デパートのルネッサンスはどこにある? 2024年09月15日号-99

第99回西武は一地方百貨店になった

そごう・西武労働組合 寺岡泰博中央執行委員長インタビュー3回目(後編)~あれから1年でこうなった~

9月1号から続く

《質問9 事業継続》

デ : そんな中で問題は、その後の事業継続としては半分だとして、次に雇用は?
※注 そごう・西武労働組合は当初から一貫して「事業継続」「雇用確保」「情報開示」の3つをセブン&アイ(井阪社長)に求めていた。

寺 : いや事業継続をしたと言えるかどうかもわからないですよね。だって今のままいけば収益的にアカ・クロ、ギリギリですよ。もちろん黒字化の計画になってはいるけど、黒字化を本当に立証できるかどうかは蓋を開けるまでわからないですよね。

デ : オープンして1〜2年というか、それこそ5年10年経たないと成功も失敗も判らないですよね。

寺 : そもそもこの巨艦のお店の中の、一番坪効率の良いところがなくなるわけで、我々は坪効の低いところに押し込められる。かつ、フルラインではもう売場を展開できない訳です。かつ、家賃が発生するわけです。しかもそれが「べらぼうな」金額で。かつ、この半年一年クローズする訳ですよ、顧客の繋ぎ止めもどこまでできるか判らない。そうなった時にそれは相当な逆風ですよ。それでとりあえず継続ですねと、事業継続の約束は守ったとは、よう言わないですよ。

《質問10 雇用確保》

デ : そして「雇用の確保」という面でいうと、池袋にいるスタッフは半分以下になってしまうのですか?

寺 : 一応要員計画上は、今、転進支援含めてやっています。「雇用は守る」と言っている以上、いわゆる「肩たたき」的なことは会社はやっていないので、個々人の判断ですけど。

 会社の見立てと言うか計画としては、売場が半分になり、人も半分、と言っています。もちろん、その通りになるかというのは別問題ですけど。

デ : やりがいという面も含めると中々厳しいですね。この後、半分残った部分で富裕層を相手に、昔西武と伊勢丹が売上日本一を競った時代の再現が出来ないかな、とデパート新聞にも、夢の様なこと書いたのですけど。(笑)

寺 : 相当それは難しいと言うか、僕たちはもはや、一地方百貨店です。(地方が悪いとか言うのではなくて)全国展開している伊勢丹とどうとか言うレベルではないです。

《質問11 電鉄系》

デ : 渋谷で東急がなくなり、新宿でも小田急も京王もなくなるっていうところで、(西武は純粋の電鉄系ではないですけど)特に電鉄系(百貨店)はある程度不動産的な発想をお持ちだから、百貨店より儲かることがあるなら、人が集まるものがあるならっていう、発想が間違っている訳ではないのですけど。

寺 : これは「たられば」の話ですが、東武さんだって改装してどうなるか判らないですけど、池袋でウチ(西武)と東武さんを合わせても太刀打ちできないですよ。

 僕がこんなこと言ってもしょうがないけれど、旗艦店である池袋西武がなくなる(半分〜1/3になる)ということで、そごう・西武の百貨店全体の営業力は格段に落ちることは間違いないです。井阪さんは営業力はそんなに落ちないって言っているけど、そんなことはない訳で。これはやったことのある人にしかわからない感覚だと思いますけど。

デ : (井阪さんは)本当に判んないのかもしれないから、怖いですよね。(笑)

寺 : 多分、(井阪さんは)真面目な方だから、純粋にそう思っているのだと思いますよ。

《質問12 ヨドバシ》

デ : 今はもう、フォートレスではなくヨドバシですよね。ヨドバシさんとのお話し合いとか、関係とかはいかがですか?

寺 : 僕はないですよ。(組合としても)まったくない。

デ : それは、そごう・西武という会社の労働組合として、そのセブンさんとは、ひと山(そごう・西武を)越えて話をする時はあったけれど、ヨドバシさんとの接点はほぼないと。

寺 : ほぼというか、関係性という話であれば、大家と店子の関係なので。いやこれが、ヨドバシがそごう・西武のオーナーとかであれば別ですけど。例えば、西武百貨店を運営していて、そこの一テナントの組合と話をすることはないわけですからね。パルコでもそうでしょう。

デ : 話をする立場でもないし、そんな関係性でもないと、いう事ですね。

《質問13 渋谷、横浜、千葉》

デ : ところで、横浜と千葉(そごう)とか渋谷(西武)とか、そごう・西武は、今のままではないですよね。どうしていくのですか?

寺 : やり替える(改装、リニューアルをしていく)のか、ということですね。やり替えます。

デ : 改装をする、ということですね。池袋西武と同じではないかもしれないけれど、是々非々でしょうけども。

寺 : その地域に合わせた、今風の館にしていく、ということですよね。その辺りのスケジュールというのは、まだ決まってないのですが、順番にですね。同時にはできないので、池袋店があまりに大きすぎて、(笑)池袋の目処がついた段階で、ですね。

《雇用とプライド》

デ : デパート新聞としては、委員長のインタビューを含めて、今回「そごう・西武売却」についての2年間の連載を時系列にまとめる予定です。その中で本当に切実な組合員の雇用の問題とかあるじゃないですか、「そこがやっぱりそもそも間違っているでしょ」ということは誰かが言い続けていかなきゃいけないと思います。

寺 : そこはそうだし、最後に申し上げたいのですが、間違ってほしくないのは、良く誤解されるのですけど、百貨店が上とか、コンビニが下とか、家電が下とかね、そういうことではないのです。

デ : 家電やコンビニが嫌だとか言っている訳ではないですからね。そうですね。
それぞれが良いところも悪いところもありますが、只、百貨店で働いてきた人間に、明日から急にエアコンを売れ、と言われても中々厳しい面がありますよね。コンビニもそうですが。

寺 : それは逆もしかりですよね。皆、それぞれプライドを持って仕事をしている訳ですから。それを否定するつもりは全くありません。僕はバブルの後の世代だから、百貨店の華やかだった時代を振り返って、という訳ではなく、良い時も悪い時も見て来て、判った上で、それでもこの百貨店の文化を残したいと思っています。

 百貨店に対する偏見もあると思います。ジェンダー差別とはちょっと違うかもしれませんが、無意識のうちに女性差別があるように、なんとなくイメージとして百貨店に対して見えない壁というか、「うがった見方」をされている様な場合があると思います。

 これも、よく批判されるのですが、「赤字の百貨店がヨドバシに変わるのは当然だ。今更何を言っているんだ。」と言われるのですが、そういう方にこそ、この『決断』を読んで貰いたいですね。

デ : デパート新聞でも宣伝しますよ、もちろん(笑)

寺 : そういう意味で言うと、多分パルコさんが一番セゾン文化を継承されてやっていると思うので、頑張って欲しいですね。

デ : ひとくちにセゾン文化と言っても、大分変容していますね。クレディセゾン、無印良品、西友もそうですけど。パルコも大丸松坂屋(J.フロントリテイリング)のグループですから。旧セゾングループの関係性もどんどん薄まっていく感じはしますが、DNAとして残るものもあるとは思います。それでも「昔は良かった」的な話で終わらせては意味がないですよね。

寺 : それは避けたいですね。

デ : 長い時間ありがとうございました。これで終了いたします。

インタビュー後記

 いつもの様に、西武百貨店池袋本店内、書籍館の2階にお邪魔した。

 8月1日、いつもの様に池袋駅から直結の西武の食品売場に入り、いつもの連絡通路を通った。店舗はそのほとんどが改装中で、地下2階の生鮮・総菜ゾーン以外はほぼクローズしていた。

 インタビューでも触れた様に、大改装であるから仕方がないが、今、池袋西武の館内を見ると、悲しさよりも虚しさを、より強く感じてしまうのだ。無力感というのだろうか。

 筆者は、微力ながら外野から池袋西武を応援したい、と記したが、一方でどんな言葉も虚しいのでは、という思いを強くした。「頑張れ」は他人の勝手な口出しなのか、とも。

 帰路、寺岡委員長の左手薬指の指輪が、やけに大きい事が気になった。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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