デパートのルネッサンスはどこにある？ 2023年01月01日号-60

　本コラム「デパートのルネッサンスはどこにある？」は、今号で連載60回目となった。
前年の元旦号は連載40回だったので、１年で20回を連載したことになる。また、連載スタートから、およそ３年が経過する勘定となる。

　既にお気づきかと思うが、この３年間というのは「コロナと戦った」と言うより「共に過ごした３年」とでも言ったら良いのだろうか。2020年の初頭から、中国武漢を発祥とする「新型コロナ」が我が国をじわじわと浸食し、遂に同年４月、今は亡き安倍首相が「緊急事態宣言」を発出したのだった。
それからの百貨店は、（他の業種も同じだが）コロナと戦いながら、商売を繋いで「何とか凌いできた」という状況であり、それは今もあまり変わっていない。

　但し、10月に「水際対策」が大幅に緩和され、まだ「ゼロコロナ」に執着していた中国以外のインバウンド需要回復を受け、直近の百貨店各社の売上は、概ね回復基調である。
三越伊勢丹は９月期の中間決算で３年ぶりの黒字となり、細谷社長は「復活に手応え」と語っている。本丸である伊勢丹新宿本店は、今月も過去最高益の記録を更新するのは確実だ。

　そして12月、習近平主席が「ゼロコロナ」政策の大転換を図った。これにより、円安を背景にして、中国からの訪日が本格回復すれば、百貨店は３年間の暗いトンネルを抜け出せそうだ。但し、都心の大手百貨店限定ではあるが、だ。
我が世の春を謳歌する三越伊勢丹に比べ、12月の本コラムで特集した様に、そごう・西武は「揺れに揺れている」

　丁度１年前の本コラムでは「デパートのルネッサンス再考」として、筆者は「百貨店復活のカギ、それは変わり続けるコト、すなわち『過去を否定し続ける』ことにある」と説いた。
その意味では、そごう・西武の親会社であるセブン＆アイホールディングスによる、そごう・西武の売却は「間違っている」とは言い難い。大変「皮肉」なことだが、売上高２位の、巨大商業グループとして、ある意味「合理的」な判断であったと、言わざるを得ない。

　三越伊勢丹とそごう・西武が、この年末年始に、対照的な事案となってしまったのは、残念である一方、何か象徴的な事象の様な気がする。

　さて、2022年をちょっとだけ振り返ってみよう。
因みに、年末恒例の清水寺が揮毫する「今年の漢字」は「戦」であった。
言うまでもなく、ロシアによるウクライナ侵攻を表している。同時に世界の他の地域でも続く、戦火を表現していると思われる。

　幸い、日本は戦争状態ではないものの、北朝鮮による度重なるミサイル発射や、中国による台湾情勢の変化等を踏まえ、我が国の防衛費を倍増しようという話が持ち上がった。
そして、ここが一番驚いたのだが、国会審議も経ずに、閣議決定というレベルで、国防費倍増を前提とした、大幅増税が決まってしまったのだ。国会軽視どころか、国民全体で議論すべき、重要な案件にもかかわらず、だ。それもかなりのスピードで。

　もっと怖いのが、それをマスコミも、有識者という方々も、余り批判しないことだ。自分の「庶民感覚」が間違っているのであれば、どなたか教えて欲しい。日本は民主国家ではなかったのか。
コロナと政治の話で、年頭のルネッサンスを終える訳にも行かない。

　だが、日本という国が、健全な民主国家であり、曲りなりにも平和である、というコトは、百貨店という商売の大前提である。
民主国家であり、平和で安定した生活基盤が整ってこその「ライフでありショッピング」であるからだ。　
コロナや政治の話題も、平和な時代と安定した経済という礎（いしずえ）があってこそ、であり、このコラムと、全く関係のない話ではないのだ。

　年頭所感でも、述べたが、この百貨店という商業形態は、岐路に立っている。いや、それは10～20年前からそうだ。今は、動物であれば「絶滅危惧種」のレッテルをデカデカと貼られている状態だ。
大手百貨店の一部は、コロナ前の2019年の売上を上回り、「元に戻った」と喜んでいる様だが、それはあくまで一部だ。
デパート業界は、コロナが沈静化し、コロナ前の水準に戻れば、それで「もう、大丈夫」な業種ではないからだ。

　もちろん、売上が回復した大手百貨店のトップであっても、それは判っているはずだ。コロナ禍の３年を何とか凌いで、いよいよこれからデパートのルネッサンスが始まるのだ。なぜなら、すべての百貨店は「シュリンク＝縮小」しているのだから。去年と同じ事をしていては、ジリ貧だと判っているのだ。

　コロナの３年間を、何とか耐えたデパートだけが、逆風下での新しい商売の仕方を学び、そしてそれを実用化して来たはずだ。その繰り返しが、この後の10年、20年を生き延びるための「糧」となるはずだ。

　筆者はそう信じている。そしてデパート新聞は、そうした百貨店を、今年も応援し続ける。