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デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年09月15日号-53

都心百貨店の現況と富裕層シフトの評判

都心百貨店の現況 – 大手5社の8月売上

 各社とも前年同月比で大幅増となっている。特に高級品、衣料品が好調で、先月売上を上回っている。

 三越伊勢丹ホールディングス、J.フロントリテイリング、エイチ・ツー・オーリテイリング、髙島屋、そごう・西武の5社の8月の売上速報を、以下個別に見て行こう。

 三越伊勢丹(国内百貨店計)は前年同月比46・5%増。J.フロントリテイリング(百貨店事業合計)27・3%増。エイチ・ツー・オーリテイリング(阪急阪神百貨店全店計)42・6%増。髙島屋(国内百貨店子会社含む)23・4%増。そごう・西武10店計22・5%増。

 因みに、前月( 7月)の前年同月比は、各社とも10%台だったのと比べ、8月はいずれも大幅な2桁伸長という結果となった。

各社の7月と8月を見比べてみる( 例 社名7月前年同月比➡ 同8月)

三越伊勢丹14.6%増 ➡ 46.5%増
J.フロント11.7%増 ➡ 27.3%増
H2Oリテイリング10.2%増 ➡ 42.6%増
髙島屋10.6%増 ➡ 23.4%増
そごう・西武13.9%増 ➡ 22.5%増

ラグジュアリーブランド、宝飾品などが引き続き好調を維持している。また、3年ぶりの「行動制限のない夏休み」効果により、帰省や旅行など外出機会が、前年に比べて大幅に増加し、衣料品、雑貨といった主力アイテムも堅調に推移している。以下各社ごとに見る。

三越伊勢丹ホールディングス

 伊勢丹新宿本店の店頭前年同月比59・3%増、三越日本橋本店の同店頭39・6%増、三越銀座店43・7%増などで、三越伊勢丹グループ計で46・5%増だった。

 札幌丸井三越24・0%増、函館丸井今井2・5%増、仙台三越11・5%増、名古屋三越2・4%増など、子会社を含む地方都市の計は17・6%増となり、グループの国内百貨店計は33・6%増となっている。

 行動制限のない今夏、新型コロナウイルス感染拡大の影響は限定的で、高額品への購買意欲が引き続き高かったという。特に、伊勢丹新宿本店は増税前の駆け込み需要や宝飾品などのリモデルを経た2019年実績をも2桁上回り、5カ月連続で伊勢丹三越の統合後では過去最高売上を記録した。

 インバウンドの恩恵が消滅してこの数字は、「百貨店界の盟主に相応しい」と言ったら褒めすぎだろうか。伊勢丹新宿本店・三越日本橋本店では、引き続き高付加価値な商品( いわゆる高額品) への購買意欲が高く、時計・宝飾・ハンドバッグに加え、ラグジュアリー+デザイナーズブランドを中心に、秋冬衣料・雑貨も好調に動き始めている。また、伊勢丹新宿本店の独自イベントも好調に推移し、売上を押し上げた免税品売上は、6月の入国制限の一部緩和を受け、三越伊勢丹計、国内百貨店計ともに前年実績を上回り、徐々にではあるが、往時の活気をとりもどしつつある様だ。

J.フロントリテイリング

 大丸松坂屋百貨店の合計売上高は前年同月比27・5%増、博多大丸、高知大丸を含めた百貨店事業の合計売上高は27・3%増だった。

 8月度の売上高は、前年同時期に新型コロナウイルス感染症の拡大により、東京、大阪などで緊急事態宣言が発出されていたことによる反動増に加え、ラグジュアリーブランド、宝飾品などの好調持続により、大丸松坂屋百貨店合計(既存店対比)では29・9%増、関係百貨店を含めた百貨店事業合計(同対比)では29・5%増となった。

 店舗別では、大丸神戸店が2019年実績をも上回っている。大丸松坂屋百貨店合計(同)の免税売上高は489・6%増となり客数415・0%増に加え、客単価の14・5%増が後押しした形だ。

 J.フロントリテイリングはグループ全体の収益を今期(2022年度)2 1 0 億、来期は400億超を目論んでいる、という。パルコを含めた不動産事業の多角化を進め、大変野心的な目標設定だと言える。

 もちろん「すべてはコロナ次第だ」と言う、外野の声も聞こえて来るが。

エイチ・ツー・オーリテイリング

 百貨店事業の全店計売上は、前年同月比42・6%増となった。内訳は阪急本店52・7%増、阪神梅田本店398・7%増、その他支店計で11・8%増を記録した。

 前年も、店舗所在都府県への「緊急事態宣言」の発出、阪急・阪神両本店における新型コロナウイルス感染対策強化のための臨時休業の反動もあり、売上高は40%増と前年実績を大幅に上回った。

 3年ぶりの全国的な行動規制のない夏休みとなった今夏だが、7月以降の感染急拡大に伴い、来店客数は低水準で推移。

 お盆には、ファミリー層や遠方からの顧客も見受けられたものの、大阪にて7月下旬から高齢者への外出自粛要請が出ていたこともあり、3世代での来店は少なかったという。この辺は関東拠点の三越伊勢丹とは状況が異なる様だ。
※新型コロナウイルスによる死者が、国内で4万人を超える中、都道府県別では、大阪府が6000人を突破し、最も多い状態が続いている。人口、感染者がいずれも1・5倍の東京都よりも約700人多く、全国の15%を占める。これには高齢者率、同居率、世帯収入( 経済格差) などの要因が考えられるが、紙面の都合があり、今号ではここまでにしておく。

 インバウンドを除く国内売上高の2019年対比は8%減、7月以降実績を下回る傾向が続く。一方で、阪急阪神の両本店は健闘を見せ、阪急本店は国内売上高2019年対比3%減、阪神梅田本店は2%増と2019年実績を上回った。阪急本店では前年は、地下1階食品売場と1階の一部売場を臨時休業したこともあり、売上高は前年実績を大きく上回った。

 この夏の猛暑の影響により、盛夏商材のサンダル、日傘が高稼働した。但し、価格よりも機能やデザインを重視する人の割合が多く、7月同様、セール品よりも定価商品が売上高を伸ばした、という。利益面では非常にありがたい状況だ。

 ラグジュアリーブランドのファッション、バッグ、婦人靴などでは、秋冬の新作や新色も徐々に入荷し顧客の反応が良いという。中でも、100万円以上の高額品の売上高は、前年の2倍近くに高伸長したというから驚きだ。

 お盆には、時計売場で遠方からの顧客が増え、地元にないブランド、商品目当ての購入が多数見受けられた。地下の食品売場でも旅行・帰省客のお土産ニーズが盛況だった、という。

髙島屋

 髙島屋各店の売上高は前年同月比24・0%増、岡山、岐阜、高崎を含めた各店・および国内百貨店子会社計は23・4%増となった。

 8月度の店頭売上は、前年の緊急事態宣言に伴う売上減少の反動に加え、高額品が好調、前年実績を超えた。店頭売上は前年比23・4 % 増(2019年比10・0%減)、免税売上は前年比170・1%増(2019年比47・6%減)、免税を除いた店頭売上は前年比20・4%増(2019年比7・0%減)だった。店舗別売上で見ると、全店が前年実績を上回っている。

 商品別売上では、紳士服、紳士雑貨、婦人服、婦人雑貨、特選衣料雑貨、宝飾品、呉服、子供( 玩具ホビー)、スポーツ、リビング、食料品、飲食が前年実績を超えた。

そごう・西武

 そごう・西武10店舗の売上高は前年同月比22・5%増(2019年同月比11・3%減)、西武池袋本店は31・3%増(同0・0%)となった。8月の売上は全店計では11カ月連続で前年を超え、ほぼ全領域で前年を超えて推移した。

 プレステージブランド(約30%増、19年同月比30%増)および高級雑貨(20%増、同10%増)は好調を継続。帰省や旅行など外出機会増加により、盛夏物だけでなく、今から着られる軽めの秋物も動き、衣料品トータルでも25%増、19年同月比10%減まで復調した。

 しかし、免税品の売上は約20%減(2019年同月比約70%減)、客数90%増(同約90%減)となっている。

 主要百貨店5 社の2022年8月度業績は、おしなべて2~4割の増収だった。ただし、コロナ禍以前の19 年同月との比較では1割程度の減収。高額品消費の堅調に加え、ボリュームゾーンの衣料品でも秋冬の新作がよく売れた。

 一方、感染者数が高止まりする新型コロナの影響で特に関西エリアを中心に、入店客数が伸びなかった。

 次に、都心大手百貨店の代表である、新宿伊勢丹の状況と「顧客の意見」を順に見て行こう。

伊勢丹新宿本店  

 伊勢丹新宿本店は前年同月比59・3%増。増税前の駆け込み消費があった19年実績をも2ケタ上回り、2008年の三越・伊勢丹統合後の最高売上を5カ月連続で更新した。同店の衣料品カテゴリーは前年同月比56%増、19年比で12%増。夏物のセール消化と並行して7月から秋冬物へのシフトを進めたことが奏功した。「特に高額なダウンジャケットなどの反応がよく、人気商品は早期に完売した」と同社広報は胸を張った。

富裕層シフトの評判

 さて、ここからが今日の本題だ。概況は大事だが、その先の「原因、要因」を検証するのが、本欄の使命( ミッション)だと思っている。

 8月の各社の状況、加えて新宿伊勢丹の概況に対する顧客の意見( 評価) はどうなのだろう。

 SNSのコメント欄から3例を抜粋した。商売は常に「顧客の声を聞け」が鉄則だ。昔も今も。伊勢丹への様々な意見

1. 「百貨店が公表する売上には外商売上(個人・法人)が含まれています。各店舗もそれぞれ外商担当が顧客を持っており、特に都心の大型店は優良顧客や企業が多いので売上も高いのです。特にここ数年、富裕層の方々は海外旅行にも行けないので、高額な宝飾品や絵画等を数多く購入しているようですしね。正直な所、体感でも都心の店舗でも客数が多いのは食品や化粧品、服飾雑貨等に限られ、主力の衣料品は客足もまばらな所が多いですよね。そういう状況を持って「百貨店売上が復調」とはとても言い難い気がします。いずれにしても百貨店の斜陽化は避けられず、この先も一部の都市型百貨店を除き百貨店は減少していくでしょう。」
※中々内情に詳しい。業界の方かもしれない。

2. 「物価高で困窮する人が増えているのは事実だろうけれど、旅行も好調だし、中途半端な値段じゃない高級品が良く売れているみたいですね。外食も、ちょっとお高い方がお客様の入りもいい感じだし、これからは、中間層とかは相手にしない、お金持ち相手の商売の方がいいかもしれません。でも、伊勢丹の今回の売上が、日本の貧富の鮮明な2極化を物語っているのか、もう少し調べて欲しい。」
※するどいご意見だ。次回から本コラムの代筆を依頼したい程だ。

3. 「一昔前の伊勢丹さんは店員さんから色々なアドバイスがあったし、素敵な方たちがいらっしゃいました。伊勢丹に行くのにお洒落をしている自分もいました。今は外商のお客さまが1番であり、俗に言う富裕層を相手にされているので、明確にそれを打ち出している以上一般客など客だと思っていません。靴下一足買うのにも躊躇してしまいます。店舗が入っていると思っていた方が無難ですね。モンクレールさん物々しいゲート店員の愛想のなさ。まぁ、良きデパートは失われつつ、不動産の伊勢丹で行くのがいいですね。」
※昔は良かった的なクレームかと思いきや、きちんと現状認識をしている。

富裕層シフトへの賛否

 SNSに限らないが、なぜ顧客の目は厳しいのか。それは、デパートが庶民( この単語自体が死語になってしまったのかもしれないが) の手の届くポジションから、自らを「高嶺の花」に押し上げてしてしまったからかもしれない。厳しい意見の要因を考えてみたい。各老舗( 都心大手) デパートの経営トップが、我先にと「富裕層シフト」を高らかに宣言しているのだから「富裕層」という自覚のない、普通の消費者は「本能的に」反発してしまう、という構図ではないか。百貨店の社員( 店員) に対し「やっかみ」とも受け取れる意見が多いのは、このせいだ。

 大手百貨店各社が足並み揃えて志向する「富裕層シフト」は、百貨店の商売が、一般消費者全体を顧客とする時代は終わった、と告げている。

 奇しくも、本紙デパート新聞社社主が先月上梓した『みんなのデパート』とは真逆の方向に向かっているのだ。なぜなら、三越伊勢丹も大丸松坂屋も、都心の老舗百貨店は『みんなのデパート』ではなく、富裕層のみをターゲットにした「金持ちのデパート」を目指しているからだ。

『みんなのデパート』

 本紙社主の『みんなのデパート』のサブタイトルは「地方百貨店に『秘策』あり」としており、これから先の『みんなのデパート』というのは、都心の大手百貨店ではないのだ、ということを示唆している。これは都心の大手百貨店が、社主の言う「本来デパートが担うべき『公益性』の観点」を捨ててしまったからだ。

 本来、みんなが憧れ、みんなが買いたい物を提供してくれる( 消費を通して公益性を追求する)のが百貨店の使命なのであり、これからそれは地方百貨店の(役割であり)時代なのだ。

 尚、7月1日号で連載43回を数える、社主のミニコラムが正に「地方百貨店の時代」だ。是非本紙バックナンバーを読み返して欲しい。

 いや、ちょっと社主への「ヨイショ」が多すぎた様だ。この辺りにしておこう。

日本を覆う「分断」

 SNSでも述べられていたが、富裕層と一般消費者( 庶民という単語は使わないでおこう)、都心と地方( 郊外)、若者とシニア、と言うように、我が国における消費( と生活) は、2極化が避けられない所まで来てしまった様だ。

 世界中のどの国でもそうであるように、富める者とそうでない者の経済格差は、世代間、人種間、宗教間に「分断」をもたらしており、日本だけが例外とは行かない。

 日本の社会は、アベノミクスの登場前、即ち10年以上昔は、貧富の差を声高に喧伝する様な風潮は皆無だった。
※もちろん実際は水面下で、上顧客への招待セールの様な企画は実施してはいたが。金持ち=悪人ではないのに、皆ちょっぴり恥ずかしそうにしていた印象だった。

 しかしコロナがそうした世間体や外聞の「踏み絵」を無くしてしまったのだ。

 2020年代(敢えてポストコロナの時代と呼ぼう)各百貨店のトップは「これから我々は、お金持ちしか商売の相手にしません」と、臆面もなく宣言してしまったのだ。この宣言が、デパートが小売の王様であった「古き良き時代」の終焉を告げる「号砲」に他ならない。そして我々一般消費者も、もはやそれを無視は出来なくなったのだ。その結果が、伊勢丹顧客の「やっかみ」発言の底に流れる「本音」として聞こえてくるのだ。
結果『みんなのデパート』には、地方に行かなければお目にかかれない時代になったのだ。ちょっぴり寂しいことに。

※次号に続く

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