デパートのルネッサンスはどこにある? 2020年11月01日号-12

都心百貨店の状況

 本紙デパート新聞は「百貨店のサバイバル」、特に苦境に喘ぐ、地方百貨店の生き残り戦略を、毎号追いかけている。しかし、決して大手有名百貨店だからといって、安閑としていられる状況でない事は、論を待たない。コロナ禍は、都心の有名デパートにも、地方の老舗百貨店にも、ある意味「平等」に、マイナス影響を与えているからだ。

 いや、この5年ほど、インバウンド需要の高まりを受け、往時の繁栄を取り戻したかの様に見えた都心百貨店の方が、コロナ影響がより大きく、逆境に立っていることは、前号でも伝えた通りだ。

 今回は、三越伊勢丹や髙島屋と並び、大手百貨店グループの一画を占める、大丸松坂屋百貨店の動向を、決算発表を元に見て行きたい。

 昨今のインバウンド需要の高まりを背景に、地方郊外店舗の閉店を進め、銀座、新宿と言った超都心立地の強みを生かし、他社よりも都心シフトを熱心に進めた三越伊勢丹。

 二子玉川SCの例からも、都心と郊外の、そしてデパートとSCのバランスを取って、盤石の体制を固め年間売上7千億を達成したNO.1デパート髙島屋。比べてJ.フロントリテイリングの大丸松坂屋百貨店は、傘下に持つ商業デベロッパーのパルコを、完全子会社化し、GINZASIXを含め、業態の多角化をすすめている最中だ。正に三者三様、三つ巴の覇権争いだったが、そこに未曽有のコロナが来襲し、様相は一変した。

大手デパートの戦略を決算発表から読み解く

10月13日J.フロントリテイリング株式会社より第2四半期決算が発表された。

 決算説明会資料では、「完全復活と再成長に向けて」として次の3つの重点取り組み方針を掲げている

  1. 経営構造改革
  2. デジタル・トランスフォーメーション(DX)
  3. パルコとのシナジー本格創出

 同時にリリース「組織の一部改正と役員の異動等について」も開示され、JFR社に「構造改革推進部」が新設されたことも発表された。

 これは百貨店の業態を内部から変えていきたい、という意気込みの表れとして評価したい。

 以下は、J.フロントリテイリングのメディア向け決算発表での、好本社長への質疑応答の要約であるが、筆者が「ひねくれ者」のせいか、あらかじめ用意した回答のために、作られた質問による、やりとり、の様に感じる。

Q.社長から「完全復活」というメッセージがあったが、利益水準のことか、「事業構造の変革」のコトを指すのか。

A.「2019年度の利益水準への早期回復」ということを強く意識している。つまり昨年度の利益水準への回復、というのがひとつのバーだと思っている。外部環境の変化により、この実現時期は変るかもしれないが、2021年度から2023年度の次期中期経営計画において出来るだけ早期に回復するということだ。
 現時点ではこの利益水準に到達する状況にはないが、(先に掲げた)三つの重点方針を、しっかりとやり切ることにより、一刻も早くこの2019年度の利益水準まで回復できるようにしたい。

Q.百貨店だけ取り出すと、第2四半期の売上がマイナス20%強の低下でも、黒字が出せたのは評価できる。先程「損益分岐点を下げる」との説明の中で、定借モデルの推進とあった。期首計画より一段とコスト削減が進んだ結果が今実績だが、これらの要因として、催事縮小、変動費の縮減、投資先送りなどが大きかったのか。それとも固定費の削減により損益分岐点が下がっているのか。働き方や組織の改革も含め、この半年間での取り組みの進捗・成果について、教えて頂きたい。

A.「全体として6月公表値に対し事業利益が82億円改善したが、このうち41億円は、売上総利益の改善。残りの41億円が販管費削減によるものである。ご質問は販管費削減に関してだが、計画値は確実な線で出したと考えているが、コストについては全般に亘り聖域無く効率化に取り組んできた。社外取締役からは「毎日1億円のキャッシュが流出している。」という指摘も頂いたが、その中で我々は非常事態としての取り組みをしてきたつもりだ。
 内訳として主に大丸松坂屋百貨店では30億円を削減している。通常では固定費と考えるものにも短期的にはかなり踏み込んでいる。営業政策においてはお客様の安心安全に抵触する可能性のあるもの、あるいは販促自体を実施することで赤字になる恐れのあるものは中止した。そうした意味では、従前で言えば当たり前の経費も短期的には削減対象とし、取り組んできた成果だと思う。
 一方、これらの縮減を単に継続することは考えていない。上期は外商のホテル催事や外部催事もほとんど中止した。北海道物産展も然りだ。それを今、再開し始めている。お客様の安心安全を大前提に今後は前を向いて進んでいく必要がある。今上期はある意味我慢を強いられたが、これら経験を糧に、何を長期的に活かしていくか、またさらに効率的にコストを使うためにどうしていくべきかを考えたい。
 先程、構造改革の目標として100億円以上のコストダウンを図りたいと申し上げたが、この数ヶ月間にこれだけのコストダウンを図れたことは、その礎になることは間違いないと考える。

Q.社長から、「社員のマインドを変えるには今般のコロナは良いタイミング、これを好機として色々と変えていく」との話があった。その点で、スタッフのマインド、特に現場で「毎日店頭で販売するのが当たり前」ではなくなった販売員や、ミドル・マネジメント層のマインドはどのように変わっているか。

A.マインドセットについて、私自身が直近まで百貨店現場で感じたことを言うと、当初はなかなか店頭のお客様に近いところまで志を一つにすることは難しいと感じていた。しかし現状で言えば危機感は、現場メンバーまでしっかりと伝わっていると思う。
 デジタルを使った取り組み、例えばアプリやライブ配信のような、外商や店頭のメンバーが、主力になって取り組んでいる現況について、㈱大丸松坂屋百貨店の澤田社長から補足説明する。

A2.店頭販売スタッフで言えば、入店客数が前年6割程度で推移するなか、距離の離れているお客様といかにコミュニケーションをはかり、商品を見て頂き、お買上げ頂くかについて、「ブログショッピング」という仕組みを作った。具体的には店頭販売員がお客様に商品をご紹介し、お客様に気に入って頂ければEコマースのサイト上でお買物できるという仕組みである。このコロナ禍において、各店ではこれらブログに掲載する情報量が飛躍的に増えている。
 外商では、「訪問は遠慮して欲しい」というのが、お客様のご要望であったため、当初は手も足も出なくなっていた。そこで色々とトライしZoomやウェビナーを通じてお客様へアプローチする様にしたが、これらが功を奏して数字も上がっている。例えば外商マネジャーがラグジュアリーのショップと協働で顧客にライブ配信して、新作のご案内をするなどの取り組みはすでにスタートしている。我々としては簡単に決済できる仕組みを作れば、より顧客からみて利便性が向上すると認識している。また来週・再来週に大きな外商催事を開催するが、従前どおりご来場いただくことは難しいため、会場内でもウェビナーやライブ配信を同時並行で行う。またお手元に iPadをお持ちでないお客様には無償で貸し出して対応する。「時間と場所の制約を克服する」という観点で様々なトライを重ねている。
 販売促進などでは情報配信自体をデジタル化している。従来まではお客様に葉書でご案内していたが、現状では紙媒体をほぼ全廃し、デジタル配信に切り替えている店舗もある。これらにより販促費も大幅減している。また本社は在宅勤務が常態化しており、マネジメントスタイルも変わってきている。

 以下、総評を述べる。

 大手百貨店グループのトップから「コロナで大変だけれど、弊社はやるべきことは着実にやっている。」というメッセージが伝わって来た。デジタル、アプリ、ライブ配信、ブログショッピング、Eコマースサイト、Zoomやウェビナー、デジタル配信、と言った単語は、正にデジタル・トランスフォーメーション(DX)をやってますよ、のオンパレードだ。

 筆者は別に、悪口を言っている訳ではない。もちろん「ちゃんと」やっているのだろう。やれる手はすべてやらなければならない局面であるのは、百貨店経営者に限らず、衆目の一致するところだ。
「これらが功を奏して数字もあがっている」との発言もその通りなのだろう。決算発表であるから、株主、顧客、従業員といった、すべてのステークスホルダーにプラスの情報発信はすべきだと思う。

 街のラーメン屋さんは「冷やし中華始めました」と店頭に張り紙をしても、秋が来れば、知らぬ間にメニューから外しても怒られない。だが、日本の三大百貨店である大丸松坂屋百貨店は、店頭に掲げた「DX」や「IT化」のPOPを雨 風にさらしたままでは、済まないということだ。

 半年後、一年後でも構わないが、その「成果」を是非数字で示して貰いたい。

 もう一つ、大丸松坂屋百貨店はアマゾン、楽天、メルカリではなく、百貨店であるから、お客様の期待通りの品揃えをするバイヤーと、期待を裏切らない接客をする販売員のおもてなしを、どうか忘れないでほしい。それがデパートの原点であり、レーゾンデートルである。
※接客もレジ打ちも、もちろん会話や笑顔さえないAmazon Goで事足りる、そんな時代になったら、筆者はもちろん、喜んで前言を撤回する。

 まぁ、もちろんそれまで長生きは、しないと思うが。

アパレル依存の終焉

 ファッションアパレルと百貨店は、その長い歴史の中で、持ちつ持たれつで成長してきた。半世紀前、いや、つい10年前でも、「ファッション=百貨店アパレル」と言っても文字通り過言ではなかった。

 大手アパレルメーカーの大量退店やブランドの統廃合で、8~9月に百貨店の衣料品売場の空床が相次いだ。空いた売場は代替ブランドを導入してしのいだ事例を除き、既存ブランドの移設などゾーニングの見直しや、期間限定店を入れたイベントスペースなどに充てて凌いだ。

 空スペースの穴埋めは、パッチワーク的な対応が大半を占め、百貨店の衣料品売り場の在り方、MDの方向性は、全く見えて来ない。「正式な撤退の話があったのは、緊急事態宣言に伴う休業明けのタイミングで、全く対処できなかった」「撤退予定のブランドを含めると、来春には衣料品だけで1フロアの半分が空床になる」と地方百貨店の担当者の悩みは尽きない。

 地方・郊外店の衣料品の構成比は面積で50%を占めるが、売上げでは25%に止まる。衣料品の消化仕入れの慣習は、91年のバブル崩壊以降、減収に伴う利益確保を目的に急速に広がった。在庫リスクも人件費コストも負わずに済む、この取引慣行は、売り上げが下がり続ける今も、ほとんど変わっていない。

 近年、衣料品偏重のカテゴリーバランスの是正は避けられない所まで来ている。また、前号でも言及した様に、定借テナントを入れ、自営面積を圧縮する動きは、今後さらに強まるだろう。もっとも、取引先と百貨店の双方で、新たな需要を創出できていないことが、問題の本質ではある。この相互依存の関係(悪しき持たれ合い)は、売場内の商品の同質化を招き、結果として、店頭での独自性も失われていった。

 百貨店がリスクを負わない、現状の取引形態は、もはや通用しないところまで来ているのだ。

●ファッション業界アンケートの衝撃

繊研新聞が、購読者に行ったアンケートによって、ファッション業界に携わるビジネスパーソンの「コロナ影響」の実態を探っている。コロナ禍で、おしゃれをして外出する機会が減った2020年。人々のファッションアイテムの購買意欲や、頻度に、当然大きな変化があったと思われる。先ずはそこから。

Q1 コロナ影響前と比べ、ファッションアイテムにかける支出の変化は?
A1・減った 61%
・変わらない31%
・増えた8%

Q2.Q1で「増えた」と答えた人の理由。( 複数回答)
A2.・ストレス発散46%  
・旅行や外食NGの代替消費39%  
・処分セールの充実23%

◇その他回答として、「全体的な出費が減り、これまでより良い品を買うことが増えた。」「自分の持ち服を再考する時間が増え、買い直しのため。」という意見があったが、8%という、あくまで少数派の意見であり、自粛期間で手持ちファッションの「断捨離」を断行した消費者がどれだけ存在したかは不明のままだ。

Q3.Q1で「減った」と答え人の理由。(複数回答)
A3.・そもそも外出が減ったから78%
・人と会う機会が減ったので62%
・リアル店舗は行きにくい42%
・経済的な先行き不安37%

◇Q1で「変わらない」と答えた31%の理由には「自粛期間はあったものの、そのあとにあまり変わらない生活に戻っているから。」「収入が減ったわけではないから。」「元々コロナ前も服を買う量は多くなかったから。」といった意見に加え「欲しい物があった場合には、よく考えて購入している。ただ少しだけ、リモート等で家での快適性を考慮するようにはなった。」という、自分のライフスタイルはコロナ禍でも変わっていないぞ、という主張を交えたもの等、様々であった。

Q4.Q3で「ファッションアイテム以外にお金を使うようになった」と答えた人の理由。(複数回答)
A4.食費49%
家具インテリア雑貨36%
貯蓄、投資30%
趣味娯楽23%
家電19%
習い事11%

◇ここで興味深いのは、「食費増」は外食が減ったので当然として、家具、インテリアに家電を加えると55%になり、巣籠り消費が終わっても、皆が「自宅生活の充実」にお金を回している実態が見えてくる

Q5.コロナ禍における、ファッションアイテムの主な購入場所は。
A5.リアル店舗46%
オンラインショップ37%フ
リマアプリ3%

Q6.ウィズコロナ時代、ファションアイテムの需要はどう変化するか?
A6.減ると思う71%
変わらないと思う26%
増えると思う3%

◇Q6で「減ると思う」と答えた人の理由には「元々、低かった可処分所得内での優先度がさらに下がるため。」「外出が減るから。」「不景気、先行き不安、収入減少。」「コロナが収まらない限りは外出が減るので、当然需要は減る。」という意見が大勢だが、中には「現役世代はあまり変わらないものの、高齢者のファッションにかける意識が低下した。」「購入アイテムをより吟味するようになったので、量的には減ると思う。」という顧客の購買 心理の微妙な変化を上げる回答も多く見られた。◇Q6で「変わらないと思う」と答えた人の理由には「おしゃれなマスクが増えたように、アイテムは変わっても何かおしゃれなものは出続けると思うから。」「買う人はネットで買う」「アパレルで働いていて、コロナ前と変わらない数のお客様が来店されるから。」「服を着て楽しむ気持ちは変わらない。」といった意見が多かったが、中には「流行り廃りのある物は買わなくなったが、これから10年、20年着られるような物は持っていないので、これから揃えていくための消費に変えていくため。」といった、サスティナブルな社会の到来を裏付ける様な意見も見られた。

◇Q6で「増えると思う」と答えた人の理由は

 「マスク購入」と素っ気ないが、「外出制限が緩和されると、そのリバデパートのサバイバルは続くウンドが起こる」という、喉元過ぎれば、的な意見もあった。人類の長い歴史から見れば、「コロナ禍」も一瞬の出来事で、人間の購買意欲自体は人間とともに「生き残る」のだろうか。

◇総括
アンケート回答者のプロフィールを見ると男性:58%に対し女性:42%。年代は20~30代:18%、40代:27%、50代:36%、60歳以上:19%と、比較的男性が多く、役職者、管理職が多い。ファッション業界人の新聞ではあるものの、本来はファッションビジネスのメインターゲットである「若い女性」の意見が、あまり反映されていない事が、ちょっと気になる。もう一つ言及しなければならない事がある。それはこのアンケート結果は、ファッションビジネスに少なからず携わっている人々の、データだと言う事だ。ファッション関係者の6割以上がファッションを以前より「買わなくなった」と、言っているのだ。であれば、一般消費者が尚更ファッションへの支出を抑えていることは、想像に難くない。

●百貨店のミッション

百貨店に限らず、コロナ禍以後のファッション売J.フロントリテイリングと髙島屋は10月13日に2020年3~8月期の中間決算を発表した。両社の発表によるとJ.フロントリテイリングの最終損益は163億円、髙島屋は232億円の赤字、また2021年2月期本決算の最終損益予想はそれぞれ186億円赤字と365億円赤字であった。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けて2月末から6月にかけて実施した臨時休業や営業時間短縮に加え、日本経済の大幅な落ち込みにより、その後も外出を控える動きが続いていることなどにより、入店客数・売上ともに前年を大きく下回る結果となった。日本経済は新型コロナウイルス感染症拡大の影響上のマイナスは、誰しもが感じているし、現場で日々実感している人もいるだろう。しかし、ファッションの新聞がファッション関係者に実施したアンケート調査で、60%が「以前より買わなくなった」というのは、中々に衝撃的だ。それは、もしかしたら、コロナウィルスが全世界から駆逐され、ウィズコロナがアフターコロナになったとしても、「ファッション離れ」は止まらないのかもしれない、という考えだ。コロナによって現出したニューノーマルの世界は、例えコロナが無くなっても、オールドノーマルには戻らない、ということだ。サスティナブルやSDG`Sという考え方を是とする人が増加し、大量生産と、それに呼応する大量消費の世界は、正にオールドノーマルであり、コロナ前からその終焉は予見されていたのだ。消費社会と、それを象徴するファッションビジネスの衰退は、それをリードしてきた百貨店ビジネスの衰退でもある。インバウンドという名の抗生物質により、ひと時は生を永らえたとしても、ファッションの売上総額が、再び上向くことはないだろう。もちろんそれは、百貨店ビジネスそのものの終わりではない。消費者と消費社会の構造が変わっても、「商売」自体は無くならないし、店舗は生き続ける。
百貨店は、その都度、消費者が求めるモノを、いや、モノだけでなくコトも、提供し続ける使命がある。それは商売が、リアルだけでなくネットにも広がった今、もちろん単純でも、簡単でもない。
百貨店には今、顧客が必要なモノ(コト)だけでなく、これから人々が欲しくなるであろうモノを、予見し、それを探し出し、「提案」し続けるコトが求められるのだ。都心であれ地方であれ、人々が「デパート」に求める仕事は、それなのだ。そこを間違えなければ、百貨店が消滅することはないだろう。
筆者はそう信じたい。

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