デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年04月15日号-67

第67回『そごう・西武』売却 第7弾 – セブン&アイへの通告【前編】

 3月27日、セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長が、退任要求を突き付けられた、という一報が入った。いわゆる「モノ言う株主」からの提案だ。

 モノ言う株主とは、アクティビストとも呼ばれ、米バリューアクト・キャピタルを指す。彼らは5月開催予定の株主総会で、セブン&アイの井坂社長の再任に反対する株主提案を行うと通告して来たのだ。

退任要求

 実は、井坂社長の解任要求はこれが始めてではない。一度目は2016年に、カリスマ経営者であり「小売りの神様」とも呼ばれた鈴木敏文氏(当時のセブン&アイ会長兼CEO)からだ。その時井坂氏はセブンイレブン・ジャパンの社長であった。

 購読者諸氏ならご存知の様に、その時はこの3月10日に亡くなった伊藤名誉会長が井坂氏解任に反対し、鈴木氏との確執が表面化する事態となったのだ。

 結果的には、セブン&アイの中興の祖であり、最大の功労者であった鈴木氏が第一線を退き、トップ同士の暗闘の幕が降りた。

 奇しくも、その伊藤氏が鬼籍に入って2週間とたたない3月23日に、二度目の解任要求となったが、今回は助けてくれる創業者はいない。

アクティビスト

 さて、今回の主役は「モノ言う株主」の米バリューアクト・キャピタルだ。5月の株主総会で、井坂氏解任の株主提案を行う、というのだが、その理由は明解だ。セブン&アイは祖業であるイトーヨーカ堂の分離の遅れや、そごう・西武の不振とその売却を巡る混乱により、多角化で企業価値が低下する、いわゆる「コングロマリットディスカウント」から抜け出すことができない、という理由だ。
※このコトバは後述する。

 元々、そごう・西武をセブン&アイに引き入れたのは鈴木氏であることを考えると、因果応報と言うか、皮肉な結果だ。創業者である伊藤氏の逝去のタイミングで、中興の祖である鈴木氏を退けた井坂氏が、グループの「負の遺産」と化したそごう・西武の売却を巡って、投資家から退任を迫られるという構図だ。

 井坂氏は7年前に「小売りの神様」鈴木氏の逆鱗に触れたものの、辛くも逃れた。しかし結局、その呪縛から逃れることは叶わなかったのだ。まるで、出来過ぎた経済小説のような結末だ。

 もちろん、解任が決定した訳ではないが。

売却が難航

 本コラムでは以前にも、足元のセブン&アイの状況について、23年2月期に営業収益が国内の流通業で初めて10兆円を突破する見通し、と伝えた。
※実際に突破した。

 ライバルであるイオンを逆転し、小売業のトップに返り咲き、業績が絶好調であるにもかかわらず、退任要求が出された訳だ。物言う株主から見れば、井阪社長の改革は「遅すぎる」というダメ出しである。

 アクティビストから愛想を尽かされる元となったのが、前述の通り百貨店子会社である「そごう・西武」の売却(譲渡契約交渉)における混乱だ。バリューアクトに切り離しを迫られたことから、昨年11月に米フォートレス・インベストメント・グループへの売却を決定したものの、当初2月1日だった譲渡契約の実行日を延期。「3月中」の完了を目指して交渉を続けていたが、事態は好転するどころかより混沌とし、遂に3月30日に再度の延期を決定した。

 もちろん、ギリギリまで粘っての1日前の延期発表であろうが、2月、3月の2ヶ月で「何とかなる」という判断自体が「間違って」いた事になり、関係者は皆一様に呆れているのだ。

ヨドバシの思惑

 もちろん、こうした事態を招いた原因は、言うまでもなく、そごう・西武の旗艦店である西武池袋本店の改装案、つまり「池袋西武へのヨドバシ出店」プランである。本コラムでも、シリーズ『そごう・西武売却』で既報した通りだが、今後、フォートレスと手を組んだヨドバシカメラは、西武池袋本店の不動産を取得し、東京の「ターミナル駅立地」の最後の聖地を手中に収める。そして、ライバルであるビックカメラと対峙し、地の利を生かしてビックを凌駕するつもりなのだ。だが実際には、ヨドバシが店内のどこに入居するかでフォートレス+ヨドバシ連合とそごう・西武とは合意に至っていないのだ。

 亡くなった豊島区長や商店街も巻き込み、労組やマスコミなど、様々なステークスホルダーの「暗躍と思惑」については、本コラム2月15日号でお伝えした通りだ。

 そして争点は、ヨドバシの入居区画について、セブン&アイやそごう・ 西武の当初の想定をはるかに上回る「好立地かつ広範囲」のスペースを要求しているから、という話が、業界内でまことしやかに囁かれている。
※筆者は図解で説明している記事も目にした。

二度あることは・・

 新たに判明したヨドバシ側が提示する池袋西武改装案について、ヨドバシ側とそごう・西武の協議は一向に収束する気配がなく、地権者である西武ホールディングスにも具体的な改装案を提示できないままでいる。

 間を取り持つはずのセブン&アイも焦っており、それが再度の譲渡契約の実行日の延期に繋がったのだ。

 いずれにしても、契約実行日までの猶予は残りわずかだ。セブン&アイが、というか井坂社長が、バリューアクトによる再任反対を押し返したいなら、二度の延期は本来許されない。3度目の正直で、セブン&アイは、無理にでも押し通して契約を実行するのか、注目が集まっている。 

 さて、冒頭で記した様に、セブン&アイの取締役4人の株主総会での再任に反対しているのは、アクティビストであるバリューアクト・キャピタルだ。

 日本では「モノ言う」こと自体が「騒ぎ」になっているが、そもそも欧米では株主が、自らが株を保有する企業に意見するのはごく普通のことであり「日本の株主が大人し過ぎるのでは」という話なのだが・・・

 ここからは、もう少し詳しく見て行こう。先ずは「解任要求」の件だ。

コングロマリットディスカウント

 米バリューアクト・キャピタルは、セブン&アイ・ホールディングスに対し「企業戦略の失敗」を理由に取締役14人のうち4人の解任を働きかける意向を通知した。と3月24日付のロイター通信が伝えた。もちろん事実上の「退任要求」だ。

 セブン&アイ株の 4.4% を保有するバリューアクトは1月、同社経営陣にコンビニ事業の分離を求めていた。
※たったの 4.4% か、という話はまた別の機会に・・・

 バリューアクトは書簡で、セブン&アイとの数ヶ月にわたる対話が、成長加速や収益および企業評価の改善を目指す戦略につながっていない、と不満を表明した。

 シナジー効果と構造改革を約束したものの、セブン&アイの事業において経営的失敗が繰り返された結果、多角化で企業価値の評価が下がる「コングロマリットディスカウント」に陥った、としている。

 聞きなれないコトバだが、実態は「多角化による弊害」であろうか。ちょっと乱暴だが、筆者は日本の諺(ことわざ)「大男、総身に知恵が回りかね」と意訳した。

 バリューアクトは「ガバナンスの失敗」を巡り、4人の取締役を非難しているが、一方のセブン&アイは、バリューアクトから取締役選任議案に関する株主提案を受け取ったことを認めたうえで

「提示された内容については、取締役会で精査・検討を進める」とコメントしたに止まった。

 話は聞いたが納得はしていない、決着は株主総会で、という意味だ。

決着はお預け

 全国有数の巨大ターミナルである池袋駅。その「池袋の顔」が西武百貨店からヨドバシカメラに変わる。

 だが、「そごう・西武」の売却日は、再度延長され、調整は難航した状態のまま一向に改善されていない。

 売上高全国3位を誇る百貨店、西武池袋本店だが、親会社のセブン&アイによる投資ファンドへの売却日は度々延期され、今回は売却日の期限すら発表されていない。

 我々は外野から、この異例の事態を、今しばらくは見守るしかない様だ。

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