地方デパート 逆襲(カウンターアタック)プロジェクトその31 非合理の中のコミュニケーション事業
【デパートは特別な場所】
デパートはモノを売る場所でありながら、ただモノを売るだけでなく、モノを売る前、売った後のことも含めて特別な場を設えることが求められてきました。デパートそのものが持っている施設としての優美性、そこで働く従業員の高度な接客能力、更に商品自体が持つ安心性・安全性。それら様々な要素を積み重ねることでデパートは、顧客が求めるモノにスーパーマーケットや路面店でモノを買う場合以上の付加価値を与えてきたのです。
それは、合理性という観点で比べてみると明確です。つまり、デパート運営は、資本主義の発想からすると極めて非合理的な発想に立脚しているのです。中核となる館には圧倒的な資金を投じて、店内の造作、備品すべてに贅沢な設えをする。従業員には、顧客に誠実にそして笑顔で向き合うための教育を徹底的に行ない、更に日々職場で実践し能力を高めていく環境づくりをする。広告の内容も、顧客や不特定多数の人々が不快にならないように厳重な配慮をする。明らかに過度なサービスを求めたり非常識な態度をとる顧客にも笑顔で真摯に向き合う。そして、商品については誇大広告を自重し、賞味期限や価格表示なども無駄な時間をいくらかけてでも顧客が安心できる提供を心がける。このようにデパートの日常は常に顧客に向けた配慮に満ちています。ただ商品を仕入れて売るという原始的な販売行為ではなく、様々な人間的配慮を散りばめた事業なのです。
その根底には顧客に心のこもった場を提供し、満足して買い物を楽しんでいただくための思いやりの心があり、単なる流通業とは異なる次元の非合理性を内包しています。これこそが、私が常に訴える“ デパートは、コミュニケーション事業である” という大きな根拠です。
【合理性を追求したデパート】
このことを前提に考えると、この20年ばかりデパートがやってきたことは矛盾ばかりです。最大の過ちはその戦略であり、非合理的な事業であるにもかかわらず徹底的に合理性を追求してきたところです。人減らし、文化施設の廃止、サービス部門の縮小、テナント運営による売場同士の孤立化、フロアーすべてをテナント貸しすることによるプロパー社員のサービス低下、顧客の意向を無視して進めるキャッシュレス化…。どれも顧客サイドから見れば、自分たちへのサービスに手を抜いているとしか感じられないことばかりです。非合理性の中で成立していた事業であることを忘れ、合理性に走ったことによるリスクは甚大なのです。
【地方デパートの進むべき道】
今、地方デパートは、新たなスタートラインに立っているといえるでしょう。それは、脱資本主義的思考での、非合理性を内包したコミュニケーション事業への踏み出しです。多くの人々がデパートの魅力として語る十人十色の世界は、単なるノスタルジーではなく、私たちが今様々なところで押し付けられている資本主義の合理性とは別の次元で存在する顧客に対して徹底した思いやり溢れる理想郷に他ならないのです。
デパート新聞社 社主