止めがかからない中で、2014年から続く中国人による「爆買い」により、都心百貨店に限ってではあるが、一息ついたところだった。しかし、コロナ禍で都心のインバウンドバブルも終焉を迎えた。
一方でインバウンドとは無縁な地方百貨店には、一時的とはいえ同需要で潤った都心大手百貨店と違い神風は吹かなかった。
地方百貨店の苦境については本紙4月15日号で既に伝えたが、山形の老舗デパート大沼は1月、自己破産を申請し、創業320年の歴史に幕を降ろした。これで山形県は全国で初めてのデパート消滅県となった。大沼と同じ1月にクロサキメイト(福岡)、天満屋広島アルパーク店、3月には新潟三越、ほの国百貨店(愛知)も閉店した。
今後も閉店ラッシュに歯止めはかからず、8月には高島屋港南台店(横浜市)、西武岡﨑店(愛知)、西武大津店(滋賀)、そごう西神店(兵庫)、そごう徳島店が閉店する。これで徳島県も「百貨店ゼロ県」に名を連ねることとなった。また、2021年2月に、そごう川口店(埼玉)、三越恵比寿店、同年9月、松坂屋豊田店(愛知)も既に閉店を発表している。
いずれも郊外型ショッピングモールとの競争激化に加え、2019年10月の消費税率アップと続き、今回の新型コロナウイルスの感染拡大により、文字通り息の根が止まった。
人口減少が著しい地方都市で、主な顧客が地元の高齢者、というマーケットの構造的問題は継続している。経営的に立ち行かず、身売りしようにも引き受け手がなければ、山形県の大沼デパートのように法的整理しか選択肢はない。
但し本紙4月15日号で報じたように、大沼の破綻劇では、経営を担ってきた創業家、メインバンクに加え、復活の切り札として登場した投資ファンドをもってしても再生には至らなかった。それどころか全従業員の即日解雇という、とんでもないオマケまで付いた。
脱百貨店=商業施設化はデパートの進むべき道なのか
スマホの普及に連れて、アマゾンや楽天といったネット通販の拡大がデパート業界の最大の脅威となった。これは地方中小、都心大手を問わずそうであり、コロナ騒動以降は、消費のネットへのシフトが更に進み、百貨店の経営環境の悪化は避けられないだろう。残念ながらその変化は、地方百貨店において、より鮮明に現れるはずだ。
今や、構造不況業種となった百貨店の中でいち早く「脱百貨店」を掲げたJフロントリテイリンググループは、銀座松坂屋跡に「ギンザシックス」を開業。更に業容拡大のためファッションビルのパルコを完全子会社化(3月17日をもってパルコは上場廃止)した。
髙島屋は日本橋店を「日本橋タカシマヤS.C.」という商業施設にリニューアルした。それらは端的に言って不動産賃貸業であり、自ら仕入れ、物販で稼いでいた百貨店の業態とは基本的に異なる。
地方百貨店の多くも、今後はそれぞれの街の一等地を利用して、同じような不動産賃貸業に転換するだろう。だがそれはもはやデパート業と呼べるのであろうか。
日本の小売業のある意味頂点である「百貨店」というビジネスモデルはアフターコロナ時代にも生き残ることが出来るのか。 真の意味でサスティナブルなビジネスなのか。
答えを出すのはもちろん顧客であるが、多分この10年でその帰趨は判明すると思われる。もしこのままコロナショックが長引けば、2020年は百貨店時代の終わりの始まりとして後世に刻まれる年になるのかもしれない。早ければ今年の年末商戦を前に、財務基盤の弱い百貨店の再々編が表面化しても不思議ではない。
コロナ禍が収束し、たとえ消費が回復しても、アフターコロナの百貨店業界は今と同じではいられないだろう。
本紙はこの後も都心の有名百貨店だけでなく、地方で生き残りをかける地元デパートの奮闘苦闘を追いかけていきたい。
デパート新聞編集長
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