デパートのルネッサンスはどこにある? 2024年09月01日号-98

第98回 西武は一地方百貨店になった

そごう・西武労働組合 寺岡泰博中央執行委員長インタビュー3回目(前編)~あれから1年でこうなった~

日時:2024年8月1日 11時
場所:そごう・西武本社
事務所(西武百貨店池袋本店書籍館2階)

 そごう・西武労働組合の寺岡中央執行委員長(以下、寺岡委員長)のインタビューは、およそ9カ月ぶりであり、今回で3回目となる。

 焦点はもちろん、そごう・西武売却後の池袋西武のヨドバシ化についてであるが、昨年の8月31日に行われた、池袋西武のストライキを綴った寺岡氏の著作「決断」についてもお聞きした。お互いの近況を振り返った後、早速インタビューをスタートした。
※以下、寺岡委員長の発言は太文字で示す。

《質問1 撤退交渉》

 デパート新聞(以降はデと表記) : すでに池袋西武の改装が始まっていますが、ほぼ1年かけて改装される訳ですけど、実際問題として、リーシング(出店)よりも退店、やめてもらう方が2倍3倍大変なのではと思います。今出店しているテナントの数が尋常ではないし、業種も様々ですし。大型区画ならともかく、こまごまとしたテナントとそれぞれ折衝されていると思うと、本当に大変な作業だと思います。

寺岡委員長(以降は寺) :僕が直接やっている訳じゃないですが、本当にそうですね。僕も現場にいたし、バイヤーもやっていたので、おっしゃる通り「出す」( 撤退してもらう) 方が大変ですね。

《質問2 ハイブランド》

デ : 真っ先にお聞きしますが、改装後に戻ってくるというか、一部改装して残るテナントもありますよね。例えば、具体的にルイヴィトンとエルメスは1階に残るのですか?

寺 : これは、どこにもオフィシャルには言ってないから言えないです。( 笑)

 百貨店のホームページ上の改装プランには「現状営業している店舗」として載っています。レストランもそうですが、改装時期によりフロア図は刻々と変化していきますから。( 改装後のフロア図を見ながら) 誰が作ったのか知らないですけど大体こんな感じです。

《質問3 改装時期》

デ : 改装期間は来年の夏というか秋までですか?9月とか。

寺 : グランドオープンは2025年9月とか10月とかの予定です。希望的観測で言うと( 季節としては) より手前が望ましいけれど、現実的にはちょっと冬に差し掛かって来るかもしれないですね。

デ : 今、こちらの書籍館に来るまでの途中、改装で店舗がほぼ閉まっているのを見ました。ちょっと胸が塞がる思いです。

《質問4 大家と店子》

デ : 確認ですが、ヨドバシHDが家主となって、池袋西武はテナントとなるのですよね。2024年9月1日からと書いてあったのですけど。

寺 : それは正確に言うと、株式譲渡契約上、8月31日までですね。(今すでにヨドバシさんのモノなのですけど) ヨドバシさんが使う区画を西武が明け渡すのが8月31日で、9月1日からはヨドバシさんが工事に入るので空けてください、っていうのが正しい言い方です。

 ここからは寺岡委員長の著書「決断-そごう・西武61年目のストライキ」( 講談社)」を元に質疑応答となった。

デ : 私もやっと「決断」を読ませて頂きました。もちろん実際はノンフィクションというのは判っているつもりなのですが、特に弁護士が登場する訴訟のパートは「リーガルサスペンス」と言うと語弊があるかもしれませんけれど、非常に面白く読ませていただきました。

《質問5 法廷闘争》

デ : 売却差止の仮処分命令は、あれ自体が受理された訳ではないのですよね。棄却された、というのが実態と考えて良いのですか?

寺 : 普通に行くと株主代表訴訟なのですが、要はそれが決議されるかどうかっていう、その当時、わずか1週間か2週間前だったので、そんな正式な手続きを踏んでいると、その間に(売却が)終わっちゃう。そのために弁護士と相談して、差し止め請求をすることで一旦(売却を)止めることが先決なんじゃないかという判断でした。

 ただ、既に動いていることを、それで全て止めることはできないので、まず一旦それで手を打つっていうことからスタートしましょうって事なので、棄却されることは、ほぼ想定しながらやったということです。

デ : 株主代表訴訟と言うのは、( そごう・西武という) 会社を売却する事による損害について、当時のセブン&アイと井阪社長に対して損害賠償を求めるという内容で、今も係争中ということで良いのですか?

寺 : ( 係争を) やっているけれども、おっしゃる通り、仮処分命令は棄却されており、上告も取り下げているので、今は株主代表訴訟という、本丸1本で継続中という形になります。

 期間としては、普通は1年半から2年くらい。とは言っても弁護士さんの見解としては、10年ぐらいというのもありえる。僕もあまり詳しくないが普通であれば2年前後だと。

《質問6 林社長》

デ : 『決断』の話ばかりで恐縮なのですけど、(そごう・西武の)林前社長のことですが。もちろん敵でも味方でもないというか、一応経営者側でいらっしゃったから難しい問題かもしれませんが、セブン&アイとの関係性という意味では、林社長は間に入って、うまく取り仕る、と言うか、良好に済ませようというお考えだったのですか。

寺: あくまで僕の見解ということですが、平たく言うと、(林さんとしては、売却プランは)ほっとけば、とんざする可能性が高いと思っていたのではないかと思います。だって( セブンに) 噛みついたら(社長職を)解任されるという話ですから。

デ : 現実として、最終的にはそうなった(解任された)訳ですしね。

寺 : おっしゃる様に、上手く綱を渡っておけば、(売却プランが)勝手に自滅すると。そもそもこんなに難易度のある売却はないですし、本来相当難しい話ですから。(そごう・西武の林社長が解任直前の面談で、セブン&アイの井阪社長に異を唱えたのは) そこが限界というか、あれ(売却決議)より後ろはないので、鉄道(西武ホールディングス)の後藤社長がいる前で面談をするのはあれが最後で、あのタイミングより後はなかったですから。

《質問7 去就》

デ : 単刀直入にお聞きしたいのですが、著書『決断』の中でも触れておられますけど、委員長ご自身の去就についてどうされるおつもりなのでしょうか。

寺 : 表に出る(記事にする)のだったらここ(本)に書いているレベルがすべてです。今言えるのは、そこまでです。任期中にそんなこと言えないですよね。(笑)

デ : 池袋西武が(2025年の夏に)「新しい百貨店」になった時はいらっしゃらないかもしれない訳ですね。

寺 : だって僕の任期は来年の春までなので。それ以後の事は決まっていないと、「決断」に書いてある通りです。

デ : それでも、その(去年の8月31日の)ストライキも含めて、やるべきことは100点満点ではないとしても、やってきたって言う、自負というか感慨とかはおありですか。

寺 : やり切ったというか、あれ(スト)は別にプロでもないし経営者でもないですから。只、もし「結果がすべてだ」と言われたら、「まだ結果は出ていない」訳ですから。

《ストライキの意義》

デ : 外野から言わせてもらえば、ストライキに批判的な人もいますけど、デパート新聞としては意義があったと思っています。そうじゃなければもっと酷いというか、うやむやにしたまま(売却に)流れてしまったことが、(ストによって)周囲の注目も集め、ある意味、白日の下に晒された訳ですし。豊島区の前区長の応援もありましたし、寺岡さんも以前おっしゃっていらした様に、セゾン文化の継承というか、セゾンのやってきたことがすべて間違っていた訳ではないと。

 その手順とか経営的な問題は別にして、百貨店はひとつの「文化」なんだよねというのは、私はまだ「あり」なんだと思っています。寺岡さんも同様のご意見だと思いますが。スミマセン、インタビューに来たのに、自分ばかりしゃべってしまって。

寺 : 思いのたけを、記事を書いているかの様に語って頂いて全然良いですから。(笑)

デ : 今回の様に周りから反論されて、その自分がどんな人間なのかと考えると、メディアだ、新聞だとか言う前に、ルーツとして「セゾン人」だったのかなっていうのが、DNA的なものがあるのかもしれないですね。自分で勝手に納得してしまいました。(笑)

《質問8 フロアプラン》

デ : フロア改装図を見ていただくと、半分、(本館)北側がヨドバシになり、中央と南が・・・

寺 : 中央というか、厳密に言うと西武は(本館)南だけです。中央もほぼヨドバシさんですから。

デ : 現状、北と中央がほぼ、皆の思っている池袋西武ですよね。だとすれば本丸を取られたと。

寺 : よく半分になったと言われるけど、この横長の本館の北、中央、南のうち、北と中央が(ヨドバシ側に)行っちゃうわけですから、ということは(西武は)三分の一ですよ。何で半分と言われているかというと、書籍館や駐車場を入れて、その図の半分と言われてい
るからです。という事は、面積按分で言えばそう(半分)かもしれないけど、いわゆる坪効率の面で、売場として成り立っている場所で言うと三分の一な訳です。

 ということは、もはや百貨店ではないですよね。それ(半分というのは)はセブン側の数合わせでしかない訳ですから。

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