デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年09月01日号-52

続 淘汰続く百貨店 渋谷と東急

 7月15日号の本欄で、都心でも百貨店の閉店が続いている事を報じた。

 日本一の繁華街である新宿を始め、池袋、渋谷でも百貨店という小売業種の見直しが進んでいる。

 池袋マルイは丁度1年前の8月末に閉店し、小田急百貨店新宿店は建て替えのため、10月1日に新宿本館の営業を終了する。小田急は現在の業容( 百貨店) が新ビルで復活するかは未定、としている。

 以前「東急を交えた渋谷の変遷を語ると紙面が尽きてしまう。」と記したが、今号で取り上げてみたい。

進む渋谷の再東急化

 渋谷の東急百貨店本店は、立川髙島屋同様、2023年の1月末の閉店を発表している。東急本店は、高級住宅街である松濤を背景に、富裕層の集客には定評があった。以下少し詳しく解説する。

 東京を起点とする私鉄の中で、失礼ながら西武、東武、京急、京成は論外として、小田急、京王を抑えて、その沿線開発( ブランド化と言っても良い) の手腕では、やはり東急に一日の長がある。

 近年の渋谷駅周辺の再開発は、イコール東急グループによる、渋谷の街の「再東急化」と言っても間違いではないだろう。 

 しかし、それは百貨店という業種業態を単純に継承することではなかった。東急グループが「渋谷の盟主」として実施した「100年に一度」の再開発により、東横デパートは消滅したからだ。

 10年前の渋谷ヒカリエ( 2012年4月) を皮切りに、ストリーム( 2018年9月)、スクランブルスクエア( 2019年11月)、フクラス( 同年12月) と次々にSCビル( 商業施設) を建て替え、文字通り渋谷の駅を包囲していった。

 それでも百貨店という業種は復活せず、東急本店の百貨店MDも継承される可能性は低い様だ。

東急本店の変貌

 東急、L・キャタルトン・リアルエステート(LCRE)、東急百貨店の3社は、2023年1月31日に営業を終了する東京・渋谷の東急百貨店本店を、新しい大型複合施設に再開発する。プロジェクト名は「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」。27年度(28年3月)に完工予定。

 地下4階~地上36階で、高さ約165メートルのビルに建て替え、隣接する東急グループの複合文化施設「Bunkamura」(地下2階~地上8階)を含め、敷地面積は1万3675平方メートル、建物の延べ床面積は11万7000平方メートルとなる。

 後背の高級住宅地、渋谷・松濤地区の特性などを踏まえ「洗練されたライフスタイルを提案する」商業店舗と「ハイクオリティーな都市型居住を実現する」賃貸レジデンス、「ワールドクラス」のラグジュアリーホテルを主体に構成する。
※ LCRE はLVMH グループの不動産開発投資会社。

 ホテルやエンターテインメントと融合しつつ、東急本店に出店していたハイブランドの拠点は、LVMH グループを軸に、後継施設に引き継がれると思われる。但しそれが、我々の知っている「百貨店」と同じ器( 施設) なのかは、新宿小田急同様今のところ不明だ。

新宿池袋と渋谷

 新宿には老舗大手の伊勢丹と髙島屋に加え、新宿駅を私鉄の起点としている小田急、京王が百貨店を構える。池袋は三越、丸井の撤退後、西武と東武が文字通り「東西」に分かれて、覇を競っている。そんな中で渋谷は( 西武はあるものの)、東急1強の街であった。もちろん、百貨店業態にとっては、という前提つきではあるが。
※注 気づいた方は中々の流通の通だ。池袋店は閉店したものの、新宿と渋谷ではマルイが現役だ。健在ではなく現役と言ったのは、渋谷マルイも既に建て替えに向けた「閉店セール」に突入しているからだ。加えて、テナントビルであるルミネやパルコや109といった業態の方が、マルイのMDに近い、というのが顧客の印象ではないだろうか。自社運営区画の比率次第であるが。

 前述した様に、丸井グループは、運営する商業施設「渋谷マルイ」を8月28日で休業すると発表した。ビル建て替えのためで、跡地には地下2階、地上9階の木造建て商業施設を建設、2026年に開業予定という。東急本店跡地より1年早い竣工となる予定だ。

渋谷ファッション

 渋谷の歴史は、パルコ、丸井といった「ファッションビル」が当時( 80年代) の「DCブーム」の時流に乗り、渋谷をすっかり「若者の街」に変えてしまった。東急は本店よりも駅近寄りに「109」や「ワンオーナイン」を作ってこれに対抗した。

 皮肉な事に( いや、担当者の思惑通りかもしれないが)、109はパルコやマルイ以上に時流に乗ってしまい、果ては「ギャル文化」や「カリスマ店員」という、インフルエンサーまで生み出した。今のインスタグラマーの先駆けとも言えるが、結果的に、新たな渋谷文化を作ってしまったのだ。

 この辺の話は、別途、本が一冊書けてしまう。これくらいにしておこう。

 90年代、渋谷センター街の若者化( 荒廃と言ったら言い過ぎか) を一番苦々しく思っていたのは東急百貨店である。しかし、その若者化の防波堤であるはずの109が起こした「マルキューブーム」は、渋谷のギャル化を増長させてしまったのだ。

 東急本店に向かう上顧客( 富裕層) は、109と渋谷センター街に「たむろする」若者に行く手を阻まれ、次第に東急本店から足が遠のいていった。彼らは二度とスクランブル交差点を渡ることはなかった。

百貨店の寿命

 世紀が変わり、ギャルブームが落ち着いて10年後の2012年に、前述した渋谷ヒカリエを皮切りに、東急による東急のための「渋谷」作りが再スタートを切った。

 1980年代から現代に至る、半世紀にわたる渋谷と若者ファッションの歴史は、裏を返せば、渋谷における百貨店の興亡史でもある。

 大変興味深いと同時に、街の開発は開発者サイドの思惑通りには行かない、という好例とも思える。何故ならそこには当然、顧客=消費者が介在するからだ。

 渋谷は、百貨店という商売の限界と、果てはその終焉までをも見せてくれる。ターミナル駅とは言っても渋谷は新宿、池袋とも、銀座、横浜とも違う。そして、商業施設としての百貨店の寿命まで考えさせられる。不思議な街だ。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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