デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年02月15 日号-第132 回 シリーズ 編集長が聞く「社長の本音」インタビュー

”米子髙島屋 森社長に聞く「地方百貨店の生き残り戦略」”~ 官民連携による地域活性化と地方百貨店ECモール 

JU米子髙島屋外観

日時:2026年1月18日
場所:米子髙島屋

森 紳二郎(もり しんじろう)

(株)米子髙島屋代表取締役社長 森紳二郎

 株式会社米子髙島屋代表取締役社長。京都出身。洛西店店長を経て現職。就任後、2年目で構造改革と地域連携により米子髙島屋を黒字化させた。隣接する商店街の代表理事も兼任しており、地ビールフェスタ米子の立上げやアーケードの改装に着手。また最近では地方百貨店だけで構成する「百貨店ドットコム」の立ち上げや官民連携による街づくりを推進している。

インタビュアー: 山田 悟(やまだ さとる)

 デパート新聞編集長。全国の百貨店を取材し、「デパートのルネサンスはどこにある?」を同紙に連載中。「選べるガチャガチャランド」の運営サポートにも携わる。

1.地方百貨店の存在意義と現状

【山田】
 本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。まず、地方百貨店の役割についてお聞かせください。都心の大手百貨店でさえ撤退を余儀なくされる中で、地方の百貨店の存続はどのような意義を持つとお考えですか?

【森社長】
 地方百貨店はやはり「地域のインフラ」に近いものがあります。地元の経済を支えているという自負もありますね。百貨店がなくなると、地元の産業、特に地産品を扱っている事業者にとって大切な販路がなくなってしまいます。それが地方の衰退に拍車をかけることになりますので、なんとか歯を食いしばって残っていかなければなりません。

【山田】
 髙島屋さんは岐阜、堺、が閉店し8月には洛西が閉店と続きますね。

【森社長】
 そうですね。堺は先日(2026年)1月7日に閉店しました。洛西も本年8月3日に閉店予定です。大都市周辺の衛星都市にある郊外型店舗は、構造的にどうしても厳しい状況に置かれています。

2.池袋西武の再編について

【山田】
 本紙でも特集していますが、西武百貨店池袋本店の再編について、どのようにご覧になっていますか?当時のそごう・西武労働組合の委員長が、今は池袋西武の店長になっています。

【森社長】
 外資(フォートレス)への売却後、ヨドバシカメラの出店計画については聞いています。当初は低層階をヨドバシが占有する計画だったものが、交渉の結果、パルコ寄りの(本館北側)区画に集約されました。地下の食品売場の一部を残せたのは成果だと思います。

【山田】
 私も1月2日に初売りを見に行きましたが、銀座シックスのような雰囲気になっていて、高級ブランドのショップ中心で平場がない。セールもしない。年配の方からすると百貨店らしさがなくなったという印象でした。

3.イオンモール出店の影響

【山田】
 閉店した髙島屋堺店の苦戦要因として、イオンなど大型商業施設の出店の影響はありましたか?

【森社長】
 堺は南海電鉄のビルに入居していて、賃貸物件と聞いております。加えて北花田周辺にイオンなどの競合が3件も4件も出店しました。近隣にイオンが出店すると百貨店だけでなく周辺の商店街も衰退していきますね。

4.洛西店での経営改善事例

【山田】
 森社長は米子に来られる前、洛西店の店長をされていたとお聞きしました。

【森社長】
 はい。就任後半年で黒字化を達成しました。施策はシンプルで、営業時間の短縮、による「一直勤務」の導入と京都店のバックアップが大きいですね。

【山田】
 一直勤務とは具体的にどのようなものですか?

【森社長】
 従来の早番・遅番の二交代制をやめて、朝から晩まで同じ従業員が通しで勤務する形態です。これにより何が起こったかというと、まず従業員同士のコミュニケーションが円滑になりました。交代制だと、遅番の人は朝礼に参加できず伝達漏れが発生しやすかった。書類での引き継ぎも手間でした。

【山田】
 お客様にとってのメリットは?

【森社長】
 地方百貨店では売場に販売員が一人しかいないことが多いんです。交代制だと販売員が就役しない時間帯が生じて、お客様が来ても(お目当てのスタッフが不在だと)帰ってしまうんです。一直勤務にすればスタッフ不在が軽減出来「いつもの誰々さん」に会える。その安心感が購買につながるんです。特に津松菱さんは更に店休日の取り組みで大きな成果を上げておられます。

5.米子髙島屋の地下食料品の改装

【山田】
 米子髙島屋では地下にマックスバリュを導入されたそうですね。

【森社長】
 実は10年ほど前、隣接する場所に「やよいデパート」という日常食料品を扱うスーパーがありました。一方、当時の米子髙島屋の地下は贈答用や高級惣菜、銘菓など「ハレの日」需要が中心でした。

【山田】
 やよいデパートがなくなって何が変わったのですか?

【森社長】
 日常的に食品を買いに来ていたお客様が来なくなりました。以前はやよいデパートで日常品を買って、ついでに髙島屋でいいものを買う、という買い回りがあった。それが崩れたんです。そこで地下をマックスバリュに出店していだき、髙島屋が得意とする贈答品や銘菓は「フードスタジオカクバン」という別館に移設・集約して継続しこれが好調に推移しています。

やよいデパート:2016年に閉店した鳥取県米子市のショッピングセンター。一時期はダイエーグループや丸合の傘下であったが、実態としてはスーパーマーケット業態。

6.米子店の存続について

【山田】
 米子髙島屋の存続についてはどのようなご判断でしたか?

【森社長】
 就任当初、米子店も厳しい環境下におかれておりました。しかし私は「工夫次第で存続可能」と判断し、営業時間を10時.19時から10時.18時に1時間短縮するなど様々な改革を実行しました。結果、2年目で黒字化を達成。3年目以降はコロナの影響を受けましたが、現在売上もコロナ過を上回り、2025年度については念願の地域一番店です。(2025年3月から12月まで累計値)

【山田】
 東館を米子市に無償譲渡されたと聞きました。その経緯を教えてください。

【森社長】
 東館にはかつて婦人服売り場がありましたが、当時の米子店の売上規模に対して面積が過大でした。退店した売場の穴埋め作業に追われることで業務的にも非効率な状態でした。そこで東館のショップを本館に集約し、空いた建物を米子市に無償譲渡しました。

【山田】
 市への譲渡はスムーズに進みましたか?

【森社長】
 議会決議が必要でしたが上手く調整が出来ました。その後、建物の活用方法について全国公募のプロポーザルを実施し、地域活性化を目指す「ジョイアーバン」が運営することに決定しました。

7.百貨店ドットコムの構想

【山田】
 森社長が立ち上げられた「百貨店ドットコム」について教えてください。

【森社長】
 全国の地方百貨店と提携し、どこにいても各地の逸品が手に入る環境を作ることを目指しています。現在は高島屋と松菱の2店舗でスタートしており、他の百貨店とも協議中です。

【山田】
 出品のルールはどのようになっていますか?

【森社長】
 各百貨店は自店が所在する都道府県の産品のみを出品するルールにしています。例えば鳥取の百貨店は鳥取のものだけ、三重は三重のものだけ。47都道府県の百貨店が参加すれば、商品が重複せず、一つのサイトで各地の産品を比較検討できるようになります。

【山田】
 注文の仕組みはどうなっていますか?

【森社長】
 顧客から注文が入ると、サイトを通じて出品元の百貨店に情報が共有され、そこから個別に発送します。私たちが在庫を抱えるのではありません。複数の百貨店の商品を同時購入した場合は、それぞれの店舗から届きます。

【山田】
 既存のECモールとの違いは何ですか?

【森社長】
 百貨店が介在することによる「安心・安全・高品質」が最大の売りです。大手ECモールでは同一商品でも価格が異なったり、出店者が不明確だったりして、特に60代・70代の消費者は不安を感じることがあります。百貨店連合として信頼性を保証し、適正価格で良い品を提供することで差別化できると考えています。

【山田】
 「百貨店ドットコム」への参加を促進するための工夫はありますか?

【森社長】
 参加の大きな障壁は商品情報の入力やアップロード作業でした。そこで、既存のURLを貼り付けるだけで商品情報を自動でアップロードできるプログラムを開発しました。これに約2年かかりました。
 また出荷時の伝票作成の手間を省くため、ヤマト運輸の物流システムとの連携も検討しています。この記事をご覧になられ、共感していただいた方の参画を期待しております。

8.選べるガチャガチャの取り組み

【山田】
 「選べるガチャガチャ」の企画についてお聞かせください。

【森社長】
 普段百貨店に来ない層、子供連れや中学生・高校生の来店を促す効果がありました。「髙島屋に久しぶりに来た」「初めて来た」という声をいただいています。SNS広告が効果的で、特に家族連れの来客が多いですね。
 山田さん「選べるガチャガチャランド」と通常のガチャガチャとの違いは何ですか?

【山田】
 百貨店は本来、定価販売が基本ですよね。「選べるガチャガチャランド」は定価販売という、その王道を守っているのです。
 通常のガチャガチャマシンでは、欲しいカプセルを手に入れるために5回、10回と回して、500円のものが2500円や5000円になってしまう。こうした販売手法は百貨店にそぐわないと考えました。
 「選べる」方式なら定価商売に合致しますし、購入されることで間接的に震災機構を通じ、被災地への寄付をすることになります。そしてデパートの公益性を実現できます。

【森社長】
 一部メーカーからクレームがあったと聞きましたが。

【山田】
 メーカー側としては、ガチャマシンに入れる契約で製造しているから、「選べる」という販売方式は控えてほしいという声が一~二社からありました。しかし私たちは定価商売の百貨店として復興支援にも協力していますので、その点をご理解いただくようお願いしています。
 デパート新聞社主の田中も「都心のデパートでは一切やらない」と断言しており、地方でこそ意義のある取り組みだと考えています。
 今後のガチャ催事の開催予定は?

【森社長】
 3月に中学・高校の制服シーズンに合わせて実施を検討しています。その後は、春休み、夏休み冬休みというサイクルでの開催を考えています。

9.官民連携と自動運転バス

【山田】
 自動運転バスですか。どのような計画ですか?

【森社長】
 米子駅と鳥取大学医学部附属病院の間で試験的に、15分から30分おきに往復運行しています。現在は運転手が同乗するレベル2ですが、来年度にはレベル4(運転手なし)を目指し、ルートが拡充される計画もあります。
 国は全国で10箇所程度を重点的に支援していますが、米子市の自動運転はそのひとつであり、とても先進的な取組です。

自動運転:レベル2は運転の大部分がシステムで行われるものの、運転手の同乗が必要、レベル4は特定条件下での運転手なしの自動運転、レベル5が条件なしの完全自動運転。

【山田】
 なぜそれほど早く進められたのですか?

【森社長】
 米子市が住民目線でスピード感を持って行動されたからだと考えています。レベル4移行後は更に運行範囲を拡大する計画と聞いています(市内中心部や皆生温泉まで拡大されることを期待しています)。地方にとっては運転手不足の解消にもつながると思っております。

10 .地方再生への想い

【山田】
 最後に、地方百貨店の将来についてお考えをお聞かせください。

【森社長】
 私は京都出身で、洛西にいた時、2km先に駅直結のイオンモールができて危機感を持ちました。行政や生産者を集めたチームを作って一致団結した経験があります。同じことを米子でもやってきました。

【山田】
 地方が生き残るための鍵は何でしょうか?

【森社長】
 地方の生産者は、自分たちが持っているものの価値に気づいていないことが多い。都会から見れば非常に価値があるのに、気がついていない事が多いと感じます。
 そこで、地域のメンバーで大山の恵みを受けた農産品や地酒、菓子類を集めて大山ブランド会という組織を立ちあげました。現在は約130社で構成されており、お中元、お歳暮、オンラインなど地元3社(当時は4社)の百貨店と共通で販売するギフト商品を開発、首都圏への催事出店なども実施し、生産者にも販路拡大の支援をしました。
 生産者も収益が上がるビジネスモデルを構築すると、後継者問題も解決し、人材の流出が防げると考えます。

【山田】
 百貨店の売上はこの30年で半減しました。店舗数は1999年の311店舗から昨年末で167店舗まで減少しました。

【森社長】
 さらに減る可能性もあります。イオンで事足りると考える人が多数派になればしょうがない。でも、私たちの世代にとって百貨店は特別な存在でした。交流の拠点、サービスの拠点としての意義を見出せれば、デパートの力で地域の文化を残せると信じています。
 お客様は間違いなく存続してほしいと思っています。その為にも、地方百貨店はそれぞれの地域のお客様ニーズをとらえた品揃え・サービスを追求し利益を生み出す体制を構築しないといけません。

【山田】
 本日は貴重なお話をありがとうございました。

【森社長】
 こちらこそ、ありがとうございました。 

編集後記

 森社長のお話からは、地方百貨店が単なる小売業ではなく、地域経済のインフラであり、コミュニティの核となる存在であることが伝わってきた。営業時間短縮と一直勤務による黒字化、百貨店ドットコムによる全国連携、そして自動運転バス導入による官民連携。これらの取り組みは、縮小均衡ではなく、新たな価値創造による地方再生の道筋を示している。

 「お客様だって、別になくなってほしいわけじゃない」という言葉が印象的だった。動いて、みんなが「そうだな」と思える。そうした積み重ねが地方を救うのだ、と改めて思った。米子高島屋の挑戦は、全国の地方都市に希望を届けるモデ
ルケースとなるだろう。

 前号の米子髙島屋の営業本部湯崎副本部長に続き、地方デパートの直面する問題と、簡単ではないものの、その解決の糸口を見いだせた、と思う。