デパートのルネッサンスはどこにある? 2024年11月15日号-103 池袋西武復活を占う 後編
パーティー
9月12日、都内にある三井倶楽部を会場として、そごう・西武がマスコミなど700人を招待して大規模なパーティーを開いた。
6月に発表した西武百貨店池袋本店の改装プランを含め、そごう・西武の「再出発」を記念して、という触れ込みだ。
言うまでもないが、我がデパート新聞社にはお呼びがかからなかった。
これを「かつての親会社であるセブン& アイ・ホールディングスが、米投資ファンドフォートレス・インベストメント・グループにそごう・西武を売却にした事について、好意的な記事を書いた事がなかったからだ。」などと自惚れるつもりは毛頭ない。
彼ら( そごう・西武経営陣) はデパート新聞など、聞いたこともないだろうし、本紙を読んだこともないだろう。ましてやコラムの見解など知る由もないだろうから当然だ。
本紙が批判しようが、応援しようが、2025年の年明けから半年かけて、池袋西武は全館リニューアルされる。そうすればその全容と、そして少なからず「先行き」が見通せるはずだと思う。
もちろんヨドバシ池袋のニューオープンも同時に進められる。購読者諸氏には、しばらく「結果」をお待ちいただきたい。本紙は、新たな百貨店の可能性を否定している訳ではない。
只「改装後は売場面積が半減しても改装前の売上規模を目指したい」とする劉勁(りゅう・じん)代表のコメントを「それなら良かった」と諸手を上げて賛辞を贈るほど、お人好しではないだけだ。
経緯の整理
今更言うまでもないが、西武池袋本店の全面改装は、そごう・西武が旧親会社であるセブン&アイ・ホールディングスにより売却され、新たに米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループの傘下に入ったことが発端だ。
池袋西武の改装をめぐっては、フォートレスのビジネスパートナーであるヨドバシホールディングスが運営する家電量販店「ヨドバシカメラ」の出店が大前提であったことにより、大きな反響を巻き起こした。特に業界関係者からは「拒否反応」とでも言うべきマイナスの声がほとんどだった。
そうしたステークスホルダーの反応は、これまで築いてきた「百貨店」のあるべき姿が崩れていくと不安視する向きがほとんどで、海外ブランド店舗の撤退や「文化の喪失」を懸念しながら亡くなった当時の高野豊島区長が「西武池袋本店存続に関する嘆願書」を提出する事態となった。
騒動(あえてこう呼ぶが)のピークは、セブン&アイによる売却が正式決定する前日の2024年8月31日、そごう・西武労働組合による61年ぶりのストライキが実施され、日本を代表する百貨店の行方について(けして良い意味ではなく)注目が集まった。
本コラムの読者には説明不要の事項ばかりで恐縮だが。
新経営陣
そごう・西武が、セブン&アイからフォートレス傘下に変わり、新しい経営陣として、劉勁代表取締役、田口広人社長、そして副社長であるダヴィデ・セシア氏と久保田俊樹氏の4名が参加した。
同店が全面改装するのは1940年に前身の武蔵野デパートが開業して以来85年ぶりという計算になる、という。
但し、当然その間に一度も改装していないフロアは皆無であり「全館同時の全面改装は初となる」ということだ。話を盛るのもほどほどにしたいものだ。
まるで「今まで西武百貨店は何もしてこなかった」という刷り込みでもしたいのかと勘ぐってしまう。「今まで売上が悪かったが、これからフォートレス主導の新経営陣が、池袋西武を再生させますよ」というストーリーありき、なのだろう。
会見ではそごう・西武の劉勁代表を皮切りに、経営陣が揃って登壇し、改装プランを説明した。トップである劉勁氏は2023年9月1日にフォートレス日本法人からそごう・西武代表取締役に就任したが百貨店経験者ではない。もちろんこの一点を持って、そごう・西武の先行きを不安視するのは、間違いかもしれない。
だが、順風満帆の老舗デパートならともかく、前例のない「再生」を託するに足る人物なのかは「正直だれにも判らないのでは?」というのが筆者の本音である。
つつみ込むように…
今回の全面改装は「インクルージョン」をテーマに、婦人フロアと紳士フロアが分かれていた伝統的なデパートメント(区分)ストアからの脱却を掲げている。
加えて、ヨドバシカメラの出店により、百貨店部分の売場面積は実質約半減する計画だ、としている。※実際には、面積半減イコール実質三分の一だが。
※用語解説
7月1日号にも掲載したが、バックナンバーを見返すのも大変なので再掲載する。インクルージョンとは、「包括」「包含」「一体性」などの意味を持つ言葉。ビジネスの世界では、企業内の誰にでも仕事に参画・貢献するチャンスがあり、平等に機会が与えられる状態を指す。
それはつまり、紳士服と婦人服を只同じフロア、売場で「同居」させるだけではないはずなのだが・・・
脱却と集約
因みに「デパートメントストア」は言うまでもなく百貨店の語源であり、様々にデパート:区分されたアイテムを数多(あまた= 百貨)集めたもの、という意味だ。
これが、池袋西武の面積を縮小し、100貨店を50貨店に半減させる「言い訳」なのだとしたら、経営陣の語る「伝統的なデパートメントストア(百貨店)からの脱却」もある意味秀逸なジョークともとれる。
もう一度そごう・西武の発表を見てみよう。
「百貨店部分では、これまで手を広げ過ぎていたカテゴリーを、ラグジュアリー、コスメ、フードに絞り込み、これまでの「百貨」を扱ってきたビジネスモデルから3カテゴリーにフォーカスすることで「カテゴリーキラー」へとシフトする方針を掲げている。」
「手を広げ過ぎた」から集約して効率化を図る、という訳だ。前号の「池袋西武復活を占う」前編でも述べた「効率化の罠」の絵に書いた様な実証例となるのかもしれない。
選択と集中
本館南上層階の「LOFT」はヨドバシのテナントとして残留?
別館の「無印良品」はそごう・西武のテナントとして残るのか?
そしてパーティー会場で示された新たなフロア構成の表には、地下2階が示されていない。
気になるところだが、パーティーに招かれた各メディア諸氏は何も思わなかったのだろうか。それも不思議だ。
〈経営陣の説明要旨〉
- ラグジュアリーゾーンは世界のトップ60ブランドを誘致し、売場面積はこれまでの約1,3倍に広げる。
- コスメは売場面積を約1,7倍に拡大し、国内外60ブランドを展開することで日本最大級のコスメ売場を目指す。
- フードは「デパ地下」の概念を生み出したとされる西武池袋本店ならでは取り組みとして、約180ショップからなる新しいデパ地下を創出。
世界から注目される「BENTO(弁当)」に特化したコーナーを設ける
としている。
金太郎飴
さてさて、世界のトップ60ブランドはどなたがセレクトされるのだろう。化粧品も同様だ。新宿にも銀座にも同様のブランドは出店していないのであろうか。
もう一つ、ブランドを絞り込み過ぎると、次に伸びる(売れる) ブランドを育てる「余白」がなくなる。インキュベーションゾーンがないと「伸びしろ」も生まれないのでは、と思う。
探しも育てもせずに、只々「金太郎飴」戦略を貫くつもりなのであろうか。
エルメス、シャネル、ヴィトンは安泰としても、次のセリーヌや、その次のバレンシアガは、優秀なバイヤーが探し続け、交渉し続け、そして育て続けなくてはならないのではないだろうか。
池袋の一等地なのだから、売れるブランドだけ集めれば大丈夫、と本気で言っているのだろうか。そんな「美味しいとこ取り」が、上手くいくと思っているのだろうか。
顧客ファースト
劉代表が同職に着任して1年たつが、そごう・西武として会見を開いたのは初めてだ。
再スタートを切るにあたり劉氏は、もう一度「顧客ファースト」に立ち返り、改革を行っているという。この「顧客」は消費者だけではなく、取引先も含まれる、としている。
「我々のプラットフォームでいかに気持ちよく商売していただけるかが経営課題」とし、今回のイベントの開催も取引先とのつながり強化が狙いだ、と説明している。古今東西「顧客ファースト」でないデパートが存在したのであろうか。
「顧客ファーストに立ち返り」というトップのコメントを現場のスタッフはいったいどんな気持ちで聞いたのであろう。「自分達は今まで何ファーストだったのか」考えろ、とでも言うのだろうか。
※今までの親会社であるセブン&アイが、コンビニ事業ファーストで、百貨店事業やそのスタッフや顧客や取引先を「二の次」にして来たことを揶揄しているのだろうか。であれば「顧客ファーストに立ち返り」の意味も、痛烈な皮肉として判らなくもないが。
失敗と反省
田口広人新社長はこれまでのそごう・西武の失敗をこう振り返った。
- 2 0 1 0 年のリニューアルから力を入れた「育てたいブランド」の売上が伸びなかったこと。
- 商品やブランドの知識のある顧客からの共感が得られなかったこと。
- 一部の取引先に対して、強い態度に出ていた時期があったこと。
これを踏まえ、今回の改装では経済合理性を徹底し、
A.「日常」の要素はヨドバシカメラや「無印良品」「ロフト」といったテナントに託す。
B.百貨店部分では西武池袋本店が培ってきた「非日常」の強みを積極的に打ち出す。
とし、改装後は、売場面積が半減しても改装前の売上規模を目指したいとの考えを繰り返した。更に、西武池袋本店の改装が成功した際には、そごう・西武の他店舗にも応用するという。
そして労働組合とは、セブン&アイからの売却を経て、継続的にディスカッションを続け、真摯に向き合っているという。
リストラや店舗の撤退は現時点では考えておらず、今回の改装で取り組んでいる「新しいデパートメント」の成果を見てから検討する方針だ。
前編とほぼ同じ結論だが「お手並み拝見」というところだ。
いろいろ「突っ込みドコロ」はあるが、本紙はこの池袋西武の復活に期待しているのだ。只「そう簡単ではない」と言っているのだ。
LVは現状維持
最後に、このパーティーの来賓としてLVMH (モエ・ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン)のノルベール・ルレ社長が登壇し祝辞を述べた。 ルレ社長は「フォートレスから西武池袋本店の新しい話を聞いたとき、直ぐに一緒にやりたいと考えた。」とコメントした。
池袋西武がヨドバシに変わり、百貨店と共に現状店舗を本館北から移動させるという当初案を聞き、ルイ・ヴィトンは、池袋西武からの撤退を検討したのではなかったか。
「百貨店がなければ、我々は成功できなかった。百貨店に関わる皆さんにお礼がしたい。」という賛辞を疑いはしないが、フォートレスから現状区画( 1 ~ 2 階メゾネット) のまま残す、という回答がなければそもそも残留しなかったのではないか。
いずれにしても、まだまだ池袋から目が離せない。
デパート新聞編集長
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