デパートのルネッサンスはどこにある? 2024年08月01日号-97
第97回「夏のバーゲンセール」再考
テレビ朝日で平日朝に放送されている情報番組「グッド!モーニング」(4:55〜8:00)をご存知だろうか。
7月19日、その担当ディレクターからデパート新聞社宛にコメント取材の依頼が入った。
7月23日7時台に、同番組内の「もっと知りたいニュース」のコーナーでデパート新聞としてコメントを出している。内容は以下。
「百貨店の夏セールの変化」について
・気候
・消費者の購買行動
・生産背景
などの理由により、夏のクリアランスセールに変化が出てきている。
・バーゲンセールをお得に利用する方法や、買い物する上での消費者へのアドバイス・知恵などを「専門家目線」で答えて頂ければと思います。とのこと。
デパート新聞を「消費アドバイザー」と同一視している様にも感じるが、売り手(アパレルメーカー、百貨店や商業施設等)と買い手(消費者)を繋ぐ良いテーマなので、快(こころよ)くお引き受けした。始めに断っておくが、社主からの依頼なので断れなかった、という様な話では一切ないので、くれぐれも誤解なきようお願いしたい。
今回「グッド!モーニング」でこの件を特集するのには理由がある。前段として百貨店「松屋銀座」が今年の夏のセールを7月19日スタートとした事がニュースとなったのだ。以下再録する。
暑さ長引き、デパートで「夏のセール」遅らせる…一部店舗、高温の影響で夏のセール後ろ倒し(テレ朝news)
「セール後ろ倒しの理由近年熱い時期が長くなり夏物が売れる期間が延びている。
梅雨時から各地で高い気温が続くなか、デパートの一部店舗が夏のセールを例年より後ろ倒しで7月19日から始めました。
松屋銀座は例年、6月下旬ごろから始める夏のセールを今年は3週間遅らせました。
近年、熱い時期が長くなり、夏物が売れる期間が延びているためです。
また、アパレルメーカーが生産量を見直して余分な在庫を減らし、セール対象品が少ないことも理由だということです。
大手デパートでは、髙島屋もセール開始後に夏物の新商品を投入するなど長く熱い夏に対応します。気候変動によってセールの時期などが変わりつつあります。」
松屋銀座のコメント
「せっかく今年、このタイミングでちょうど良くクリアランスセールを遅らせることができたので、来年以降も同時期、もしくは、もう少し遅らせるというようなことも考えて行きたい」とのこと。
都心百貨店各社と主な商業施設の夏のセールスケジュール
西武・そごう:6月21日(金)〜7月8日(月)
髙島屋:6月28日(金)〜7月9日(火)
三越伊勢丹:6月28日(金)〜
京王百貨店新宿店:6月28日(金)〜
マルイ・モディ:6月28日(金)〜
東京ミッドタウン:6月28日(金)〜7月15日(月・祝)
六本木ヒルズ:6月28日(金)〜7月15日(月・祝)
渋谷ヒカリエ:6月28日(金)〜7月24日(水)
東京ソラマチ:6月28日(金)〜7月31日(水)
アトレ:6月28日(金)〜7月31日(水)
表参道ヒルズ:6月29日(土)〜7月15日(月・祝)
GINZASIX:7月1日(月)〜7月15日(月・祝)
SHIBUYA109:7月1日(月)〜7月15日(月・祝)
スクランブルスクエア:7月4日(木)〜7月31日(土)
横浜ジョイナス:7月5日(金)〜7月15日(月・祝)
パルコ:7月5日(金)〜7月15日(月・祝)
サンシャインシティ:7月5日(金)〜7月21日(日)
ルミネ:7月11日(火)〜7月17日(水)
ららぽーと:7月12日(金)〜7月21日(日)
さてここから問題を整理して行く。
そもそも夏のセールの開催時期は適正なのか?
「夏のセール」どう思う?(メルマガ会員に聞いた)
ファッションアパレル業界紙が、メールマガジンで「夏のセール」についてアンケートを実施した。メルマガ読者である筆者も投票した。以下再掲する。
Q1.夏のセールの開始時期についてどう思いますか?
A . 早すぎる76%
遅すぎる 7%
ちょうど良い17%
Q2.Q1「早すぎる」選択者の回答理由
・これから夏が来るのに夏物を安くする理由が分からない
・梅雨入り、梅雨明けが遅くなっている 気候変動と売る時期が合わない
・夏物のプロパー販売期間が短すぎる
・暑い実需で安くなっているのは需給バランスからも違和感がある
・気候変動により、夏が長い 実需要期にセールするのは疑問
・地球温暖化、廃棄ゼロに向けての取組み
・夏が長いのでもう少し遅くして売れ残った物をセールで処分するのが本来の役割
Q3.今夏のセール開始時期を例年と比較すると
A.早くした 12%
遅くした 15%
変わらない 73%
Q4.今夏のセール開催期間を例年と比較すると
A . 長くした 23%
短くした 19%
変わらない 58%
Q5.今夏のセールの主力商品や取り組みについて(複数選択可)
A . 値引き率を抑え定価販売に注力 54%
今夏物の消化 46%
今春物の消化 42%
値引き以外の販促・催事で需要喚起 35%
Q6.ファッションアイテムを夏のセールで購入(予定)ですか?
A . 購入した 25%
購入予定 15%
検討中 28%
予定なし 33%
Q7.Q6.で「購入した」( 予定) アイテムは?(複数回答可)
A.Tシャツ 59%
パンツ・スカート46%
ワンピース 32%
ブラウス・シャツ32%
シューズ 27%
下着・肌着 23%
Q8. 理想の夏セールの在り方とは
・プロパー販売期間を確保して、梅雨明け、お盆時期のイベントとして実施
・8月のお盆前の短期間で開催し9月にクリアランス
・最近はネット購入もできるので便利
・適正価格であれば必要なものは買うのでセールは最終処分の位置付けと考えるべき
・消費者としては、欲しいものをちょっとお得に購入できるのはありがたいが、物価が上がり、人件費も高騰している中で、値下げばかりを願ってもいられない
売り手も買い手も「早すぎる」と考える人がほとんどなのに、なぜ是正されないのだろう。
セールは「集客イベント」としての側面が強く、遅くしたいや、期間短縮がだれにとっても「正しい」答えとはならない様だ。
もう少し詳しく考えてみよう。
3つの変化
1.気候の変化 「春と秋がなくなった」
・地球温暖化の影響から、6月から気温が35度を超える猛暑日が頻発。
・春秋が短くなり、「夏」の長期化が社会問題化。日本から四季がなくなるのでは。
・夏のセールの開始時期が早すぎる、セール期間が長すぎる、という意見が増えた。
但し、夏が長くなると、秋物の展開は遅くなる一方であり、集客イベントであるセールを引っ張る以外の選択肢は少ないのも事実。
2.消費(マインド)の変化 「買わなくなった」
急激な円安とインフレに対し、給与アップが物価の高騰に追いつかないため、消費者の購買行動が変化している。家計を守るため「選別志向」が強まる。
結果として、本当に必要なモノしか購入しない。食品等の「必需品」の優先度が上がる。
ある意味「賢い消費者」像であり、セールだから、安いから、という理由だけでは買わない生活が染みついている。それはコロナ過以降に、より顕在化した。
3.生産の変化「作らなくなった」
サステナブル、SDGsの考え方が浸透し、大量生産、大量消費、大量廃棄は「悪」に。
ロスの回避が社会の要求となり、生産者側の在庫調整が正当化され始め、たくさん作って売れ残ったら処分セールという時代ではなくなった。
そもそもアパレルメーカーもテナントもセールでなく正価販売の方が利益は大きい。セール化される絶対量が減っている。※かつてはセール用に別途生産するという慣習もあった。
但し、前述した様に、セールというモチベーションがないと、そもそも百貨店に来てくれないという問題は依然として残る。
ブランド品を安く買いたければアウトレットモールに行けば良い、とか、単純にセールを遅らせれば良い、短くすれば良い、というのはキレイごとなのだ。
そして「失われた中間層」とまでは言はないものの、明らかに少なくなった「中間層(中流)」はそもそも百貨店に来店し、プロパーで買う習慣があまりないのでは、と言ったら失礼だろうか。富裕層以外の客は、バーゲン目的以外に百貨店に来る理由がなくなってしまってるのだ。辛うじてデパ地下は別として。
それでは最初の「命題」に戻ろう。
セールをお得に利用するためのアドバイス
1.時間差攻撃
前述した様に、松屋銀座の様にセール時期を遅らせる百貨店が出てくると、
6/28伊勢丹
7/5パルコ、
7/11ルミネ、
7/19松屋(髙島屋)
と、6月末から7月末まで、およそ1か月のセール期間がある。更にはその後のクリアランス(処分)セールまで含めれば、優に2か月はセール期間がある訳だ。
事前に下調べをして、デパートや商業施設を「ハシゴ」すれば、お目当てのショップで欲しかったアイテムを時間差でゲット出来るという寸法だ。タイパも良いしね。
※尚、このコメントは「グッド!モーニング」でも放送された。
2. 反対意見(正論)
いやいや、買いたいモノがあればプロパーで買えば良いのだ。セールに縛られ、振り回される人生なんて本末転倒ではないか。
パンデミックが終息した今こそ、ショッピングをエンジョイしよう。コスパとかタイパばかり気にしていると、メンタルに負担がかかる。
お金は「使ってナンボ」だ。使わないと戻って来ないのだ、昔から。
プレイバック20世紀
20〜30年前のセールと言うかバーゲン全盛期は、お客さんが皆、夢中になって買い物をしていた。あのエネルギーとかパワーはどこから来たのだろうか。
若者の人口比率が高かったのだろうか。ネット通販がなかったからだろうか。そもそも娯楽が少なかったのかもしれない。当時はデパートがアミューズメントパークだったのだ。
皆、買い物に「貪欲」だった。朝早く始発電車でデパートに行き、開店の10時まで行列をするのが普通だったのだ、暑くても寒くても。
そして売り手であるスタッフも、お揃いのハッピを着て、ハチマキをして、メガホンで何か叫んでいたのだ。そう、スタッフは「応援団」だったのかもしれない。生活をエンジョイしようというシュプレヒコールだったのかもしれない。
懐かしんでいる場合ではないのだが、懐かしいなぁ、と思う。ノスタルジーは中毒になるから怖い。気をつけよう。
※用語解説:「シュプレヒコール」集会や演説など多数の人が集まっている場において、参加者が声を揃えて、同じフレーズを大声で何度も繰り返し唱和すること。
ファッションアドバイザーの模範解答
ファッションはトレンド(流行)を追うもの。だから「どうせ買うのなら、シンプルなデザインで長く着られるとか、リセールバリューが高く、価値の変わらない物を買ってください」という答えは、無意味だと思う。だって全然楽しくないのだから。
ファッションアドバイザーの模範解答を求めているなら、この後を読む必要はありません。念のため。
そもそも「どうせ買うなら」と言う「まくら言葉」を使った時点で、ファッションを楽しむ気持ちなんてサラサラないことがバレバレだ。
只、消費額を抑えるためにセールに行くのなら、代わりにユニクロや無印良品に行けば良いのだから。
※くれぐれもお間違えの無い様に願いたいが、ユニクロや無印は、機能性が高く、かつリーズナブルなアイテムを多種多様に揃えた、ある意味日本アパレルの到達点である。それでいてリーズナブルなセール品だって豊富に用意されているのは事実だ。
でも、だからこそファッションアドバイザーの「究極の」模範解答なのだ。
バーゲン礼賛
けれども、世の中優秀な人間の模範解答ばかりだったらつまらない。
バーゲンセールは今でも買い物を楽しみたい消費者のワンダーランドなのだ。人とのやりとりをせずに買い物をしたい、ちょっとでも得をしたい、そういう方はネットで済ませれば良い。
一方で、リアルのセールで買い物を楽しみたい人はその「体験価値」にお金を払っているのだ。
欲しい物を探すゲームの様な楽しさ、発見の喜び、スタッフとのやりとりや試着のドキドキ、そして、家に帰って身に着けた時の満足感( または虚無感? )。
もちろん、この時点で「大失敗」が発覚することも少なくない。そもそもサイズ違いや、手持ちの服と全くコーディネイトできない等あるあるだ。
それでも「セール品の失敗談」は誰にでもあり、それも含めてのショッピングの楽しみではないか、と思う。少なくとも、話のネタは一つ増えた訳だし。
猛暑の中大変恐縮だが、街に出てデパートやショッピングセンターのセールに行こうではないか。自分のためではない、わが国の経済のためだ。それに給料が上がるのを待っていると、ずうっと「待ちぼうけ」かもしれないし。
デパート新聞編集長
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