デパートのルネッサンスはどこにある? 2024年07月01日号-95

第95回「新しい百貨店へ」を問う

池袋西武 2025年夏に向け全面リニューアル

・婦人・紳士を同一フロアに展開
・コスメ、デパ地下を強化

スクラップ&ビルド

 前号で「池袋西武 売場面積半減!」と題し、ヨドバシホールディングスの藤沢社長が語る池袋西武との共存プランを検証した。今回は当事者であるそごう・西武側から、半減される池袋西武のリニューアルプランを見て行きたいと思う。

 ご存知の様にそごう・西武は、既に西武百貨店池袋本店の全面改装工事に着手している。

 その手始めとなるのが地下2階の「ザ・ガーデン」や8階の「西武スポーツ」のスクラップ(撤退)であり、それらについては前号でお伝えした。

 売場移動やテナントの新規導入含め、2025年1月から段階的にリニューアルオープンを行ない、同年夏にグランドオープンを予定している。

 言うまでもなく実態としては「玉突き」改装であり、もっと言えば「縮小改装」だ。面積が半減するのだから。6月10日にそごう・西武が発表したプレスリリースには「新しい百貨店へ」というキャッチフレーズとともに、フォートレス傘下で事業戦略を再構築して始めて実施する全面改装の概要が記されている。

 事前にスポーツや子供服など複数の売場、テナントを撤退させているのだが、新しい西武百貨店の具体的な内容については全く触れられていない。

 ちょっと長くなるが、発表されたプレスリリースの前半をそのまま引用しよう。

〈西武池袋本店、「新しい百貨店へ」2025年夏にグランドリニューアルオープン〉

 常に時代の最先端を担ってきた西武池袋本店は、ご来店いただいたお客さまに上質との出会いをご提供し、特別な高揚感を与えられる百貨店を目指し、初めて館の全面改装をいたします。
「I N C L U S I O N(インクルージョン)」をテーマとし、現代の多様で柔軟な時代性に合わせ「婦人」と「紳士」両方のカテゴリーを同一の店舗内に広く展開します。

 旧来の、婦人フロアと紳士フロアが分かれていた伝統的な「デパートメント(区分された)」ストアから脱却し、西武池袋本店は、池袋を訪れるさまざまなお客さまを、友人、カップル、家族が一緒にショッピングを楽しめる、自由で開かれた、かつ統一した空間でお迎えします。

 ワールドクラスのクオリティを誇る多彩なブランドショップと、上質な内外装で、池袋の街に新たな顔をつくり出します。

※用語解説 
インクルージョンとは、「包括」「包含」「一体性」などの意味を持つ言葉。
ビジネスの世界では、企業内の誰にでも仕事に参画・貢献するチャンスがあり、平等に機会が与えられる状態を指す。


美辞麗句

 筆者の天邪鬼な心を刺激してくれる、何とも流麗なリリースだ。

「婦人と紳士のフロアが分かれていた伝統的な『デパートメント( 区分された) ストア』から脱却し、自由で開かれた、かつ統一された空間とする。」

 こういう形容詞を聞くと「戦後レジームからの脱却」とか「自由で開かれたインド太平洋」といったフレーズを連発していた今は亡き元総理を思い出してしまう。

 要するに、政治家が好んで使いそうなコトバだなあ、という印象なのだ。

 かつての西武百貨店と言えば、筆者の世代はコピーライター糸井重里の秀逸なキャッチコピー「おいしい生活。」が脳 内に想起させられる。

 日本の広告の歴史に刻まれたこの名コピーに代表される、カリスマ創業者であった堤清二が唱え、一世を風靡した「セゾンカルチャー」を思い起こすのだ。

 今回のそごう・西武売却を巡っても、亡くなった高野前豊島区長がヨドバシ反対の理由として挙げた「百貨店の文化」に思いを馳せるのは、筆者のノスタルジー故なのだろうか。

たかがコピー、されど

 糸井重里や林真理子が、希代のコピーライターとして、時代を経ても人びとの心に残るのは、両氏の才能であり、作品のすばらしさであることに間違いはない。

 しかし、そのコピーを用い、堤清二が西武や西友を通じて、それまでは単なる「消費者」であった我々を「生活者」へと進化させたコトを忘れてはならない、と思う。

 小売り、流通業に携わる者であればなおのことだ。

 逆に言えば、「モノを売る」だけだった小売り(百貨店や量販店)が、買う人の生活(や意識)まで変えた、いや進化させたのが1980年代のセゾンだったのだ。

 そしてその起点となったのが40数年前の西武百貨店であった、と筆者は解釈している。

 そして、だからこそ今のそごう・西武に言いたい。企業のプレスリリースであれば、伝えたい事と日付さえ間違えなければ、無味乾燥な文章でも良いのだ。百歩でも五十歩でも譲ろう。

 だが、そのリリースが、ちょっとした背伸びならともかく、実態より良く見せようとか、インパクトを出そうという過剰な下心があると、今回の様な政治家的な、つまりは本当の様な嘘の様な虚飾にまみれた文章が出来上がるのだ。ちょっと言い過ぎかもしれないが。

時代の最先端?

 「建物の半分をヨドバシにとられたので、レストランもスポーツも食品スーパーにも出て行ってもらいました。残った売場も狭いので紳士と婦人のフロアは一緒にします。

 いろいろ不自由ですが、コンパクトにまとめたので統一感はあると思います。」とは書けないし、それは筆者だって判っているつもりだ。

 文頭の「常に時代の最先端を担ってきた西武池袋本店」という表現も、今となっては虚しい限りだ。30年前まではそうだったかもしれないが、と静かに突っ込みを入れるだけだ。

 裏を返せば、池袋西武は30年の長きに亘り常に「旧来の伝統的なデパート」であった訳だ。揚げ足取りの様なコトを言っても仕方ないのでもう止めておこう。

経営者失格

 かつて、誰もが認める最先端のデパートであった西武百貨店池袋本店。
そして、30年たった今でも、新宿伊勢丹や梅田阪急に次ぐ全国3位の売上を誇る大百貨店であることは確かなのだ。

 但し、今も本当に最先端なのであれば、セブン&アイに翻弄され、ヨドバシに蹂躙されることなど無かったのではなかろうか。ちょっと言い過ぎかもしれないが。

 もちろんセゾングループや、後のそごう西武がこうなったのには紆余曲折どころか、バブル崩壊やリーマンショックといった「経済のうねり」があった。誰のせいとか、誰が悪い、という話でももはやない。

 それでも堤清二は、先見的な変革者ではあったが、事業を継続させる経営者としては失格だった、という結論も既に定説になってしまった。

 せめて「多彩なブランドショップと上質な内外装で、『池袋の街に新たな顔』をつくり出す」と言うのなら、来年新しい池袋西武を見てから判断しよう。それが我々の義務だろう。

 初っ端から批判ばかりとなってしまい恐縮だが、先ずは筆者の本音を吐露した次第だ。

 気を取り直して、プレスリリースの後半を読み通して行こう。

〈改装コンセプト〉
 生まれ変わる西武池袋本店の全館および各フロアは、「MAISON(メゾン)」(フランス語で家・建物と いう意味)を建築デザインコンセプトとし、上質との出会いに相応しい「クラス感」と「洗練」、そして「アート」という3つの要素によって構成された空間をつくります。

 マーチャンダイジング(MD)も、近年お客さまからもっとも支持されている領域である「ラグジュアリー」「コスメ」「デパ地下」を中心に強化します。

 「ラグジュアリー」では、世界のトップ約60ブランドを集結し、メンズ& レディース複合ショップで展開(売場面積 現状比約1・3倍)。

 「コスメ」は、パートナーとともに選べるユニセックスブランドを含む、国内外約60ブランドを展開(売場面積 現状比約 1・7倍)。

 百貨店の顔とも言える「デパ地下」は、西武池袋本店のパワーコンテンツを集積し、新ブランドを 含む約180ショップの展開を予定しています。

 そごう・西武の強みでもある、お得意様向けの外商機能も今後さらに強化して参ります。

 池袋は乗降客数世界3位のターミナル駅を有する世界トップクラスの優良マーケットです。その池袋を支える商業施設として、規模・内容ともにお客さまの満足を最大限ご提供できる本店としてのグレードを高め、国際アート・カルチャー都市として進化を続け、多くの方が訪れ、賑わいのある豊島区の玄関口の役割を担います。

 ライフスタイルの多様化に合わせて、百貨店も進化を求められる時代を迎えました。従来の百貨店がもつ優れたサービスを残しつつ、お客さまのニーズに合わせた新たな価値を提供する、「新しい」西武池袋本店にご期待ください。

 また、そごう・西武は今後、この西武池袋本店のコンセプトをそごう横浜店、そごう広島店などの他の店舗にも展開して参ります。
新しい歴史を歩み始めた新生「そごう・西武」にもご期待ください。

■改装スケジュール
・2025年1月予定:地下1・2階、3階( デパ地下・コスメ)
・2025年春予定:1・2階、4階~6階( フレグランス・宝飾・時計・ラグジュアリー)
・2025年夏~秋予定:7・8階( ファッション・雑貨・催事場・アートサロン)

具体的には

 2025年1月から段階的にリニューアルオープンを開始し、2025年夏にグランドリニューアルオープンし、ショップ数は約380店を予定する。

 百貨店としての売場面積は約48.000平方メートルと、現在から半分に縮小される。残りの売場は、家電量販店「ヨドバシカメラ」を展開するヨドバシホールディングスが利用する。

 いや逆だった「ヨドバシの残りを西武が使わせて貰える」の間違いだ。池袋西武の現在の店舗面積は73.814平方メートルと、全国でも最大級の広さであったことも蛇足ながら記しておく。

 言うまでもないが、そごう・西武を巡っては、米国の投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループがセブン&アイ・ホールディングスから全発行済株式を譲受し、フォートレスはヨドバシホールディングスをビジネスパートナーに選定したという経緯だ。

Foyer

 最後にもう一つだけ。フロアコンセプトを画像ではなく手書きのイラストにしたのは面白いが、日本語に訳した解説とかをつけて欲しかったな、と思うので自作してみた。

 「リニューアル後の建築デザインコンセプト」:添付図表参照

 例えば、1階の「Foyer」とは何だろう。劇場やホテル関係者には通じるのだろうが。
Foyer(フランス語):ホワイエ、劇場などの出入口付近の客だまり空間。 
Passage(英語):通路 ※JRや私鉄、地下鉄との連絡通路の意か。

 小売り、というか百貨店は「親切、丁寧」が基本である。そして客は常に(池袋であれば尚更)一般大衆である。

 「客はフロアコンセプト等読まないだろう」と高を括っているのか。

 いや、重箱の隅をつつくのが本コラムの真意ではない。半分になってしまっても、筆者は池袋西武を応援したいのだ。

生存限界

 今回の西武池袋は(幸い?)半減で済んだが、今、大都市の駅近百貨店の業態変更や閉店は珍しいものではなくなった。

 名古屋では、JR名古屋駅の名鉄百貨店本店が再開発に伴い、時期未定ながら閉店するという報道があったばかりだ。

 本コラムでも、渋谷東急、新宿の小田急と京王が「百貨店以外の商業施設」としてリニューアルオープンする見込みである。直近では近鉄の脱百貨店宣言を取り上げたばかりだ。

 都心ターミナル駅を拠点とする各百貨店は、それぞれ損益分岐点が異なるが、ざっくり言って年間売上高400億円未満の店舗は存続が難しくなっていくのでは、と思う。

 もちろん、地方の独立系デパートなら年商60~50億が淘汰を免れる生存限界と思われる。

 今回の池袋西武の様に、売上額全国第3位の店舗であっても、運営企業の財務体質が悪けれ
ば、当然売却されるケースもあることが明確になった。

新店はゼロ

 これをもって、将来的に全ての百貨店が絶滅するとは断言はできない。しかし、大都市の大手百貨店の中でも、特に優秀な一握りの店舗のみが生き残れるのだ、という事は明らかだ。

 そして都心、地方を問わず、各地でメインとなる商業施設は、都心なら(駅近くの)ファッションビルと大型家電量販店、そして地方・郊外であれば(ロードサイドの)大型ショッピングモールやカテゴリーキラーだけという構図に収束していくのではないだろうか。
そして本紙が「デパート新聞」として最も憂いているのは、今後、地方郊外に限らず、大都市であっても、新たなデパートが建てられる可能性は、限りなくゼロに近いということは明白なのだ。

 そごう・西武というか、池袋西武は、リニューアル後も辛うじて「デパートメントストア」として、生き残った。そのことを喜ぶべきなのかもしれない。例えそれが半減したとしてもだ。2分の1はゼロではないのだから。

広島と横浜 

 プレスリリースの最後に、横浜と広島のそごうも、池袋西武と同様のコンセプトで改装する、と締めくくっている。

 広島であれば、JR広島駅前にビックカメラ、三越に隣接するヤマダ電機といった既存店がある。

 大型ヨドバシを出店させれば、池袋家電戦争の再現となるのは明らかで、本紙もその成り行きを注視していきたい。

 但し、広島家電戦争は大手3社の「三つ巴」とはならない。関西拠点で広島エリアに複数展開しているエディオンがあるからだ。

 いずれにしても、広島の様な中核都市であっても、百貨店から家電量販店への流れが顕著になってきた。この流れは止めることはできないだろ。

 因みに、横浜は駅前の三越跡にマルチメディア横浜を2005年にオープンしているが自社物件ではない。そごうを半減してヨドバシを移転するのだろうか、池袋の様に。

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