昭和24年10月創刊

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デパートのルネッサンスはどこにある? 2020年9月15日号

岐路に立つ百貨店2

百貨店を待ち受ける課題とは

 前号でも言及したが、コロナ禍は終わっていないどころか、終わりの見えない「ウィズコロナの時代」が始まったばかりだ。只、あれだけ毎日ニュースで速報していた、新規感染者数についての情報は、安倍首相辞任のニュースにより一旦途絶えた。その後も、後継者選びや、超大型台風の接近により、警戒を呼び掛けるマスコミにとって、コロナ感染のプライオリティはいっきに下がった模様だ。

 専門家による、感染者数は「既に峠は越えた」というピークアウト宣言も、PCR検査の陽性者が東京で200人を切ったことも、当然影響していると思われる。もしかしてだが、関東の人間にとっては、テレビで小池都知事の顔を見る機会が減ったことが、「コロナ終息の兆し」と、捉えられているのかもしれない。実際に起きている現象以上に、自分の頭の中で「印象操作」が行われているのかもしれない。

 もちろん社会、経済活動の上では、日本は「コロナ不況」真っただ中だ。デパートを取り巻く商業の世界でも、コロナによるマイナス影響は継続している。今号では、今後、百貨店を待ち受けている「課題」をひとつひとつ取り上げ、可能な限り、その対応策を考えていきたい。毎月の様に聞こえてくる、地方百貨店閉店のニュースに、嘆いてばかりもいられないからだ。

課題① インバウンド

 半年前にコロナ問題を最初に取り上げた時に伝えたが、2019年には外国人観光客によるまとめ買いは、大手百貨店売上の大きな柱に成長していた。2016年に銀座三越に1,000坪、東急プラザに1,300坪の二つの大型免税フロアがオープンし、翌年には新宿髙島屋(850坪)、横浜そごうと続き、同様のコーナーが次々と開設された。

 但し、コロナ危機が始まった2020年初頭には、既に百貨店でのインバウンド消費は、そのピークを過ぎていた。コロナにより中国人観光客が激減するより前に、免税ゾーンは徐々に閑散とし始めていたのだ。インバウンド売上は、以前として百貨店の中で大きなシェアを占めてはいるが、既にブームの中心は、グルメや体験といった時間消費テーマに移行、拡大していたという事だ。

 もちろん、結果として、超都心立地の大手デパートの免税フロアは、ほとんど稼働していない、という事態に至った。最終的にコロナがすべてを葬ってしまった事に、変わりはないが。

観光立国の行方

 インバウンド需要については、4~5月の非常事態宣言下はおろか、解除から3ヶ月経った今も、状況は変わっていない。政府が一部の国からの渡航を解除したとは言っても、中国、台湾、韓国、タイなど、来日観光常連国からの飛行機が、ほとんど飛んでいないのだから当然だ。

 旅行大手のJTBは、百貨店、SC等に出店している店舗の営業を時間短縮した。本来であれば夏休みの予約で混雑する6~7月に社員の夏休みを事前に消化させ、逆に8月からは通常営業体制に戻した。東京外しで悪名を馳せ、多くの国民から、時期尚早と揶揄されながらスタートしたGOTOキャンペーンにより、それでも国内旅行は、少しずつ回復基調に向かっている。

 一方で、海外旅行に特化しているHISは、主要店舗以外を臨時休業し、一部の店舗は、週3日の短縮営業を余儀なくされている。早期の回復を見通せないまま、流行りの電気小売事業に参入するなど、多角化に舵を切っている。

 旅行大手2社は、明暗を分けたと言うよりも、ぼんやり薄灯りと真っ暗、というのが実態だ。中小の旅行代理店や航空各社に至っては、言及するのも酷なほどの惨状である。

 インバウンド需要によって潤い、更に今年はオリンピックにより、業界全体の飛躍が約束されていた「観光立国」にとって、文字通り「天国から地獄」という比喩がオーバーではなく、現実化したのだ。

課題①に対する考察

 インバウンド需要の回復の具体的な処方箋は、ワクチン開発と来年のオリンピック開催の二つだ。

 観光業の見通しについては、既に本紙6月15日号で次の様に伝えている。訪日旅行に関するアンケート調査の結果、中国とタイの人々の「行きたい国」の1位は日本となり、訪日への意欲が相変わらず旺盛であることが分かった。うれしい。

 政府は海外向けのGOTOキャンペーンは企画しているのだろうか。

 コロナ終息即インバウンド回復、というシナリオ通りに行くのだろうか。すべては「時が解決してくれる」という回答は、あまりに安易で、無責任すぎるかもしれないが。

課題②都心回避の先に

 次の課題もコロナに密接に関連する。三密やマスコミの言う「夜の街」を避ける心理が、都心から顧客を遠ざけている。新宿、池袋、渋谷といった、乗降客数上位のJR山手線の主要ターミナル駅周辺を、避ける動きが続いている。超都心立地の大手百貨店各店では、4,5月の売上がほぼゼロだっただけでなく、6~8月の前年比も、半減したままで中々元に戻らない。

 対する、郊外立地の商業施設や、アウトレットモールは、半年前もしくはそれ以上の盛況を取り戻している。郊外店は、前述のインバウンドの恩恵を受けなかったため、反動マイナスとも無縁だったのだ。

 都知事やマスコミが、それこそ念仏の様に唱えていた「ステイホーム」の呪文が効きすぎたのかもしれない。顧客はとうとう「都心は怖いが家の近所は安心」という、独自の答えを導きだし、実践し始めた。もちろん実態は「独自の答え」でもなんでもない。日本人の専売特許となった「同調圧力」という名の、ご近所忖度である。百貨店顧客の大半が高年齢層であることもあり、近隣の目は気になるのだ。コロナも怖いが陰口も怖い。だとしたら同調圧力ではなく「同町圧力」とでも呼ぶべきかもしれない

 都心百貨店と、郊外SCの対比は、それこそ明暗を分けた形だ。それでは地方百貨店はどうなったのか、というと「例えコロナ前に戻っても、苦しいことに変わりはない」という、元も子もない話になってしまう。大都市圏の百貨店が不振に陥ったからと言って、地方のデパートに光があたる訳ではない。風が吹いても桶屋が儲かるとは限らないのだ。

 大都市圏以外の、各県別の感染者数を見れば、連日ゼロか一桁であり、新型コロナの感染は、もはや都市部に限定されたインフルエンザの一種に過ぎない。

 逆に、地方百貨店の閉店連鎖は、コロナとは無関係に、止まらない。この後5~10年の内にこの「淘汰」が収束する確証はないのだ。その先20~30年後に、大都市以外の百貨店のすべてが消滅していても、誰も驚かない。それどころか、誰も困らないのだ。これが、「地方から百貨店が消える日」が現実となりうる、唯一の理由かもしれない。

課題②に対する考察

 都心回帰が都心回避に傾いている。
9月9日、小池知事は東京都の警戒レベルを1段階引き下げ、同時に23区内の営業時間の短縮要請を解除する方針、と伝えられました。

リモート移民

 コロナがピークアウトした(という認識)にもかかわらず、満員電車は以前に比べ空いている。満員には戻っていないのだ。IT企業では、パソコンさえあれば満員電車に乗って定時出勤する必要はなく、会社もそれを是とした。元々はオリンピックのために提唱された、オフピークや時差出勤の目標は、皮肉なことにコロナにより、苦も無くあっけなく達成された。リモートやテレワークという名の、新しい働き方改革が始まったのだ。これは、サラリーマンやビジネスパーソンの無駄な時間を省く一種の「時短革命」と呼べるかもしれない。コロナによる本当に数少ない「功績」と言ったら、叱責を受けるだろうか。新しい生活様式は不便で息苦しいが、すべてが悪とは限らない様だ。

 会社に行かずとも、業務に支障のない人々を、図らずもコロナが炙り出した格好だ。彼ら彼女らの究極の選択は、郊外を通り越した「地方移住」だ。自然の中で子育てをする、「リモート移民」とでも名付ければ良いのか。

 地方百貨店が苦しい根本の原因は、地元の人口減少であるから、単純に顧客が増えれば、計算上は売上がアップし、閉店は免れるかもしれない。

 只、都心の「密」を嫌って地方移住した人々が、地方の都市部に集まるのか。 また、地方百貨店の品揃えは、都心をリタイヤはしたとは言え、都会センスを持ったままの、彼ら彼女らのお眼鏡にかなうのか。不便な場所への引っ越しにより、却ってネット通販の比重が増すのではないか、等々、課題は尽きない。

 今後、先に示した仮説の様に地方回帰が進み、本当の意味での地方の時代が、お題目だけでない地方創生の時代が、到来するかもしれない。その時「新たな地元民」に選ばれるデパートとなることを目指してほしい。そのことにより、その地域で百貨店が生き残る道に、光が差すことを祈って止まない。

課題③人口減少社会

 前号でも述べた様に、2024年には、団塊の世代(第一次ベビーブーマー)全員が75才以上の後期高齢者となる。リタイヤし、基本無職のお年寄りが、日本の人口シェアに占める割合が最大になるのだ。いささかオーバーな表現だが、日本の歴史というか、全人類の歴史の中で初めての、正に未曽有の事態だ。

 それだけではない、実態として、毎年150万人もの人口が減っていくという計算になるのだ。もちろんこれは百貨店だけの問題ではないが、百貨店だけが逃れられる問題でもない。

 我々の社会は、この半年間はコロナ禍で四苦八苦し、この先もウィズコロナで苦しめられるであろうことは間違いない。が、10年20年先の百貨店の未来を想像したときには、人口減少の方がはるかに重く、そして大きな問題だと気付くはずだ。

 「客がどんどん減っていく」だけではない、働き手はそれ以上のスピードで減っていくのだ。後期高齢者は便宜上死ぬまでは顧客であるはずだから。

 じゃ、「客とスタッフの人数バランスは保てるね」などと寝言を言っている場合ではない。構成人員の不足から、地方自治を維持出来なくなる地方自治体が続出するからだ。

課題③に対する考察

 半年前の今年1月に、東大客員教授の増田寛也氏が日本郵政株式会社の社長に就任した。その彼が2014年に発表したのが、「地方消滅 東京一極集中が招く人口急減」だ。日本の人口が減ると、全国の地方自治体の維持が難しくなるとの長期集計が発表された。増田教授によると2040年には全国1,800の市町村半分の存続が難しいと言う結論であった。2020年になり、益々その信憑性が高まって来たところに、このコロナ禍である。

 課題②の考察でも触れたが、もしかするとコロナが、東京一極集中や地方自治の崩壊を防ぎ、ひいては地方百貨店の消滅を、少なくとも遅らせる楔(くさび)になるのではないか、と筆者は考え、期待もしている。

 それまでは、便利で、安全で、快適なアーバンライフを満喫している人々を、地方に向かわせる方法は皆無であった。その多くは早くても祖父の時代に、大都市圏に移住して来たにもかかわらずだ。リモート移民に限らず、子供を持つ親世代は、都会ほど子供を育てるのに不向きな環境はない、ということを知っている。いままでは「仕事」がそれを阻んでいた。東京を脱出するのは仕事をリタイヤした後と相場が決まっていたのだ。それが、ある日突然、「会社に通わなくて良いですよ」という天の啓示が聞こえてきたのだ。

 もちろんまだ、「もしかしたら」の範囲を出ない仮説ではある。が、地方百貨店が、地域コミュニティの要となり、新しい地方移民のニューノーマルを作り上げる手助けを担っていけば、地方の復活「ルネッサンス」を起こす事ができるかもしれない。

 いつになく希望的観測で話を締めくくったが、本紙は引き続き、厳しい現実の下で奮闘するデパートの未来に、光を当てていきたい。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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